ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

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美羽に近づくな 【隼人side】

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カーテンは閉め切り、真っ暗な部屋の中。
俺はスマホをイジっていた。

「さてと、美羽にも連絡してみたら?って言われちゃったし連絡しようかな」

そう言って開いたのは【三島卓也】と書かれた連絡先。

「全くさ、卓也はいつまで美羽の周りうろちょろしてるんだろうね。あの日あんなに忠告してあげたのに、やっぱり時間が経つと人って忘れちゃうものなのかな?」

スマホをフリックしながら文字を打つ。

「愚かだなぁ。やっぱり記憶に焼き付けるより痛みを刻み込んであげる方がいいのかなぁ」

【美羽に】

ゆっくりと文字を入力していく。

【近づくな】

「やっぱりあの時に消しておけば良かったなー。美羽のことが好きな人間は、もう一生目が出ることがないくらい徹底的に潰さないとね」

【送信】っと。



メッセージを送り、俺はイスの背もたれに身体を預けた。

「ふぅ……」

俺が仕事中に、卓也とふたりきりで食事に行った美羽を想像してはらわたが煮えくりかえりそうになる。

アイツは美羽のかわいく笑う姿を見たのか?
楽しそうに話をふる美羽の顔を見ていたのか?

許せない。

美羽も美羽だ。
簡単に男についていって……。

恋愛経験がなくて、お人よしで……俺はそんな美羽のことが大好きだけど、他人にそんな隙のあるところを見せたらいけない。

「そろそろ美羽にもお仕置きが必要かな」


「殺しちゃおうかな」


人生で何回も「殺す」という言葉を使ったことがある。

でもそれは自分を守るために使ったわけじゃない。
全部、美羽を狙う男を追い払うために使った。

もちろんはったりのつもりもない。
美羽を守るためならば、俺は手を汚したっていい。

手を黒く染めたって、彼女を思う気持ちに一点の陰りもないわけだ。

『俺さ、美羽のこと狙ってるんだよね』

大学生の頃、はじめて卓也の口からその言葉を聞いた時、俺の心は真っ黒に染まり、「この男を殺したい」と思った。

早く始末しなければならない。確実に。

俺たちは、バスケサークルに入り週2回、放課後に活動をしていた。

もちろん、俺がバスケサークルに入ったのも美羽が入ると言ったから。

俺は全くバスケに興味がなかったけど、美羽が中学から高校生の頃まで部活でバスケをやっていたから、このサークルに入ろうと思ったんだろう。


正直、メンバーやサークルの雰囲気などを見ていて、あまり入って欲しくはなかったが、これも俺が一緒に入れば済む話だったので、俺と美羽はふたりでバスケサークルに入ることに決めた。

