押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery

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愛おしい人

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そしてその翌日。
今日はお父様の命令で書類の分別を行なっていた時、お手伝いのめぐさんが慌てたように言った。

「旦那さま、凰条さまがいらっしゃっています」

えっ。
一真さん……?

私はその言葉に顔をあげた。
胸が大きく跳ねた。

会いたい……。
一真さんに会いたい……。
立ち上がろうとした、そのときだった。

「澪を物置に隠せ」

お父様の冷たい声が響き渡った。

「はい」

すると。

「……っ!」

お母様に腕を、強い力で掴まれる。

「お、お母様……」
「こっちに来なさい!」

強く腕を引かれる。
抵抗する間もなく、私は母に引きずられ物置に放り込まれた。

「きゃっ……!」

暗い空間に押し込まれ、乾いた音を立てて扉が閉じられる。
私は慌てて扉を叩いた。

「お母様! 開けてください!お願いします!」

ドンドンと叩くが扉は開かない。

「静かにしてな!今あんたに騒がれたら迷惑なんだよ」
「う……っ」

涙がにじむ。

一真さん……会いたい。
一目だけでも一真さんの顔を見たい。

一真さんは私を好きじゃなくても、見るだけ……見るだけでいいから。

しかし願いは虚しくお母様の足跡は遠ざかっていった。

真っ暗な部屋にひとりきり。
どうしてこんな目に遭わないといけないのだろう。

誰かに嫌がらせをしたり、悪い口を叩いたりしたことはなかったのに……。

ぽたりと涙を流した時、声が聞こえてきた。

「まあ、凰条様!ビックリしましたわ、突然家にいらっしゃるなんて」
「突然申し訳ありません。どうしても直接お話ししたいことがありまして……」

一真さんの声だ……。

「言って下さったら、こちらから出向きましたのに」
「いえ、それでは意味がない」

「零のことですよね。今あいにく零は外出をしておりまして……ちょうど凰条さまと並ぶのに似合うドレスを選びたいって買い物に行ってるんですよ。もう少しで戻ってきますから」

「いえ」

一真さんの遮るような声。

「澪さんに会わせていただきたい」

私は彼の言葉を聞いた瞬間、顔をあげた。

──ドキン。

一真、さん……?

 「澪は……いませんよ。どこに行ったのかしら?外かもしれませんね。あの子のことはよく分かりませんわ」

私はここにいる。

一真さんに会いたいの。
私は物置の扉をドンドンと叩いた。

しかし、外の音が聞こえるはずもない。
すると、お父様の声が聞こえてきた。

「澪は、勝手な行動をよくしますから。零に今、連絡を入れました。すぐにやってくるでしょう。さあ、凰条さまこちらでお茶でも飲んでいってください」

しかし、一真さんは見逃さないとでも言いたげな厳しい声で再度問いかけた。

「澪はどこにいますか?」
「そ、それは……」

そこまで言うと、お母様は観念したかのように告げた。

「凰条さま、騙していたことは謝ります。あの日、零は大事な予定があったのです。それで澪を代理で行かせただけです……でも澪は凰条様に似合うような女性じゃございません。そういうのさ、うちの零の方が適任ですから、どうか澪のことはお忘れください」

「忘れる?」

一真さんの声が、わずかに低くなった。

「私は澪さんでなければ結婚はしません」
「なっ……」

お父様とお母様が声を詰まらせる。
それだけで、まるで部屋の空気が変わるのを感じた。

「どう、して……」

「簡単な話です。私が気に入った女性が澪さんであった。あなたたちはどうやら澪さんの存在をずっと蔑ろにしていたようですね」

彼の声は決して荒げられることはなく、むしろ品があり、落ち着いている。
だが、その声音の奥にある圧力は、確実に御堂家の空気を支配していた。

「……何のことかしら」

「そうだ!それは誰が言ったんだ!別に蔑ろにしてたわけじゃ……」

父が何か言い返そうとしたが、一真さんはそれを許さなかった。

「証拠は全て揃っています。ここに来るまでに全て調べました。それでもこれ以上、彼女の尊厳を踏みにじるというのであれば……」

その声がより低く、冷たくなる。

「彼女が潰れる前に、私があなた方の権力を潰しましょうか?」

凍りつくような静寂が、部屋の中を満たした。

お父様もお母様も、何も言えない。
だって凰条家が本気になったらうちはすぐに潰されてしまう。

それぐらい権力の違いがあるから。

「……っ」

何も言えなくなったところで、一真さんはめぐさんに声をかけた。

「澪の場所を教えてくださいますか?」

尋ねられためぐさんはたじろぎながらも「はい」と返事をするしかなかった。

コツコツと足音が近づいてくる。
私は倉庫の中で、息を呑んだ。

一真さん……一真さんが来てくれるの?
だとしたら、顔を見たい。

会いたい。
私のためにここまでしてくれる人なんて、今後一切現れることはないだろう。

彼が好きだ……。
その気持ちを私も伝えたい。

そう思った瞬間、扉の隙間から、わずかに光が差し込んでいた。

ゆっくりと扉が開き、小さな隙間から漏れる光が、かすかに床を照らしている。

「一真、さん……」

名前を呼ぶと目の前には一真さんの姿があった。

「澪、遅くなってすまなかった」

胸の奥がじんと熱くなる。

ああ、本当に来てくれた。
この人が私を救い出してくれたんだ……。

彼がこっちに向かって手を差し伸べる。

「さあ……一緒に行こう」

迷いのない言葉に、私は震える指先でその手を掴んだ。

温かくて、大きな手。
一真さんは私のこと、嫌いになったわけじゃなかったんだ。

「はい……!」

私は涙を流しながら、頷いた。

ゆっくりと歩き出す。
この屋敷に閉じ込められていた日々に、背を向けるように。

そして一真さんの車に乗り込もうとした時、お父様とお母様が出てきてこっちを睨みつけた。

「澪……育ててやった恩を忘れたのかい」

ギリっと歯を食いしばっているお母様。

「こんなこと、許されることじゃない!凰条様だってバカじゃない。お前の愚かさに必ず気づくはずだ」

苦しい言葉も今は飲み込めた。
だって、隣には彼がいるから。

「澪、乗ろう」
「はい」

私は振り返りお母様とお父様にしっかりと告げた。

「今まで育てて下さってありがとうございます。私も……幸せになれる人生を歩んで行きたい……なので私はこの家を出ていきます」

深く頭を下げてから、私は一真さんの車に乗り込んだ。

はじめてしっかりと口に出来た気がする。

“幸せになりたい”と。
諦めていた私に希望をくれた人──。

それが一真さんだ。

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