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迷子の精霊
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カレンのいる部屋の薄い木の扉に耳をすませていた。音は聞こえない。どうやらバクメーアの汚れをきちんと落とした上で眠ったようだ。そのため寝る時間が遅くなり、今眠っているのだと思われる。つまり今がチャンスだということだ。
「失礼、しまーす」
気配を消して、ゆっくりと扉を開く。ギギギギ!という音を何とか出ないように全神経を集中させる!途中で音に緩急をつける。ギギ、ギギギ、ギギといった具合に。これによりカレンの無意識下では、「あれ?誰か来てる?あ、何処かの振動が伝わっているのかな?木造だもんね。スヤァ」という解釈になり、扉の開閉音を気にしなくなるという寸法だ。
小学生の時、先生への悪口ノートを宿題ノートと誤って提出してしまったことがあった。とても些細なミスだし、確認をし忘れたことも原因の一端だが、今思うと不幸の範疇だったのかもしれない。そんなのを先生に見せるわけにはいかないので、気配を消して職員室に侵入した経験がここで活きた。
肩の上でコボ郎も口を押さえていた。ごくり。
閉められたカーテンの隙間から、昇って一日の半分が経過しようとしている太陽の光が鋭く部屋に射し込んでいる。漂う埃が光を反射させ、空間を飾っていた。
その光の着地点が、彼女の呼吸によって上下している。カレンは星がキラキラしているパジャマを着て、その服越しからでも窺える二つの膨らみが、俺の中に眠る思春期を刺激した。
スースー。
さっきまでハチャメチャと騒いでいた癖に、静かになると、やはりとても美女なのだと思ってしまう。キラキラとした髪、揺れる睫毛、黒いスリットから見える細く白い足。これは、
「これは起こせないな、触らぬカレンに祟りなしだ、なんか怖くなってきた」
ここまで来て怖じ気づいた。もしばれたら恐ろしいし、単純に眠りを妨げることをするのも悪い。この景色を目に焼き付けただけでも良しとしよう。
「あぁ~?何でこんな真っ昼間にグースカ寝とんねん!はよ起きろやこnnnnnn!」
ギリギリコボ郎の口を押さえられた。っぶねぇ。
落ち着いたコボ郎に向かって人差し指を自身の口に添えた。絞り出した声で注意する。
「しー!カレンが寝ているのは俺のせいでもあるんだし、流石に無理やり起こすのは悪いって!つーかこの状況で起きたら俺殺される」
「せやけど、はよ帰らなあかんのや...」
「まぁとりあえず、続きはカウンターで話そっか、起こしちゃうし」
とりあえずゴージャスロッドを隅に置き、彼女の部屋を後にした。魔力がない(どころか表記ではマイナスらしい)俺にとってこの杖は無縁の物だ。
ゴージャスロッドが前金としての役割を果たすならば、カレンもコボ郎の頼みを聞いてくれると思っていたのだが、日の出まで俺に付き合っていた疲れがまだ取れていない状態で引っ張る訳にはいかない。
カウンターにて。メイちゃんとその他従業員はせっせこせっせこと料理を運んでいた。辺りを見回すと、鎧を着た人や長い槍を壁にかけて食事をする人など、これから戦闘に出向きそうな人々が英気を養っていた。
空席に腰を据えて、貰った水を飲みながらコボ郎に聞く。
「で、何で早く帰らないといけないの?」
「昨日のことや」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ワシは森で遊んでた。コロボの精って種族なんやけど、わいらは森を守護する役割を担ってるんや。っちゅーても、その日ワシはオフやったから、もう全力で遊んでてん。
何してたかって?森中を飛び回ったり転がったり、川に流れたり色々やな。結構そういった「あくてぃびてぃ」が好きやねん。やからあのクジのガラガラも悪い気はせーへんかった。
やけど、木と木をピョンピョンとバウンドしてる、そん時にあいつらが現れた。
一人一見かわいい女の子やったな。虫も殺さずヨシヨシしてそうなめんこい女の子やったわ。でもって隣には杖持ってメガネかけたインテリ系って感じやった。ワシあーいうやつ嫌いやねん、絶対「テスト勉強してへんわー」言うて高い点数取るねんであれ。
まぁそんなよそ者が現れたらわしもオフとはいえ黙って見過ごすこともできへんし、そいつらに言うたんや。
「何勝手に入って来とんねん!猿が来るとこちゃうぞ!」
ってな。
そしたらな、一瞬やったわ。
メガネが何か言ったと思ったら女の子の方が一瞬で近づいてきて、ワシを殴って吹っ飛ばしたんや。
ワシってこんな感じでモフモフやからダメージっちゅうダメージは無かっねんけど、かわいい見た目とちごーてめちゃくちゃ力強くてぶっ飛んでもーてな、気ーついたらあのガラガラに入ってたって訳や。あのおっさんが運んでるクジの玉に紛れ込んでもーたんやろな。
知らんけど。
・・・・・
途中どうでもいい情報が挟まっていた気がするが。まとめると、
精霊の森に侵入した二人組に吹き飛ばされて、福引きの玉と間違われてここまで流れ着いてしまった。そのため、精霊の森の様子が心配だから早く帰りたいとのことだった。
魔法使いと少女、か。彼らは何のために森に来たんだろうか?デートならばコロボの精も綺麗だから、いい感じの雰囲気を出すと思うんだが。蛍っぽく光るわけだし。
何にしても、これは確かに早急な対応がいるだろうな。言わば自宅に侵入されて、家主は強制ワープさせられたようなものだからな。だがそもそもどうやってその精霊の森に行けば良いのだろうか?カレンには頼れそうにないし。
メイちゃんは、と視線を向ける。
「1番テーブルはリザードのマグマ煮込み2つにドレッドレモンスカッシュ2つ!
