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†禍月の誘い†
…闇に染まり…光を求める者に…救いはあるか…
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「──聞いているのか!? お前は!」
…ここは、人間界のとある高校…
『国立飛月高等学校』。
その校内にある職員室から、苛立ち混じりの大声が響いてくる。
怒鳴っているのは、この学校の生徒指導を任された、まだ若さの残る教諭。
そして、叱られているのは…
銀髪蒼眼の、整った容姿を持った少年だった。
その少年は、目の前の教諭の怒りを目の当たりにして、一息つくと、いかにもうんざりしたかのように、重い口を開いた。
「聞いてますよ。…俺の髪と目のことでしょう?」
言われ慣れているのか、少年はぶっきらぼうに吐き捨てる。
その態度に教諭は、更に声を荒げて怒鳴った。
「分かっているなら、何故直して来ない!?」
「…馬鹿いうな。これは自前なんだよ。直そうったって簡単に直せるか」
少年は、忌々しげにそう呟くと、目の前の教諭に目を向けた。
…最近この学校に赴任してきたばかりの、まだ若さの残る教諭だ。
少年は、自らの容姿のことで、自前であるからと、学校の方には説明を済ませていた。
その上で許可も取ってあるはずなのだが、この教諭はまだそれを知らないらしい。
…知らないくせに絡んでくるとは、下手な悪たれ共より質が悪い。
「…とにかく、文句があるなら理事長に言って下さい」
「な!? …何故、理事長に言う必要がある!」
…教諭は、目に見えて狼狽えた。
それに一気に腹を立てた少年は、目の前にある机に自らの手のひらを叩きつける。
「…こうやっていちいち生徒指導で絡まれたくはないから、ここに入る時に、真っ先に理事長に話を通したんですよ。
だから、この髪と目が本物であることを、理事長は分かってます。
もう一度言います。…文句があるなら理事長に言って下さい」
痛烈なまでに皮肉を込めて、少年はそれだけを告げ、教諭をひと睨みすると、そのまま職員室を出て行った。
…後に残された教諭は、そんな少年の威圧感に呑まれて竦んでいた。
すると、その近くにいた別の教諭が、苦々しげに笑った。
「…やられましたな」
その口調が、どこか彼に一目を置いているかのようで…
生徒指導の教諭は、その教諭に目を向ける。
するとその教諭は、少年が姿を消した職員室の扉へと目を向け、苦笑混じりに呟いた。
「神崎累世か… やはり一筋縄では行かんな」
「…よぉ累世、どうだったよ?」
教室に戻った少年…累世を、彼の友達…もとい、悪友共が、にやにやと笑いながら出迎えた。
それに累世は、憮然としながらも答える。
「分かってるなら聞くな」
「んー、まぁそりゃそうなんだが…どうせまた、その外見のことで絡まれたんだろ?」
「……」
図星なだけに、累世が、これ以上ない仏頂面で黙っていると、悪友のひとりが、いきなり累世の上から下までを、なぞるように眺めた。
その視線にぞっとしたものを感じた累世は、思わず二の腕を抑えながら悪友を見る。
「…何だ?」
「いや…、お前、黙ってりゃ下手なビジュアル系真っ青な外見のくせに、口を開けば何でこうなのかと…」
「別に…好きでこんな外見をしているわけじゃない」
「こんな外見って…」
悪友共は、思わず顔を見合わせた。
…茶髪や金髪、あるいはその中間くらいの髪をしている奴なら、その辺りにもごろごろいるが、自前でここまで綺麗な髪を持った奴など、そうそういるものではない。
「…贅沢言うなよ、勿体ねぇだろ」
悪友のひとりが口を尖らせる。
「これのせいで、望みもしない敵を作ってばかりだからな。厄介なだけだ」
「でも、俺はやっぱり羨ましいと思うぜ?」
悪友のひとり、安藤恭一が、柔らかな憧憬をその目に浮かべて呟く。
が、それはすぐに悪戯っぽい色を含んだものへと変化した。
「いちいち染めることもないし、楽でいいだろ。なぁ夏紀?」
恭一は夏紀に同意を求めた。
夏紀こと、日向夏紀 は、それに頷くことで同意する。
「ったく、どいつもこいつも…、それで励ましてるつもりなのかよ?」
我慢出来ずに、累世が笑う。それに恭一と夏紀は、揃って吹き出した。
一頻り笑った後、恭一がふと真顔になり、累世に再び話しかけた。
「そういや累世…、お前、父親のこと…何も知らないんだよな?」
「…何だ? いきなり」
いつになく恭一が大真面目に切り出して来たことで、累世は些か面食らった。
「いや、その髪って…唯香さん譲りではないんだから、やっぱり父親譲りなんじゃないかと思ってな」
「…父親譲り…?」
累世は、自らの髪を指で挟んだ。
それはその隙間を縫うようにして、ぱらぱらとこぼれ落ちる。
…言われてみれば確かにそうだ。
決して今更気付いた訳ではなく、以前から、漠然とではあるが、その考えは自らの中に巣食っていた。
しかし、他者からも同様に指摘されたのなら、やはりそう考えるのが自然だ。
…この銀髪は、恐らくは父親譲り。
つまり、“父親は銀髪である可能性が高い”。
「でも銀髪って…親父は外人なのか?」
「それに関して、唯香さんは何て?」
夏紀が、すかさず訊ねてくる。
「…、それは…聞けないから…聞いていない…」
…そう。
聞くのが憚られる、あの雰囲気。
…昔から、父親のことを聞こうとすると、決まって母親の顔は曇った。
幼心にも、母を傷つけてしまうと思うと、それ以上は聞けなかった。
幼かった自分は、その時に、母親共々…
父親を慕い、求める…自らの感情を全て封じ込めたのだ。
そして、そのままずるずると、今に至っている。
「…でもよ、いい機会だから、この際はっきり聞いておいた方がいいと思うぜ、俺はな」
恭一が、累世の心境を察して、親身になって告げる。
それに、累世は上げていた手を下ろした。
それは、時期尚早ではないだろうか?
