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第9話 “***”の幻
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会見を終えたその夜、リューは官邸からほど近い迎賓館へと足を運んでいた。
今宵は、国家元首たる者にとって欠かせない“儀礼”──引退した元老たちとの定期的な懇親の席であった。
広間のシャンデリアは豪奢に灯り、会場には年配の重鎮たちが静かに談笑している。
ひとり、またひとりと、リューに頭を下げながら酒を差し出してきた。
「大統領、素晴らしい会見でしたな」
「さすが“ミエン・ドリーム”の継承者、リュー閣下のお力……」
うなずきながらグラスを受け取るリューは、今日の疲労を酒で薄めようとしていた。
場の空気は穏やかで、どこか作り物めいた均衡が保たれている。
それでも、ここはリューにとって数少ない「言葉の裏を読み合う場」だった。
元老の中には、かつて先々代大統領の側近として名を馳せた人物がいる。
また、前大統領支持からリューへの指示に鞍替えした人物もいる。
彼らの顔に浮かぶ笑顔の奥に、何を考えているのか──。
それを読むのが、リューにとって一種の儀式だった。
余興の時間になると、幕の下りた舞台にスポットライトが当たり、若手の役者が登場した。
劇団による楽器の演奏がはじまり、踊り手が舞台に姿を現す。
──だが、その中央にいた者の姿に、リューの目が一瞬止まった。
虎だ。
黄色い虎の着ぐるみ。
青いTシャツ。
細い目。
立ち姿は、まるで……。
「プーア……?」
つい、声にならないささやきが漏れた。
その虎は、手を振り、踊りながらゆっくりとステージを回っていた。
しかし、音楽が切り替わるとすぐに着ぐるみの頭が外され、演者の若者が満面の笑みで現れた。
リューは目をこすった。
──ただの余興だ。
偶然、似ていただけ。そう自分に言い聞かせる。
やがて余興が終わり、元老たちと再び円卓でグラスを交わす。
笑い声と笑顔。年季の入った元政治家たちの言葉は、どれも穏やかで丸い。
だが、ふと視線の端にまた何かが入った。
立ち止まる。
──そこにあったのは、テーブル脇に飾られた黄色い猫の置物だった。
陶器の光沢が、まるでプーアの毛並みのように見えたのだ。
その瞬間、リューはグラスをテーブルに置き、周囲に聞こえぬように小さく舌打ちをした。
「……飲みすぎましたね」
立ち上がり、そっと秘書官に退席を告げる。
「明朝は孫が来る日でしたね。今夜は早めに帰るとしましょう」
表情は穏やかなまま。しかし、脳裏では何かがこだましていた。
あれは幻だったのか?
それとも……
“まだ、どこかにいる”のか──プーアが。
夜の街を走る公用車の中、リューは無言だった。
車窓に映る自分の顔に、わずかな緊張が浮かんでいた。
今宵は、国家元首たる者にとって欠かせない“儀礼”──引退した元老たちとの定期的な懇親の席であった。
広間のシャンデリアは豪奢に灯り、会場には年配の重鎮たちが静かに談笑している。
ひとり、またひとりと、リューに頭を下げながら酒を差し出してきた。
「大統領、素晴らしい会見でしたな」
「さすが“ミエン・ドリーム”の継承者、リュー閣下のお力……」
うなずきながらグラスを受け取るリューは、今日の疲労を酒で薄めようとしていた。
場の空気は穏やかで、どこか作り物めいた均衡が保たれている。
それでも、ここはリューにとって数少ない「言葉の裏を読み合う場」だった。
元老の中には、かつて先々代大統領の側近として名を馳せた人物がいる。
また、前大統領支持からリューへの指示に鞍替えした人物もいる。
彼らの顔に浮かぶ笑顔の奥に、何を考えているのか──。
それを読むのが、リューにとって一種の儀式だった。
余興の時間になると、幕の下りた舞台にスポットライトが当たり、若手の役者が登場した。
劇団による楽器の演奏がはじまり、踊り手が舞台に姿を現す。
──だが、その中央にいた者の姿に、リューの目が一瞬止まった。
虎だ。
黄色い虎の着ぐるみ。
青いTシャツ。
細い目。
立ち姿は、まるで……。
「プーア……?」
つい、声にならないささやきが漏れた。
その虎は、手を振り、踊りながらゆっくりとステージを回っていた。
しかし、音楽が切り替わるとすぐに着ぐるみの頭が外され、演者の若者が満面の笑みで現れた。
リューは目をこすった。
──ただの余興だ。
偶然、似ていただけ。そう自分に言い聞かせる。
やがて余興が終わり、元老たちと再び円卓でグラスを交わす。
笑い声と笑顔。年季の入った元政治家たちの言葉は、どれも穏やかで丸い。
だが、ふと視線の端にまた何かが入った。
立ち止まる。
──そこにあったのは、テーブル脇に飾られた黄色い猫の置物だった。
陶器の光沢が、まるでプーアの毛並みのように見えたのだ。
その瞬間、リューはグラスをテーブルに置き、周囲に聞こえぬように小さく舌打ちをした。
「……飲みすぎましたね」
立ち上がり、そっと秘書官に退席を告げる。
「明朝は孫が来る日でしたね。今夜は早めに帰るとしましょう」
表情は穏やかなまま。しかし、脳裏では何かがこだましていた。
あれは幻だったのか?
それとも……
“まだ、どこかにいる”のか──プーアが。
夜の街を走る公用車の中、リューは無言だった。
車窓に映る自分の顔に、わずかな緊張が浮かんでいた。
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