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初夜
壱 茶々、目を見開く
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部屋に入っても、そのお方はいらっしゃらなかった。
( ? 今宵であったはず)
暗い部屋の真ん中には大きな褥が敷かれている。滑るような絹地。柔らかな香り。
用意は整えてある。間違うたのではないようじゃ。
(父上、母上、お許しくださいませ)
褥を見つめると胸が痛む。武家の、いや、大名の姫ならばこそ、ここに来るというのがどのようなことか解っている。
(江のためなのです。お許しくださいませ)
目を閉じて母に謝ると、鼻の奥がツンとして、じわりと涙が溢れた。
(おぉ……茶々様)
昼に回廊で出会うた時には、知らぬふりをされて、もう駄目じゃと思うておった。夕餉に向かう回廊に控えた大野局が「今宵」と言うたときには、夢かと思うた。
勇んで閨へ来たけれど、どういう風に出迎えよう。
今宵仕損じれば後はない。嫌われぬようにせねば…いや、受け入れてもらわねば……。
仕損じは許されぬのじゃ。
秀吉は、先ほどから部屋の片隅に丸まって隠れていた。
茶々の目は褥の上に止まったままである。
秀吉が立ち上がり、そっと茶々の肩に手を置いた。
「きゃぁーーーーっ!」
いきなり暗闇の中から現れた手に、十八の姫は思わず叫んでしまった。
茶々の悲鳴に、秀吉が前に回り、口許に人差し指を立てる。
「姫様っ!、いかがされましたか?」
ふすまを隔てて控えている大野局の緊迫した声がする。
秀吉が、茶々の顔の前で、口許に人差し指をたてたまま「シーッ」「シーッ」っと何度も繰り返した。
「いや……、案ぜずともよい。」
ドキドキした胸に手を当て、茶々は目を見張ったまま、やっと言った。
(この男は誰じゃ?)
茶々の目は見開かれたままである。
額に汗を浮かべ、秋が来ようといえまだ蒸し暑さが残るのに、閨だというのに、この方の格好はなんであろう……。
くしゃっとした顔は確かに秀吉である。しかし、その小さく痩せた体が膨らむように着ぶくれていた。
「何を着てよいやら惑いましてな。」
(閨じゃというのに?)
「茶々様に失礼があってはと思いまして。」
(それでそのような?)
茶々は悪い気はしなかった。
しかし、どう答えてよいかわからず、ただ秀吉の格好を凝視していた。
大きな黒い南蛮帽に黒いマント。裏が緋色とはいえ、暗闇の中、これにくるまっていては見つけることはできない。
「似合いませぬか…。お館様と違うて某は猿でござりますからのぅ……」
黙って目を見開いたまま動かない茶々を見て、秀吉は残念そうな顔で帽子とマントを脱いだ。
その下からは、長直垂、すなわち、直垂に大帷子を重ねて引きずるような長袴が現れた。最高の礼装、まるで御所に参内するような格好である。
「茶々様に失礼はあってはならぬと思いあぐんでおったら、おねが『いっそのこと長直垂を召されては』と言いましたのでな。」
「おね様が?」
茶々はやっとそれだけ口がきけた。
「さよう。夕餉の時に浮わついておったのでしょうな。バレましてな。」秀吉がペロリと舌を出す。「それで、香も焚き染めてくれたのですがな…」
茶々が、不思議そうな顔をしている。
(おねさまは殿下が他の女人のところへ行く世話もなさるのか? いや、それよりも閨に送り出すのに長直垂など…)
おねが大真面目なのか、悋気なのか、はたまた傾いた洒落なのか、まだ若い茶々には量りかねる。
「似合いませぬか。某は百姓の出ゆえ、このような格好がなかなか板につきませぬ。」
悲しそうにいいながら、秀吉は堅苦しい礼服を脱いだ。
くすんだ薄茶の麻の着物に荒縄の帯が現れる。
ほっとした顔の秀吉が、ニマッと笑った。
「これが藤吉郎でござる。」
秀吉が短い袖を手に持って引っ張り、片足でテンテンと回る。
茶々がクスッと笑った。
「おぉ、やっと笑うてくだされた。茶々様、よう来て下された。今宵、一晩でもこの秀吉、感無量にござりまする。」
笑っていた茶々が黙って目を伏せる。
「江のこと、よろしくお頼みいたしまする。」
「うむ。」
気丈にも顔をあげて秀吉を見つめる唇は微かに震えている。
「なにか、仰せになりたいことがござりますかな?」
「いえ、なにも。」
「『何故、私のようなものを望まれるか?』とお思いですな。」
茶々の肩がピクッとする。(なにゆえ分かるのか?)とばかりにまつげが持ち上がった。
「某は不思議な術が使えるのでございます……茶々様にだけ。」
「私にだけ?」
「そう。茶々様にだけ。」
小さな中年男の、青年のような眼差しに、茶々の胸が鼓動を打つ。
(この方は仇じゃ。)
茶々が頭をスッとあげ、姿勢を正した。
「私にはもう二親ともおりませぬ。後ろ楯なく、殿下のお役に立つことはありませぬのに。」
十八の娘とは思えない、世を見つめた言葉である。
「母上に似ているからでございますか?皆が言うておりまする。母上様によう似ておるゆえ、望まれるのだと。」
「違いまする。」
「では、何ゆえ…」
「何故じゃとお思いですか?」
「織田の血をひいておるからでございますか?」
「ふむ、けれども、織田の血を引くものは他にも、たんとおりまするぞ。」
「では、何故…」
「お分かりになりませぬか?」
ふざけたような衣装に似合わぬ静かな声であった。そしてジッと茶々を見つめている。心の中を見透かすような秀吉の目に、茶々は思わず目を逸らした。
「わかりませぬ。」
つれない答えに秀吉がふっと微笑んだ。その顔は、父のようでもあった。
「放っておけぬのです。」
「放っておけぬ?」
「いじらしゅうて。」
「いじらしい?」
「三姉妹の姉であるゆえに、気丈にふるまうあなたが。妹たちの母がわりを務めるあなたが。二親がいないから、役に立てぬなどと言うあなたが。」
茶々の眼が秀吉に引き寄せられた。
(何故、この方には私の心の底に閉じ込めている悲しみがわかるのじゃ?)
