207 / 214
†歪んだ光†
剥がれ落ちる偏見
しおりを挟む
「私はもう、攻撃の為には…
そして自分の為だけには、力を使いたくなかった。
私はかつて、この力に、この能力にだけ…
自分の居場所を求めていたから」
「!…」
意外な独白に、シンが絶句する。
…陽の当たる所に、当然のように存在している人間。
その“人間”であるはずの凛にも、自分たちのような、闇に生きる者にも等しい程の、鮮烈にも近い印象の、強烈なまでの陰を見いだしたからだ。
「…でも…」
凛が、その手により一層の能力を込める。
途端にその炎は、見事なまでの赤となって闇を煌めかせた。
「私、サリアさんには、あの戦いの最中、命を助けて貰ったから。
…今度は私がサリアさんを助ける。
この力は…その為に使うわ」
「──“凛”…!」
…フェンネルの心が動かされる。
今まで見てきた人間たち。
それは劣悪で、愚劣で、強欲かつ醜悪な者がほとんどだった。
生まれながらにして、七つの大罪を背負っているとされる人間。
それをなぞるように、示すように…生きている者ばかりだった。
だから自分は失望したのだ。
──人間など、所詮はこんなものなのだと思いながら。
遊び半分で虫をいたぶり殺す子ども。
我が身可愛さに、その態度はおろか、言葉さえも剣と盾として使い分ける大人。
成長するごとに、気付かないうちにも悪を抱え、育ててゆく種族。
良くも悪くも様々な知識を身につけ、胸に本音を秘め、感情を隠しながらも、言動で己が立場を維持することに必死な…
そんな、足元も自らも、緩くも浅はかな人間。
ヒトには幾度、興味を持ったか知れない。
その度に予想を裏切られ、その余りの薄汚さに見切りさえ付けた。
身内殺しを謀り、他人をろくに労ることもせず、そのくせ我(ガ)ばかりが突出し、それが元で人を傷つけ、時に諍いすら起こす──
…だが、思う。
自分は剰りにも、人間の汚れた部分ばかりを見過ぎたのではないか。
凛のように、種族が違おうとも相手を深く思いやり、封じていたはずの自らの力さえをも、己の心の…
信念のままに使い、そういった心情を素直に見せる人間も居るという事実そのものを、否定してはいなかったか。
この場合、気負いやリスクは、明らかに凛の方に掛かってくる。
それでも凛は、それを承知でサリアの為に動こうとする。
ひいてはサリアの症状を案ずる、自分たちの心をも、救おうとする…!
「……」
フェンネルは憂いの瞳と共に、無意識に口元を引き結んだ。
これが、この世界の皇帝が認めた、人間の強さ。
そして、その後継の皇子が拘った“人間”そのものであると悟ったから。
…人の嫌な面ばかりを見せられた。
そしてそれが元で、人を嫌悪した。
それは確かであり、事実だ。
だが、凛を見ていれば、人間とは、そんな者ばかりでないことは明白。
「…人間だというだけで、一概に嫌悪感を見せていた俺は…愚かだった」
人間と結ばれた皇帝やレイヴァンは、そんなことはとうに気付いていたはずなのに。
皇帝の決定事項だからと。
友であり、仲間であるレイヴァンの純粋な優しさからなのだと。
…それだけが、二人が人間に拘る理由ではなかったはずなのに。
「!フェンネル…」
そしてそんなフェンネルの人間嫌いを、シンは良く知っていた。
故にフェンネルのこの発言は、それまで人間に対して、頑なな拒絶感しか見せなかった、彼のイメージを完全なまでに覆した。
そのフェンネルは、今、はっきりと凛を、精の黒瞑界の身内であると認めた。
それまでの自分の、人間に対する愚行を胸中で詫びながらも、その瞳は真剣に、しっかりと凛を捉える。
「…頼む、凛。その力を我々に…
いや、サリアを救う為に貸してくれ」
「!フェンネルさん…」
…以前に縋り触れた時には、あれほど強く人間を拒絶し、侮蔑にも近い嫌悪さえ見せていた彼が。
この瀬戸際の状況下で、その人間を心から認め、同時に“頼む”という発言を口にしている。
そしてそれは、ひいてはサリアに対して、この炎の力を発動しても構わないという、許可の意味合いも含めている…!
