押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery

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新しい家

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それから、土曜日がやってきた。
私と悟さんは内見を予約していた部屋を見に行った。

「では、こちらがリビングになります」

案内人の声に促され、そっと玄関をくぐった瞬間、私は息をのんだ。

高い天井に、壁一面の大きな窓。窓から差し込む午後の日差しが、リビングの白いフローリングを柔らかく照らしている。視線を向けると、その先には広がる都会の街並み。

「すごい……」

思わずこぼれた声を聞いて、一真さんが笑った。

 「俺もこれだけ眺めがいいとは思わなかったよ」

それからゆっくりと部屋の奥へ歩みを進めた。

リビングの隣にはダイニングとキッチンがゆったりと設けられ、アイランドキッチンのカウンターには花を飾るスペースもある。

白と木目を基調にした落ち着いた内装。派手すぎず、けれど上品で、どこを見ても気を抜いていない。

「ステキ……こんなお部屋があるなんて」

ふたりで過ごすには広すぎるくらいの3LDKのマンション。
ここで、一真さんと一緒に暮らせたら……きっと幸せだろうな。

2人での生活がイメージできるステキなお部屋だった。

それから寝室も見せてもらった。

大きな寝室に広いウォークインクローゼット、ゲストルームとしても使えるもう一部屋。

「いいところしかありませんね……」

「それならここに決めるか?澪が落ち着ける場所で、一緒に暮らすのが1番だろう」

「一真さんも、いいんですか?」

「ああ、すごく気に入ったよ」

「それなら……ここにしたいです」

 私がそう言うと、一真さんは「じゃあ、決まりだな」と微笑み、私の頭を優しく撫でてくれた。

その手の温もりに包まれながら、私はこの先の暮らしにわくわくしていた。
 
けっきょく後のものはキャンセルすることにして、私たちは契約を結んだ。

契約してから車に戻って話をする。

「お家決まって良かったですね」

「ああ、これからあそこで澪と暮らしていけると思うと楽しみだな」

「私もです」

一真さんにお料理を作ったり、お風呂を沸かしたり。

おかえりなさいと彼を出迎えたり、そんな生活を送ってみたい。

すると一真さんは片手でハンドルを持ちながら、私の頭をポンポンと撫でた。

「一真さん……?」

「可愛い顔してたから。今頭の中に思い浮かべていた妄想聞かせてくれ」

「……っ、だ、だめです!秘密ですから」

「そうか、それは残念だ」

一真さんはくすりと笑った。

車を走らせて私たちは近くのインテリアショップに向かうことになった。

今日買ってもいいし、目星を付けておくのもよさそうだとのことで、一真さんが知人の経営しているインテリアショップに連絡を入れてくれた。
 
「ここだ。海外のデザイナーとも提携してるから、珍しいデザインのものもたくさんあるだろう」

大きなガラス張りの扉の向こうには、モダンな家具が並び、奥にはアートのような照明が優しく光を放っている。

扉を押し開ける一真さん。私も後に続くと、心地よい音楽と上質な木の香りがふわりと鼻をくすぐった。

「いらっしゃいませ──あっ、一真さん!ようこそいらっしゃいました」

カウンターの奥から声を上げたのは、スーツ姿の若い男性だった。
上品で落ち着いた物腰の彼は、一真さんに気づくなり、ぱっと表情を明るくして駆け寄ってきた。

「久しぶりだな、佐原」

「ご連絡ありがとうございます。そちらの方は……」

その問いかけに、一真さんが自然に私の肩に手を添えた。

「フィアンセの澪だ」

「澪といいます、よろしくお願いします」

「……まぁ、そうだったんですか!それは、それは……ご結婚おめでとうございます!」

佐原さんは丁寧に頭を下げた後、私にもにこやかに挨拶してくれた。

「初めまして、佐原と申します。こちらでは世界各国のデザイナー家具を取り扱っております。イタリアやフランスを中心に、最近では北欧の作家とも提携を始めまして。奥様のお好みに合うもの、きっとございますよ」

そう言って、彼は奥のフロアへと私たちを案内してくれる。天井が高く開放的な空間には、流れるような自然石を活かしたテーブル、繊細な彫刻の入ったランプやソファーが美しく配置されていた。

「ステキ……」

「キミが気になっているものがあったら、目星を付けておいてくれ。出来るだけ入居の時に揃っているようにしておくよ」

「はい……!」

 一真さんはインテリアショップのカタログを手に取りながらショップの中を見て歩いていた。

いよいよ本当に一緒に暮らすんだと実感が湧いてきた。

「何か気になるものはあるか?」

「どれも素敵で迷ってしまいますね……でも欲しいものなら一つあります」

「なんだ?」

一真さんが純粋に疑問をぶつけてくる。

「えっと、その……お揃いのものとか……」

子どもぽいって思われるかもしれない恥ずかしさがありつつも、一緒に暮らす時、一真さんとお揃いや色違いの家具があったら嬉しいなと思ってしまう。

ちらりと一真さんの反応を伺いながら言うと、彼は嬉しそうに言った。

「ああ、それもいいな……たくさん買おう」

良かった……。
一緒にいてみて、一真さんは人のことをバカにするような行動を取ったりしない。

そういうところが好きなんだ……。

それから色々お店を見て回ってどんな家具を買うのか、話をしながら検討を付けていくことにした。

「……楽しかったですね」

「ああ、より澪との生活が楽しみになったよ」

何気ない会話が楽しくて、彼といると幸せな生活を送ることができるんだろうと想像ができた。

「すみません、ちょっとお手洗いに……」
「ああ」

一真さんに断りをいれてその場を離れる。

お手洗いは少し歩いたところにある、外の小さな小屋の中にあった。

トイレの個室から出て水を流し、手を洗う。何気なく鏡を見るとふと、背後に気配を感じた。

……え?

次の瞬間、何かが背後から私の口を塞いだ。

「んっ……!!」

驚いてもがこうとするが、細い腕では振りほどけない。

鼻腔に広がる、ほんのりとした香り。
そして意識がふっと遠のく。

一真さん……、助けてっ!

最後に浮かんだのは、彼の顔だった。


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