無自覚よしよしプレイで第二王子の性癖を歪めてしまったみたいです

小実そしる

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第二王子はピンチに駆けつけました

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「セス殿、申し訳ありません。前の予定が押しておりまして、殿下がお戻りになられるまで、しばしお待ちいただけますか」
「あ、はい! かしこまりした」

 ガードナーに励まされ、いざ出陣! と意気込んだセスだったが、その出鼻を挫くように、アーサーの不在が発覚した。
 シュンと肩を落としたセスを気遣うように、「よろしければ」とカミールが常も幾分明るい声で切り出した。

「庭園をご覧になられては如何ですか? この時期にしか咲かない花々が、ちょうど見頃を迎えているそうですよ」

 カミールの提案は実に魅力的なものだった。
 花好きの王妃のため、この城の庭園は一年を通して様々な花々で彩られている。
 特に、王妃の一番のお気に入りだという薔薇園は、一年を通して色とりどりの薔薇が咲き誇り、訪れる者を魅了するのだという。

「是非、拝見したいです……!」

 噂に聞く庭園を拝めるとあり、セスは一も二もなく頷いた。
 期待に胸躍らせるセスに、つられたようにカミールも口角を上げた。

「では、参りましょう」

 カミールが先導し、二人は早速庭園へと足を向けた。

────

「わぁ、綺麗……!」

 薔薇園に足を踏み入れた瞬間、セスは感嘆の声を漏らした。
 見渡す限りの鮮やかな赤色が視界を埋め尽くし、むせ返るような芳香が鼻腔を擽る。
 その数たるや凄まじく、まるで赤い絨毯を敷き詰めたかのようだった。

「すごいですね。こんなにたくさんの薔薇を見たのは初めてです」
「この庭園には、王妃殿下のご希望で様々な品種の薔薇が集められています。赤や白はもちろんのこと、黄色にオレンジ、紫と、色も実に多彩ですよ。人工的にではありますが、青い薔薇の栽培にも成功しています」
「へぇ、本当に青い薔薇があるんですね。絵本でしか見たことがないです」

 カミールの解説をふんふんと興味深そうに聞いていたセスだったが、不意に嫌な寒気に襲われた。
 背筋がざわつくような、不快感を伴った気味の悪い悪寒だ。

「セス殿?」

 突如押し黙ったセスに、カミールが不思議そうに首を傾げた。
 平気だとカミールに告げようとしたセスは、次の瞬間に言葉を失った。

「っ……!」

 カミールの背後に、黒い靄のようなものが見えたのだ。
 その靄は徐々に人の形を成していき、やがてそれは見覚えのある姿となった。

「これはこれは、珍しいお客様がお見えですね。まさか、このような形でお会いすることができるとは」

 優美ながらもどこか毒のある声音。
 遠目に拝したことが数度ある程度だが、間違えようはずもない。アーサーの兄であり、この国の第一王子たる高貴なお方。

「ルパート殿下……」

 セスが呆然と呟くと同時に、カミールの体がぐらりと傾いた。

「あ……っ、カミールさん!」

 咄嗟に支えた体は異様に軽く、まるで中身が空洞の木偶のようだった。その違和感に眉を顰めたセスは、そこでようやく気が付いた。

(ルパート殿下が、魔法をかけたんだ)

 カミールの呼吸が正常であることを確認し、セスはカミールの体をゆっくりと地面に横たわらせた。

「ルパート殿下、カミールさんに何をなされたのですか」

 震えそうになる体を叱咤し、ルパートに向き直る。
 カミールを庇うように立つセスを興味深そうに見下ろしながら、ルパートは場違いなほどに美しく微笑んだ。

「貴方と二人きりで話してみたくて。安心してください。その者には、少しの間眠ってもらうだけですから」
「……私に、どのようなご用件でしょうか」
「ふふ、そんなに警戒しないでください。僕はただ、アーサーの友人と話がしてみたいだけなんです」

