†我の血族†

如月統哉

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†記憶の狭間で†

応える者こそは

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それを察した将臣は、彼自身を呼び戻すかのように、鋭くも激しい声で…
強く叫んだ。

「カミュ!」

将臣に、訴えかけるように名を呼ばれた瞬間…、ずきん、と、今までになく激しい頭痛がカミュを襲った。

「!う…、ぐっ…!」

我慢のできない痛みに、声を抑えることもまるで叶わず、カミュは強く歯を噛み締め、握りしめた手で、これまた強くこめかみの辺りを押さえた。

さらさらの銀髪が風に煽られ、それが僅かに乱されると、その髪の下には、じんわりと汗が滲んでいた。
そしてその目はきつく閉じられ、もはや目の前にいる将臣の姿を映してはいなかった。

この状況を、さすがに黙認するはずのないカイネルとサリアが、互いの反応を見るように顔を見合わせると、次にはこぞって声をあげた。

「!カミュ様…」
「カミュ様っ!?」

二人は、ひどい頭痛に耐えきれず、とうとうその場に膝をついたカミュの傍らに、急ぎ足で駆け寄った。
マリィも、唯香の様子を窺いながらも、兄・カミュの症状を、心配そうに見つめている。

そんな中、六魔将の二人は、仕える主の症状を気にしてか、必死にカミュに呼び掛けた。

「カミュ様! しっかりして下さい!」
「カミュ様っ…!」

…カイネルとサリアが必死に呼びかける。
しかし今のカミュには、二人が自分の体調を危惧し、気にかけて声をかけたそれすらも、単に頭痛を増長させる、言葉による攻撃でしかなかった。

「…たかが…この程度で…、大袈裟に騒ぐな…!」

カミュが激痛の下から二人を制止すると、二人ははっとしたように声を抑えた。
それを片方の目のみで、薄目がちに見ながら、カミュは観念したように口を開いた。

「…だが、この厄介な頭痛を…何とかしない限りは、まともな戦いなど、出来そうにない…
不本意だが…一時帰還せざるを得ないようだ…」
「!では、我々もお供致します!」

カイネルが、心配と興奮の入り混じった高い声をあげると、普段ならば到底突っぱねるはずのカミュが、意外にも頷いた。

「…ああ…」

頷いて、しかし次には何事かに気付いたのか、ふと顔をあげて、ようやくまともに目を開けたカミュの視線は、妹・マリィに向けられていた。

…マリィは、哀の感情を前面に押し出し、ただ縋るような瞳でカミュを見つめていた。
そのあどけない瞳の縋りを打ち消すように、カミュが冷たく吐き捨てる。

「…お前にも余計なものを付けられたな。
この件が片付き、お前がこれを消した暁には…、俺はお前を殺す。そのつもりでいろ」
「!…え…」

先程とは打って変わったカミュの言動に、マリィは言葉を失った。
それを激しい頭痛の下から垣間見たカミュは、その双眸に宿る氷を潰えさせると、疲れたように深く、大きく息をついた。
そのまま、誰とも言葉を交わさず、魔力を用いて姿を消す。

「!…カミュ様っ」

カイネルが慌ててそれに続くと、置いてきぼりを食ったサリアも、ぎょっとしながらも後を追おうとした。

しかし、その時、傍観していた将臣が動いた。
サリアの襟首を掴むと、ぐいっと自分の方へと引き寄せる。

「!…な!?」

勢い余ったサリアは、そのまま後ろに倒れそうになるのを、ようやく踏みとどまった。
…一転して、忌々しげに将臣を睨む。

「何するのよ!?」
「見たところ、お前はマリィのお目付け役だろう? その当のマリィを放ったまま、何処へ行くつもりだ?」

将臣が冷酷に言葉を浴びせかけると、道理が通っていることから、いったんは怯んだサリアも、体勢を立て直すと、次には将臣に激しく食ってかかった。

「そんなこと、言われなくても分かっているわよ! 第一、何故、お前がマリィ様を呼び捨てにするの!?」
「…、随分と下らないことに拘るな。
そちらの世界でどれだけ偉いか知らないが、マリィはカミュの妹だろう?
カミュ自身が、己を呼び捨てにしても構わないと言っていたのに、その妹であるマリィを、こちらが呼び捨てにしないことの方がおかしいだろう?
…第一、今、そんな些細なことで口論している場合か?」
「!ぐっ…」

手酷くやりこめられたサリアは、まさしくぐうの音も出ない。
わなわなと震えながら、それでも彼女は、極めて平静を装って答えた。

「し、仕方ないわね。その件は百歩譲って大目に見るわ。しかしお前こそ…レイヴァンの息子だというのは真実?」
「…、いい加減にしろ。そんな嘘を言って、何かこちらが得することでもあるか?」

とうとう将臣は半眼で、ぴしゃりと切り返した。
たった今、窘めたばかりであるというのに、このサリアの言動は、何処かずれている。

そんな将臣の雰囲気に呑まれたのか、サリアが僅かに怯んだ。
それを見計らって、将臣はまたしてもサリアを攻め立てる。

「…いいか、お目付け役。お前はマリィの面倒を見なければならないんだろう?
その当のマリィがここにいる以上、お前もここに残る義務がある。違うか?」
「!う…」

言葉による度重なる攻めで、サリアが敗北を認めたように体を引く。
しかし将臣は、追撃の姿勢を崩さず、その動きを縛るような鋭い目を見せた。

「六魔将のひとり…、お前は何かと情報に通じていそうだ。
マリィをここに置く代わりに、お前には、自らが知り得る限りの情報を、全て提供して貰う。
交換条件だ。…いいな」
「…、仕方ないわね…」

根負けしたサリアは、がっくりと肩を落とした。
ここまで周到に策を張り巡らされれば、完全に網にかかった方が負けだ。

…それにしても…

「お前は随分と策士のようね。有無を言わせないところも、かのレイヴァンに良く似ているわ」

…そんな何気ないサリアの呟きに、何故か将臣は一時、目を伏せて答えた。

「…、ここに残るつもりなら覚えておけ。それは決して誉め言葉にはならない」
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