「…“凛”、俺からも頼む」
次にはシンが口を開いた。
その表情は、相変わらず力を放出し続けているだけに、緊迫感に加えて、若干の疲労を帯びたものでもあったが…
その瞳には、もはや種族という壁を取り払った、ある種の連帯感が見てとれる。
「種族なんて関係ない。俺たちもお前も、サリアを助けたいと思う気持ちは一緒だ…
そうだろう?」
「!…」
こうまで二人に信頼されて、凛は、二人の思いに涙が滲みそうになった。
…頭を左右に軽く振ることで、それを振り切る。
その一部始終を見ていたシンは、そんな凛の気持ちを思いやってか、先程よりも更に柔らかく告げた。
「力を…貸してくれるか?」
凛はそれに、はっきりと頷いてみせた。
「…はい!」
そして自分の為だけには、力を使いたくなかった。
私はかつて、この力に、この能力にだけ…
自分の居場所を求めていたから」
「!…」
意外な独白に、シンが絶句する。
…陽の当たる所に、当然のように存在している人間。
その“人間”であるはずの凛にも、自分たちのような、闇に生きる者にも等しい程の、鮮烈にも近い印象の、強烈なまでの陰を見いだしたからだ。
「…でも…」
凛が、その手により一層の能力を込める。
途端にその炎は、見事なまでの赤となって闇を煌めかせた。
「私、サリアさんには、あの戦いの最中、命を助けて貰ったから。
…今度は私がサリアさんを助ける。
この力は…その為に使うわ」
「──“凛”…!」
…フェンネルの心が動かされる。
今まで見てきた人間たち。
それは劣悪で、愚劣で、強欲かつ醜悪な者がほとんどだった。
生まれながらにして、七つの大罪を背負っているとされる人間。
それをなぞるように、示すように…生きている者ばかりだった。
だから自分は失望したのだ。
──人間など、所詮はこんなものなのだと思いながら。
遊び半分で虫をいたぶり殺す子ども。
我が身可愛さに、その態度はおろか、言葉さえも剣と盾として使い分ける大人。
成長するごとに、気付かないうちにも悪を抱え、育ててゆく種族。
良くも悪くも様々な知識を身につけ、胸に本音を秘め、感情を隠しながらも、言動で己が立場を維持することに必死な…
そんな、足元も自らも、緩くも浅はかな人間。
ヒトには幾度、興味を持ったか知れない。
その度に予想を裏切られ、その余りの薄汚さに見切りさえ付けた。
身内殺しを謀り、他人をろくに労ることもせず、そのくせ我(ガ)ばかりが突出し、それが元で人を傷つけ、時に諍いすら起こす──
…だが、思う。
自分は剰りにも、人間の汚れた部分ばかりを見過ぎたのではないか。
凛のように、種族が違おうとも相手を深く思いやり、封じていたはずの自らの力さえをも、己の心の…
信念のままに使い、そういった心情を素直に見せる人間も居るという事実そのものを、否定してはいなかったか。
この場合、気負いやリスクは、明らかに凛の方に掛かってくる。
それでも凛は、それを承知でサリアの為に動こうとする。
ひいてはサリアの症状を案ずる、自分たちの心をも、救おうとする…!
「……」
フェンネルは憂いの瞳と共に、無意識に口元を引き結んだ。
これが、この世界の皇帝が認めた、人間の強さ。
そして、その後継の皇子が拘った“人間”そのものであると悟ったから。
…人の嫌な面ばかりを見せられた。
そしてそれが元で、人を嫌悪した。
それは確かであり、事実だ。
だが、凛を見ていれば、人間とは、そんな者ばかりでないことは明白。
「…人間だというだけで、一概に嫌悪感を見せていた俺は…愚かだった」
人間と結ばれた皇帝やレイヴァンは、そんなことはとうに気付いていたはずなのに。
皇帝の決定事項だからと。
友であり、仲間であるレイヴァンの純粋な優しさからなのだと。
…それだけが、二人が人間に拘る理由ではなかったはずなのに。
「!フェンネル…」
そしてそんなフェンネルの人間嫌いを、シンは良く知っていた。
故にフェンネルのこの発言は、それまで人間に対して、頑なな拒絶感しか見せなかった、彼のイメージを完全なまでに覆した。
そのフェンネルは、今、はっきりと凛を、精の黒瞑界の身内であると認めた。
それまでの自分の、人間に対する愚行を胸中で詫びながらも、その瞳は真剣に、しっかりと凛を捉える。
「…頼む、凛。その力を我々に…
いや、サリアを救う為に貸してくれ」
「!フェンネルさん…」
…以前に縋り触れた時には、あれほど強く人間を拒絶し、侮蔑にも近い嫌悪さえ見せていた彼が。
この瀬戸際の状況下で、その人間を心から認め、同時に“頼む”という発言を口にしている。
そしてそれは、ひいてはサリアに対して、この炎の力を発動しても構わないという、許可の意味合いも含めている…!
「…“凛”、俺からも頼む」
次にはシンが口を開いた。
その表情は、相変わらず力を放出し続けているだけに、緊迫感に加えて、若干の疲労を帯びたものでもあったが…
その瞳には、もはや種族という壁を取り払った、ある種の連帯感が見てとれる。
「種族なんて関係ない。俺たちもお前も、サリアを助けたいと思う気持ちは一緒だ…
そうだろう?」
「!…」
こうまで二人に信頼されて、凛は、二人の思いに涙が滲みそうになった。
…頭を左右に軽く振ることで、それを振り切る。
その一部始終を見ていたシンは、そんな凛の気持ちを思いやってか、先程よりも更に柔らかく告げた。
「力を…貸してくれるか?」
凛はそれに、はっきりと頷いてみせた。
「…はい!」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる