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†聖夜の煌めき†
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と、カミュが考えを巡らせている、そんな間にも、当のカイネルとサリアの会話は続いてゆく。
「…そのせいで、お前には必要ないはずの負担まで掛けちまって…さ」
「…、負担なんて…そんなの、掛けられていないわ…!」
「そりゃ、お前が気負ってないだけだ…
全ては俺の鈍さにある。
サリア…悪かったな、この通りだ」
カイネルは会釈に近い角度で頭を下げた。
これにサリアは慌ててカイネルを押し留める。
「!な、何やってるのよ!
そんなことで簡単に頭を下げるなんて、カイネルらしくないわよ!?」
「…あれ?」
…一方、こちらは草むらから二人の様子を窺う唯香。
その頬には、一筋の汗が流れている。
「何だか、微妙に風向きが変わって来たような気がするんだけど…」
「…まあ、あの二人だ。当然だろうな」
カミュはいたって冷静なままだ。
「どうも双方の思惑に誤解があるようだ…
このままでは、進展を期待しているお前には酷だが、サリアの肘鉄がいつも通り炸裂することは間違いないだろうな」
「!えっ…」
唯香が絶句すると、カミュは不意にその美しい紫の瞳を、鋭さに細めた。
「これ以上、覗き見る必要はないだろう。
…退くぞ、唯香」
「…え…」
唯香は草むらから離れ、その足でふらふらとカミュに寄った。
しかし普段が普段のカミュは、そんな唯香の様子にも、全く動揺する節がない。
「…そもそも、あの二人のプライベートに首を突っ込むこと自体が筋違いだ。
この辺りが潮時だろう」
「…それは…そうかも知れないけど…」
唯香がしょぼくれる。
それにカミュは、そんな唯香の反応を事前に予測していながら、それでも厳しく口を開いた。
「お前も、俺と二人で居る時の会話を他者に聞かれれば、やはりいい気はしないだろう?」
「!あ…」
「あの二人がくっつくも離れるも、それは俺たちが関知する所ではない…
そして下手にお前が出張ったことが、あの二人になど知れてみろ。
事が前にも増して拗れることは明白だ」
「…、そっか…」
唯香はただ一度だけ、深く、短い息をつく。
「そうよね。確かにカミュの言う通りよ…」
「…、お前は何故そうも、あの二人の仲を気に掛ける?」
「!それは…」
唯香は勢いよく顔を上げた。
…その瞳の蒼が、カミュの紫のそれとぶつかる。
「…あの二人の気持ちは、すごく良く分かるの。
だから、応援してあげたい…
あたし…あの二人が大好きだから」
「…、“六魔将よ、ただ皇家の為にあれ
その身は己の為に非ず”…か」
「…そう、それ! それなのよ!
それが常に、心に引っかかっているから…
だからあの…二人は…!」
唯香がその目に涙を滲ませる。
「カイネルは本当に鈍いだけなのかも知れないけど、サリアのことを何かと気に掛けているのは、見ていても分かるし…
サリアの方は…って考えたら、あの二人のことは、本当に…気になって…!」
次の瞬間。
唯香の瞳からは、大粒の涙が溢れた。
…分かっている。
自分が大事に思っている者。
特に近しくも愛しい、カミュや、ライセ・累世双子の存在。
“今、彼らが在ること”。
それは二人の気持ちの犠牲の上に成り立っている。
カイネルが何よりも全てを慮り、任務を優先してくれているから、
そしてサリアが、自らの気持ちを殺してくれているから、
だからこそ今の六魔将は成り立っており、ひいては皇家の、人々の無事に繋がっている。
…でも。
だからこそ、切なく、歯痒い。
それがこの世界の、本来からのシステムだとしても、
人に気持ちを圧し殺させてまで、
そうまでして… “そうまでしなければ…成り立たないものなのだろうか?”
「…っ」
もはや言葉にはならない唯香の瞳からは、涙が止めどなく溢れてゆく。
それを黙って見ていたカミュは、ふと、唯香の手を引く形で、自らの元へと引き寄せた。
力なく、されるがままに動く唯香を、カミュは柔らかく包み込むように受け入れる。
そんなカミュの行動に戸惑いを覚えた唯香の涙は、目に溜まったままの状態でその流れを止めた。
…それをカミュは静かに拭う。
何の迷いも、躊躇いもなく。
「…お前は誰よりも、六魔将のことを良く理解しているな…」
「……」
唯香は無言のままに、目を伏せ瞬きを繰り返す。
「だが、あまり気に病むな…
今までは確かにそうだった。いや、そうでなければならなかったのだろうが──」
「…そのせいで、お前には必要ないはずの負担まで掛けちまって…さ」
「…、負担なんて…そんなの、掛けられていないわ…!」
「そりゃ、お前が気負ってないだけだ…
全ては俺の鈍さにある。
サリア…悪かったな、この通りだ」
カイネルは会釈に近い角度で頭を下げた。
これにサリアは慌ててカイネルを押し留める。
「!な、何やってるのよ!
