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竜、生まれる
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イェルディスが宮廷で珍しく竜の姿をとって、皇居棟に向かった。
彼はそれだけ急せいていた。
皇居棟のバルコニーでは娘の皇女達が「早く、早く!」とイェルディスに向かって急かしている。
バルコニーで人の姿をとると一直線にシルヴィアの元に駆け寄った。
「大丈夫、間に合ったわ」
シルヴィアが、夫であるイェルディスを自分の隣に招く。
大きな円卓の中央に分厚い敷物が敷かれ、その上に大きな卵が置かれていた。卵は左右に懸命に揺れ、大きいヒビが入っている。
ピシッ、キシッと音を立ててヒビが長く大きくなっていく。
「出てくる!」
末の皇子が興奮ぎみに言った。皇帝家族が固唾を飲んで見守る中──
パリン
と殻が一欠片割れて、足が出てきた。
淡く輝く小麦色の足──。
「金竜だ!」
イェルディスがシルヴィアを引き寄せて、その頬に何度も口付けを落とす。
パリンパリンと次々に殻を割り、その輝く身体を全て卵から出すと、
「ピー!」
と、シルヴィアに向かって鳴いた。
金色に輝く姿態が眩しい。皆、目を眇めながらも喜びに顔が綻ぶ。
まだ拙い四本の足で踏ん張りながら、ピーピーと高い声を上げて、母親であるシルヴィアに向かって歩こうとしている。
「でかした! 母上!」
「──それは私の台詞だ」
エヴィラスが真っ先に褒めあげ、イェルディスの出番を無くした。
エヴィラスにとってもどんな竜が産まれてくるかで、これからの人(竜)生が大きく変わるのだったから金竜が産まれて万々歳であった。
「父上! 皇帝の座を継ぐ竜が生まれましたよ! 俺はこれで騎士修行に戻れますよね? お役目ごめんですよね!」
「何故そんなに嬉しがるのだ……?」
父の突っ込みも、あまりの嬉しさに聞いていないエヴィラスだった。
短い距離でありながらも、孵化したばかりの竜には長い道のりだ。途中、何度も転びながらも母の元にゆっくり辿り着く。
母の乳を求め辿り着き、これは竜の本能である。
時々、乳をやらない母親放棄の竜がいる。自己防衛で、その場合自分の割った殻を食べるのだ。
──樹來は自己防衛が出たケースだった。
とにかく、自分の足で母の元に辿り着かなければ竜は育たない。
皆、真剣な眼差しでこの金の竜の赤子を見守る。
太古では育つのが難しいと判断された竜は、その場で殺すか親が食らった。
現在では流石にそうはしない。医療棟に送られて──研究に貢献・・される。
「頑張れ」
末の皇子が赤子の竜に向かって囁く。
「頑張れ」
「頑張って」
二人の皇女達も、生まれたばかりの末の金竜が驚かないように声を落として応援する。
シルヴィアの差し出した手にようやく辿り着くと皆、一斉に安堵の息を付いた。
何せ、ここまでが一番重要なのだ。ここまでクリア出来ればまず大丈夫、ということ。
「よく頑張ったわね、おっぱいよ」
シルヴィアは生まれたばかりの赤子を愛しげに抱き上げると、衣装の前ボタンを外す。
慌ててエヴィラスが後ろを向いた。
仰向けにされ、ぷっくりとしたお腹を見せた赤子にイェルディスが
「うん、しっかりした子だね。丈夫に育つだろう」
と破顔しながら突く。
「──あ……」
「あら……」
同時、二人「あること」に気づいた。
金竜の赤子は、ようやくありつけたお乳を、目を真ん丸にして懸命に飲んでいる。
「女の子だわ、この子」
──次世代は女帝なるか!
彼はそれだけ急せいていた。
皇居棟のバルコニーでは娘の皇女達が「早く、早く!」とイェルディスに向かって急かしている。
バルコニーで人の姿をとると一直線にシルヴィアの元に駆け寄った。
「大丈夫、間に合ったわ」
シルヴィアが、夫であるイェルディスを自分の隣に招く。
大きな円卓の中央に分厚い敷物が敷かれ、その上に大きな卵が置かれていた。卵は左右に懸命に揺れ、大きいヒビが入っている。
ピシッ、キシッと音を立ててヒビが長く大きくなっていく。
「出てくる!」
末の皇子が興奮ぎみに言った。皇帝家族が固唾を飲んで見守る中──
パリン
と殻が一欠片割れて、足が出てきた。
淡く輝く小麦色の足──。
「金竜だ!」
イェルディスがシルヴィアを引き寄せて、その頬に何度も口付けを落とす。
パリンパリンと次々に殻を割り、その輝く身体を全て卵から出すと、
「ピー!」
と、シルヴィアに向かって鳴いた。
金色に輝く姿態が眩しい。皆、目を眇めながらも喜びに顔が綻ぶ。
まだ拙い四本の足で踏ん張りながら、ピーピーと高い声を上げて、母親であるシルヴィアに向かって歩こうとしている。
「でかした! 母上!」
「──それは私の台詞だ」
エヴィラスが真っ先に褒めあげ、イェルディスの出番を無くした。
エヴィラスにとってもどんな竜が産まれてくるかで、これからの人(竜)生が大きく変わるのだったから金竜が産まれて万々歳であった。
「父上! 皇帝の座を継ぐ竜が生まれましたよ! 俺はこれで騎士修行に戻れますよね? お役目ごめんですよね!」
「何故そんなに嬉しがるのだ……?」
父の突っ込みも、あまりの嬉しさに聞いていないエヴィラスだった。
短い距離でありながらも、孵化したばかりの竜には長い道のりだ。途中、何度も転びながらも母の元にゆっくり辿り着く。
母の乳を求め辿り着き、これは竜の本能である。
時々、乳をやらない母親放棄の竜がいる。自己防衛で、その場合自分の割った殻を食べるのだ。
──樹來は自己防衛が出たケースだった。
とにかく、自分の足で母の元に辿り着かなければ竜は育たない。
皆、真剣な眼差しでこの金の竜の赤子を見守る。
太古では育つのが難しいと判断された竜は、その場で殺すか親が食らった。
現在では流石にそうはしない。医療棟に送られて──研究に貢献・・される。
「頑張れ」
末の皇子が赤子の竜に向かって囁く。
「頑張れ」
「頑張って」
二人の皇女達も、生まれたばかりの末の金竜が驚かないように声を落として応援する。
シルヴィアの差し出した手にようやく辿り着くと皆、一斉に安堵の息を付いた。
何せ、ここまでが一番重要なのだ。ここまでクリア出来ればまず大丈夫、ということ。
「よく頑張ったわね、おっぱいよ」
シルヴィアは生まれたばかりの赤子を愛しげに抱き上げると、衣装の前ボタンを外す。
慌ててエヴィラスが後ろを向いた。
仰向けにされ、ぷっくりとしたお腹を見せた赤子にイェルディスが
「うん、しっかりした子だね。丈夫に育つだろう」
と破顔しながら突く。
「──あ……」
「あら……」
同時、二人「あること」に気づいた。
金竜の赤子は、ようやくありつけたお乳を、目を真ん丸にして懸命に飲んでいる。
「女の子だわ、この子」
──次世代は女帝なるか!
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