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キレイな夜空
しおりを挟むそれから夜。
食事を終えてしばらく経った頃、一真さんは私に言った。
「気晴らしに外の空気を吸いに行かないか」
きっと私のことを考えて提案してくれたんだろう。
「はい……」
私は返事をして、一真さんと外に出ることにした。
一真さんは私を連れ出すと車に乗せた。
今日は運転手さんはいなくて一真さんとふたりきりの時間。
どこに行くんだろう?
そんなことを考えながらも、目的地につくまでの時間はとても楽しかった。
しばらく走らせると、車は緑が広がる郊外に止まった。
「すごい、都会にもこんな場所があるんですね……」
「ああ、偶然見つけた穴場なんだ。この間見つけた時、澪と見たいと思って」
私のこと、思い出してくれたんだ……。
嬉しいな。
「降りようか」
そう言って、一真さんが先に車を降りると、助手席のドアを開け、私に手を差し出してくれた。
私はそっと彼の手を握り、車から降り立つ。
外は周りに人がおらず、静かでとても空気が良かった。
「いい空気ですね……」
ふたりきりの空間に私はほっとした。
今日は色々あった。
不安になってしまうこともあったけど、ぼーっと周りの景色を見ていると、今日あったことを忘れられる気がする。
遠くのビルを眺めてほっと心を落ちつかせていると。
「上を見てごらん」
「えっ」
一真さんに言われるがまま空を眺める。
すると星空が、まるで宝石を散りばめたように輝いていた。
「すごい……」
息を呑む。
こんなにキレイな景色が広がっているなんて――。
一真さんが、私の隣に立つ。
「ここは星がよく見えるんだ」
「ステキ……」
自然と頬が緩む。
こんなに綺麗な星空、初めて見た。
今までずっと外に出ることを禁じられていたから、ステキな場所があることも知らない。
見るものが全部新しくて釘付けになってしまった。
「一真さんはどんな時にここに来るんですか?」
「仕事で行き詰まった時が多いな。悩んでここにやってくると、帰る頃にはちっぽけな悩みだったと思うことができるんだ」
「そんなステキな場所に私も連れてきて下さったんですね……」
「キミと一緒に見たら、悩んでいたことを忘れて帰りそうだ」
一真さんの冗談にくすりと笑う。
するとふと、強い風が私たちの間を吹き抜けた。
「寒くないか?」
気遣うような声に、私は小さく首を振る。
本当は少し寒いけれど、もう少しここにいたかった。
「でも、風邪を引かれたら困るな……」
そう言った瞬間、ふわりと温かなものが肩にかかった。
「……!」
それは一真さんのジャケットだった。
「い、いけません。それじゃあ一真さんが風邪をひいてしまいます」
「俺は大丈夫だ。寒さには強い方だからな」
低く、優しい声が耳に届く。
「ありがとう……ございます」
お礼を告げたら、彼の手がそっと私の肩にまわった。
温もりが、じんわりと伝わる。
一真さんに触れられている……。
それが恥ずかしくて、私は表情を見られないように小さくうつむいた。
「嫌だったら、遠慮なく言ってくれ。キミは気持ちを我慢しようとする節があるからな。無理はさせたくないんだ」
「いえ、嫌とかじゃなくて……その、不安なんです」
肩にかかったジャケットをぎゅっと握った。
「私はその、経験も……無いですし……本当に一真さんにふさわしい女性になれるでしょうか?」
不安を口にすると一真さんは優しい口調で告げる。
「俺にふさわしい相手になろうとする必要はないよ」
そういいながらさらりと私の髪を撫でる。
「それに……知らないことは俺と知っていけばいい。他の男と知る必要はないだろう?」
──ドキン。
いつも包み込むような言葉をかけてくれる優しい一真さん。
そんな一真さんに私も触れたいと思ってしまった。
そっと身を寄せて彼に抱きつく。
抱きつく方法とか順序とか、そんなのは分からない。
勢いで抱きつくと、彼は声をあげた。
「おっと……」
「す、すみません……!もっと一真さんの近くにいきたくて私……勢いで!」
「参ったな……まさかキミから近づいてくれるとは思わなかった」
一真さんは今、どんな顔をしているんだろう。
そっと顔を見ようとすると、ぎゅっと隠すように抱きとめられる。
「あっ」
「ダメだぞ」
「顔、見たかった……」
「この心臓の鼓動で我慢してくれ」
一真さんの胸にぐっと耳元を押し付けると、ドクン、ドクンと早い鼓動が聞こえてきた。
一真さんでも緊張したりするんだ……。
キレイな夜空に静かな空間。
一真さんに包まれている時が一番幸せを感じる。
不安な気持ちがすうっと引いていくようだった。
「また来ような」
「はい……」
これから私は一真さんと家族になる。
楽しい時間、幸せなひと時をたくさん積み上げていくんだ──。
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