母親を…より追い詰めてしまうことにはならないのか?
…それだけが不安だ。
「…恭一、気持ちは嬉しいが…」
「なら、俺たちをダシにしてでも聞いてみるべきだろうな」
否定の否定。
これには累世も、唖然とする。
否定したのは、言い出しっぺの恭一ではなく、他でもない夏紀だったからだ。
「夏紀…?」
「累世、その口調で分かる。…お前は本当は、父親のことを常に気にかけているはずだ。
唯香さんには悪いが、俺は…、お前には父親のことを聞く権利があると思う。
自分の父親のことを知りたいと思うのは…至極当然のことだ」
「……」
累世は黙り込んだ。
しばらく考えた後、わずかに躊躇い、しかしながら、すぐに意を決したように、悪友二人に目を向ける。
「…言いたいことはよく分かった。
じゃあ、恭一、夏紀…、今日の放課後、家に来てくれ。お前らも交えて、母親と話がしたい」
「…そうこなくちゃな」
恭一がほくそ笑んだ。
それは得体の知れない何かに挑むかのように、不敵な感情が見え隠れしていた。
…ここは、人間界のとある高校…
『国立飛月高等学校』。
その校内にある職員室から、苛立ち混じりの大声が響いてくる。
怒鳴っているのは、この学校の生徒指導を任された、まだ若さの残る教諭。
そして、叱られているのは…
銀髪蒼眼の、整った容姿を持った少年だった。
その少年は、目の前の教諭の怒りを目の当たりにして、一息つくと、いかにもうんざりしたかのように、重い口を開いた。
「聞いてますよ。…俺の髪と目のことでしょう?」
言われ慣れているのか、少年はぶっきらぼうに吐き捨てる。
その態度に教諭は、更に声を荒げて怒鳴った。
「分かっているなら、何故直して来ない!?」
「…馬鹿いうな。これは自前なんだよ。直そうったって簡単に直せるか」
少年は、忌々しげにそう呟くと、目の前の教諭に目を向けた。
…最近この学校に赴任してきたばかりの、まだ若さの残る教諭だ。
少年は、自らの容姿のことで、自前であるからと、学校の方には説明を済ませていた。
その上で許可も取ってあるはずなのだが、この教諭はまだそれを知らないらしい。
…知らないくせに絡んでくるとは、下手な悪たれ共より質が悪い。
「…とにかく、文句があるなら理事長に言って下さい」
「な!? …何故、理事長に言う必要がある!」
…教諭は、目に見えて狼狽えた。
それに一気に腹を立てた少年は、目の前にある机に自らの手のひらを叩きつける。
「…こうやっていちいち生徒指導で絡まれたくはないから、ここに入る時に、真っ先に理事長に話を通したんですよ。
だから、この髪と目が本物であることを、理事長は分かってます。
もう一度言います。…文句があるなら理事長に言って下さい」
痛烈なまでに皮肉を込めて、少年はそれだけを告げ、教諭をひと睨みすると、そのまま職員室を出て行った。
…後に残された教諭は、そんな少年の威圧感に呑まれて竦んでいた。
すると、その近くにいた別の教諭が、苦々しげに笑った。
「…やられましたな」
その口調が、どこか彼に一目を置いているかのようで…
生徒指導の教諭は、その教諭に目を向ける。
するとその教諭は、少年が姿を消した職員室の扉へと目を向け、苦笑混じりに呟いた。
「神崎累世か… やはり一筋縄では行かんな」
「…よぉ累世、どうだったよ?」
教室に戻った少年…累世を、彼の友達…もとい、悪友共が、にやにやと笑いながら出迎えた。
それに累世は、憮然としながらも答える。
「分かってるなら聞くな」
「んー、まぁそりゃそうなんだが…どうせまた、その外見のことで絡まれたんだろ?」
「……」
図星なだけに、累世が、これ以上ない仏頂面で黙っていると、悪友のひとりが、いきなり累世の上から下までを、なぞるように眺めた。
その視線にぞっとしたものを感じた累世は、思わず二の腕を抑えながら悪友を見る。
