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6話
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レイナ・レバレッジは小惑星帯の陰からそれを伺っていた。
全長数十メートルのシャトルを収容した宇宙港。
(こんな宙域に公式の宇宙港はない。噂されていた海賊ってやつ?)
彼女は長年染みついた勘によって、シャトルに異常が起きたことを僅かな音から感知した。そして、天号時代から愛用し持ち込んだ戦闘用宇宙服を着てひっそりと脱出したのだ。
(民間人を見捨てて自分の安全を確保する……。こういう無意識の行動が天号にふさわしくないんだろうな)
また、こういった予想外のトラブルに巻き込まれやすいことも、関係している。
(私の生存は首輪が軍に伝えているだろうけど。……。散々迷惑をかけた軍が天号のない私を惜しむとも思えない)
彼女は、軍隊の腐敗を少しずつ感じ取っていた。
(共和国と帝国。2つの勢力が銀河の覇権を争っているけど。膠着状態が長いから)
膠着状態というのも長い寿命を持つソルジャーズからの視点で、普通の人々からは冷戦状態、平和が訪れていると捉えられている。
(生身で、どこかのステーションに向かうなんて自殺行為。他の乗客だって、助けないと)
彼女は、デブリや小惑星を蹴りながら、泳ぐように宇宙港へ向かった。
「へぇ。すごいや」
アルトリウスは、その艦艇の座席を撫でた。
無重力の感覚と共に。
「軍の払い下げの旧式艦。貴方達、第3教導院の学生は将来、皆軍人になるのだからこの程度の設備は揃えていて当然のこと」
「それを動かせるスタッフまで込みなんですね」
アルトリウスは、計器類を弄る乗組員たちを指示した。
「君が、アルトリウス君だね」
艦長席から声をかけられた。
「あ、はい。艦長さん」
「目標宙域まで、我々がエスコートするがね。我々は君や学長のように高位のソルジャーズではないから、白兵戦の手駒とは考えないでくれたまえ」
「えぇ。艦長さんでもクラスⅮってところですよね。……幾つかお願いがあるんですけどいいですか?」
「あぁ、構わないが」
「僕のことはマーシャルって呼んでください。嫌いなんですよ。アルトリウスって名前が」
「了解した。他には」
「着いてきているベルタは、クラスFで経験、教育が乏しい。船に残すので、どうか。宜しくお願い致します」
「あぁ。わかったよ」
「それくらいです。詳しいことは、学長から聞いてください」
そう言って、アルトリウスは学長とバトンタッチした。
レイナ・レバレッジは宇宙港へ潜入すると、闇に紛れ様子を伺った。
具体的にはダクト内部から、気配を殺して宇宙港内部の恐らく海賊連中の会話を盗み聞きしていた。
「しかし、船一隻盗んでどうするんですか?」
「宇宙船を利用している連中ってのは、銀河を股に駆けるサラリーマンか、バカンスを楽しむような富裕層が殆どだ」
「だから、金目のものをたんまり持ってる?」
「かもしれない」
「でも金目のものって言っても、俺たちみたいな首輪なしと取り合ってくれる連中なんていないでしょ」
「共和国の中ならな」
(ソルジャーズ。けど、あいつらは何らかの方法で首輪を外し共和国の追跡を逃れている? しかも共和国以外の何者かと取引……帝国か!)
「名簿と人数が合わないって、下の連中言ってましたね。誰かが逃げたんすかね」
「かもしれないが。この暗唱だ。生きているわけがない」
(ま、ソルジャーズ、それも、クラスAが乗ってるなんて思わないよね)
レイナは更に奥へと潜っていく。
(首輪外し。それをできるのは、天号クラスのソルジャーズだけだ)
アルトリウスが首輪と同じ素材の剣を敢えて叩き切らせたように。
「光学カメラで補足しました。宇宙港があります!」
「学長! マーシャル君! 恐らく海賊の拠点です! お2人は我々がひきつけている間にレバレッジ殿の探索を!」
アルトリウスたちは無言でうなずくと宇宙服のヘルメットを被った。
『アルちゃん気を付けてね』
『うん』
思念でパートナーと会話して、艦砲射撃に合わせて虚空へ飛び出した。
(艦砲射撃!? 今までこの基地を放置しておいて今更?)