飲み会は美羽がいる時だけ参加する。
それは当然、ボディーガードをするためだ。

酔った美羽に触れるやつがいるものなら、その場で刺し殺しても構わない。
そんな気持ちでずっと参加していた。

美羽はみんなで盛り上がる時は盛り上がり、品もあって気も利く。
その上美人で華がある。

だから美羽のことを誰かが好きになることは簡単に予想がついた。

相手が先輩だろうが……。

『先輩、これって先輩の彼女さんですよね?それなのに美羽に手出そうとしたんですか?これ先輩の彼女さんに送っておきますね!』

後輩だろうが……。

『吉野くん、美羽の連絡先聞いたんだって?消してくれるかな?じゃないとキミの居場所、なくなっちゃうんじゃないかな?』



関係なく俺は美羽と男を遠ざけるように裏で動いていた。

少し脅せばみんな、美羽に関わろうとはしなくなった。
大学生が思う『この人いいな』の感情なんてそんなものだ。

俺が美羽を想う気持ちに敵う人間なんていない。


人当たりもよくて、人望もある卓也。
そんな卓也を潰さないといけなくなったのは、残念なことだ。

俺は最初にサークルに入った時から、一番使えそうな人間を選んで交流関係を作っていた。

人望もあれば、多くの情報が彼に集まってくる。
その情報を聞きだしては、脅しに使っていたから。

本当によく役に立ってくれたのに……。
その情報網を使って今度は卓也を潰さないといけなくなってしまうなんて……。

しかし、状況は少しの間で変わった。

『俺さ、美羽のことが好きなんだ』

そう暴露してきたのは、卓也と仲のいい三好だった。


『隼人は美羽と幼馴染だろ?どうにか俺らくっつけるの手伝ってくれね?なんか美羽の好きなものとか教えてよ』

ああ、この男はバカだなぁ。
どうして俺になんか相談するんだろう。

自分で恋心をひそめているだけなら、危ない目に遭わずに済んだのに。

俺はきちんと笑顔を保ちながら、「美羽は掴みどころがないからな」なんて言ったっけ。

誰かお前なんかにやるものか。

全て……お前のような男を追い払うために俺は美羽と同じ高校、そして大学に入ることにしたのに。

それからは、ターゲットを変え三好の情報を掴むことにした。

卓也は親友が美羽を好きだということに気づいてからは、諦めようとしているようだったので、一旦スルー。

俺は三好の情報を掴んでは、美羽と三好がくっつかないように三好の悪い噂を流すようにしていた。

もちろんウソではない。
三好は、女にだらしなくすぐに手を出すクセがある。



だから美羽には注意してもらうように、友達づてに卓也の悪い情報が入るようにしたり、俺の方からも言うようにした。

でも美羽は人を疑うことを知らない。

『三好くんと今度ご飯に行くことになったの』
『は……?』

俺は美羽の心のキレイさを見誤っていた。

『三好はちょっと女遊びも激しいし危険なんじゃない?』
『あのね、そういうのじゃないよ!妹さんのプレゼントを選んで欲しいんだって』

男はみんなそういう口実を立てるんだよ。

どうして分からないんだ……。

『私に務まるか分からないけど、喜んでもらえるように頑張ろう』

下心を知らずに純粋にプレゼントを選んであげようとする美羽。

俺は頭を抱えた。

美羽の人のよさを使って卑怯なやつめ。
でもちょうどいいのかもしれない。

俺が美羽を守っているだけじゃ。
美羽は危機感というものに気づけない。


男はもっと危険で野蛮なものだということに気づかないといけないね。
利用させてもらおうか。三好くん。

それから美羽と三好の食事の日。
俺は美羽から何時にどこに行くのかを聞きだして後を付けた。

最初、ふたりが合うとショッピングモールで妹の誕生日プレゼントを選び始めた。

この日までに、三好のことをよく調べたから知っている。

三好には確かにふたつ下の妹がいるが、プレゼントをあげあうほど仲はよくない。

口実に使ったんだろう。
そうとも知らず、真剣に選んであげる美羽。

ああ、なんて心がキレイなんだろう。

それを汚していいのは当然、俺だけだ──。

ふたりはマフラーを選びラッピングをすると、ショッピングモールを出た。

そして大通りを曲がった人が少ないカジュアルなイタリアン料理のお店に美羽を連れてきた。

“今日プレゼントを選んでくれたお礼”なんて言っていたが、三好の本命はこっちだろう。

幸せな時間はここまでだよ、三好。


俺も店の中へ入った。
美羽と三好からは少し遠いが、ふたりの様子が見れる席に案内してもらった。

ふたりは一通り食事を楽しんでいた。
そして三好がトイレに立った時、俺も動き出した。

同じようにトイレへと向かうと、三好は驚いた顔をして俺を見つめた。

『お、おい隼人なんでこんなところにいるんだよ……』

ニッコリと笑うと俺は三好の腕を掴みあげた。

『美羽との食事は楽しかった?』
『はや、と……?』
『ウソついて美羽を騙して一緒に食事が出来たんだ。さぞ楽しかっただろうね』

『な、なんだよ隼人。お前変だぞ。お前だって美羽のこと応援してくれてただろう?』
『応援なんかしてねぇよ』

俺は低い声でつぶやいた。

『美羽は俺のものだ。お前なんかに渡さない』

三好の顔はひくっと釣り上がった。

『お前にやって欲しいことがあるんだ』

俺はニッコリと笑顔を作った。

どんな顔をしていたかなんて覚えていない。
ギリギリと力強く手を掴む。



『僕のお願い聞いてくれるかな?』

俺は三好を潰す全ての手段を目の前に突き付けた。
潰すのは三好本人だけじゃない。

美羽に手を出すつもりなら、お前が大事にしてる家族すらも崩壊させてやる。
俺は三好の父親に関する握っている情報を目の前に出した。

これは俺が金を払って、もらった情報だ。
不倫に、パワハラ。