「…何だ?」
「いや…、お前、黙ってりゃ下手なビジュアル系真っ青な外見のくせに、口を開けば何でこうなのかと…」
「別に…好きでこんな外見をしているわけじゃない」
「こんな外見って…」
悪友共は、思わず顔を見合わせた。
…茶髪や金髪、あるいはその中間くらいの髪をしている奴なら、その辺りにもごろごろいるが、自前でここまで綺麗な髪を持った奴など、そうそういるものではない。
「…贅沢言うなよ、勿体ねぇだろ」
悪友のひとりが口を尖らせる。
「これのせいで、望みもしない敵を作ってばかりだからな。厄介なだけだ」
「でも、俺はやっぱり羨ましいと思うぜ?」
悪友のひとり、安藤恭一が、柔らかな憧憬をその目に浮かべて呟く。
が、それはすぐに悪戯っぽい色を含んだものへと変化した。
「いちいち染めることもないし、楽でいいだろ。なぁ夏紀?」
恭一は夏紀に同意を求めた。
夏紀こと、日向夏紀 は、それに頷くことで同意する。
「ったく、どいつもこいつも…、それで励ましてるつもりなのかよ?」
我慢出来ずに、累世が笑う。それに恭一と夏紀は、揃って吹き出した。
一頻り笑った後、恭一がふと真顔になり、累世に再び話しかけた。
「そういや累世…、お前、父親のこと…何も知らないんだよな?」
「…何だ? いきなり」
いつになく恭一が大真面目に切り出して来たことで、累世は些か面食らった。
「いや、その髪って…唯香さん譲りではないんだから、やっぱり父親譲りなんじゃないかと思ってな」
「…父親譲り…?」
累世は、自らの髪を指で挟んだ。
それはその隙間を縫うようにして、ぱらぱらとこぼれ落ちる。
…言われてみれば確かにそうだ。
決して今更気付いた訳ではなく、以前から、漠然とではあるが、その考えは自らの中に巣食っていた。
しかし、他者からも同様に指摘されたのなら、やはりそう考えるのが自然だ。
…この銀髪は、恐らくは父親譲り。
つまり、“父親は銀髪である可能性が高い”。
「でも銀髪って…親父は外人なのか?」
「それに関して、唯香さんは何て?」
夏紀が、すかさず訊ねてくる。
「…、それは…聞けないから…聞いていない…」
…そう。
聞くのが憚られる、あの雰囲気。
…昔から、父親のことを聞こうとすると、決まって母親の顔は曇った。
幼心にも、母を傷つけてしまうと思うと、それ以上は聞けなかった。
幼かった自分は、その時に、母親共々…
父親を慕い、求める…自らの感情を全て封じ込めたのだ。
そして、そのままずるずると、今に至っている。
「…でもよ、いい機会だから、この際はっきり聞いておいた方がいいと思うぜ、俺はな」
恭一が、累世の心境を察して、親身になって告げる。
それに、累世は上げていた手を下ろした。
それは、時期尚早ではないだろうか?
母親を…より追い詰めてしまうことにはならないのか?
…それだけが不安だ。
「…恭一、気持ちは嬉しいが…」
「なら、俺たちをダシにしてでも聞いてみるべきだろうな」
否定の否定。
これには累世も、唖然とする。
否定したのは、言い出しっぺの恭一ではなく、他でもない夏紀だったからだ。
「夏紀…?」
「累世、その口調で分かる。…お前は本当は、父親のことを常に気にかけているはずだ。
唯香さんには悪いが、俺は…、お前には父親のことを聞く権利があると思う。
自分の父親のことを知りたいと思うのは…至極当然のことだ」
「……」
累世は黙り込んだ。
しばらく考えた後、わずかに躊躇い、しかしながら、すぐに意を決したように、悪友二人に目を向ける。
「…言いたいことはよく分かった。
じゃあ、恭一、夏紀…、今日の放課後、家に来てくれ。お前らも交えて、母親と話がしたい」
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