【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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213. ロンド~踊る命~ -30- 悪霊復活

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「風見さん、あんたの役目は水無瀬の姫を守ることのはずだ。姫の元に帰ってくれ」

矢口が貴之より一歩前に出て、風見順に向かってライフルをかまえた。

「おれは・・、おれとじーちゃんは水無瀬の姫とあんたに助けてもらった。だがあんたが会長を狙い続けるなら、おれは遠慮なくあんたを始末する」

黒犬は唸りながら姿勢を低くし、攻撃の態勢を取った。


───ヤノスケ ノ マゴ カ、 ヨクニテイルコト ナマイキナトコロガ、 ホホホ・・・


唸る声に侮蔑を滲ませた人の言葉が混じり、さっきまでは犬だった姿形が奇異な獣に変化した。
黒かった短い毛並みは、羽根を抜きあげた鳥に似た皮膚に、四本の足は人間の手足によく似た形に変わった。血走った赤い目をつり上げ、尖った牙が口元に鈍い白さを見せている。
惣領家を襲撃した時分とは違う。

貴之は息をのんだ。

あの時の風見順は犬から人間の体に変わったが、いまは明らかに違う。
いまの風見順はよりタチが悪くなったのかもしれない。

━━━━悪霊あくりょうたぐいとなったか

貴之が鞘から抜いた守り刀を構えた。

矢口が「会長・・」と言った。

貴之は矢口に「気ぃ抜くなよ」と念を押した。

これまでの貴之の風見順に対する思いは、憎しみでもなく怒りでもない、憐憫だった。だが悪霊と化したならば、憐憫さえ必要ない。

「風見、お前がどれだけの悪霊モノになろうと、俺は負けねぇ!」

「違う・・。違う!会長!!こいつは風見さんじゃない!!」

「なんだと?」

「こいつ・・、こいつは・・・」

目の前の獣は矢口に対して『ヤノスケの孫』と言った。矢之助とは矢口友やぐちともの祖父の幼い頃の名だ。
祖父の本来の名は『田所矢之助』と言った。事情があり祖父の一家は田所の姓を矢口に変え、息子の矢之助の名前を昭太しょうたに変えた。
矢口の祖父が『田所矢之助』だったのは五歳まで。

風見順も超越した霊能力を持っていた。もしかしたら水無瀬礼夏との謁見の際に、祖父を見て過去の経緯も一瞬で霊視したのかもしれない。だが何故いまわざわざ『矢之助』の名を出したのか。まるで、遠い昔からの知り合いのように。

それに、あの笑い方と侮蔑をこめた物言いは。

「お前は水無瀬玄州だな!!」

─────ギャハハハハ!ハーハハハハハッ!!

獣は突然下品な笑い声をあげた。牙の見える口からはダラダラと涎が垂れている。
涎を垂らしたまま、獣は両の脚で立ち上がった。
躰は人間のそれによく似ているが、立ち姿と首から上は犬に似た獣のままだ。

「そうか、おめぇは水無瀬玄州か。噂通り品の無え男だな。風見を真似て俺を襲いにきたのか」

────ソナタ ニ ヒンセイ ヲ トワレル ト ハ・・マコト コノヨ ハ オモシロイ 

「この世は面白えか。なら面白えこの世から消してやるぜ。俺の娘を襲った報いを受けさせてからな━━━━」

貴之が冷たく言い放った。

貴之は鬼神となって玄州と対峙する。

────ホホホホホホ・・ジュン ノ チカラ を 手 ニ シタ ワタクシ ヲ 消す ト ハ 笑止ヨ

『順の力を手にした』

貴之は一瞬眉をしかめた。玄州は貴之から目を逸らさず、矢口に手をのばして吹き飛ばした。
引き金を引く隙すら無く吹き飛ばされた矢口は車に叩きつけられ地面に倒れた。
黒岩と高城が銃で玄州を撃った。銃弾が玄州をすり抜ける。