「そのような目に遭わせたのは某でござる。 『仇じゃ』と言うて下されてよい。しかし、茶々様とて、まだまだ誰かに頼りたいお年であろうに、気丈に振る舞われるのが痛々しいのです。」
「わたくしはもう子供ではありませぬ。」
(そうじゃ。子供なら閨のお相手などできぬ。)
ツンとすました茶々の心の内も、秀吉は手に取るようにわかっていた。
「ふふ、そのようなところがいじらしいのです。おねもそうじゃ。私は、どうもそういう女子に弱いらしい。強うていじらしゅうて可愛らしい。」
「おねもそうじゃ」という言葉に、茶々の胸はチリリとする。
(なんじゃ?これは)
薄暗闇の中、白い茶々の顔に現れた一瞬の悋気を秀吉が見逃すはずがなかった。
「茶々様の支えになりたいのじゃ。」
いつものおどけた様子など微塵もなく、秀吉は茶々を見つめる。
自分をまっすぐに見つめる眼差しを、茶々は受け止めることができず、ぱちぱちとまばたきを繰り返した。
秀吉はフッと微笑むと、手拭いを取りだし、己を目隠しした。
*****
【悋気】 りんき。嫉妬。
( ? 今宵であったはず)
暗い部屋の真ん中には大きな褥が敷かれている。滑るような絹地。柔らかな香り。
用意は整えてある。間違うたのではないようじゃ。
(父上、母上、お許しくださいませ)
褥を見つめると胸が痛む。武家の、いや、大名の姫ならばこそ、ここに来るというのがどのようなことか解っている。
(江のためなのです。お許しくださいませ)
目を閉じて母に謝ると、鼻の奥がツンとして、じわりと涙が溢れた。
(おぉ……茶々様)
昼に回廊で出会うた時には、知らぬふりをされて、もう駄目じゃと思うておった。夕餉に向かう回廊に控えた大野局が「今宵」と言うたときには、夢かと思うた。
勇んで閨へ来たけれど、どういう風に出迎えよう。
今宵仕損じれば後はない。嫌われぬようにせねば…いや、受け入れてもらわねば……。
仕損じは許されぬのじゃ。
秀吉は、先ほどから部屋の片隅に丸まって隠れていた。
茶々の目は褥の上に止まったままである。
秀吉が立ち上がり、そっと茶々の肩に手を置いた。
「きゃぁーーーーっ!」
いきなり暗闇の中から現れた手に、十八の姫は思わず叫んでしまった。
茶々の悲鳴に、秀吉が前に回り、口許に人差し指を立てる。
「姫様っ!、いかがされましたか?」
ふすまを隔てて控えている大野局の緊迫した声がする。
秀吉が、茶々の顔の前で、口許に人差し指をたてたまま「シーッ」「シーッ」っと何度も繰り返した。
「いや……、案ぜずともよい。」
ドキドキした胸に手を当て、茶々は目を見張ったまま、やっと言った。
(この男は誰じゃ?)
茶々の目は見開かれたままである。
額に汗を浮かべ、秋が来ようといえまだ蒸し暑さが残るのに、閨だというのに、この方の格好はなんであろう……。
くしゃっとした顔は確かに秀吉である。しかし、その小さく痩せた体が膨らむように着ぶくれていた。
「何を着てよいやら惑いましてな。」
(閨じゃというのに?)
「茶々様に失礼があってはと思いまして。」
(それでそのような?)