人間誰にでも隠したいものってあるもんだ。

『ちゃんとやれなかったら分かってるよね?』
『わ、分かってますから……ちゃんとやるから許してください』

『じゃあ頼んだよ』 

俺はそう言ってその場を去っていった。

さぁ準備をしないとね。
僕がヒーローになる準備を。

三好は食事を終え店を出ると、美羽をさらに人気のない場所に連れて行った。

『三好くん?どこに行くの?』
『もう少し行きたいところがあるんだ』

そう言って、三好は美羽の肩を組んだ。



『み、三好くん……?』

美羽に触るのはこれっきりだぞ。

『どうしたの?』
『どうしたのって分かってるだろう』

さぁ存分に俺の引き立て役になってくれ。
自分の評価を地に堕として──。

『ホテル行こうぜ』 

三好の手はわずかに震えていた。

そう、俺が三好を脅して頼んだのは、このまま美羽と食事をし強引にホテルに連れ込んでくれというものだ。

『え、何言ってるの?三好くん、おかしいよ』

当然ふたりきりで、ホテルになんか行かせたりしない。

やめてと叫ぶ美羽を助けに行き、ヒーローになるのが俺の役目だ。

これで三好の評価は地に落ち、俺の評価があがる。
それも自分で自らやってくれるってわけだ。

『おかしくないよ。美羽だってそういうつもりで来たんだろう?』
『ち、違うよ……私は三好くんが妹さんにプレゼントしたいって言うから』

『そんなの下心があって言ったに決まってるだろ。美羽だって気づいてたクセに。食事代だって出してやったんだから、付き合えよ!』



いいね、いい演技力だ。
加えて最低な言葉を吐いてくれる。

上出来だよ、三好。

三好は強引に美羽の肩を掴んでホテル街に連れていく。

手が震えていることは俺にしか分からない。

哀れだな。美羽じゃなかったらよかったものを。

俺の美羽に手を出そうとするからだ。

『放して、私……そんなつもりは……』
『そういうのいいから』

男はみんな獣なんだって美羽に教えるいい機会だった。
優しい美羽は悩みがあるなんて言われたら、ついていってしまうから。

『いや、三好くん……お願いだからやめて……っ』

ホテルの目の前についた時、美羽は激しく抵抗をした。

『ほら、は、はやく来いよ』

失敗すれば、自分の立場も家族も崩壊する。
何かがかかっている男はやっぱり違うね。

『お願い……っ、忘れるから。こんなことしないで!』

『いいから早く来い!』

俺が助けに行くまで3・2・1。

『誰か……助けて……!』
『美羽!』


俺は走って美羽の元に駆け付けた。
三好の手をギリっと掴む。

『何をしてる?』

ああ、白々しい。
全部俺がやってくれと頼んだことなのに。

『隼人……』

美羽が安心した顔で俺を見る。

そうだ、美羽。
心に刻み込めばいい。

何かあった時、助けてくれるのは俺だと。
俺の側にいることが最も安心なんだと。

『は、隼人……』

もういいだろう。
三好は俺に分かるように顔でそう伝えてきた。

まだだ。
だってまだお前に制裁を与えてないからね。

俺は三好の頬を一発思いっきり殴った。

『……っ、う』

ほら、演技は中途半端じゃダメだろう?

しっかりやらないと美羽にバレてしまうからね。

『美羽に手を出してんじゃねぇよ』

俺が低い声でそう放つと、三好は完全に怯えた顔をして……。

『ひ、ひっ……』

その場から立ち去っていった。

引き立て役ありがとう三好。
いい演技だったよ。

俺は心の中で笑った。

『大丈夫だったか、美羽!』



『隼人……こわかった』
『そうだよな、怖かったよな』

俺は美羽を安心させるように優しく抱きしめた。

『もう大丈夫だから』

優しく声をかけて、震える美羽の手を安心するまで握って……それから美羽を自宅まで送っていった。

メールの連絡だって忘れない。

【美羽、寝られなかったら俺が電話するから言って】

俺は完璧に美羽のヒーローを演じて見せた。
夜の電話で美羽は言う。

『隼人ってヒーローみたい。小さい頃からいつも私のこと……助けてくれるよね』
『当然だよ。美羽のこと大事に思ってるんだから』

全部計画通り。
美羽は俺をヒーローだと思ってる。

俺がセットしたステージだとは知らずに。
電話を切ったあと、俺は部屋の中でそっとつぶやいた。

「美羽、愛してるよ……」


ああ、はやく
俺のものにしてしまいたい。


それから三好は突然サークルを辞めた。
大学でも見かけることはほとんどなくなった。

「あんなに楽しそうにしてたのに、三好どうしちゃったんだろうね?」

みんなが話をしている。

「誰か知ってる人いない?」
「さぁ?分からないな」

俺はさらりとそう答えた。

美羽は自分のせいなんじゃないかと不安に思っていたようなので、三好は色んなサークルの人に手を出していたことにして、「俺にバレてサークルに行きにくくなったんじゃないかな」と伝えることにした。

可哀想だなぁ。
相手が美羽じゃなかったら、こんなことしないんだけどね。

でも俺は美羽のヒーローでいないといけないから。

三好は消すしかなかったんだ。

「おい、隼人……」
「ああ、卓也。どうしたんだ?」

「お前、本当に三好のこと知らないのか?」
「知らないよ。どうして?」

「いや……別に。知らないならそれでいいんだ」




卓也、三好が犠牲になってくれて良かったね。

もしお前が突き進んでいたら、同じ目に遭っていたのはお前だったかもしれないから。

まぁ相手がだれであれ、美羽に手を出した瞬間から、俺は相手を消すけどね。

美羽に近づくのは危険だと、早いうちに気づいたらいい。

そしたら俺も手を下さないで済むのだから。





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