人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん

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名前の重さ

噂は、風よりも早く広がる。

誰が意図したわけでもない。
けれど学院という閉じた場所では、少しの出来事がすぐに意味を持ち、形を変えて伝わっていく。

「……レオン・フォン・ハインリヒ」

名前を呼ばれる回数が、増えた。

廊下で。
教室で。
食堂で。

以前は、好奇心や警戒を含んだ呼び方だった。
今は、探るような響きが混じっている。

昼休み、俺とアルトが並んで座っていると、知らない生徒が近づいてきた。

「同席しても?」

断る理由はない。

「どうぞ」

そう答えると、相手は少し安心したように息を吐いた。

「実技、見た」

短い言葉。

「……ありがとう」
「いや」

相手は首を振る。

「うちの家、補助魔法を重視してて」

「興味がある」

その言葉で、はっきり分かった。

――派閥だ。

王立学院には、明確な派閥がある。

王族中心。
軍事重視。
研究・魔法至上。
商業・補助系。

家の思想や立場で、自然と集まる。
俺は、どこにも属していない――はずだった。

でも。

「レオンは、どこにつくんだ?」

別の生徒が、遠慮がちに聞いてくる。

「……まだ、決めてない」

正直な答え。

すると、その生徒は少し困った顔をしてから言った。

「そっか」

「でも、声はかかると思う」
声をかけられる。

それはつまり、価値があると判断されたということだ。

気づいたとき、背中にうっすら汗が滲んだ。

放課後、アルトと中庭を歩く。

「……なんか、へんだな」

アルトが言う。

「うん」

「みんな、れおん、みてる」

「……うん」

否定できない。
「やだ?」

少し心配そうな声。

俺は、少し考えてから答えた。

「こわい」

「でも……にげたくは、ない」

アルトはそれを聞いて、少しだけ笑った。

「じゃあ、いい」

その理屈は、相変わらず単純で、ありがたい。

その日の夕方、俺は王子に呼ばれた。

今度は、以前よりも人目のある場所だった。
「最近、忙しそうだね」

軽い口調。

「……少し」

「噂は聞いている」

王子は俺を見下ろすでもなく、対等でもなく、
試すような距離で見ていた。

「派閥の話も、ね」

やはり、知っている。

「覚えておくといい」

王子は、ゆっくり言った。
「君は、どこに属するかで価値が決まる存在じゃない」

「だが、この国は、そういうふうには見ない」

忠告だ。

それとも、予告か。

「利用されるのが嫌なら」

一拍置いて。

「利用する側になる覚悟も、必要だ」

その言葉は、少しだけ冷たかった。

夜、公爵から手紙が届いた。

短い文章。
――学院内の動きは把握している
――無理に選ぶ必要はない
――選ばれること自体が、すでに力だ

読み終えて、静かに息を吐く。

俺は、まだ子供だ。

でも、もう「子供だから」で済まされない位置にいる。

アルトが、隣で言った。

「れおん」

「なに?」

「どこいっても、ぼく、となり」
即答だった。

その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。

学院は、優しくない。

でも、独りじゃない。

それだけで、十分だと思えた。
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