【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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198. ロンド~踊る命~ -15- 死霊

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「水無瀬玄州がいる・・・あいつの気配がする・・」
惣領早紀子の後ろで矢口が窓の外に目を移した。
「耳を塞ぎましょう」
惣領早紀子は唱えるのを止め、袂から字の書かれた小さな水晶玉をみふゆの両耳に入れた。


アユミの足首をつかんでいる真っ黒な人の形は、血走った目を細め、口の端を上げてニタリと笑って、みふゆに対して言葉を発した。
みふゆは背筋に悪寒が走った。
こいつは“悪霊”のたぐいだ。つかまったら最後だ。

『ほほほほほ、我が姫よ。ようやく直に会うことができましたね。水無瀬の血と惣領家の血をひく希なる姫よ。礼夏と順の策略でわたくしの望みはついえたと思いましたが、そなたがいれば━━━━━』  

悪霊と化した水無瀬玄州は人の形をようやく保っていた。目と口だけがはっきりとしている。
玄州が口を動かしているのがわかった。
言葉を発してるのかもしれないが、当のみふゆには何を言っているのか聞こえていなかった。
それよりも━━━
『イヤ!放せ!ちくしょう!』
アユミが泣きながら逃れようと足をバタつかせている。
『おまえはちょうどいい生き餌です。わたくしのためにその命を捧げなさい』
黒い手がアユミの足をグッと引っぱり、再び地中に引きずり込もうとした。
アユミが徐々に地中に沈み始めた。
『イヤァァーーッ!』
アユミは必死で抵抗をしている。
みふゆはアユミを地中に引きずり込もうとしている黒い手に、自らの拳を振り下ろした。
『放せ!お前なんか消えてしまえ!!』
みふゆの拳が黒い手を潰し、玄州が『ギャッ』と叫んだ。

『おお、痛い痛い・・。いけませんね、姫がそのような乱暴な真似をしては』
あざけりの笑いを浮かべた玄州が、地中から徐々に浮かびあがり全身を見せた。

みふゆはアユミを後ろに隠し、少しずつ下がっていった。

『怯えずともよいのですよ。わたくしのかわいい姫よ。さあ、わたくしの手をとりなさい。これからわたくし達は手をとりあって新たな国をつくるのです。わたくし達が頂点に立ち、わたくし達に仕える者の幸福と安寧のためにこの優れた能力を使うのです。わたくし達は“神”に等しい存在となるのですよ』
黒い影がしきりと口を動かしているが、みふゆには全く聞こえていない。
玄州は黒い手をみふゆに伸ばした。

みふゆがこんな時いつも思い出すのは母・礼夏の言葉だ。

━━━強気でいなさい。隙を見せてはいけない。のまれてはいけないの。みふゆ、どんな甘い言葉にも惑わされず相手を跳ね返しなさい!━━━

『イヤだ!近づくな!!お前なんかどこかに行ってしまえ!!』

みふゆが拒否をした。

黒い手がバチンと弾かれ、玄州は笑い顔から真剣な目つきになった。
『これはこれは・・、もしやわたくしの声が聞こえていないのですか?・・・なるほど、惣領家の小娘が邪魔をしているのですね。百花寺の尼ごときが!』



━━━━社長!助けて!
「アユミ!?」
堀内健次の耳にアユミの声が響いた。しかし、アユミは未だまぶたを閉じたままだ。堀内はアユミの手を握ってアユミに呼びかけた。
「アユミ!戻ってこい!戻ってくるんだ!」



━━━━アユミ!戻ってこい!戻ってくるんだ!

『社長の声だ・・。社長の声が聞こえた・・。戻ってこいって・・!』
みふゆの後ろでアユミが空中を見回した。
『戻ろう!あなたは社長のもとに、わたしはわたしの家族のもとに!』
『うん!』
みふゆとアユミは手を握って病院の建物に向かって走りだした。

『逃がしませんよ・・!』

黒い手が一気に伸びて、みふゆの髪の毛を掴んだ。
みふゆは引っぱられ、アユミの手を放した。アユミはみふゆを助けようと離れた手を掴もうとしたが、みふゆは『早く逃げて!社長のところに行って!』とアユミに逃げるよう叫んだ。
『そんなことできるもんか!』
アユミが引っぱられるみふゆを掴み、勢いに二人は地面に転んだ。

『ああ、おまえはもう邪魔ですね。どこへなりと行くがいい』
水無瀬玄州が言うと、黒い手はアユミを吹き飛ばした。

『アユミさん!』

黒い手に吹き飛ばされたアユミが消えた。
みふゆは一人になった。

『みふゆ、おまえはわたくしのものですよ。これからわたくしとひとつになって、我々は再び栄華を誇るのです』

みふゆは人の形をした悪霊がその場を少しも動かないことに疑問を持った。さっきから行動しているのは黒い手だけだ。黒い手と、アイツはもしや別物なのか?いいや、黒い手をつぶした時に、アイツは悲鳴をあげた。繋がってはいるが、人の形のアイツ自身はきっとあの場を動けないのだ。

アイツのそばにさえいかなければ━━━━

みふゆは思ったが、黒い手はあっという間に自分のテリトリーにみふゆを引っぱり込んでしまった。
血走った濁った目が爛々と不気味に光っている。そして、みふゆの首に黒い両手がかかった。
みふゆは初めて『死』に恐怖を感じた。

『いや・・死にたくない・・・、死にたくない・・・!お母さん!お父さん!助けて!助けて!!』

『ほほほほほ・・!なんと心地良い恐怖の声か!叫びなさい!そしてわたくしに赦しをこうがいい!』

刹那━━━━━

ヒュンと、細長い輝きが空を斬った。














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