妹の妹による妹のためのハーレム計画

相上和音

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第28話 話し合い

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 翌日の日曜日の朝。

 俺は薄暗い自室で、電気もつけずに生の食パンを食べていた。
 雨の音。

 食欲が湧かず、三口囓っただけで後は残した。
 のそりと立ち上がり身支度を整える。

 頭がぼうっとして、いやに冴えない。
 完全に寝不足だった。
 それに少し熱っぽい。

 昨日はうまく寝付けなかった。
 優実のことが気になったのもあるし、乱闘の興奮が抜けきっていなかったせいもある。

 ベッドの上で輾転反側てんてんはんそくとし、やがて立ち上がり本棚の後ろからDVDのメディアケースを引っ張り出した。
 こつこつと集めたAVが三十枚ほど収められている。

 その中から『強姦もの』を探して全て叩き割った。
 それをしたところでなにも解決しないことはわかっていた。
 ただの八つ当たりだ。外が仄白み始めたころに、ようやく浅い眠りにつくことができた。

 部屋を出ると、妹はすでに身支度を済ませていて、廊下で俺を待っていた。
 暗い表情が、雨音のせいで余計陰鬱いんうつなもののように俺の目に映る。
 特に言葉を交わすこともなく、俺たちは家を出た。

 徒歩と電車で三十分ほどの道程だった。
 駅からの道順は今朝調べたばかりだから頭に入っている。
 アポは妹に取ってもらっていた。
 相変わらず雨は降り続いていて、日曜日の午前中だというのに、辺りは薄暗く人の気配も希薄だった。

「あそこを曲がった先だな」

 目の前の丁字路を指さしながら俺は言った。
 高い石塀の向こうに古い日本家屋の瓦屋根と立派な松の木が見えた。
 その角を左に曲がと、五メートルほど先に傘をさした金髪の少女が佇んでいた。

「優実ちゃん、久しぶり」と妹が声をかけた。
「ひ、久しぶり」

 優実はぎこちなく答え、視線を地面に落とした。
 昔から人と目を合わせるのが苦手な子だったな、と思い出す。
 気弱そうな印象も昔と変わっていない。
 やはり、この子は優実なのだ。

「なんだかイメージ変わったね。あ、ピアス開けたんだ」
「う、うん」
「自分で?」
「ううん。友達に、やってもらった」

 自然と優実の耳に視線が行く。
 そこに穴が開いていることを認める前に、優実は髪の下に耳を隠してしまった。

「あ、あの。昨日は、ありがとうございました」

 俺に向き直り、ぺこりと頭を下げる。
 そういう律儀なところも昔から変わっていなかった。
 優実は顔をあげ、痛ましげな表情をした。

「……その傷」

 俺は昨日よりも腫れが増した頬に触れた。

「大したことないよ」

 無理に笑おうとして、痛みに引きつる。
 それを誤魔化すために俺は質問を投げかけた。

「とりあえず、この辺りにファミレスとかあるかな。喫茶店でもいいけど」
「ファミレス、ですか」
「雨の中で立ち話もなんだし」
「よ、よかったら、家に」
「いいの?」

 門前に立っていたのは家に入れたくない意思表示だと思っていたけれど、どうやらただ俺たちが迷わないようにそうしてくれていたらしい。

「はい。両親は出かけてますし」

 お言葉に甘えてお邪魔する。
 一般的な一軒家だった。
 大きくも小さくもない、と感じるのは俺の家(正確には俺の親の家だけど)と同じくらいの大きさだからだろう。
 優実は二階にある自室に俺たちを招いてくれた。

 全体的に白っぽく、ぽつぽつとピンク色の小物が置かれていた。
 ぬいぐるみもいくつか目につく。
 少女趣味とまではいかないけれど、かなり幼い印象の部屋だった。
 ちょうど小学生のころの妹の部屋がこんな感じだったなと俺は思った。