足元の揺れをそう分析した。
レイナはダクトの中で海賊たちの声を聞いた。
「旧式の軍艦がこっちに発砲してる!」
「どこの所属だ! このあたりの共和国軍とは話が付いてるんだろ!?」
(なっ!?)
腐敗しているとは思っていたがまさかここまでとは。
(海賊と取引をしているのは共和国軍の誰か! この宙域は誰の管轄? ……あ)
レイナは思い出した。
(私だ……。つまり、私の部下だった何者か。あのいけ好かない中佐か! くそ! 天号を剝奪して、私の監視を逃れて好き放題やってんな!?)
レイナは決意した。あの中佐を絶対に裁くと。
(でも、首輪の件は? 私の知らない天号クラスのソルジャーズがやっぱりコイツらの首魁のはず。というか、この艦砲射撃は誰?)
わからないまま、彼女は今しばらく事態を静観する。
本来、いくらソルジャーズとはいえ、ただの宇宙服で単身宇宙空間に出るというのは無謀な行為である。その、危険な作戦行動を可能としているのは、アルトリウスと学長の技量に加えて、アルトリウスの念動力というほぼ万能の能力による。
母艦から見て宇宙港に対して、大きく迂回する形で取りついた。
『マーシャル君! 海賊船が!』
学長の指示を受けてクラスAの速度で、発進する宇宙船群の1つに取り付く。
その艦艇が砲身を母艦に向けるよりも早く船底から、切り裂いた。
(これが、俺の始めての人殺しか)
とっくに覚悟を決めていたことだ。宇宙船から爆発と共に生身で放り出された敵を、見つめながら、次の標的へ飛び移る。
ダクトから見た海賊たちの様子は蜘蛛の巣を突いたものそのものだった。
「戦艦がやられた!」
「馬鹿な! 向こうはたった1隻のはずだ!」
「ソルジャーズだよ! 頭のイカれた奴が発進するそばから取りついて沈めているんだ!」
「いくらソルジャーズでも、そんなこと!」
「クラスAなんだろう! 誰も反応できてない!」
「クラスA!?」
「それに、もう1人。そっちも相当高位のソルジャーズだ!」
(クラスAにクラスB? 共和国の懲罰部隊か? いずれにしても味方……かなぁ)
レイナは急に不安になってきた。何しろ、この宇宙港は、レイナが天号としての職務を全うできなかった結果である。懲罰部隊だとしたら、彼らの矛先はレイナに向けられる可能性があるのだ。
(ま、まずい! 兎に角、黒幕を見つけて始末しないと!)
この混乱の最中だ。海賊たちを鎮める為に首魁が現れることだろう。
学長は、アルトリウスの仕留めそこなったソルジャーズを始末しながら関心していた。
(これ。仕留めそこなったんじゃないな。効率的に戦艦を落とすために私に投げているんだ)
ソルジャーズの白兵戦の基礎として、高クラスのソルジャーズ1人にワンランク劣るソルジャーズ2人を補佐につける楔形陣形がある。
その戦術の目的は、高クラスソルジャーズが攪乱した敵を補佐する2人が仕留めることで確実な戦果を挙げるというものだ。高クラスソルジャーズ2人を集めるよりも、格下のソルジャーズ2人を集める方が容易いので兵科単位を組みやすいという利点もある。
アルトリウスのやっている戦艦狩りはそれの応用だった。
アルトリウスが大雑把に艦艇に損害を与え、その露払いを学長が行う。
(感覚で戦場のセオリーがわかるのか)
天号には、ソルジャーズで構成される旅団の指揮を任される。その為、単一の能力に加えて、戦術的、そして、戦略的な視座が求められるのだ。
(カルム閣下が彼に天号の素質があると言ったのは、クラスAの上澄みの能力に加えて、指揮官に求められる才能の片鱗を、剣戟を通して感じ取ったからか)
とは言え、アルトリウスには実戦の経験はないし、これからどうやって、戦略的な視点を鍛えるかなどと考えつつ敵を切る。
艦艇の出撃が納まり、海賊たちが籠城に走り始めた。
アルトリウスと学長はたった2人で小規模ではあるが艦隊に勝利したのだった。
アルトリウスに触れた学長は彼の肩が震えていることに気がつく。
初めての人殺しの時間が落ち着きを見せたのだ。命を奪った恐怖が今さらになって、押し寄せてきたのだろう。
「マーシャル君?」
一先ず、肩に手を置く。
「気持ちはわかるわ。それは、優秀なソルジャーズなら誰だって経験することだから。落ち着く為に、先ずは揚陸しましょう。地に足がつけば少しは落ち着くはずです」