7番テーブルはブラックカルボナーラの卵なし1つにイエローメロンクリームソーダ1つ!
8番テーブルはー」
物凄い勢いで注文を捌いている。それも聞き取りやすいハキハキとした声で、完璧な滑舌で。とても忙しそうであった。どうしたものかと悩んでいると、他のテーブルでの話し声が耳に止まった。
「聞いたことあるか?精霊の森には、秘宝が眠ってるって噂」
「秘宝?」
「あぁ、なんか能転玉っていう特殊な玉があるらしいんだ。それが何の役に立つのか知らないが、誰かが高値で買っているらしい。」
鎧の男と魔法使いの男が、酒を交わしながらそのような話をしていた。何か手がかりになるかもしれない。ここは勇気を振り絞って聞いてみよう。
「あのぉ、すみません、その精霊の森について、詳しい話を聞かせてくれませんか?」
「あ?あんた誰?」
本人は威嚇しているつもりは毛頭無さそうなのだが、喋り口調がもう怖いんだよ、もっと優しく、子猫に話しかけるようなタッチで話せないのか!
まぁでも、そりゃそうなるよなぁ、見ず知らずの人間が話しかけたら不審がるのが普通か。ともう話しかけたことに後悔してしまう。だが、ここで引くと、今後このような事があれば、勇気が出ずに足がすくんでしまうだろう。それだけは避けたい。今出来ないことは明日も出来ない。今やるんだ!失敗するかもしれないが、やらなければ失敗すら出来ない。それこそが真なる失敗だ!
「俺はサツキっていいます、山田サツキ。どうしても精霊の森への行き方が知りたいんですが、教えてくれませんか?」
鎧の男はハハハと笑った。そして俺の肩をパンパンと軽く叩いて、酒臭い口から言った。
「さてはあんたも能転玉が欲しい口だな?止めとけ止めとけ、この前魔法使いと転移者が、それを取りに精霊の森に行っちまった。今行っても無いだろうよ」
そこで口を挟んだのは、肩に乗っかっていたコボ朗だった。身を乗り出して酒臭い顔にグイグイ近づいた。
「やけど急がなあかんねん!ケチケチせんた言うてくれや!」
眉間に皺かブルドッグの如く寄っている。その形相と発言が二人を引かせた。そりゃそうでしょうよ!そんな態度だと聞けることも聞けないわ!すかさずサポートに入った。
「ちょ、コボ朗、アハハすみませんこいつがそこに住んでいるんですが、行き方が分からないらしくて、必死なんですよ」
「ええと、カセドンから西にしばらく進むと精霊の森があるぜ?」
コボ朗の勢いと俺のフォローが、絶妙に取り調べの尋問で良くある、飴と鞭の役割を果たし、たじたじと答えてくれた。
カレンも連れて行きたかったが、急を要する事態に眠そうな彼女を呼べなかった。俺はコボ郎と二人で、精霊の森に向かうことにした。
「失礼、しまーす」
気配を消して、ゆっくりと扉を開く。ギギギギ!という音を何とか出ないように全神経を集中させる!途中で音に緩急をつける。ギギ、ギギギ、ギギといった具合に。これによりカレンの無意識下では、「あれ?誰か来てる?あ、何処かの振動が伝わっているのかな?木造だもんね。スヤァ」という解釈になり、扉の開閉音を気にしなくなるという寸法だ。
小学生の時、先生への悪口ノートを宿題ノートと誤って提出してしまったことがあった。とても些細なミスだし、確認をし忘れたことも原因の一端だが、今思うと不幸の範疇だったのかもしれない。そんなのを先生に見せるわけにはいかないので、気配を消して職員室に侵入した経験がここで活きた。
肩の上でコボ郎も口を押さえていた。ごくり。
閉められたカーテンの隙間から、昇って一日の半分が経過しようとしている太陽の光が鋭く部屋に射し込んでいる。漂う埃が光を反射させ、空間を飾っていた。
その光の着地点が、彼女の呼吸によって上下している。カレンは星がキラキラしているパジャマを着て、その服越しからでも窺える二つの膨らみが、俺の中に眠る思春期を刺激した。
スースー。
