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第十章 月下美人
月下美人が作る時間
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次の日の朝、リゼットの悲鳴で皆は目を覚ました。
まずは、見張りについていたアースとエリクがやってきて、焚火の周辺を見た。しかし、どこを見ても何もない。
「リゼット、どうしたの? いきなり叫ぶからびっくりしたよ」
エリクが困ったような顔をすると、リゼットが泣きながら皆を叩き起こした。
「これが見えないの? 私、こんなところに寝ていたのよ! 皆も同じでしょ! ほら!」
リゼットは、そう言って自分の寝ていた地面を指さした。するとそこには白いものが見えていた。
「しゃれこうべよ!」
リゼットはそう言って、ナリアの陰に隠れた。彼女からすればナリアは最も信頼のおける避難場所だったからだ。そのナリアはリゼットを後ろに抱えたまま白い部分に触れた。
「大丈夫ですよ、リゼット。この家の住人は家が焼ける前に避難したようです」
「じゃあ、これは何なんですか? 白くて丸くて廃墟にあるって言ったらもう」
リゼットの慌て様に、その場にいたみんなが大笑いをした。
「よく触ってみてください、リゼット。これは、しゃれこうべなんかではありませんよ」
セリーヌが、そう言って白い何かの地面の周りを掘り始めた。リゼットは悲鳴を上げてナリアの後ろで震え始めた。
しかし、セリーヌが掘り出したそれを見て、突然震えるのをやめた。
出てきたのは、白く円い白磁の壺だったからだ。
「数万、といったところか」
白磁の壺を眺めて、クロヴィスが値踏みをする。それを見ていたリゼットはバツが悪そうにナリアの後ろからそろそろと出てきた。
すると、ナリアが不思議そうな顔をして壺を見るので、皆はそれに注目することになった。
「おかしいわ。この壺、かなり古いものなのに」
そう言いかけた時、アースがため息をついて、壺を眺めるエリクの後ろのほうに声をかけた。
「そろそろ出てきたらどうだ」
その言葉に、皆がびっくりしてエリクの後ろを見た。すると、そこには黒い髪を三つ編みにして前に垂らした女の子が一人、びっくりした顔をして立っていた。
「どうして分かったんですか? 気配を消していたのに」
「気配を消す必要があったのですか」
ナリアもため息をついて苦笑いをしている。
「まるで幽霊ね。それで、私たちに何の用なの?」
リゼットは、そう言いながら自分の体を自分で抱いていた。すると、リゼットより少し大きいくらいのその女の子は、後ろに隠していた鉢植えを皆の前に差し出した。
「月下美人か」
クロヴィスが驚いたように、それでも目を輝かせながらその鉢植えを見た。
「月下美人? すごい名前ね」
ジャンヌが問うと、クロヴィスは嬉しそうにその鉢植えの周りをぐるぐる回って観察した。
「この花は一年に一度、夜の一晩の間しか咲かないんだ。月下美人の名に恥じないきれいな花だ。もうつぼみができているな。今夜には咲くだろう」
そこまで言うと、クロヴィスは花を観察するのをやめた。
すると今度はエリクが出てきて、少女に質問をした。
「君の名前は? どこから来たの? どうしてこの花を?」
エリクは少女を質問攻めにしたが、少女はそれを気にせずに丁寧にその質問に答えていった。
「私はイェリン。ここから三十マイル先にある丘の上に住んでいます。この花は姉が好きな花で、ここから引っ越した時に忘れてきてしまったものなんです。風雪にさらされても、まだ生きていてくれたなんて、なんだか嬉しくて。この花に詳しい方がここにいてくださって、私も初めて姉が愛しているこの花のことを知りました」
話を聞いて、そこにいた全員がイェリンをじっと見た。貧しい娘には見えない。ここから三十マイルの距離をどうやってここまで来たのかは謎だ。この近くにフレデリク以外の馬は見当たらないし、旅装束でもない。
「ねえイェリン、君のことに関しては謎ばかりだ。聞きたいことが沢山あるよ。でもその前に、僕はこの花を今夜、見てみたい。三十マイルも移動させたら、この花は疲れてしまうよ。ね、クロヴィス、そうでしょ」
エリクはイェリンのことを置いても、月下美人を見てみたかった。そして、一番いい提案を家長であるクロヴィスに任せることにした。
クロヴィスは少し考えて、まず、イェリンにこう聞いた。
「イェリン、ここに野宿できるか?」
すると、彼女は少しためらいがちに皆を見ながら、頷いた。誰も怖い顔をしている人はいないが、それでもたくさんの人がいる。緊張していた。
「ならば話は早い」
イェリンが頷いたのを確認すると、クロヴィスは皆を見渡した。
「今夜はもう一度ここで野宿する。その間イェリンは俺たちにいろいろ話してくれれば助かる。話したくなかったり、事情があって話せなかったりするのなら仕方ないが。とにかくそうやって時間を潰してから、月下美人の開花を待つ。この花はほぼ一晩中咲いているから、残念な思いをしたくないなら、しおれてしまう朝まで起きていたほうがいい。俺たちにはいろいろな人たちに聞きたいことが沢山あるからな。ナリアさん、あなたや星の人のこと、アース、あんたの事情のことも含めてな」
クロヴィスに話を振られて、ナリアとアースはあさってのほうを向いてその場を逃れようとした。
「まあ、時間はたっぷりあるんだ」
ジャンヌが嬉しそうに加勢した。