茶々は悪い気はしなかった。
しかし、どう答えてよいかわからず、ただ秀吉の格好を凝視していた。
大きな黒い南蛮帽に黒いマント。裏が緋色とはいえ、暗闇の中、これにくるまっていては見つけることはできない。
「似合いませぬか…。お館様と違うて某は猿でござりますからのぅ……」
黙って目を見開いたまま動かない茶々を見て、秀吉は残念そうな顔で帽子とマントを脱いだ。
その下からは、長直垂、すなわち、直垂に大帷子を重ねて引きずるような長袴が現れた。最高の礼装、まるで御所に参内するような格好である。
「茶々様に失礼はあってはならぬと思いあぐんでおったら、おねが『いっそのこと長直垂を召されては』と言いましたのでな。」
「おね様が?」
茶々はやっとそれだけ口がきけた。
「さよう。夕餉の時に浮わついておったのでしょうな。バレましてな。」秀吉がペロリと舌を出す。「それで、香も焚き染めてくれたのですがな…」
茶々が、不思議そうな顔をしている。
(おねさまは殿下が他の女人のところへ行く世話もなさるのか? いや、それよりも閨に送り出すのに長直垂など…)
おねが大真面目なのか、悋気なのか、はたまた傾いた洒落なのか、まだ若い茶々には量りかねる。
「似合いませぬか。某は百姓の出ゆえ、このような格好がなかなか板につきませぬ。」
悲しそうにいいながら、秀吉は堅苦しい礼服を脱いだ。
くすんだ薄茶の麻の着物に荒縄の帯が現れる。
ほっとした顔の秀吉が、ニマッと笑った。
「これが藤吉郎でござる。」
秀吉が短い袖を手に持って引っ張り、片足でテンテンと回る。
茶々がクスッと笑った。
「おぉ、やっと笑うてくだされた。茶々様、よう来て下された。今宵、一晩でもこの秀吉、感無量にござりまする。」
笑っていた茶々が黙って目を伏せる。
「江のこと、よろしくお頼みいたしまする。」
「うむ。」
気丈にも顔をあげて秀吉を見つめる唇は微かに震えている。
「なにか、仰せになりたいことがござりますかな?」
「いえ、なにも。」
「『何故、私のようなものを望まれるか?』とお思いですな。」
茶々の肩がピクッとする。(なにゆえ分かるのか?)とばかりにまつげが持ち上がった。
「某は不思議な術が使えるのでございます……茶々様にだけ。」
「私にだけ?」
「そう。茶々様にだけ。」
小さな中年男の、青年のような眼差しに、茶々の胸が鼓動を打つ。
(この方は仇じゃ。)
茶々が頭をスッとあげ、姿勢を正した。
「私にはもう二親ともおりませぬ。後ろ楯なく、殿下のお役に立つことはありませぬのに。」
十八の娘とは思えない、世を見つめた言葉である。
「母上に似ているからでございますか?皆が言うておりまする。母上様によう似ておるゆえ、望まれるのだと。」
「違いまする。」
「では、何ゆえ…」
「何故じゃとお思いですか?」
「織田の血をひいておるからでございますか?」
「ふむ、けれども、織田の血を引くものは他にも、たんとおりまするぞ。」
「では、何故…」
「お分かりになりませぬか?」
ふざけたような衣装に似合わぬ静かな声であった。そしてジッと茶々を見つめている。心の中を見透かすような秀吉の目に、茶々は思わず目を逸らした。
「わかりませぬ。」
つれない答えに秀吉がふっと微笑んだ。その顔は、父のようでもあった。
「放っておけぬのです。」
「放っておけぬ?」
「いじらしゅうて。」
「いじらしい?」
「三姉妹の姉であるゆえに、気丈にふるまうあなたが。妹たちの母がわりを務めるあなたが。二親がいないから、役に立てぬなどと言うあなたが。」
茶々の眼が秀吉に引き寄せられた。
(何故、この方には私の心の底に閉じ込めている悲しみがわかるのじゃ?)
「そのような目に遭わせたのは某でござる。 『仇じゃ』と言うて下されてよい。しかし、茶々様とて、まだまだ誰かに頼りたいお年であろうに、気丈に振る舞われるのが痛々しいのです。」
「わたくしはもう子供ではありませぬ。」
(そうじゃ。子供なら閨のお相手などできぬ。)
ツンとすました茶々の心の内も、秀吉は手に取るようにわかっていた。
「ふふ、そのようなところがいじらしいのです。おねもそうじゃ。私は、どうもそういう女子に弱いらしい。強うていじらしゅうて可愛らしい。」
「おねもそうじゃ」という言葉に、茶々の胸はチリリとする。
(なんじゃ?これは)
薄暗闇の中、白い茶々の顔に現れた一瞬の悋気を秀吉が見逃すはずがなかった。
「茶々様の支えになりたいのじゃ。」
いつものおどけた様子など微塵もなく、秀吉は茶々を見つめる。
自分をまっすぐに見つめる眼差しを、茶々は受け止めることができず、ぱちぱちとまばたきを繰り返した。
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