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第1章
5~6話
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5話:闇の中の疑念
車は、街灯すらない真っ暗な山道をひたすら進んだ。窓の外は漆黒の闇に包まれ、ヘッドライトの光だけが、うっすらと前方の道を照らし出す。
どこに向かっているのかも分からない状況に、健太との会話で和らいだはずの不安が、再び俺の胸を締め付け始めた。
「なあ、これ、マジでどこ行くんだ?」
健太が不安そうに呟く。俺も同じことを考えていた。この道は、合宿所へ向かう道というよりは、どこか深い森の奥へと誘い込むような不気味さがあった。
その時、俺の脳裏に、先日目にしたニュース記事のことがよぎった。人身売買。そして、闇取引される臓器売買の報道。そんなものが、こんな山奥で、自分たちの身に起こるかもしれない……?
「おい、まさか、ここって……」
俺は、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。参加条件にあった〇ニスサイズの記入。あの主催者の、妙に値踏みするような視線。そして、この人気のない真夜中の山道。全てが、不穏なピースとなって繋がっていくような気がした。
俺は18歳。まだ未成年だ。もし、もしも本当にそんなことがあったら……。
「……冗談だよな? そんなわけ、ないよな……?」
健太の声も、明らかに震えていた。俺たち二人は、視線を交わし、顔を青ざめさせる。車内の他の参加者たちも、窓の外の闇に押し黙り、同じような不安を感じているようだった。
心臓がドクドクと音を立てる。呼吸が浅くなる。俳優になりたいという夢が、一瞬で恐怖に塗り替えられていく。逃げ出したい。でも、どこに? この真っ暗な山の中で、一体どこへ?
どれくらいの時間が経っただろうか。永遠にも感じられる闇のドライブの末、車のヘッドライトが、不気味な建物の全貌を照らし出した。
それは、まるで時間が止まったかのように朽ちた、巨大な建物だった。ところどころガラスが割れ、外壁は雨風に晒されてくすんでいる。「レ・アムール」と書かれたネオンはひび割れ、かろうじてその文字を読み取れる程度だ。
「……マジかよ」
健太が呆然と呟いた。俺も同じ気持ちだった。
そこは、紛れもない廃ラブホテルだった。
車が完全に停止すると、主催者が振り向いた。その顔には、闇の中でもはっきりと見て取れる、薄気味悪い笑みが浮かんでいた。
「ようこそ、諸君。ここが、君たちが未来のスターへと生まれ変わる場所だ」
彼の声は、ひどく耳に響いた。俺は、この合宿が、想像を遥かに超える「怪しさ」と「異常さ」を孕んでいることを、この目で、この肌で、はっきりと感じ取ったのだった。
6話:廃ラブホテルでの自己紹介
「……廃ラブホテル?」
「冗談だろ……ここが合宿所ってか?」
車内には、参加者たちの戸惑いと、俺とタカシが感じていた恐怖が混じったような、小さなどよめきが広がった。
誰もが信じられないといった表情で、目の前の朽ちた建物を見上げている。窓ガラスは黒ずみ、所々破れていて、昼間ならまだしも、この真夜中に見るとまるで幽霊屋敷のようだ。
そんな俺たちの反応をまるで意に介さないかのように、主催者は車のドアを開け、ゆっくりと外に出た。
「はい、諸君! 整列!」
主催者の声が、闇に吸い込まれるように響いた。その声には、有無を言わせぬ強い圧があった。
俺たちは互いに顔を見合わせながらも、言われるがままに車を降り、廃ラブホテルのエントランス前で一列に並んだ。夜風が肌を刺すように冷たい。
「さあ、まずは簡単な自己紹介から始めようか。お互いの顔と名前を覚えるのは、共に高みを目指す上で基本中の基本だからね。では、私から」
