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第1章 初級冒険者として活躍 シルヴィ、ユヅキ

6話 冒険者登録とチンピラ

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 翌朝。

「ここが冒険者ギルドか……」

 なかなか立派な建物だ。
 荒くれ者の集会所というような印象は受けない。

 中に入る。
 ざっと辺りを見回す。
 受付、依頼ボード、打ち合わせ用のテーブルなどがある。
 俺が向かうべきは、受付だ。

「よう。冒険者登録は、ここでよかったか?」

 俺は受付嬢に話しかける。
 彼女の耳には、猫耳が生えている。
 髪は青色。

 ええと。
 確か、海猫族だったか。

「ええ。こちらで登録できますにゃ。詳細の説明は必要ですかにゃ?」

 海猫族かどうかは確証が持てないが、猫系の獣人であることは間違いない。
 語尾に『にゃ』が付いている。

 そして、おっぱいもでかい。
 胸元から谷間が強調されている。
 いいものを見させてもらった。

「そうだな。念のため、頼む」

 俺はそう言う。
 ジョブやスキルと同じように、MSCに準拠したシステムになっていれば理解が早いのだが。

「冒険者ギルドでは、各冒険者のランクに応じて様々な依頼をご紹介していますにゃ。薬草や鉱石の採取、隊商の護衛、魔物の討伐など……。また、魔獣素材や魔石の買取も行っていますにゃ」

「なるほど。ちなみにランクとは?」

「S、A、B、C、D、Eの6段階のランクがありますにゃ。最初はだれでもEランクにゃ。ホーンラビットやゴブリンを安定して倒せるようになれば、Dランクに昇格となりますにゃ」

「ふむふむ」

「さらに実績を積めば、Cランクに昇格しますにゃ。このあたりから、信頼が大切となる護衛の依頼も増えてきますにゃ。Bランク以上は一流ですにゃ。当ギルドでも、Bランクの方は数人在籍していますにゃ」

 Bランク以上は上級者、Cランクは中級者、Dランク以下は初級者といったところか。
 MSCにおいては、Sランクは廃人、Aランクは上級者、Bランクは中級者、Cランク以下はエンジョイ勢といった感じだった。
 ある程度は似たようなイメージだが、MSCよりもこの世界のほうが少しだけ基準が低いようだな。

 MSCの感覚が通用するのであれば、この世界で上級とされるBランクにも、それほど遠くないうちに到達できるだろう。
 もちろん、まずはDランクへの昇格が目標となるが。

「よくわかった。さっそく登録をお願いする」

「では、こちらの用紙に記入してくださいにゃ」

 受付嬢から用紙を受け取る。
 文字は日本語で書かれている。
 俺も日本語で必要事項を記入していく。


名前:コウタ
ジョブ:風魔法使い、剣士


 まあ、記入事項といってもこれだけだが。
 俺は受付嬢に用紙を提出する。

「お名前はコウタ様……。職業は風魔法使いと剣士ですにゃ。複数のジョブを持つ新人は久しぶりですにゃ。ちなみに私の名前はセリアですにゃ。今後もよろしくお願いしますにゃ」

 受付嬢……セリアはそう言って、登録処理を進めていく。
 俺はしばらく待つ。

「……はい。お待たせしましたにゃ。こちらがギルドカードとなりますにゃ」

 しっかりとした材質のカードを受け取る。
 冒険者ギルドの各支部で、冒険者の情報を共有するために使われる。
 これさえあれば、初めていく町でも自分の実績を証明できるというわけだ。

 今まではゲームの中だったからあまり気にしなかったが、冷静に考えれば謎の技術だな。
 ギルドカードにどうやって情報を込めているのだろう?

「ありがとう。さっそくだが、俺に対してオススメの依頼や標的はあるか?」

 俺はそう問う。
 MSCの知識を信じて進めるのもありだが、ゲームとこの世界で差異がある可能性も考慮しなければならない。
 情報は収集しておくに越したことはない。

「そうですにゃあ……。やはり、この町の北にあるエルカ草原が初心者向けの狩場だと思いますにゃ。ホーンラビットや単体のゴブリンぐらいしか出ないですにゃ。森の方面に深入りすると、ゴブリンの群れと出くわす危険もありますが……」

 セリアがそう答える。
 俺がルモンドやシルヴィに出会ったのは、この町の北の草原だ。
 エルカ草原という名前だったらしい。
 確かに、あそこにはホーンラビットや単体のゴブリンくらいしかいない。
 ルモンドがゴブリンの群れと遭遇したのは、森の中だったそうだし。

「わかった。まずはエルカ草原で活動してみることにする。いろいろとありがとう」

「いえいえ。有望な魔法使いの新人ですし、期待していますにゃ」

 俺は受付から離れ、出口へと向かう。
 さっそくエルカ草原に行くことにしよう。

 しかし、そんな俺の前に立ちはだかる2人の男がいた。

「おいおい、登録したての初心者が1人でエルカ草原に向かうつもりか?」

「お前さん程度じゃ、ホーンラビットにすら返り討ちだぜ! ギャハハハハ!」

 チンピラだ。
 まごうことなきチンピラである。

 片方は、鋭い顔つきのシャープな体格の男。
 体はそれほど大きくないが、なかなかの威圧感を感じる。
 いわゆる細マッチョといった感じだ。

 もう片方は、体の大きな男だ。
 やや脂肪が多いようだが、それ以上に筋肉もついているだろう。
 パワーがありそうだ。

 MSCの序盤にも、似たようなイベントはある。
 それに、異世界ものの小説などでも定番のイベントだ。

 ここは俺のチート能力でフルボッコに……と言いたいところだが。
 俺はまだ駆け出しで、十分な戦闘能力を持っていない。
 ホーンラビットやゴブリン相手ならともかく、チンピラ2人はまだ少し荷が重い相手だ。

 ウインドカッターで不意打ちすればあるいは……?
 しかし、町中でいきなり魔法をぶっ放すわけにもいかない。

「心配は無用だ。俺はこれでも、狩りの経験はそれなりにある。安全第一で活動をするつもりだ」

 俺はそう言う。
 MSC……『マジック&ソード・クロニクル』は結構やり込んだゲームだ。
 VRゲームの中での経験とはいえ、ある程度は現実の戦闘にも応用できる。

 それに、俺がこの世界に来てから既に数日が経過している。
 その間に、ホーンラビットやゴブリンはたくさん狩ってきた。
 安全第一に活動すれば、大きな危険もないだろう。

「自信過剰な初心者はみんなそう言うんだ。痛い目に合わないとわからねえようだな」

「アーノルド兄貴がいっちょ稽古をつけてくださる! 光栄に思え。ギャハハハハ!」

 なかなかしつこいチンピラたちである。
 俺は視線で受付嬢に助けを求める。
 それを見て、彼女が口を開く。

「アーノルドさん、レオンさん。またですかにゃ……。ほどほどにしてくださいにゃ」

 彼女が呆れたような顔をしてそう言う。
 鋭い顔つきのシャープなほうがアーノルドで、脂肪の多い大柄なほうがレオンという名前のようだ。

「うるせえ。セリアちゃんは黙ってな」

 アーノルドがそう言う。

「やれやれですにゃ。では、ギルドの修練場をお使いになられますかにゃ? 今はちょうど空いているはずですにゃ」

 おい。
 ギルドがチンピラの行動を手伝ってどうする。

 俺に味方はいないのか。
 いや、ギルドの修練場で戦うのであれば、チンピラたちもあまりムチャはできないはず。

 MSCでの経験と、風魔法使いや剣士のスキルを駆使して活路を切り開くことにしよう。
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