「はい」
またアルトリウスが異能を発動し、音もなく彼らは宇宙港に降り立った。
学長は、要塞内に空気があると確認するとヘルメットを外した。金糸の髪がほどかれるように広がる。
「学長? 穴でも空いたら」
学長はアルトリウスを物陰に引き込んだ。
「何を!?」
それは、格上のソルジャーズの不意を突く見事な脚運びだった。
アルトリウスを押し倒した学長は
「黙って」
そう言って、アルトリウスのヘルメットを外す。
学長の指がアルトリウスの指に絡まった。
「……生徒に手を出すんですか? この状況で」
「これは必要なことよ」
学長は改めて、アルトリウスの顔色の悪さを把握した。
「やっぱりメンタルやられてるでしょ」
「……そりゃあ。いっぱい殺したから」
学長はアルトリウスの額に己の額を当てた。
「いい? これは決して貴方に発情したからとか、馬鹿な理由でやっていることではないの」
「じゃあ……」
「貴方が殺した乗組員たち見たでしょ。ソルジャーズの」
アルトリウスは、学長の額の熱を感じながら頷いた。
「彼らは首輪をしていなかったわ。それが、何を意味するかわかる?」
「あいつらは、あいつらの断末魔は共和国の公用語だった。それで首輪が外されていたってことは」
「一般に最上級のクラスAのソルジャーズですら、首輪は壊せない。それを壊せるのは普通のソルジャーズを超えたクラスAの真の上澄み、天号クラスだけよ」
学長は絡めた指をほどきアルトリウスの上半身を抱いた。
「だから、この海賊たちの黒幕は貴方と同じ天号の素質を持つもの。そんな調子では困るのよ。私は、貴方の生存の為にも貴方に平常心を取り戻してもらわないといけない」
「俺の、生存?」
「そう。カルム閣下が託した貴方の成長を見届ける義務が私にはあるから。だから、これは貴方への好意や下心ではないの。私も、貴方も生き残る為に必要なこと」
アルトリウスは冷たい宇宙に投げ出された海賊たちの断末魔を思い出していた。
「やっと、実感した。俺の手にはベルタや委員長やミチル。そして、リリーの命を簡単に奪える力があるって。だから、今さらになって怖くなったんだ。そんな自分が」
「その怖さは、高位のソルジャーズならいずれ通る道よ。私も、初めて実戦で敵を殺したときには同じような恐怖を味わったわ。貴方よりも、持ってる力は小さくてもね」
学長は更にアルトリウスを抱く力を強くした。
「わかる? 今、私はクラスBの力を全力で使って貴方を抱きしめてる。格下の連中ならこれだけで破裂して死んでしまうような」
アルトリウスには、それは、心地いい程度の強さだったが、それが、一層己の潜在能力への恐怖を搔き立てた。
「皆、貴方の言った委員長や、ミチルも、皆がいずれは通るの。世界の大半は、私たちには脆いものだって。だから安心して」
「でも、俺がアンタを全力で抱きしめたら、アンタは簡単に死んでしまうってことだろ? そんなの、怖いよ」
アルトリウスは涙をこぼした。無重力だから、それは、頬を伝わず、水の玉とって流れていった。
「ごめんなさい。私はベルタさんじゃないから。貴方の心を理解して一瞬で傷を塞ぐことはできないわ。だから、自問自答して。その間、私はこうして鼓動を伝えてはやれるから」
アルトリウスは学長と同じくらいの力。彼女を傷つけない程度の力で抱き返した。
「カルム閣下と同じで。貴方は優しいわね。ううん。きっと、貴方はベルタさんや生きていたら妹さんだって同じように抱きしめることができる。それは、私にはできないとても凄いことよ。私には精々クラスCまでにしかそうしてあげることはできない。貴方の力は貴方の制御下にあるから。だから、貴方は貴方の大切なものを壊してしまうことはない。決してね」
学長は、将来アルトリウスが自分の上司になると踏んでいた。なぜなら、彼を補佐できるクラスBの能力を持っていて、実戦の中のアルトリウスを最も知ってしまったのは自分だから。
彼を中心とした未来の軍の編成に、自分は腹心として組み込まれるだろうと。
だから、学長はアルトリウスを一生支える覚悟を決めて、示そうとしている。
アルトリウスの心を支配していた恐怖と緊張がゆっくりとほどかれていった。
全長数十メートルのシャトルを収容した宇宙港。
(こんな宙域に公式の宇宙港はない。噂されていた海賊ってやつ?)
