不遇の魔道具師と星の王

緑野 りぃとる

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第四章 魔術大学編

第58話 王都散策

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「さて、まずは自己紹介からだね。僕はスイレン王国軍所属のマルクス・フォン・ゲールティエス。こう見えても王国軍の方では偉い方で、一応大佐なんてやってるんだ。」

 なんと、俺の目の前に座っている優男は王国軍の中でも上から数えたほうが早い階級のお偉いさんだった。家にある本の中で呼んだ限りだと、大佐の上には中将と大将、元帥しかいない。貴族では彼に意見を言えるのは公爵、大公爵、王家だけだったはず。

 まさかスイレン王国に来て一番最初に顔を合わせることになる貴族がまさかの超お偉いさんだとは思ってもいなかった。

 しかし、物怖じしていても始まらないので、俺は特に何も考えすぎないように対応する。

「私はフェルディナント・ヘルグリーンです。アテナ神仰国、ヘルメスの街からここまでやってきました。隣の彼女はイリス・イベラロードです。」

 俺は俺とイリスの自己紹介をし、マルクス大佐の表情を伺った。なぜか俺の自己紹介をしたときよりも、イリスの自己紹介をしたときのほうが表情に微妙な変化があったのは謎だが、さすがにこの場で聞くわけにも行かないのでスルーした。でも、なにかあるかもしれないので覚えておこう。

「それで、そちらのお嬢さんと男性のお名前は?」

 マルクス大佐に名前を尋ねられた少女は、ビクッとしながら答えた。

「みゅ、ミューレン・フォックステイルです!」
「王都でしがない商人をしておりますカンケレス・オックスフォードと申します。」

 マルクス大佐は全員の名前を聞いたあとは、俺たちを連れてきた衛兵に声をかけた。何を話していたのかはわからなかったが、その会話が終わると、衛兵は走って会議室を出ていった。

「まずは、何があったのか順番に教えてくれるかな?」

 大佐がそう言うと、代表してカンケレスという商人がことのいきさつを話してくれた。

「私は王都に入るために検査の列にミューレンを連れて並んでおりました。すると、私の少し後ろで並んでいた冒険者の格好をしていた男が、突然ミューレンの腕を掴んで引っ張っていきました。私は慌ててミューレンの腕を掴んでいた男の腕をたたき、ミューレンを私の体の後ろへやってかばいました。男はそれに対して怒ったのか、突然剣を抜いて襲いかかってきたところを、そちらの魔術師様に助けていただいたのです。」
「そして、大獅子のような魔物はどこから現れたのかな?」
「大獅子の魔物は私たちを襲おうとした男が取り出した、箱のような魔道具の中から現れました。」
「なるほど、そしてその大獅子の魔物も魔術師の君、フェルディナントくんが討伐したと。」
「正確に言うと、大獅子の魔力が尽きるまでブレスを防ぎ続けて、魔力切れで自滅するのを待っていただけなんですけど。」

 俺は余計な情報を付け足して訂正した。

「さて、なんとなく事件のいきさつはわかったよ。ミューレンちゃんとカンケレスさんの入都理由もわかった。あとはフェルディナントくんとイリスさんの入都理由を聞くだけなんだけど、教えてくれるかな?」

 さて、どう言おうかと思っていると、イリスが収納袋から一つの封筒を取り出した。その封筒は以前魔術大学から届いたものであり、俺が持っていてもなくすだろうからということでイリスに預けていたものだった。

「私たちはこの王都にあるロゼンタール魔術大学の校長に招待状をもらったので王都に来ました。これがその招待状です。」

 イリスは取り出した2つの封筒のうち、魔術大学の校長からの封筒を大佐に渡した。大佐はその封筒の中身を開けて確認していた。

「確かにこの筆跡はフェイズさんのものだし、招待状に押されている公印はロゼンタール魔術大学のもので間違いないね。それにしてもあのフェイズさんから直々に招待状を書かれるなんてすごいね。あの人、ものすごく優秀なんだけど気難しい人だから。」

 大佐はそう言いながらイリスに封筒を返した。

「うん、みんなの入都理由はわかった。カンケレスさんは王都の住民証明書は持っているから大丈夫だとして、他の三人は新しく入都許可証を出さなきゃいけないから少し待っててくれるかい?」
「それはどれくらい時間がかかるものなんですか?」

 俺はあまり長く待たされるのが嫌だったので思わず尋ねてしまった。

「普通は一日位かかるんだよね。だからそれが出るまではこの建物のすぐ近くにいる宿屋に宿泊してもらう決まりなんだ。でも君たちはすぐに出来上がるよ。なにせ僕は大佐だからね。」

 大佐がニコニコしながらそう言ってしばらくすると、さっきの衛兵の人が三枚のカードと小包を持ってきた。

「はい、これが三人の入都許可証。本当は発行してから一カ月しか効力がないけど、大佐権限で無期限にしてある。これがれば好きに王都を出入りできるから実質住民証明書と同じだね。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、これくらいは特に面倒なことでもないからね。むしろ入都手続きの列で事件に巻き込んでしまったことへの謝罪だと思って受け取ってくれると助かるかな。」

