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5話 絡んできた冒険者が勝手に倒れ込む

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 冒険者ギルドで登録を済ませたところ、ガラの悪い2人組に絡まれた。

「おうおう、ガキがいっちょ前に冒険者気取りかよ!」

「ギャハハハハ! お家に帰ってママのおっぱいでも吸っているのがお似合いだぜ!」

 俺は声の方向に体を向ける。
 2人組がこちらに近づいてくる。

「なんだ、お前らは? 冒険者ギルドはいつからチンピラのたまり場になったんだ?」

 俺はそう言う。
 冒険者は、やや素行の悪い者が多い傾向がある。
 しかし、ここまで露骨なチンピラはさすがにめずらしい。

「おうおう、言ってくれるじゃねえか。ローグイラで俺たちを知らねえやつがいたとはな」

「ギャハハハハ! ガチの素人みたいだな。近隣の農村から出てきたばっかりってところか?」

 2人組がそう言う。

「確かに、俺はこの街には昨日着いたばかりだ。しかし、剣術と火魔法の心得はある。心配には及ばない」

「おうおう、口では何とでも言えるわな」

「ギャハハハハ! 俺たちで、いっちょ稽古をつけてやるぜ!」

 2人組がニヤニヤ笑って、俺の肩に手を回す。
 少し不快だな。
 どうあしらおうか。
 俺が思考を巡らせているときーー。

「(うふふふふ。私のダーリンに触れていいのは、私だけ……。お前たちに不幸あれ!)」

 どこからか少女のささやき声が聞こえた気がした。

「ん? 何か言ったか?」

 俺はそう問う。

 今の声は、どこかで聞き覚えのある声だ。
 確か、昨日の深夜にも聞いたような……。
 気のせいか?

「おうおう、だから、稽古をつけてやるって話だよ」

 チンピラの1人がそう言う。
 この様子だと、先ほどの少女の声は彼には聞こえなかったようだ。

「ギャハハハハ! なあに、悪いようにはしねえさ。……うっ!?」

 チンピラのもう片方が、突然胸を押さえて倒れ込んだ。
 何やら青い顔をしている。

「ど、どうした相棒!? しっかりしろぉ! ……ぐぅっ!?」

 倒れ込んだ相方を案じていた男も、続けて倒れ込む。
 彼も同じく青い顔をしている。

「む、どうした? 二日酔いか何かか?」

 俺はそう声を掛ける。
 苦しそうな様子ではあるが、ただちに命に関わるわけでもなさそうだ。

「(うふふふふ。私のダーリンに触れるからよ。命まで取らなかっただけ、ありがたいと思いなさい……)」

 まただ。
 また、少女の声が聞こえた。
 今度は幻聴じゃない。
 ……と思う。

 いったいなんなんだ?

「もう! アンソニーさんも、グスタフさんも、昨日たくさん飲んでいたからですよ。ちゃんと、お家で寝てください。また奥さんに叱られますよ?」

 受付嬢がそう言う。
 彼女は、2人組が二日酔いで寝ているように感じているようだ。
 おそらく、常習犯なのだろう。

 しかし、この口ぶりからするとチンピラどもは結婚済みのようだ。
 しかも、意外に家庭では尻に敷かれるタイプか。

 見た目と雰囲気はチンピラだが、実際にはいいやつだったりするのかもしれない。
 彼らが元気になったら、また話してみるのもいいかもな。

 2人組はフラフラと立ち上がり、部屋の隅の椅子に向かっていった。
 まだ顔色は青いが、そのうち回復するだろう。

 何はともあれ、今は依頼を受注する件だ。
 薬草採取か、低級の魔物の討伐か。
 ここはーー。

「気を取り直して、さっそくこの薬草採取の依頼を受けたい」

「承知しました。では、処理致しますね」

 受付嬢が処理を進めていく。

「念のため確認だが、採取中に魔物と遭遇したら討伐しても構わないのだったな?」

「ええ、もちろんそうです。討伐された魔物によっては素材を買取りますし、討伐証明部位さえあれば討伐報酬が出る魔物もいますよ」

 受付嬢がそう答える。

 ホーンラビットやファルコンバードなどの肉は、結構うまい。
 そこそこの値段で買い取ってくれる。
 ただし、人間にとって極端に害のある魔物というわけではないので、討伐報酬は少ない。

 逆に、ゴブリンの肉はマズイ。
 基本的に買い取ってくれることはない。
 ただし、人間にとって明確に害のある魔物なので、討伐報酬はそこそこ多い。

 冒険者として食っていくためには、このあたりの差異を理解しつつ、自分の戦闘能力や相性とも相談して方向性を決める必要がある。
 まあ、とりあえずは薬草採取をしつつ、低級の魔物と遭遇したら数匹狩ってみる感じでいいだろう。
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