押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery

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家族の愛

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ダイニングルームの扉が開くと、そこには優雅な食卓が広がっていた。

白いテーブルクロスの上に並べられた、美しく盛り付けられた料理の数々。クリスタルのシャンデリアが穏やかに光を落とし、銀のカトラリーが上品に並べられている。

す、すごい……。

まるで格式のある晩餐会のような光景だった。

「澪さん、どうぞこちらへ。今日はあなたが主役よ」

凰条さんのお母様は優しく微笑みながら席を示す。

私は戸惑いながらも、案内された席にそっと腰を下ろした。

お父様とお母様と一真さん。
家族揃っての食事を私は経験することがなかった。

食卓を囲ってみんなで食事をするなんて……温かい。

「遠慮なく食べてね?」
「いただきます……」

目の前には、見たこともないほど美しく飾られた食事。
シェフの手によるフレンチのフルコースのようで、どの皿も芸術品のように洗練されていた。

「澪さん、お口に合うかしら?」
「は、はい……すごく美味しいです」

思わず本音が漏れる。
すると、一真さんのお父様が朗らかに笑った。

「気負わずに、好きなように食べてくれていいんだよ」

つくづく思う。
私が、こんな場所にいてもいいものかと。

不安が入り混じる中、ナイフとフォークを手に取り、ローストビーフを一口サイズに切った。

「前から思っていたけれど、澪さんはとても所作がキレイね」
「そ、そんなことはありません……」

所作について褒められたことはなかった。
誰かの前で食事をする機会を作ってもらえなかったし、みっともないから前には出ないようにと言われていたから。

するとお母様が手に持っていたフォークをおいた。

「澪さん。あなたの境遇は一真から聞いたわ……とてもひどい扱いを受けてきたのね」

私はきゅっと唇を噛み締める。
手に持っていたフォークをゆっくりと置いた。

思い出すだけで、胸が痛む。

暗い部屋、冷たい視線、嘲笑。
私の存在は、いつもそこにはなかった。

すると今度は一真さんのお父様が言った。

「澪さんのことは私たちたちもサポートさせて欲しい。キミが安心してこれからの人生を送れるように頼ってくれたら嬉しい」

「頼る、なんて……」

どうして凰条家のみなさんはこんなに優しいんだろう。

きっと愛に溢れた家庭だったんだろう。

それがすぐに分かるくらい優しさと朗らかさを持っていて、ここは自分の家ではないのにほっと出来た。

「澪、ここは今日からキミの家だ。キミのことを脅かす存在があるのなら、俺も父さんも母さんも全力で戦うつもりだ」

胸の奥がじんと熱くなる。

「ありがとう、ございます……」

それから食事の間は色んな話をした。

お話をしながら好きなものの話をしたり、笑い合ったり、こんなに温かな食卓は初めてだった。

毎日がこんな食卓だったら、幸せで溢れているのだろう。

そしてこれから温かな家族を一真さんと作っていけるんだと思うと、私は新しい一歩を踏み出せた気がした。
 
それからお風呂を借りて、身支度を整えたら私は自分の部屋に戻った。

ふかふかのベッドもあって1人きりの部屋。
こんなに不自由なない部屋を私だけで使っていいのかしら……?

そう思っていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。

私ははいと返事をしながらドアを開けると、目の前にいたのは一真さんだった。

「寝る前に少しだけ話が出来ないかと思ってな」
「嬉しいです……」

私も一真さんとしゃべりたいって思っていたから。

私たちはベッドに腰を下ろしながら話すことにした。

「一真さん……今日は本当にありがとうございました!あの家から連れだしてくれて……今日、はじめて食事が楽しいと思えました」 

家での食事といえば、残った料理を一人、物置で食べることだけだった。
家族と食卓を囲むことも、会話を交わすこともなかった。

こうやって、誰かと一緒に食事をするのって……こんなに楽しいのだと知ることができた。

言葉にできないほどの温かさに、胸がいっぱいになった。

 「それなら良かったよ。これからは何でも話してくれ。父さんも母さんもキミのことを全力でサポートするつもりでいる。だから、たくさん頼ってほしい」

「はい……」

「まぁ、とはいえ長い間両親と同居するのも疲れるだろう。すぐに二人の家を見つけるから安心して欲しい」

「いえ、そんな……」

ありがたすぎるくらいだ。

でもいいのかな。
こんなに一真さんに頼りっぱなしで……。

私という人間が幸せになってしまっていいんだろうか。
そう思ってうつむくと、一真さんは尋ねた。

「不安か?」

「私……ずっと家におり掃除だけをしてきました。何か突出した才能があるわけでもないですし、コミュニケーションも、それから学もお姉様より劣っているのは事実です……」

一真さんの隣に立つということは、彼にとってふさわしい人物でいなくてはいけない。

煌びやかなパーティーに招かれ、名だたる人物たちに囲まれる。

そこではただ微笑んでいるだけでは通用しない。場の空気を読む力、瞬時に相手の立場を見抜く観察眼、そして洗練されたコミュニケーション能力が必要になるだろう。

表に出れば記者にカメラを向けられ、食事一つとっても所作が問われる。
そして服装の選び方までもが、常に「凰条家の品位」として測られる。

周囲の視線は、想像以上に厳しい。

私のふるまい一つで、凰条家の品位を落としてしまうことにもなりかねない。

「なぜキミはそんなに自分の姉と比較するんだ。人間なんだから得意不得意があるのは当然だろう?キミはあの姉様ではないのだから比べる必要はない。それに……俺が選んだのは、キミだ」

まっすぐにこちらを見つめる一真さん。

「キミは自信がないのかもしれないが、俺にとってキミが劣っているものなんてないと思ってる。これからの不安があのなら、それは一緒に取り払っていけばいい」

「一真さん……」

じわりと目が潤んだ。

なんだか涙もろくなってしまった。

この世にこんなにステキな人がいるなんて、こんな優しい人と出会わせてくれたなんて……私は神様に感謝しなければいけない。

「一真さん、ありがとうございます。足りないところは努力いたします。あなたの隣に並んでも恥ずかしくない女性になります」

私はそう告げて笑った。

一真さんが大丈夫だと言ってくれるなら、努力することなんて造作もない。

私にできることは全部やる。
そしてみなに認めてもらえるような妻になるんだ──。



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