 マルクス大佐はそう言いながらも笑顔を顔から消すことはなかった。

 大佐から入都許可証を受け取った俺たちは、いったんカンケレスさんの経営する宿屋に止めてもらうことになった。なんでも、助けてくれたお礼だそうだ。

「いやはや、フェルディナントさんがいなかったら今頃私は生きているかどうかすら怪しいところでしたから。宿代は無料にはできませんが、一番安い部屋の値段で最上級のおもてなしをさせていただきますよ。」

 と、めちゃくちゃに感謝されたので、ありがたく泊めてもらうことにした。カンケレスさんの経営している宿屋は王都の西門から中央へ少し歩いたところにあり、周りには王都の商業エリアが広がっていた。まだ陽も高いので、カンケレスさんにおすすめの店を聞いて観光することにする。

 おすすめしてもらった店の半分はカンケレスさんの経営している店だったのだが、どの店も素人目から見てもでも手入れの行き届いているいい店ばかりだった。

 何より商業エリアは活気があり、さすがはスイレン王国の中心地といったところであった。

 いくつか店を回りつつ、露店で軽食を買いながら回っている中で、俺はものすごく美しいガラス細工を売っている少し寂れた店を発見した。

 気になってイリスと一緒に店に入ると、店の中は薄暗く、ところどころホコリも溜まっており、この周辺にあった店のどこと比べても入ろうとは思えなかった。

 しかし、ホコリのたまった棚に置かれているガラスで作られた食器などはものすごく美しく、思わず見とれてしまうほどだった。

 イリスは何がいいのかわからないといった感じで俺の横に立って食器を眺めていたのだが、俺は構わずガラス細工を見て回った。

 しばらく見ていると、奥のカウンターから若い、はちまきを頭に巻いた男が出てきた。

「お、うちにお客さんがいるなんて珍しい!なにか気になったものでもあったかい?」

 おそらくこの男がこの店の店主なんだろう。他に人の気配がないことから、男一人でこの店を経営しているようだ。

「ここにおいてあるガラス細工がきれいで、眺めていたんです。」
「お、兄ちゃんこの切子の良さがわかるのかい?」
「切子?」

 若い店主は棚においてある青いガラス製のコップを手にとった。

「この青いガラスのコップに、菊の花の模様が彫られているだろ?この掘られたところだけ透明の好きガラスになっている。こんな感じで透明の透きガラスの上から色ガラスを重ねて、彫刻をして模様をつけたガラス細工のことを切子っていうんだ。」
「へぇ~。」

 俺は改めてコップを手にとって詳しく見てみる。確かに菊の花の形に彫られたところは透明に澄んでおり、光を当ててみると、より一層幻想的に見えた。

「これ、ものすごく作るのが難しいんじゃないですか?」
「兄ちゃんガラス細工したことがあるのかい?」
「一応魔道具を作っているので、かんたんなレンズとかでガラスの加工をするだけなんですけど、こんなにきれいに加工するのは難しかったので。」

 若い店主は俺がガラス細工をしたことがあると聞いて、より楽しそうな顔になった。

「お、兄ちゃんはこのガラス細工の難しさがわかるのか!そのとおりだ。この切子を作るのにはかなり気をつけることが多い。例えば色ガラスと透きガラスを重ねるとき、少しでも厚さに狂いが出たらきれいな文様は生まれない。しかもただのガラス細工のように、間違えたから溶かし直し、なんてこともできないのが難点だ。そんなこんなで、この王都には切子を作れる職人は俺一人しかいない。」
「そうなんですねぇ。」

 話を聞いていると余計に湧いてくる疑問があった。そもそも、こんなにきれいなガラス細工なら、貴族であれば欲しがるはず。なのに、なぜこの店はなんでこれほど寂れているのだろうか?

「それは単純に、一個一個が高いのと、なかなか切子を作れる弟子が現れないのが原因だな。そのせいで暖簾分けとかもできないし、数も出回らないからあまり切子自体が知られないってのもあって、ほとんどの人が買いに来ないんだ。」
「なるほど、そうだったんですね。」

 確かに、この切子を真似しようと思ったら並外れた努力が必要になるだろう。それに、食器にしては高い買い物なのでお客さんはほとんどこないので、周りにも広まらない。

 俺はどうにかできないかと考えたが、一つしかまともな考えが浮かばなかった。

「とりあえず、ここにおいてある切子で、コップを2つと食器を大小それぞれ二枚ずつもらってもいいですか?」
「構わないが、高いぞ?」
「お金ならあります。」
「そうか、なら初めてのお客さんということで少しまけておくよ。切子6つで20万ルードだ。」
「はい、これで足りる?」

 俺は若い店主に白金貨二枚を手渡した。

「確かに。また買いに来てくれよ!」

 俺は若い店主から切子の入った袋を受け取り、宿へと帰ったのだった。
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