貴之が黒岩と高城に「下がれ!」と命じて守り刀を振りあげた。
玄州はするりとかわし、下卑いた笑い顔を貴之に向けた。

────邪魔なモノはスベテ葬り去りマショう 

玄州が瞬時に貴之の背後に移動し、振り向いた貴之の首を締めあげた。
貴之の顔が歪む。

「会長!」

黒岩と高城が数度と銃弾を撃ち込むがすり抜けていくだけだ。

弾切れになった高城が矢口のライフルを手にした。

貴之は懐の守り札をつかみ、そのまま玄州の体に打ち込んだ。

ギャッ!と声をあげ玄州は貴之から離れた。

さらに貴之は、惣領家本家・権現寺に伝わる魔物払いの真言を唱えながら渾身の力で守り刀を振り、玄州の両腕を切り落とした。

つんざく悲鳴━━━玄州は腕を拾おうと地べたに這いつくばった。

────おのれぇぇ・・!

恨みの目が貴之を射る。

倒れていた矢口が胸を抑えながら起きあがった。
「高城さん、撃ってくれ・・!額、喉、三発目を心臓に!!」
矢口が荒い呼吸で叫ぶと、高城が三連発で玄州の額、喉、心臓へと弾を撃ち込んだ。

玄州は撃ち抜かれた衝撃で崩れた。

「お前を封じるためにじーちゃんが作った魔物封じの弾だ・・!」


────ヤノスケぇ・・ヤノスケめぇぇ・・!


恨みのこもった声で玄州は、崩れ落ちる体を引きずりよろよろと後ずさった。

────我ガ姫ヲ手ニイレテ・・

「逃がすか!みふゆに二度と手出しさせん!!」
貴之が玄州に向かって再び守り刀を振った。

────ナラバオマエモミチズレ二シテヤル

玄州の崩れた体が蠢き、貴之を再び襲った。

「会長!」
「クソッ、封じきれないのか・・!」








「これ以上は近づけません」
三上が車を止め、京司朗に指示を仰いだ。
青木家に続く市道は消防車や救急車、野次馬で塞がれていた。

フロントガラスの向こうに立ちのぼる炎が見える。
みふゆの家が燃えている。

「ドアを開けて!お願い!行かなきゃ!火を消さなきゃ!!お母さんと紗重ちゃんが燃えちゃう!!開けて!開けてよ!!お母さん!お母さん!!」
みふゆが泣き叫びながら車の窓を叩き、ドアを開けようと半狂乱になっている。
「やめるんだ!手を痛めるぞ!三上、戻ってくれ」
京司朗がみふゆを抑えながら三上に指示をした。三上が「はい」とハンドルをきろうとした。

「いやぁぁっ!!!」

みふゆの狂気的な叫びに、三上が躊躇した。

突然、みふゆの横のドアだけが開いた。

みふゆが飛び出した。

抑えていた京司朗を目いっぱいの力で振り切り、みふゆは車から飛び出して自分の家に走った。

「お母さん!行かないで!そばにいて!お母さん!お母さん!!」

走るみふゆを京司朗がつかまえた。
みふゆは京司朗の腕の中から両手を伸ばして叫び続けた。

ドーーンッ!と轟音がした。 

地面が揺れ、野次馬が逃げだした。

京司朗は青木家を背にしてみふゆを懐にかばっていた。

青木家を燃やす業火は巨大な火柱となり天上を突き刺していた。






────ナラバオマエモミチズレ二シテヤル

玄州の崩れた体が貴之の足に絡みつき地中へと引っぱり込もうとしている。
貴之は舌打ちをして守り刀を地面に突き立てた。

「会長!」
黒岩正吾が貴之の体を支えた。

────ジャマモノハスベテ

崩れた体が再び集まり人の形に象られていった。


────コレ ガ ジュン ノ チカラ


「くっ・・!」

貴之と黒岩の足が地に沈み始めた。




────させぬ!



炎とともに女の声がした。



「礼夏!?」

貴之が叫んだ。




突如、ドーーンッ!という轟音とともに、玄州は一瞬にして業火に包まれ、人とも獣とも呼べない絶叫をあげた。
















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