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ふたりでの生活
しおりを挟むそれから一通り家の中を見てまわると、一真さんは言った。
「食器とか細かいものはまだそろってないから、次の週末に買いにいってもいいな」
「はい、行きたいです!」
私が頷くと、一真さんは愛おし気に私を見つめ、抱きしめる。
「か、一真さん……?」
「嬉しいものだな。やはり……キミとここで暮らしていけるなんて」
「私もとても幸せです」
「今はまだ仮住まいだから、将来、キミが家を立てたいと思うならそれもいいなと思ってる。その時はふたりの希望に沿った家を建てていこう」
一真さんは優しく微笑んだ。
「はい……」
それから買い物に出かけ、この日の夕飯は私が作ることになった。
「本当にいいのか?無理しなくてもいいんだぞ?今日は新生活のはじまりで疲れもあるかもしれない」
「いえ、私が作りたいんです……今まで一真さんにはしてもらってばかりだったから……」
「そうか、それなら。キミの手料理が食べられるのは楽しみだ」
料理を作りながら、一真さんは私のいるキッチンに立って後ろから作るところを見ていた。
「あ、あの一真さん……座っててテレビ見て待っていてもいいんですよ?」
「澪が作ってくれているのに、じっと待ってるなんて落ち着かない」
「でもずっと見られたら恥ずかしいです」
私は顔を赤く染めて言うと、それならと一真さんは作った料理の洗い物をしてくれた。
キッチンに旦那さんと一緒に立っているなんて夢みたい。
小さな頃に憧れた家族像。
一真さんとなら幸せな家庭を作っていけそうだって分かって希望が溢れてしまう。
「これから澪はどうしたい?」
洗い物をしながら一真さんがたずねる。
私は今まで家の仕事を継ぐという名目で家に閉じ込められ家の手伝いをしてきた。
そんな自分に今できることは少ないかもしれないけれど、一真さんにあやかりっぱなしの生活を送るのは嫌なんだ。
「私も……自分に出来ることを探して働きたいと思っています」
「そうか……」
ずっと自分は何も出来ないと思っていた。
でもその言葉を一真さんが否定してくれた。
出来ないんじゃない。
そう思わされていただけだと。
だったら今から進んでみるのも遅くないんじゃないかと思ったんだ。
「このままだと一真さんに甘えっぱなしになってしまうと思うんです……だから自分もやれることを探していきたい」
「キミはそう言うんじゃないかと思ってた。今までやりたいこともロクにさせてもらえなかっただろう。自分の好きなものを押し殺すことがあったかもしれない。これからは澪が思うように自由にやって欲しいと俺も思ってる」
「一真さん……っ」
ちょうど洗い物が終わったのか、一真さんは水を止めた。
「ちょうどキミに提案しようと思っていたことがあるんだ」
そう言うと、どこかに行ってしまった。
しばらくすると何かの資料を持ってこちらに戻ってくる。
私もちょうど料理がひと段落ついたところで、手を洗うとダイニングテーブルに移動した。
「これは……?」
「今度うちで和服の販売を行うことになっているんだ」
凰条家はメインが自動車なものの色んな会社と提携を結んでいて、様々なジャンルのビジネスに挑戦している。
「和服……ですか」
カタログにはキレイなデザインの和服がたくさん載っていた。
「海外に向けて展開していきたいと考えているんだ。既存の和を感じるものから、流行を取り入れたものまで開発したいと思ってる。庭に植えてあった花を見て思ったが、キミはとても色彩感覚や、センスがいい。だからぜひ意見を聞かせてほしい」
「私なんかがいいんでしょうか?」
「また“なんか”と言ったな」
「あっ」
私は思わず口をつぐんだ。
もうクセになっているのかもしれない。
私なんかと思うのが。
「ご、ごめんなさい」
一真さんに呆れられるんじゃないかと不安になった時、彼は優しい口調で言った。
「俺は澪に頼みたい。澪の意見が欲しい。澪が出来ること、澪にしか出来ないことはたくさんあるはずだ」
まっすぐに迷いなく答えてくれる一真さんに、気持ちが晴れた。
はやくこのクセから抜けないと。そのためにも、私は自分に自信を付けることは必要だ。
「……やらせてください!」
私は元気よく返事をした。
「ああ、よろしく頼む」
それからご飯にしようということになり、広々としたダイニングテーブルに私は作った料理を並べた。
今日の夕飯はハンバーグだ。
「これ、澪が作ったのか!?」
「はい……お口に合うが分かりませんが」
自分の手料理を誰かに食べてもらうのは初めてだった。
毎回料理は、お手伝いさんで私は掃除や洗い物が役割になっていたから。
手を出すと怒られるし、私が作ったものは家族の誰にも食べてもらえなかったから。
美味しいって思ってくれるかな……。
不安になる。
一真さんに変な料理を食べさせるわけにもいかないし……。
ふたりでイスに座ると、一真さんは丁寧に手を合わせた。
「いただきます」
一真さんがそう告げると、スープをひと口すくって、口に運ぶ。
「ポタージュか、美味しい……」
ジャガイモをつぶして、作ったポタージュ。
一真さんは感心するようにつぶやいた。
良かった……。
そしてサラダを食べた後にすぐにメインのハンバーグを口にする。
すると彼が嬉しそうに微笑んだ。
「こんな料理が食べられるなんて幸せだな」
「それは言い過ぎです……一真さん」
「そんなこともないぞ?キミは料理も出来るんだな」
「初めてです……人に振舞ったのは……最初に振舞ったのが一真さんで良かった」
だって一番食べて欲しいと思う人だから。
一真さんはそれからも「美味しい」と言いながら綺麗に完食してくれた。
「あの、もし良かったら……一真さんがお仕事の日も作らせていただけませんか?」
さっきの和服のプロデュースは最初は家でオンラインで出来る仕事だと聞いた。
それならきっと時間もあるし、また一真さんの喜ぶ顔が見られるなら、私はすごく嬉しい。
「帰ってきたら、澪の作る料理が待ってるなんて俺はかなり贅沢だな。早く帰りたくなってしまうかもしれない」
「ふふ……作って欲しいものがあったら言ってくださいね」
「ありがとう、澪。キミと出会えて良かった」
一真さんはそう言うと、ちゅっと私のおでこにキスを落とした。
それから洗い物をしようと立ち上がったけれど、一真さんは私にソファーで休むようにと言って聞いてくれなかった。
「一真さんにさらせるなんて出来ません」
「これくらいはやらせてくれ。美味しい食事を振舞ってもらったんだ。当然のことだよ」
「ありがとうございます」
それから一真さんは洗い物だけじゃなくハーブティーを入れてくれた。
ふたりでそれを飲みながら、また話をして笑って。
たくさん、ふたりきりの時間を楽しんだ。
こんな幸せな時間が毎日続くんだ。
毎日幸せを感じて……私ってすごく贅沢な存在なんじゃないかと思った。
それから私たちはお風呂に入ることにした。
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