「イェリンだけでなく、アースの旦那とナリアさんにも話してもらわなきゃね」
まずは、見張りについていたアースとエリクがやってきて、焚火の周辺を見た。しかし、どこを見ても何もない。
「リゼット、どうしたの? いきなり叫ぶからびっくりしたよ」
エリクが困ったような顔をすると、リゼットが泣きながら皆を叩き起こした。
「これが見えないの? 私、こんなところに寝ていたのよ! 皆も同じでしょ! ほら!」
リゼットは、そう言って自分の寝ていた地面を指さした。するとそこには白いものが見えていた。
「しゃれこうべよ!」
リゼットはそう言って、ナリアの陰に隠れた。彼女からすればナリアは最も信頼のおける避難場所だったからだ。そのナリアはリゼットを後ろに抱えたまま白い部分に触れた。
「大丈夫ですよ、リゼット。この家の住人は家が焼ける前に避難したようです」
「じゃあ、これは何なんですか? 白くて丸くて廃墟にあるって言ったらもう」
リゼットの慌て様に、その場にいたみんなが大笑いをした。
「よく触ってみてください、リゼット。これは、しゃれこうべなんかではありませんよ」
セリーヌが、そう言って白い何かの地面の周りを掘り始めた。リゼットは悲鳴を上げてナリアの後ろで震え始めた。
しかし、セリーヌが掘り出したそれを見て、突然震えるのをやめた。
出てきたのは、白く円い白磁の壺だったからだ。
「数万、といったところか」
白磁の壺を眺めて、クロヴィスが値踏みをする。それを見ていたリゼットはバツが悪そうにナリアの後ろからそろそろと出てきた。
すると、ナリアが不思議そうな顔をして壺を見るので、皆はそれに注目することになった。
「おかしいわ。この壺、かなり古いものなのに」
そう言いかけた時、アースがため息をついて、壺を眺めるエリクの後ろのほうに声をかけた。
「そろそろ出てきたらどうだ」
その言葉に、皆がびっくりしてエリクの後ろを見た。すると、そこには黒い髪を三つ編みにして前に垂らした女の子が一人、びっくりした顔をして立っていた。
「どうして分かったんですか? 気配を消していたのに」
「気配を消す必要があったのですか」
ナリアもため息をついて苦笑いをしている。
「まるで幽霊ね。それで、私たちに何の用なの?」
リゼットは、そう言いながら自分の体を自分で抱いていた。すると、リゼットより少し大きいくらいのその女の子は、後ろに隠していた鉢植えを皆の前に差し出した。
「月下美人か」
クロヴィスが驚いたように、それでも目を輝かせながらその鉢植えを見た。
「月下美人? すごい名前ね」
ジャンヌが問うと、クロヴィスは嬉しそうにその鉢植えの周りをぐるぐる回って観察した。
「この花は一年に一度、夜の一晩の間しか咲かないんだ。月下美人の名に恥じないきれいな花だ。もうつぼみができているな。今夜には咲くだろう」
そこまで言うと、クロヴィスは花を観察するのをやめた。
すると今度はエリクが出てきて、少女に質問をした。
「君の名前は? どこから来たの? どうしてこの花を?」
エリクは少女を質問攻めにしたが、少女はそれを気にせずに丁寧にその質問に答えていった。
「私はイェリン。ここから三十マイル先にある丘の上に住んでいます。この花は姉が好きな花で、ここから引っ越した時に忘れてきてしまったものなんです。風雪にさらされても、まだ生きていてくれたなんて、なんだか嬉しくて。この花に詳しい方がここにいてくださって、私も初めて姉が愛しているこの花のことを知りました」
話を聞いて、そこにいた全員がイェリンをじっと見た。貧しい娘には見えない。ここから三十マイルの距離をどうやってここまで来たのかは謎だ。この近くにフレデリク以外の馬は見当たらないし、旅装束でもない。
「ねえイェリン、君のことに関しては謎ばかりだ。聞きたいことが沢山あるよ。でもその前に、僕はこの花を今夜、見てみたい。三十マイルも移動させたら、この花は疲れてしまうよ。ね、クロヴィス、そうでしょ」
エリクはイェリンのことを置いても、月下美人を見てみたかった。そして、一番いい提案を家長であるクロヴィスに任せることにした。
クロヴィスは少し考えて、まず、イェリンにこう聞いた。
「イェリン、ここに野宿できるか?」
すると、彼女は少しためらいがちに皆を見ながら、頷いた。誰も怖い顔をしている人はいないが、それでもたくさんの人がいる。緊張していた。
「ならば話は早い」
イェリンが頷いたのを確認すると、クロヴィスは皆を見渡した。
「今夜はもう一度ここで野宿する。その間イェリンは俺たちにいろいろ話してくれれば助かる。話したくなかったり、事情があって話せなかったりするのなら仕方ないが。とにかくそうやって時間を潰してから、月下美人の開花を待つ。この花はほぼ一晩中咲いているから、残念な思いをしたくないなら、しおれてしまう朝まで起きていたほうがいい。俺たちにはいろいろな人たちに聞きたいことが沢山あるからな。ナリアさん、あなたや星の人のこと、アース、あんたの事情のことも含めてな」
クロヴィスに話を振られて、ナリアとアースはあさってのほうを向いてその場を逃れようとした。
「まあ、時間はたっぷりあるんだ」
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「イェリンだけでなく、アースの旦那とナリアさんにも話してもらわなきゃね」
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