彼女は長年染みついた勘によって、シャトルに異常が起きたことを僅かな音から感知した。そして、天号時代から愛用し持ち込んだ戦闘用宇宙服を着てひっそりと脱出したのだ。
(民間人を見捨てて自分の安全を確保する……。こういう無意識の行動が天号にふさわしくないんだろうな)
また、こういった予想外のトラブルに巻き込まれやすいことも、関係している。
(私の生存は首輪が軍に伝えているだろうけど。……。散々迷惑をかけた軍が天号のない私を惜しむとも思えない)
彼女は、軍隊の腐敗を少しずつ感じ取っていた。
(共和国と帝国。2つの勢力が銀河の覇権を争っているけど。膠着状態が長いから)
膠着状態というのも長い寿命を持つソルジャーズからの視点で、普通の人々からは冷戦状態、平和が訪れていると捉えられている。
(生身で、どこかのステーションに向かうなんて自殺行為。他の乗客だって、助けないと)
彼女は、デブリや小惑星を蹴りながら、泳ぐように宇宙港へ向かった。
「へぇ。すごいや」
アルトリウスは、その艦艇の座席を撫でた。
無重力の感覚と共に。
「軍の払い下げの旧式艦。貴方達、第3教導院の学生は将来、皆軍人になるのだからこの程度の設備は揃えていて当然のこと」
「それを動かせるスタッフまで込みなんですね」
アルトリウスは、計器類を弄る乗組員たちを指示した。
「君が、アルトリウス君だね」
艦長席から声をかけられた。
「あ、はい。艦長さん」
「目標宙域まで、我々がエスコートするがね。我々は君や学長のように高位のソルジャーズではないから、白兵戦の手駒とは考えないでくれたまえ」
「えぇ。艦長さんでもクラスⅮってところですよね。……幾つかお願いがあるんですけどいいですか?」
「あぁ、構わないが」
「僕のことはマーシャルって呼んでください。嫌いなんですよ。アルトリウスって名前が」
「了解した。他には」
「着いてきているベルタは、クラスFで経験、教育が乏しい。船に残すので、どうか。宜しくお願い致します」
「あぁ。わかったよ」
「それくらいです。詳しいことは、学長から聞いてください」
そう言って、アルトリウスは学長とバトンタッチした。
レイナ・レバレッジは宇宙港へ潜入すると、闇に紛れ様子を伺った。
具体的にはダクト内部から、気配を殺して宇宙港内部の恐らく海賊連中の会話を盗み聞きしていた。
「しかし、船一隻盗んでどうするんですか?」
「宇宙船を利用している連中ってのは、銀河を股に駆けるサラリーマンか、バカンスを楽しむような富裕層が殆どだ」
「だから、金目のものをたんまり持ってる?」
「かもしれない」
「でも金目のものって言っても、俺たちみたいな首輪なしと取り合ってくれる連中なんていないでしょ」
「共和国の中ならな」
(ソルジャーズ。けど、あいつらは何らかの方法で首輪を外し共和国の追跡を逃れている? しかも共和国以外の何者かと取引……帝国か!)
「名簿と人数が合わないって、下の連中言ってましたね。誰かが逃げたんすかね」
「かもしれないが。この暗唱だ。生きているわけがない」
(ま、ソルジャーズ、それも、クラスAが乗ってるなんて思わないよね)
レイナは更に奥へと潜っていく。
(首輪外し。それをできるのは、天号クラスのソルジャーズだけだ)
アルトリウスが首輪と同じ素材の剣を敢えて叩き切らせたように。
「光学カメラで補足しました。宇宙港があります!」
「学長! マーシャル君! 恐らく海賊の拠点です! お2人は我々がひきつけている間にレバレッジ殿の探索を!」
アルトリウスたちは無言でうなずくと宇宙服のヘルメットを被った。
『アルちゃん気を付けてね』
『うん』
思念でパートナーと会話して、艦砲射撃に合わせて虚空へ飛び出した。
(艦砲射撃!? 今までこの基地を放置しておいて今更?)
