押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery

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過去の再会

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やってきたのは、凰条さまの行きつけのカフェであった。

静かなピアノの旋律が、柔らかく耳をくすぐる。

澄んだ光が差し込む窓際の席には磨き上げられた大理石のテーブルがあり、端正な白磁のティーカップが二つ並べられていた。

どこから話しをすべきだろうか。
凰条さんは騙されたと知ったら、不快に思うかもしれない。

困っていると、凰条さんは静かに尋ねた。

「キミたちは双子か?」

「はい……一卵性の双子で、私の名前は澪といいます」

控え目に伝えると、凰条さんは持っていたカップを置いてから私に伝えた。

「そうだったのか……名前を間違えられたこと、不快だっただろう?」

「いえ、そんな……元々私たちが悪いんですから……」

私はそこまで伝えると、なぜこうなってしまったのか、経緯を全て伝えた。

「そうか、御堂家の娘が双子だということを今初めて知った。キミは押し付けられたのだな……」

「いえ、違います。凰条さま……あなたが見つけたのは零お姉様の方だったのに、私が来てしまい申し訳ありませんでした」

深く頭を下げる。

零お姉様と向き合いたいと言われてしまうだろうか。
それとも縁談自体が破談になるだろうか。

凰条さまは優秀な零お姉さまを見つけて声をかけたんだ。

そもそも私が今、ここにいることが間違いなんだ。

私がうつむくと、凰条さまは柔らかな口調で話し出した。


「俺が御堂家に声をかけたのは3年前のピアノの音色を聞いてからだった」

「ピアノの音色……?」

「ああ、社交パーティの際に演奏されたピアノの音色が柔らかくて、そして弾いている彼女の顔がとても嬉しそう
で……魅了されたよ。名は御堂零として紹介されていた。でもそこでピアノを弾いていたのはキミではないかな?」

「どう、して……」

私は目が潤みそうになるのを必死に答えた。

3年前、かつて一度だけ、社交パーティに参加してピアノをみんなの前で弾いたことがある。

それは、お姉様がピアノを弾くことができなかったから。
お姉様の代わりとしてピアノの演奏を披露して来いとお父様に言われたからであった。

 
『次の日曜日、限られた人間だけが集まる社交パーティーがある。澪、その日はお前が来なさい』
『えっ』

突然、お父様にそう言われたとき、私は驚きで思わず息を呑んだ。

私も、社交パーティーに?

これまで、一度たりともパーティに参加することを許されたことはなかった。

お姉様は社交の場にふさわしい人間だけれど、私は人前に姿を見せるべきではないと言われていたし、いつも家で留守番をしなければならなかったから。

もしかして、お父様は私にもチャンスを与えてくれようとしてる……?

けれど、その淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

「先方から余興としてグランドピアノを演奏するように言われた。お前しか引けないから澪、お前が零として弾きなさい」

「私が零お姉様の代わり……?」

「仕方ないだろう、零は弾けないのだから」

ショックだった。

せめて私の名前で披露出来たら……。

でもそんなことを許されるはずはなかった。

 私はお姉様の代わりにしかすぎない。

「ピアノなんて地味でつまらないわよね?それなのになぜかああいう場は求められるから参っちゃう……まっ、良かったわね。出かけられて。私の代わりなんだからしっかりね?」

そして日曜日。
私は御堂零として名前を紹介され、多くの人の前でピアノを弾くことになった。

ピアノを弾いている時間はとても楽しかった。
ピアノは大好きで家にもあるけれど、家の中ではピアノを弾くことを禁じられていた。

うるさいからって。

こんなにステキな音色なのに……。

演奏し終えると、多くの人から拍手をもらい私はみんなの前でお辞儀をした。

一瞬だけ認められたような気分だった。

しかし。

「御堂零さんでした」

すぐに司会の人の言葉でその期待は打ち砕かれた。

私は父の命令ですぐに大勢いる人達の前から姿を消した。

くれぐれも無駄なことはしないように、ピアノを弾き終わったらすぐに車に戻るようにと言われていたからだ。

これでいい。
だって久しぶりに多くの人がいる場所に行けて楽しかった。

ピアノを堂々と弾くことが出来たのも、あの家から出たからだもの。

会場を出た外の庭に咲いている花を見つめて立ち尽くしていた時、後ろから誰かに声をかけられた。

「素晴らしい演奏だった」

低く、落ち着いた声が背後から届く。
振り返ると、そこにはカッコイイ男性が立っていた。

「……ありがとう、ございます」

こういうパーティは存在感のあるステキな人が多いのだろう。

ぎこちなくそう返すと、その人はゆっくりと歩み寄ってきていった。

「食事はしないのか?ずっと隅っこにいて目立たないようにしていただろう?まるでピアノだけを弾きに来たみたいだった」

「……っ!」

その時、バレてしまったのではないかと私の心臓が、大きく跳ねた。

何か誤魔化そうとした次の瞬間。

「お車へ」

送迎の椎名さんに呼び止められた。

「すみません、失礼します」

私は深く頭を下げ、足早にその場を離れた。



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