主催者は、にこやかに、しかし一切の隙を見せない表情で話し始めた。
「私がこの合宿の主催を務める、九条 雅人(くじょう まさと)だ。演技とは何か、表現とは何か。その本質を、この合宿で諸君に叩き込んでいく。覚悟しておきたまえ」
九条雅人……。その名前は、どこか高貴な響きがあるが、口元に浮かんだ薄い笑みは、闇夜に潜む蛇のように不気味だった。
「では、右端の君から」へ
九条に促され、俺の隣に立っていた健太が前に一歩踏み出した。
「えー……高橋 健太(たかはし けんた)です。18歳です。俳優になりたくて来ました。よろしくお願いします!」
タカシは意外にも堂々とした声で自己紹介を終え、軽く頭を下げた。続いてその隣の男が前に出る。
「鈴木 亮太(すずき りょうた)です。17歳です。役者目指してます。頑張ります!」
鈴木は、少し緊張した面持ちで、はきはきと自己紹介した。背は高めだが、まだあどけなさが残る顔だ。
次に前に出たのは、ガタイのいい男だった。
「どうも。田中 剛(たなか ごう)っす。19歳です。アクション俳優になりたくて。よろしくお願いします」
田中は、まるで役者のセリフのような低い声で自己紹介した。体格もがっしりしていて、確かにアクション俳優を目指していそうだ。
そして、俺の番だ。九条の視線が、真っ直ぐに俺に向けられた。
「藤原 ハルキ(ふじわら はるき)です。18歳です。演技が大好きで、俳優になるために、ここに来ました。よろしくお願いします!」
俺は精一杯の声でそう言い切った。九条は俺の自己紹介を聞き終えると、またあの値踏みするような目で俺を見た。
参加者は俺を含めてたった5人。予想よりもずっと少ない人数だった。この廃ラブホテルで、この5人と九条雅人という謎の男と共に、俺たちの夏が始まるのか。
九条は全員の自己紹介が終わると、満足げに頷いた。
「よし。これで全員の顔と名前は把握した。素晴らしい意気込みだ。では、早速だが……諸君にはこれから、このホテルのどこかの部屋を使ってもらう」
九条の言葉に、俺たちは息をのんだ。
この廃ラブホテルで、一体何が始まるのだろうか?
車は、街灯すらない真っ暗な山道をひたすら進んだ。窓の外は漆黒の闇に包まれ、ヘッドライトの光だけが、うっすらと前方の道を照らし出す。
どこに向かっているのかも分からない状況に、健太との会話で和らいだはずの不安が、再び俺の胸を締め付け始めた。
「なあ、これ、マジでどこ行くんだ?」
健太が不安そうに呟く。俺も同じことを考えていた。この道は、合宿所へ向かう道というよりは、どこか深い森の奥へと誘い込むような不気味さがあった。
その時、俺の脳裏に、先日目にしたニュース記事のことがよぎった。人身売買。そして、闇取引される臓器売買の報道。そんなものが、こんな山奥で、自分たちの身に起こるかもしれない……?
「おい、まさか、ここって……」
俺は、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。参加条件にあった〇ニスサイズの記入。あの主催者の、妙に値踏みするような視線。そして、この人気のない真夜中の山道。全てが、不穏なピースとなって繋がっていくような気がした。
俺は18歳。まだ未成年だ。もし、もしも本当にそんなことがあったら……。
「……冗談だよな? そんなわけ、ないよな……?」
健太の声も、明らかに震えていた。俺たち二人は、視線を交わし、顔を青ざめさせる。車内の他の参加者たちも、窓の外の闇に押し黙り、同じような不安を感じているようだった。
心臓がドクドクと音を立てる。呼吸が浅くなる。俳優になりたいという夢が、一瞬で恐怖に塗り替えられていく。逃げ出したい。でも、どこに? この真っ暗な山の中で、一体どこへ?