そんなことで簡単に頭を下げるなんて、カイネルらしくないわよ!?」
「…あれ?」
…一方、こちらは草むらから二人の様子を窺う唯香。
その頬には、一筋の汗が流れている。
「何だか、微妙に風向きが変わって来たような気がするんだけど…」
「…まあ、あの二人だ。当然だろうな」
カミュはいたって冷静なままだ。
「どうも双方の思惑に誤解があるようだ…
このままでは、進展を期待しているお前には酷だが、サリアの肘鉄がいつも通り炸裂することは間違いないだろうな」
「!えっ…」
唯香が絶句すると、カミュは不意にその美しい紫の瞳を、鋭さに細めた。
「これ以上、覗き見る必要はないだろう。
…退くぞ、唯香」
「…え…」
唯香は草むらから離れ、その足でふらふらとカミュに寄った。
しかし普段が普段のカミュは、そんな唯香の様子にも、全く動揺する節がない。
「…そもそも、あの二人のプライベートに首を突っ込むこと自体が筋違いだ。
この辺りが潮時だろう」
「…それは…そうかも知れないけど…」
唯香がしょぼくれる。
それにカミュは、そんな唯香の反応を事前に予測していながら、それでも厳しく口を開いた。
「お前も、俺と二人で居る時の会話を他者に聞かれれば、やはりいい気はしないだろう?」
「!あ…」
「あの二人がくっつくも離れるも、それは俺たちが関知する所ではない…
そして下手にお前が出張ったことが、あの二人になど知れてみろ。
事が前にも増して拗れることは明白だ」
「…、そっか…」
唯香はただ一度だけ、深く、短い息をつく。
「そうよね。確かにカミュの言う通りよ…」
「…、お前は何故そうも、あの二人の仲を気に掛ける?」
「!それは…」
唯香は勢いよく顔を上げた。
…その瞳の蒼が、カミュの紫のそれとぶつかる。
「…あの二人の気持ちは、すごく良く分かるの。
だから、応援してあげたい…
あたし…あの二人が大好きだから」
「…、“六魔将よ、ただ皇家の為にあれ
その身は己の為に非ず”…か」
「…そう、それ! それなのよ!
それが常に、心に引っかかっているから…
だからあの…二人は…!」
唯香がその目に涙を滲ませる。
「カイネルは本当に鈍いだけなのかも知れないけど、サリアのことを何かと気に掛けているのは、見ていても分かるし…
サリアの方は…って考えたら、あの二人のことは、本当に…気になって…!」
次の瞬間。
唯香の瞳からは、大粒の涙が溢れた。
…分かっている。
自分が大事に思っている者。
特に近しくも愛しい、カミュや、ライセ・累世双子の存在。
“今、彼らが在ること”。
それは二人の気持ちの犠牲の上に成り立っている。
カイネルが何よりも全てを慮り、任務を優先してくれているから、
そしてサリアが、自らの気持ちを殺してくれているから、
だからこそ今の六魔将は成り立っており、ひいては皇家の、人々の無事に繋がっている。
…でも。
だからこそ、切なく、歯痒い。
それがこの世界の、本来からのシステムだとしても、
人に気持ちを圧し殺させてまで、
そうまでして… “そうまでしなければ…成り立たないものなのだろうか?”
「…っ」
もはや言葉にはならない唯香の瞳からは、涙が止めどなく溢れてゆく。
それを黙って見ていたカミュは、ふと、唯香の手を引く形で、自らの元へと引き寄せた。
力なく、されるがままに動く唯香を、カミュは柔らかく包み込むように受け入れる。
そんなカミュの行動に戸惑いを覚えた唯香の涙は、目に溜まったままの状態でその流れを止めた。
…それをカミュは静かに拭う。
何の迷いも、躊躇いもなく。
「…お前は誰よりも、六魔将のことを良く理解しているな…」
「……」
唯香は無言のままに、目を伏せ瞬きを繰り返す。
「だが、あまり気に病むな…
今までは確かにそうだった。いや、そうでなければならなかったのだろうが──」
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