†我の血族†

如月統哉

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†歪んだ光†

剥がれ落ちる偏見

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「私はもう、攻撃の為には…
そして自分の為だけには、力を使いたくなかった。
私はかつて、この力に、この能力にだけ…
自分の居場所を求めていたから」
「!…」

意外な独白に、シンが絶句する。
…陽の当たる所に、当然のように存在している人間。
その“人間”であるはずの凛にも、自分たちのような、闇に生きる者にも等しい程の、鮮烈にも近い印象の、強烈なまでの陰を見いだしたからだ。

「…でも…」

凛が、その手により一層の能力を込める。
途端にその炎は、見事なまでの赤となって闇を煌めかせた。

「私、サリアさんには、あの戦いの最中、命を助けて貰ったから。
…今度は私がサリアさんを助ける。
この力は…その為に使うわ」

「──“凛”…!」

…フェンネルの心が動かされる。

今まで見てきた人間たち。
それは劣悪で、愚劣で、強欲かつ醜悪な者がほとんどだった。


生まれながらにして、七つの大罪を背負っているとされる人間。
それをなぞるように、示すように…生きている者ばかりだった。


だから自分は失望したのだ。
──人間など、所詮はこんなものなのだと思いながら。

遊び半分で虫をいたぶり殺す子ども。
我が身可愛さに、その態度はおろか、言葉さえも剣と盾として使い分ける大人。

成長するごとに、気付かないうちにも悪を抱え、育ててゆく種族。
良くも悪くも様々な知識を身につけ、胸に本音を秘め、感情を隠しながらも、言動で己が立場を維持することに必死な…
そんな、足元も自らも、緩くも浅はかな人間。

ヒトには幾度、興味を持ったか知れない。
その度に予想を裏切られ、その余りの薄汚さに見切りさえ付けた。


身内殺しを謀り、他人をろくに労ることもせず、そのくせ我(ガ)ばかりが突出し、それが元で人を傷つけ、時に諍いすら起こす──


…だが、思う。
自分は剰りにも、人間の汚れた部分ばかりを見過ぎたのではないか。
凛のように、種族が違おうとも相手を深く思いやり、封じていたはずの自らの力さえをも、己の心の…
信念のままに使い、そういった心情を素直に見せる人間も居るという事実そのものを、否定してはいなかったか。

この場合、気負いやリスクは、明らかに凛の方に掛かってくる。
それでも凛は、それを承知でサリアの為に動こうとする。
ひいてはサリアの症状を案ずる、自分たちの心をも、救おうとする…!

「……」

フェンネルは憂いの瞳と共に、無意識に口元を引き結んだ。


これが、この世界の皇帝が認めた、人間の強さ。
そして、その後継の皇子が拘った“人間”そのものであると悟ったから。


…人の嫌な面ばかりを見せられた。
そしてそれが元で、人を嫌悪した。
それは確かであり、事実だ。
だが、凛を見ていれば、人間とは、そんな者ばかりでないことは明白。


「…人間だというだけで、一概に嫌悪感を見せていた俺は…愚かだった」

人間と結ばれた皇帝やレイヴァンは、そんなことはとうに気付いていたはずなのに。

皇帝の決定事項だからと。
友であり、仲間であるレイヴァンの純粋な優しさからなのだと。
…それだけが、二人が人間に拘る理由ではなかったはずなのに。

「!フェンネル…」

そしてそんなフェンネルの人間嫌いを、シンは良く知っていた。
故にフェンネルのこの発言は、それまで人間に対して、頑なな拒絶感しか見せなかった、彼のイメージを完全なまでに覆した。

そのフェンネルは、今、はっきりと凛を、精の黒瞑界の身内であると認めた。
それまでの自分の、人間に対する愚行を胸中で詫びながらも、その瞳は真剣に、しっかりと凛を捉える。

「…頼む、凛。その力を我々に…
いや、サリアを救う為に貸してくれ」
「!フェンネルさん…」

…以前に縋り触れた時には、あれほど強く人間を拒絶し、侮蔑にも近い嫌悪さえ見せていた彼が。
この瀬戸際の状況下で、その人間を心から認め、同時に“頼む”という発言を口にしている。

そしてそれは、ひいてはサリアに対して、この炎の力を発動しても構わないという、許可の意味合いも含めている…!

「…“凛”、俺からも頼む」

次にはシンが口を開いた。
その表情は、相変わらず力を放出し続けているだけに、緊迫感に加えて、若干の疲労を帯びたものでもあったが…
その瞳には、もはや種族という壁を取り払った、ある種の連帯感が見てとれる。

「種族なんて関係ない。俺たちもお前も、サリアを助けたいと思う気持ちは一緒だ…
そうだろう?」
「!…」

こうまで二人に信頼されて、凛は、二人の思いに涙が滲みそうになった。
…頭を左右に軽く振ることで、それを振り切る。
その一部始終を見ていたシンは、そんな凛の気持ちを思いやってか、先程よりも更に柔らかく告げた。

「力を…貸してくれるか?」

凛はそれに、はっきりと頷いてみせた。


「…はい!」
 
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