足元の揺れをそう分析した。
レイナはダクトの中で海賊たちの声を聞いた。
「旧式の軍艦がこっちに発砲してる!」
「どこの所属だ! このあたりの共和国軍とは話が付いてるんだろ!?」
(なっ!?)
腐敗しているとは思っていたがまさかここまでとは。
(海賊と取引をしているのは共和国軍の誰か! この宙域は誰の管轄? ……あ)
レイナは思い出した。
(私だ……。つまり、私の部下だった何者か。あのいけ好かない中佐か! くそ! 天号を剝奪して、私の監視を逃れて好き放題やってんな!?)
レイナは決意した。あの中佐を絶対に裁くと。
(でも、首輪の件は? 私の知らない天号クラスのソルジャーズがやっぱりコイツらの首魁のはず。というか、この艦砲射撃は誰?)
わからないまま、彼女は今しばらく事態を静観する。
本来、いくらソルジャーズとはいえ、ただの宇宙服で単身宇宙空間に出るというのは無謀な行為である。その、危険な作戦行動を可能としているのは、アルトリウスと学長の技量に加えて、アルトリウスの念動力というほぼ万能の能力による。
母艦から見て宇宙港に対して、大きく迂回する形で取りついた。
『マーシャル君! 海賊船が!』
学長の指示を受けてクラスAの速度で、発進する宇宙船群の1つに取り付く。
その艦艇が砲身を母艦に向けるよりも早く船底から、切り裂いた。
(これが、俺の始めての人殺しか)
とっくに覚悟を決めていたことだ。宇宙船から爆発と共に生身で放り出された敵を、見つめながら、次の標的へ飛び移る。
ダクトから見た海賊たちの様子は蜘蛛の巣を突いたものそのものだった。
「戦艦がやられた!」
「馬鹿な! 向こうはたった1隻のはずだ!」
「ソルジャーズだよ! 頭のイカれた奴が発進するそばから取りついて沈めているんだ!」
「いくらソルジャーズでも、そんなこと!」
「クラスAなんだろう! 誰も反応できてない!」
「クラスA!?」
「それに、もう1人。そっちも相当高位のソルジャーズだ!」
(クラスAにクラスB? 共和国の懲罰部隊か? いずれにしても味方……かなぁ)
レイナは急に不安になってきた。何しろ、この宇宙港は、レイナが天号としての職務を全うできなかった結果である。懲罰部隊だとしたら、彼らの矛先はレイナに向けられる可能性があるのだ。
(ま、まずい! 兎に角、黒幕を見つけて始末しないと!)
この混乱の最中だ。海賊たちを鎮める為に首魁が現れることだろう。
学長は、アルトリウスの仕留めそこなったソルジャーズを始末しながら関心していた。
(これ。仕留めそこなったんじゃないな。効率的に戦艦を落とすために私に投げているんだ)
ソルジャーズの白兵戦の基礎として、高クラスのソルジャーズ1人にワンランク劣るソルジャーズ2人を補佐につける楔形陣形がある。
その戦術の目的は、高クラスソルジャーズが攪乱した敵を補佐する2人が仕留めることで確実な戦果を挙げるというものだ。高クラスソルジャーズ2人を集めるよりも、格下のソルジャーズ2人を集める方が容易いので兵科単位を組みやすいという利点もある。
アルトリウスのやっている戦艦狩りはそれの応用だった。
アルトリウスが大雑把に艦艇に損害を与え、その露払いを学長が行う。
(感覚で戦場のセオリーがわかるのか)
天号には、ソルジャーズで構成される旅団の指揮を任される。その為、単一の能力に加えて、戦術的、そして、戦略的な視座が求められるのだ。
(カルム閣下が彼に天号の素質があると言ったのは、クラスAの上澄みの能力に加えて、指揮官に求められる才能の片鱗を、剣戟を通して感じ取ったからか)
とは言え、アルトリウスには実戦の経験はないし、これからどうやって、戦略的な視点を鍛えるかなどと考えつつ敵を切る。
艦艇の出撃が納まり、海賊たちが籠城に走り始めた。
アルトリウスと学長はたった2人で小規模ではあるが艦隊に勝利したのだった。
アルトリウスに触れた学長は彼の肩が震えていることに気がつく。
初めての人殺しの時間が落ち着きを見せたのだ。命を奪った恐怖が今さらになって、押し寄せてきたのだろう。
「マーシャル君?」
一先ず、肩に手を置く。
「気持ちはわかるわ。それは、優秀なソルジャーズなら誰だって経験することだから。落ち着く為に、先ずは揚陸しましょう。地に足がつけば少しは落ち着くはずです」
