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新しい家
しおりを挟むあれから1カ月が経った。
一真さんは御堂家が今までしていたことを公に公表することにした。
私が可哀想な目で見られないよう、それと同時に私と一真さんが婚約をしたことも発表してくれて、メディアに堂々と出て一真さんはインタビューに答えていた。
私に配慮するようなものの言い方で、御堂家を下げたものいいをするというよりは事実だけを公表するだけにして詳しい話は避けた。
一真さんのメディアの対応は本当に完璧なものだった。
最後まで一真さんは御堂家のことを公表するか迷っていた。
できることなら不幸にならない道を選びたい。
しかし、もう何度も自分たちの邪魔をしていて、これ以上は看過できないとのことで公表を決めた。
お母様とお父様、そして零お姉様がその後、どうなってしまったのか心配だったけれど、もう一真さんとの人生を遮られることはないのだと思うと私はほっとした。
そして今日は新しい家に住む日だ。
最初に内見をした部屋を契約した私たちは、今日からそこへ住む予定になっている。
私の荷物はほとんどなかったので引っ越しももう済ませ、あとは家に向かうだけだ。
「本当にお世話になりました」
私は一真さんのお父様とお母様に向かって深々と頭を下げた。
一真さんの両親はいつも温かく、そしてやさしさに溢れていた。
離れるのは正直少し寂しい。
するとお母様が言った。
「もう澪ちゃんいなくなったらお花のこと聞けなくなっちゃうわ。ティータイムの時間も大好きだったのに」
「またご一緒させてください。今度は私たちの家で……」
「それもいいわね」
「なにかあったらすぐ戻ってくるといい。今後もキミの家族だと思って頼って欲しい」
お父様も優しい表情で言う。
「……はい」
私は涙ぐみながら頷いた。
それから車を出してもらい、新居に向かった。
「なんだか寂しそうにしていたな」
「私も……お母様とお父様と離れると思うと少し寂しいです」
「俺は、この日を待ち望んでいたんだけどな、澪はそれほどでもなさそうだ」
「い、いえそんなことありません……!」
慌てて否定すれば一真さんは意地悪な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「冗談だ。でも待ち望んでいたのは本当だ……早くキミと二人で暮らしたかった」
「私も……です」
一真さんとのふたりきりの同居生活がどんなものになるのか、今は楽しみで仕方ない。
今まではお料理もお手伝いさんがやるからとメインで作ることはなかったけれど、新しいおうちになったら作ってもいいのよね……?
車が新居の前にゆっくりと停まると、一真さんがドアを開けてくれた。
「着いたよ、澪」
私は緊張しながら、外に足を踏み出した。
目の前にそびえ立つのは、洗練されたデザインの高層マンション。
ガラス張りのエントランスは、まるでホテルのように美しく、足元の大理石が柔らかな光を反射していた。
改めてみてもすごいマンションだ。
エントランスを抜けると、広々としたロビーが広がっている。
そしてエレベーターに乗り込み、一真さんがカードキーをかざす。
すると最上階へのボタンが自動的に光った。
「このマンションはセキュリティがしっかりしているから、安心して過ごせるだろう」
これから彼も積極的にメディアに出ていくと言っていた。
だから私たちの住んでいる家に興味を持って報道がされるだろう。
セキュリティがしっかりしているのは安心だ。
エレベーターが静かに止まり、玄関のドアを開けると、目の前に広々としたリビングが広がった。
大きな窓からは、街の景色が一望できるようになっていた。
リビングは白を基調としたモダンなデザイン。
シンプルでありながら、細部にこだわりを感じる家具が配置されている。
「……すごい、家具も設置してある……」
「ああ。仮だけどな。無かったら困ると思って最低限のものは揃えておいた。もし気に入らないものがあったら言ってくれ。買い直そう」
「気に入らないなんてとんでもないです……!」
そこまで考えて準備してくれていたんだ。
すると一真さんが私の手を引き、奥の部屋まで案内した。
「一真さん……?」
「見て欲しいものがあるんだ」
なんだろう?
ドキドキしながら奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、息が止まった。
「わあ……!」
そこにあったのは、黒く艶めくグランドピアノが置かれていた。
「……一真さん、これ……」
驚きに声が震える。
振り返ると、一真さんが微笑んでいた。
「ピアノを弾くのは好きだとキミが言っていたから、家にも置きたいと思ってな。これで好きな時に弾くといい」
「嬉しい……」
御堂家の家には贈り物のピアノがあった。
でもそれに誰も手を付けることはなかった。
私が興味を持って弾き出すと、うるさいと言われ叱られてしまった。
だからお父様たちがいない時に弾くことしか出来なかったんだ。
「弾きたいと思った時に弾いてもいいのですか?」
「当然だ。時々俺にもピアノの音色を聞かせて欲しい」
どこか照れくさそうにしながら、それでいて迷いのない声。
弾くなと言われない、うるさいと言われることはもうないんだ。
「試しに聞いてみたいな」
彼の言葉に導かれるように、私はピアノの前に座る。鍵盤にそっと指を添えると、長い間しまい込んでいた感覚が蘇ってきた。
深く息を吸い、そっと押し込む。
ピアノの音色が、静かに部屋に響いた。
キレイな音……。
ピアノを弾いている時は自由に走り出せる錯覚があってすごく好きだったんだ。
でももうそれも錯覚じゃない。
好きな時、好きな時間に、好きな人の前で弾くことができる。
簡単なクラッシックの演奏を終えると、一真さんは拍手をしてくれた。
「キミがピアノを弾いている時の表情が伸び伸びしていて、柔らかくて好きなんだ」
「このピアノをきっかけに一真さんが私を見てくださったので、ピアノに感謝しないといけません」
「ピアノだけじゃないさ、キミを見たらきっと好きになる。運命よりも……そうだな、宿命みたいなものだ」
「か、一真さん……っ」
彼のまっすぐな言葉が恥ずかしくて、思わず顔を手で覆ってしまう。
でも、そうだといいなと思った。
幸せになれない運命だと思って生きてきたから、運命という言葉じゃなくて宿命がいい──。
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