生徒会長と秘密の契約

cheeery

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第2章:誤った選択

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あれから3日後。
考えに考えた結果、ある作戦が思いついた。

でもこれに手を染めた瞬間、俺の心は悪に染まる。
それでも……ここまでしないと勝てないと思った。

「どうしよう……本当に撮れてしまった」

スマホの画面には、宇佐美とひとりの女子生徒が抱き合っているように見える写真が映っている。
この写真は今さっき、俺が盗み撮りしたものだ。

見る人によっては、学校の死角でイチャついているように見えるけれど 本当は彼女がよろけたのを宇佐美が助けただけのシーンだ。

そしてもう1枚。
広報用の写真チェックをしていた時に 生徒会のカメラに写っていたデータにも、同じような構図のものがあった。

こっちは確か、向こうが強引に抱きついてきたとか言っていたはずだ。

この2枚の写真を匿名で広めれば……。
宇佐美が女癖が悪く、色んな人手を出しているように見えるだろう。

そしたら生徒たちからの不信感が募り、彼は票を得ることが出来なくなる。

信頼を失えば、生徒会長には上がって来られない。

ギュッと目をつむる。
俺らしくないやり方であることは重々承知だった。

自分がのし上がるのではなく、誰かを蹴落とす作戦。
これを実行した瞬間、俺の手は真っ黒に染まる。

でも……。

「……っ」

自分の居場所を確保するためには これしか思い浮かばなかった。

俺にはこれしかないんだ。
手が震える。

やらなくちゃ、迷ってはいられない。

『唯人が生徒会長か……父さん嬉しいよ』
『期待しているぞ。お前なら出来ると信じている』

中学の頃。
周りの人との関わり方が分からなかった俺。

友達もできなくて、ただ勉強だけをして過ごしていた。
そんな中で手に入れた生徒会長という肩書だけが、父さんを笑顔にさせた。

生徒会長でいることは俺の存在証明であり、生きるための命綱だ。

「やる、しかないんだ……」

自分に言い聞かせる。
じゃなきゃ、また。俺を見る父さんの目が、あのゴミを見るような冷たい目に変わってしまう。

暗くて寒い。
ひとりぼっちの世界。

そんなの嫌だ。

大丈夫。
彼は俺とは違う。

彼はどこでだって上手く生きていけるタイプの人間だから。
スマホを生徒会室にあるプリンターに繋ぐ。

震える指先で、印刷する写真を選択した。

すまない、宇佐美。
一度強く目をつぶり、ゆっくりと深呼吸をした。

そして【印刷】のボタンを押した瞬間。

――ガチャ。
突然、生徒会室のドアが開いた。

「先輩、今日の活動報告なんですけど……」

マズい。
どうしよう。鍵を閉め忘れてしまった。

よりによってやって来たのは、宇佐美だった。

「すみません、ノック忘れてましたね」

ピッと押してしまった印刷ボタン。
取り消しを押す時間なんかなくて ウィーン、ガシャンと音を立てて写真が吐き出される。

これを見られたら終わりだ。
絶対に俺が回収しなくちゃいけない。

慌てて、排紙トレイに手を伸ばした瞬間。

「ん?」

俺よりも早く伸びて来た大きな手が、その写真を奪っていく。

「あっ……ダメだ!」

そして。

「…………」

しばらくそれを無表情で見つめた彼は、軽蔑するように俺を見た。

「へぇ、よく撮れてる」

酷く冷たい目で俺を見て笑う。

「これを流して、俺を陥れようとしたんですね」
「あ、あの……っ、違うんだ……」

怖い。
喉がひきつって声がうまく出せない。

「なにが違うんですか?」

宇佐美はその写真を持ったまま、ジリジリと俺に近づいてくる。

「う、さみ……」

怖くなって後ずさりしても、彼は止まってくれない。

「答えてくださいよ、唯人先輩」

どんどん俺を追い詰めて、しまいには俺の両脇に手をついて逃げ場を塞ぐ。

「……っ」