 優実は座布団を三つ用意してくれていた。
 一つは部屋に合うフリルのついた可愛らしいもので、座布団と言うよりクッションと言った方が正しいかもしれない。
 残りの二つは地味な色合いのもので、おそらく来客用のものをどこかから引っ張り出してきたのだろう。

 優実はしばらく迷ってから、フリルのついた可愛らしいクッションを俺に差し出してきた。
 年長として敬ってくれている気持ちは伝わってきたけれど、正直ありがた迷惑だった。
 普通の座布団の方がいい。
 とはいえ無下にもできず、クッションを受け取りその上に腰を据えた。
 妹が隣に、優実が向かいに腰を下ろした。

「さっそくで悪いんだけど、昨日の話を聞きたくて」と俺は切り出した。
「は、はい」

 まず、確認したいことがあった。

「昨日の奴らは、知り合いなんだよな」

 優実の表情が強張る。ややあってから、こくりと頷いた。

「学校の、先輩です」

 優実は妹と同じ二年生だから、連中は三年なのだろう。

「名前は?」
「シマナカ先輩、って言います。山に鳥の方の嶋に大中小の中です」

 嶋中か。

「あの一番体格のいい奴だよな」
「はい」
「どんなやつなの」
「その、私の学校の、番長さんです」
「……番長ねえ」

 時代錯誤に思えるけれど、俺の中学にもそう呼ばれていた奴はいた。
 腕っぷし自慢はどこにでも、どの時代にでもいるものだ。

「もともと野球部だったらしいんですけど、去年の夏に、上級生を殴って退部になったらしくて。そのころから荒れだしたって聞いています」

 誰に聞いたのだろう。
 嶋中からだろうか。
 その手の人種が武勇伝として語るには、おあつらえ向きのエピソードだ。

「それで、その、この前、嶋中先輩に体育館の裏に呼び出されて……」

 優実は言い淀んだ。
 昨日のこともあり嫌な予感がしたけれど、どうやら考えすぎだったようだ。

「そこで、告白されたんです」
「告白?」
「はい。付き合ってほしいって」

 俺は拍子抜けした。
 けれど優実が深刻そうな顔をしていたから、態度に出ないように努める。
 俺の代わりに妹が訊いた。

「それで、優実ちゃんはどうしたの」
「……断りました」

 俺がいるからか、優実は妹にも丁寧に返事をした。

「そしたら、嶋中先輩が激昂して、『俺をからかったのか!』って」

 優実は背中を丸めて目に涙を浮かべた。

「……昨日も、突然呼び出されて、そしたら、他にも大勢いて……」
「なにか恨みを買うようなことしたの」

 妹の問いに優実は首を振る。
 俺は言った。

「男子中学生なんて、消しゴム拾ってもらっただけで『もしかして俺のこと好きなんじゃ』って勘違いするような馬鹿な生き物だしな。それで逆恨みしたんだろ」
「で、でも、そんなことだけで」と妹が言う。
「ああいう連中の頭には、脳ミソの代わりに海綿体が詰まってんだよ」

 だから、すぐに頭に血が上るしセックスのことしか考えられないし、なにより想像を絶するほど馬鹿なのだ。

「カイメンタイ?」

 問いかけてくる妹を無視して優実に尋ねた。

「他の連中は?」
「みんな、三年生です。名前までは……」

 不意に、扉が開く音がした。
 振り返ったが、優実の部屋の扉は閉まったままだ。
 足音が部屋の前を通過する。

 両親は出かけていると言っていたから兄弟か、あるいは姉妹だろう。
 足音がいやにしっかりとしていたから、たぶん祖父母ではないと感じた。

 なんとなく三人とも黙り、妙な間が生まれた。
 足音が階段を下り聞こえなくなってから、妹がためらいがちに口を開いた。

「警察には、言わないの」
「……警察に言ったら、家族に知られますよね」
「そりゃな」と俺が答えた。

 優実の肩が震える。

「……それだけは、嫌です……。家族にも、友達にも、誰にも知られたくない……」

 ざあっと雨が窓を打った。
 どうやら風が出てきたらしい。
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