「はい」
またアルトリウスが異能を発動し、音もなく彼らは宇宙港に降り立った。
学長は、要塞内に空気があると確認するとヘルメットを外した。金糸の髪がほどかれるように広がる。
「学長? 穴でも空いたら」
学長はアルトリウスを物陰に引き込んだ。
「何を!?」
それは、格上のソルジャーズの不意を突く見事な脚運びだった。
アルトリウスを押し倒した学長は
「黙って」
そう言って、アルトリウスのヘルメットを外す。
学長の指がアルトリウスの指に絡まった。
「……生徒に手を出すんですか? この状況で」
「これは必要なことよ」
学長は改めて、アルトリウスの顔色の悪さを把握した。
「やっぱりメンタルやられてるでしょ」
「……そりゃあ。いっぱい殺したから」
学長はアルトリウスの額に己の額を当てた。
「いい? これは決して貴方に発情したからとか、馬鹿な理由でやっていることではないの」
「じゃあ……」
「貴方が殺した乗組員たち見たでしょ。ソルジャーズの」
アルトリウスは、学長の額の熱を感じながら頷いた。
「彼らは首輪をしていなかったわ。それが、何を意味するかわかる?」
「あいつらは、あいつらの断末魔は共和国の公用語だった。それで首輪が外されていたってことは」
「一般に最上級のクラスAのソルジャーズですら、首輪は壊せない。それを壊せるのは普通のソルジャーズを超えたクラスAの真の上澄み、天号クラスだけよ」
学長は絡めた指をほどきアルトリウスの上半身を抱いた。
「だから、この海賊たちの黒幕は貴方と同じ天号の素質を持つもの。そんな調子では困るのよ。私は、貴方の生存の為にも貴方に平常心を取り戻してもらわないといけない」
「俺の、生存?」
「そう。カルム閣下が託した貴方の成長を見届ける義務が私にはあるから。だから、これは貴方への好意や下心ではないの。私も、貴方も生き残る為に必要なこと」
アルトリウスは冷たい宇宙に投げ出された海賊たちの断末魔を思い出していた。
「やっと、実感した。俺の手にはベルタや委員長やミチル。そして、リリーの命を簡単に奪える力があるって。だから、今さらになって怖くなったんだ。そんな自分が」
「その怖さは、高位のソルジャーズならいずれ通る道よ。私も、初めて実戦で敵を殺したときには同じような恐怖を味わったわ。貴方よりも、持ってる力は小さくてもね」
学長は更にアルトリウスを抱く力を強くした。
「わかる? 今、私はクラスBの力を全力で使って貴方を抱きしめてる。格下の連中ならこれだけで破裂して死んでしまうような」
アルトリウスには、それは、心地いい程度の強さだったが、それが、一層己の潜在能力への恐怖を搔き立てた。
「皆、貴方の言った委員長や、ミチルも、皆がいずれは通るの。世界の大半は、私たちには脆いものだって。だから安心して」
「でも、俺がアンタを全力で抱きしめたら、アンタは簡単に死んでしまうってことだろ? そんなの、怖いよ」
アルトリウスは涙をこぼした。無重力だから、それは、頬を伝わず、水の玉とって流れていった。
「ごめんなさい。私はベルタさんじゃないから。貴方の心を理解して一瞬で傷を塞ぐことはできないわ。だから、自問自答して。その間、私はこうして鼓動を伝えてはやれるから」
アルトリウスは学長と同じくらいの力。彼女を傷つけない程度の力で抱き返した。
「カルム閣下と同じで。貴方は優しいわね。ううん。きっと、貴方はベルタさんや生きていたら妹さんだって同じように抱きしめることができる。それは、私にはできないとても凄いことよ。私には精々クラスCまでにしかそうしてあげることはできない。貴方の力は貴方の制御下にあるから。だから、貴方は貴方の大切なものを壊してしまうことはない。決してね」
学長は、将来アルトリウスが自分の上司になると踏んでいた。なぜなら、彼を補佐できるクラスBの能力を持っていて、実戦の中のアルトリウスを最も知ってしまったのは自分だから。
彼を中心とした未来の軍の編成に、自分は腹心として組み込まれるだろうと。
だから、学長はアルトリウスを一生支える覚悟を決めて、示そうとしている。
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