どれくらいの時間が経っただろうか。永遠にも感じられる闇のドライブの末、車のヘッドライトが、不気味な建物の全貌を照らし出した。
それは、まるで時間が止まったかのように朽ちた、巨大な建物だった。ところどころガラスが割れ、外壁は雨風に晒されてくすんでいる。「レ・アムール」と書かれたネオンはひび割れ、かろうじてその文字を読み取れる程度だ。
「……マジかよ」
健太が呆然と呟いた。俺も同じ気持ちだった。
そこは、紛れもない廃ラブホテルだった。
車が完全に停止すると、主催者が振り向いた。その顔には、闇の中でもはっきりと見て取れる、薄気味悪い笑みが浮かんでいた。
「ようこそ、諸君。ここが、君たちが未来のスターへと生まれ変わる場所だ」
彼の声は、ひどく耳に響いた。俺は、この合宿が、想像を遥かに超える「怪しさ」と「異常さ」を孕んでいることを、この目で、この肌で、はっきりと感じ取ったのだった。
6話:廃ラブホテルでの自己紹介
「……廃ラブホテル?」
「冗談だろ……ここが合宿所ってか?」
車内には、参加者たちの戸惑いと、俺とタカシが感じていた恐怖が混じったような、小さなどよめきが広がった。
誰もが信じられないといった表情で、目の前の朽ちた建物を見上げている。窓ガラスは黒ずみ、所々破れていて、昼間ならまだしも、この真夜中に見るとまるで幽霊屋敷のようだ。
そんな俺たちの反応をまるで意に介さないかのように、主催者は車のドアを開け、ゆっくりと外に出た。
「はい、諸君! 整列!」
主催者の声が、闇に吸い込まれるように響いた。その声には、有無を言わせぬ強い圧があった。
俺たちは互いに顔を見合わせながらも、言われるがままに車を降り、廃ラブホテルのエントランス前で一列に並んだ。夜風が肌を刺すように冷たい。
「さあ、まずは簡単な自己紹介から始めようか。お互いの顔と名前を覚えるのは、共に高みを目指す上で基本中の基本だからね。では、私から」
主催者は、にこやかに、しかし一切の隙を見せない表情で話し始めた。
「私がこの合宿の主催を務める、九条 雅人(くじょう まさと)だ。演技とは何か、表現とは何か。その本質を、この合宿で諸君に叩き込んでいく。覚悟しておきたまえ」
九条雅人……。その名前は、どこか高貴な響きがあるが、口元に浮かんだ薄い笑みは、闇夜に潜む蛇のように不気味だった。
「では、右端の君から」へ
九条に促され、俺の隣に立っていた健太が前に一歩踏み出した。
「えー……高橋 健太(たかはし けんた)です。18歳です。俳優になりたくて来ました。よろしくお願いします!」
タカシは意外にも堂々とした声で自己紹介を終え、軽く頭を下げた。続いてその隣の男が前に出る。
「鈴木 亮太(すずき りょうた)です。17歳です。役者目指してます。頑張ります!」
鈴木は、少し緊張した面持ちで、はきはきと自己紹介した。背は高めだが、まだあどけなさが残る顔だ。
次に前に出たのは、ガタイのいい男だった。
「どうも。田中 剛(たなか ごう)っす。19歳です。アクション俳優になりたくて。よろしくお願いします」
田中は、まるで役者のセリフのような低い声で自己紹介した。体格もがっしりしていて、確かにアクション俳優を目指していそうだ。
そして、俺の番だ。九条の視線が、真っ直ぐに俺に向けられた。
「藤原 ハルキ(ふじわら はるき)です。18歳です。演技が大好きで、俳優になるために、ここに来ました。よろしくお願いします!」
俺は精一杯の声でそう言い切った。九条は俺の自己紹介を聞き終えると、またあの値踏みするような目で俺を見た。
参加者は俺を含めてたった5人。予想よりもずっと少ない人数だった。この廃ラブホテルで、この5人と九条雅人という謎の男と共に、俺たちの夏が始まるのか。
九条は全員の自己紹介が終わると、満足げに頷いた。
「よし。これで全員の顔と名前は把握した。素晴らしい意気込みだ。では、早速だが……諸君にはこれから、このホテルのどこかの部屋を使ってもらう」
九条の言葉に、俺たちは息をのんだ。
この廃ラブホテルで、一体何が始まるのだろうか?
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