ついに逃げ場がなくなり、恐る恐る顔を上げると背筋が震えた。

「っ、はは……まさか俺とはね」

初めて見た彼の表情。
笑っているはずなのに、ひどく傷ついた顔をする宇佐美。

「う、宇佐美……」

名前を呼んだ瞬間、宇佐美は鋭い視線で言った。

「生徒会長ともあろう人が、デマを流して人を陥れようとしてるって知ったら、みんなどう思いますかね?」

「……っ」

サーッと血の気が引いていく。

これから一生。 俺はみんなから白い目で見られ続けて生きていかなきゃいけない。
今度はもう、ただの孤独じゃ済まされない。
卑怯者というレッテルを貼られて生きていくことになる。

「怖いですか? 先輩」
 「……っ、ぁ」

 「でも俺の方が怖いですよ。だって今気づいてなかったら俺は生徒会を降ろされて、ありもしない噂を流されちゃうんですから」

宇佐美は冷たく笑う。

「ごめんなさ……」 

彼の顔を見ていられなくて目を逸らせば、グイッと顎を持ち上げられて無理やり宇佐美の方を向かされる。 

「こっち見て」 
「っや、」 

「逃げないで答えてくださいよ。もし俺がそれで学校に来られなくなったらどうするつもりだったんですか?」
「うさみ……」

「そこまで考えてなかった? それとも俺ならいいだろうって思った?」

ギューッと心臓が締めつけられる。
宇佐美なら大丈夫だと勝手に決めつけて、自分が相手を傷つけていい理由を作った。

もし本当に俺の行動で彼が潰されてしまったら……?

自分はなんてことをしてしまったんだろう。

自分の保身ばかりで、宇佐美がどうなるかなんて想像もしなかった。

力が抜けてペタンとその場に座り込む。
しかし彼はそれを許してくれなかった。

「なに座ってるんですか?先輩」

見下ろす冷たい視線。

「立って、上手な言い訳してみせてくださいよ」

グイッと腕を掴まれて無理やり立たされる。

「……っ、ごめ、なさい……」

俺が言葉に出来たのはたったそれだけだった。

怖い。
全部自分がしたことなのにすごく怖い。

宇佐美は俺の頬にスッと手を伸ばす。

俺は反射的にビクッと身を竦めてしまった。

「そんな怯えた顔しないでくださいよ。傷ついてるのは俺の方なんですから」

言葉とは裏腹に、頬を撫でるその親指の動きは優しくて……もうなにも考えられなかった。

すると、宇佐美はため息をついて静かに言った。

「そんなに生徒会長がやりたいなら譲りますよ」
「えっ……」

なにを言ってるんだ?

「もちろん、今先輩がやろうとしたことは誰にも言いません」

どうして。
俺を許してくれるってことなのか? 

宇佐美の考えていることが分からない。

「その代わり」

宇佐美の顔が近づき、俺の耳元で囁く。

「あんたは今日から俺のモノです」

彼から落とされた言葉に思考が固まる。

俺の、モノ……? 
宇佐美はニヤリと笑っていた。

「そうだなあ……まずは契約の印として、先輩から俺にキスしてください」 

キス?男同士で?

「そんなの出来るわけ……」
「先輩。自分の立場、分かってます?」

宇佐美の声色が一段低くなる。

「あんたに拒否権なんてないんです。先輩がしようとしたことに比べたら、俺のお願いなんて可愛いもんでしょ?」

なにも言えなかった。
俺がしようとしたことと、彼がしていること。

誰に聞いても俺が悪いに決まっている。

「まぁいいですよ、選んでもらっても。俺の言うことを聞くか、それとも今日のことをみんなにバラされて地位も名誉も失うか。好きに決めてください」

……そんなの、選択肢なんてあってないようなものだ。 

にげる場所なんてなかった。

 「さぁ、どうぞ」 

目を閉じて待ち受ける宇佐美。
俺は震える足で爪先立ちになり、彼の唇にそっと口づける。

触れただけのキス。
ゆっくりと目を開けると、満足そうに笑う彼と目が合った。

「契約成立です」

初めてのキスは、自分が犯した罪への罰として俺の唇に刻まれた。

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