 ルパートはカツカツと靴音を鳴らして、セスとの距離を一気に詰めてきた。

「ひ……っ!」

 本能的に距離を取ろうとしたセスの足に、薔薇の蔓が絡みつく。無数の蔓によって、あっという間に手足を拘束されてしまった。

「あ、な、なに……?」
「怖がらないで。ここに咲く薔薇は品種改良によって棘を奪われているので、触れても痛みを感じませんよ」
「っ……」

 怯えるセスを宥めるように、手袋に覆われたルパートの手のひらがセスの頬を撫でる。
 けれど、その行動とは裏腹に、彼の眼差しは獲物を捉えた蛇のように鋭く獰猛だった。

「セスさん、でしたよね。僕は貴方に興味があるんです。あのアーサーが傍に置くことを許している唯一の人間が、どのような方なのか」
「……見ての通り、私はしがないパン屋の息子です。殿下が私をおそばに置いてださるのは、私が殿下の適合者だからです」
「そうですか……。ですが、アーサーは貴方以外との魔力供給を拒んでいるようですよ。今日も、父上が直々に説得を試みたそうですが、随分とごねているようでして」
「僕以外との、魔力供給……?」

 その可能性を考えなかったわけではない。
 歳を重ねるにつれ、アーサーの魔力は量も質も向上している。その一方で、アーサーはセスに気を遣い、一度の魔力供給で必要以上の魔力をセスに渡そうとはしなかった。
 セスが受け止めきれずにアーサーの中に留まったままの余分な魔力。それを今は自制できているが、いつ暴走してもおかしくはない。
 アーサーの身を案じる国王が、他の適合者との魔力供給を勧めたとしても、なんら不思議ではない。

「貴方ほど相性がいいようではありませんが、アーサーと年も近く、家柄も申し分ないそうです。青い瞳にブロンドの髪の、美しい顔立ちをした少年だとか」

 金髪碧眼の美少年。そう聞いて、セスの頭に一昨日の出来事が過った。
 アーサーのデスクに置かれた一枚の写真と、それを隠そうとするアーサーの姿。確かに、あの写真の人物は、セスとは比べ物にならないほど美しく魅力的だった。

「ああ、そんな顔をなさらないでください」

 ルパートは、セスが傷ついたことを敏感に察知した。いや、セスを傷つけるために、あえてこの話題を選んだのだろう。
 くしゃりと顔を歪めたセスに、ルパートは恍惚とした笑みを浮かべた。

「貴方を泣かせたと知れば、アーサーはどんな顔をするでしょうね」
「っ……どうして、そんな酷いこと、言うんですか」
「酷いだなんて、心外です。ただ気になっただけですよ。いつも澄ました顔をしているアーサーが、大切なモノを傷つけられた時にどんな顔を見せるのか。純粋な、好奇心です」
「っ、僕は、貴方の思惑通りには動きません……!」

 気付けば叫んでいた。
 セスが歯向かってくるとは思っていなかったのか、ルパートは驚いたように目を見開いた。

「へぇ……そんな風に僕を睨みつける人間も珍しい」

 素直に感心したように頷きながらも、ルパートの双眸は冷え切っていた。

「そう言う反抗的な態度も悪くありませんが……躾のなっていない駄犬には、きちんと教育してあげなければ。貴方も、そう思うでしょう?」
「っ……」

 ルパートの指先が、セスの首筋をゆっくりと辿っていく。その指の動きはいやに艶めかしく、ぞわぞわと全身に鳥肌が立った。
 体温を感じさせない冷めた手のひらが、セスの首を包み込む。喉仏に親指が触れ、その形を確かめるように、指の腹が何度も上下する。

「っ、は……」

 息が上手く吸えない。カタカタと震えるセスを見下ろし、ルパートはうっそりと笑った。

「醜い雑種も、こうして見ると可愛らしいものですね」
「っ……!」

 ルパートの唇がゆっくりと近づいてくる。
 キスをされると悟り、セスは固く目を瞑ったが、予想に反して唇へ触れるものはなかった。
 代わりに、慣れ親しんだ温もりがセスの体を包んだ。

「アーサー殿下……っ!」
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