17 / 43
一真さんのお家
しおりを挟む車の窓から流れる景色をぼんやりと眺めながら、私はまだ信じられない思いでいた。
自分から御堂家に別れを告げた。
もうあの場所に戻ることは二度とないのだと実感した。
すると隣に座っていた一真さんは静かにたずねた。
「その頬はどうしたんだ?」
「これはえっと……」
お姉様に引っ掻かれたところだった。
でも全てを説明できなくて、言葉を濁す。
それで全てを悟ったのだろう。
一真さんは後悔を滲ませながら言った。
「もっと早く俺が来るべきだった」
「いえ、そんなことないです……今日来てくれた時、私も幸せになっていいんだってすごく嬉しかった」
「当たり前だ。誰にだって幸せになる権利がある」
「一真さん……」
「俺と共に幸せになってほしい……」
「ありがとうございます……」
一真さんは私を安心させるように手を優しく握ってくれた。
「今日は俺の家に泊まるといい」
「……本当に、いいんでしょうか?」
私の問いに、一真さんが穏やかに微笑んだ。
「当然だろう。むしろいてくれ。母さんも父さんもあれ以来キミに会いたがってる」
嬉しいな……。
彼のその言葉が、胸の奥にじんと染み込んでいく。
車はやがて、重厚な門の前で止まった。
「着いたよ」
凰条さんの言葉に促され、私はゆっくりと外に出る。
目の前に広がるのは、荘厳なお屋敷であった。
長い車寄せを抜けると、石畳のアプローチが続き、端正に整えられた庭園が広がっている。
敷地内には噴水や彫刻が点在し、どこを見ても美しく調和が取れていた。
そして玄関の扉が開くと、中から一真さんのお父様とお母様が揃って出てきた。
「まあ、澪さん……あの日ぶりね。ずっとお会いしたかったのよ」
優しく微笑む女性。
上品なグレーのワンピースを纏ったお母様は、すぐに私の手を取ってくれた。
「よくきてくれたな、澪さん。こんなところで立ち話もなんだから中へ」
一真さんのお父様も優しい笑みを浮かべると、私を家の中へと案内してくれた。
凰条家の屋敷は、格式と洗練を兼ね備えた壮麗な家だった。
天井の高いエントランスホールには、柔らかい光を放つライトが吊るされ、大理石の床には細やかな装飾が施されている。
廊下は広く、壁には格式ある絵画や調度品がさりげなく飾られている。
屋敷の中は、広々としているのに、どこか温かい空気に満ちていた。
「澪さん、お部屋はここを使って。それからお洋服も全部準備してあるから……」
「ありがとうございます……」
私……こんなに優しくしてもらっていいのかな。
「澪」
すると一真さんが私を呼ぶ。
「俺たちの暮らす家が出来るまではここにいてもらっていい。父さんや母さんのことも家族のように頼って欲しい」
「一真さん……」
その言葉を聞いて、お父様もお母様も優しい笑顔を浮かべてくれる。
なんて優しいんだろう……。
こんなに温かい場所があるなんて。
家族というものがこんなに温かいものだとは知らなかった。
73
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる