天国の君へ別れを告げて、俺は、彼女と共に行く

タケノコタンク

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7話

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 帰投するとベルタが抱きついてきた。
「宇宙でヘルメット外すなんて、バカ!」
 確信はあったのだ。ああやって隙を作る。
「ごめんね。心配かけた」
 念動力でとっさに透明なヘルメットを構築したのだった。
「こんな戦利品もある」
 俺は、辺境伯の振るっていた宝剣を掲げた。
 先生に貰ったものは折れたもので、この旧式艦に備え付け量産品を使っていた。これなら、代わりになるだろう。
「バカ!」
 それでも抱きしめてくれる。いまさらになって、初めての実戦の恐怖。剣を通した相手を殺したモヤモヤが湧いてくる。
「寒いよ。ベルタ」
「じゃあ」
 彼女と口付けを交わし、熱を取り戻していく。
「カルムに感謝しないと」
「カルム? 灰の騎士様?」
「そう。あいつが剣を通した語らいの中で、噓をつく技術を見せてくれなかったら、ああうまくはいかなかったよ」
 だから、オストメルケル辺境伯は最後までカルムを念動力者ではなく、飛翔の異能持ちだと勘違いしてくれた。
「じゃあ。その内私にも噓をつけるようになったり?」
「そんなことない」
 だから、カルムは学長との一連のやり取りを思い出した。ベルタが読み取って
「浮気者!」
 と叫ぶ。
 そこにおずおずと現れたのは、学長だった。
「その……ベルタさんごめんなさい。マーシャル君を落ち着かせる方法があれしか思いつかなくて」
 ベルタは少し悩んで
「いいですよ……。そうしなかったらアルちゃんは死んでいたかもしれないから」
「そう。ありがとうね。私、生涯マーシャル君を支える覚悟だけど。恋愛的な感情じゃないの」
「わかります。異能で。先生も大変でしたね」
「貴女はこの大変な渦中にクラスFの力で飛び込まなきゃいけない。私よりもずっと過酷な道よ。彼の、天号の従卒って。だから、頑張って。私も精一杯サポートするわ!」
「はい!」
 ベルタは将来的に学長がアルトリウスの副官になると悟り、尊敬を込めて返事した。
 自分のついていけない戦場でのアルトリウスを知る彼女に。

 艦橋へ上がるとレイナがわめいていた。
「この船を共和国の基地に向けるの!」
「そんなこまりますよ! 艦長!」
「レバレッジ予備役曹長! 私には予備役として尉官が与えられている! 発言は慎みたまえ!」
「どっちも予備役なんだから、階級なんてどうでもいいでしょ!」
「貴様!」
 あの温厚な艦長がキレている。学長が仲裁に入った。
「どの道。ホープ078号を送り届けます。軍にね。だから、2人とも矛を収めなさいな」
 この場で一番の権力者の言葉だった。

 アルトリウスは、恋人の熱で生存を確かめていた。
「早く帰りたいなぁ」
「帰って何するの?」
「わかるだろ?」
 もの陰に隠れてキスをした。
「ん。ちょっと帰るまで待って」
「いいじゃんかキスくらい」
「そんなの嫌よ」
 アルトリウスは、恋人をまさぐろうとした。
「へーいいなー。従卒かー。私も欲しかったなー」
 理事長に𠮟られてしょんぼりしたレイナが声をかけて、彼は、ベルタにぶたれる。
「若者の逢瀬を邪魔しないでくださいよ」
「けっ!」
 との調子。ベルタは艦橋に向かってしまった。
「で、なんです? 恋人のいない僻みとかなら、僕は、ベルタを追いかけますけど」
「貴方に頼みがあるのよ」
「頼みぃ?」
「軍の制圧を手伝ってほしいのよ」
「あの辺境伯の手引きをしていた何者かを粛清すると?」
「そう!」
「でもそれってアンタの私怨でしょ? 勝手にやってください」
「証拠だって、捕虜が証言する! 私怨じゃないわ!」
「でしたら、私刑と言い換えます。兎に角、僕は、アンタを迎えに来ただけで、海賊を拿捕しにきたわけじゃない」
「手伝わないなら、貴方の先生なんてやらない!」
 まるで、駄々っ子だ。アルトリウスは、深く息を吐いて
「そんな短慮だから、天号を剝奪されたんですよ」
「なんですって!?」
「やりあいます? 僕は、アンタに大人しく殺されるだけですが」
「は? 貴方なら、私といい勝負になるでしょ? 勝った方の方針にしましょうよ」
「嫌だ。何故か当ててください。10秒でそしたらアンタに賛同しますよ」
「え?」
「10、9」
 アルトリウスは、カウントダウンを始めた。
 やはり、レイナは頭の回転が悪い。そして、他人の意識に鈍感だった。
「……2,1」
 あっという間に10秒は過ぎてしまった。
「正解は、ベルタや学長を殺したくないからですよ。僕たち、クラスAが衝突すればこんな船どうなるかわかるでしょう?」
「ぐうう!」
「それに、私見ですけど。もう解決していると思いますよ」
「何が」
「内通者の問題」
 軍部は事前にこのことを掴んでいるだろうという目算だった。
 軍部というよりも、レイナを自分の専任教官に指名したあの剣士が。

 予想通りと確信したのは、その灰髪を見て学長が少女のような顔で駆けだした時だった。
(すご。今の一瞬理事長、俺よりも速かったや)
 愛の力は常識を凌駕する。
 軍の宇宙ステーションでのことだった。
「閣下。閣下ぁ!」
 学長は、完全に女の顔でカルムの胸に顔をうずめた。
 流石のカルムも予想外で締め付けられて顔が赤くなっていた。
 彼の従卒は冷ややかな視線を理事長とカルムに送っていた。
「うーわーきーもーのー」
 と、棒読みであった。
 彼女とカルムの距離感は自分と異なるのだと、アルトリウスは、悟る。

 指令室にアルトリウスは、一人で呼び出された。
「レイナ・レバレッジの回収ご苦労」
「やっぱりアンタが裏で糸を引いてたか。いくらなんでも、軍が民間船の探索をしないって可笑しいと思ってたんだ」
 カルムは司令官の机に肘をついた。
「そういうこと。本来なら、レイナが自分で気が付いて対処することだったんだけどね。彼女には君や俺のように可笑しいと思う俯瞰の視点はないからね」
「元々、彼女の管轄は外から見て腐敗していたわけだ」
「そういうこと」
 アルトリウスは、人口重力でカップに入った紅茶をすすった。
「なんでそんな無能が俺の先生かねぇ」
 アルトリウスは子供の頃の先生とレイナを比較した。
 先生と慕う彼女はクラスBであるが、アルトリウスに情緒と剣技を教えてくれた。
 対して、レイナはどうだろうか。短慮で剣技でもアルトリウスに劣る。
「けれど、彼女は天号の技を示しただろう? 異能を自らの体に行使。閃光そのものとなって、敵を討った」
「人の思考を読むなよ。ベルタだけだ。それをやっていいのは」
「すまんね」
 つまり、カルムは、アルトリウスが己の異能念動力で体を構成する技を身に着けさせようとしているのだ。
「アンタもやってたな。体を灰にするって奴」
「レイナは……馬鹿だけど。その感覚を身につけているから、俺は、彼女に白羽の矢をたてたわけ」
 カルムは席を立ち、宇宙を見た。
「天号には様々なものが求められる。クラスAの上澄みの力。生き残る運、戦略、戦術眼、そして、我が身を異能で構成する技」
「そんな素質が俺にあるかね」
「あるよ。君の剣技が俺にそう教えた。そして、いつか。君は俺と肩を並べ、追い越すことだろう」
「ふーん」
「それに、リウちゃん……学長やレイナは君の部下になる予定だし」
「え」
「若しくは君からレイナが欠けている戦略的思考や思慮を身につけてくれれば御の字だ」
「それは……」
 天号になるか、レイナを天号に戻すか。どちらが楽かアルトリウスは考えて
「わかったよ。俺は、天号になるよ」
 カルムは見込んだ若者が順調に前を見たことに笑みを返した。

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