さっきまでハチャメチャと騒いでいた癖に、静かになると、やはりとても美女なのだと思ってしまう。キラキラとした髪、揺れる睫毛、黒いスリットから見える細く白い足。これは、
「これは起こせないな、触らぬカレンに祟りなしだ、なんか怖くなってきた」
ここまで来て怖じ気づいた。もしばれたら恐ろしいし、単純に眠りを妨げることをするのも悪い。この景色を目に焼き付けただけでも良しとしよう。
「あぁ~?何でこんな真っ昼間にグースカ寝とんねん!はよ起きろやこnnnnnn!」
ギリギリコボ郎の口を押さえられた。っぶねぇ。
落ち着いたコボ郎に向かって人差し指を自身の口に添えた。絞り出した声で注意する。
「しー!カレンが寝ているのは俺のせいでもあるんだし、流石に無理やり起こすのは悪いって!つーかこの状況で起きたら俺殺される」
「せやけど、はよ帰らなあかんのや...」
「まぁとりあえず、続きはカウンターで話そっか、起こしちゃうし」
とりあえずゴージャスロッドを隅に置き、彼女の部屋を後にした。魔力がない(どころか表記ではマイナスらしい)俺にとってこの杖は無縁の物だ。
ゴージャスロッドが前金としての役割を果たすならば、カレンもコボ郎の頼みを聞いてくれると思っていたのだが、日の出まで俺に付き合っていた疲れがまだ取れていない状態で引っ張る訳にはいかない。
カウンターにて。メイちゃんとその他従業員はせっせこせっせこと料理を運んでいた。辺りを見回すと、鎧を着た人や長い槍を壁にかけて食事をする人など、これから戦闘に出向きそうな人々が英気を養っていた。
空席に腰を据えて、貰った水を飲みながらコボ郎に聞く。
「で、何で早く帰らないといけないの?」
「昨日のことや」
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ワシは森で遊んでた。コロボの精って種族なんやけど、わいらは森を守護する役割を担ってるんや。っちゅーても、その日ワシはオフやったから、もう全力で遊んでてん。
何してたかって?森中を飛び回ったり転がったり、川に流れたり色々やな。結構そういった「あくてぃびてぃ」が好きやねん。やからあのクジのガラガラも悪い気はせーへんかった。
やけど、木と木をピョンピョンとバウンドしてる、そん時にあいつらが現れた。
一人一見かわいい女の子やったな。虫も殺さずヨシヨシしてそうなめんこい女の子やったわ。でもって隣には杖持ってメガネかけたインテリ系って感じやった。ワシあーいうやつ嫌いやねん、絶対「テスト勉強してへんわー」言うて高い点数取るねんであれ。
まぁそんなよそ者が現れたらわしもオフとはいえ黙って見過ごすこともできへんし、そいつらに言うたんや。
「何勝手に入って来とんねん!猿が来るとこちゃうぞ!」
ってな。
そしたらな、一瞬やったわ。
メガネが何か言ったと思ったら女の子の方が一瞬で近づいてきて、ワシを殴って吹っ飛ばしたんや。
ワシってこんな感じでモフモフやからダメージっちゅうダメージは無かっねんけど、かわいい見た目とちごーてめちゃくちゃ力強くてぶっ飛んでもーてな、気ーついたらあのガラガラに入ってたって訳や。あのおっさんが運んでるクジの玉に紛れ込んでもーたんやろな。
知らんけど。
・・・・・
途中どうでもいい情報が挟まっていた気がするが。まとめると、
精霊の森に侵入した二人組に吹き飛ばされて、福引きの玉と間違われてここまで流れ着いてしまった。そのため、精霊の森の様子が心配だから早く帰りたいとのことだった。
魔法使いと少女、か。彼らは何のために森に来たんだろうか?デートならばコロボの精も綺麗だから、いい感じの雰囲気を出すと思うんだが。蛍っぽく光るわけだし。
何にしても、これは確かに早急な対応がいるだろうな。言わば自宅に侵入されて、家主は強制ワープさせられたようなものだからな。だがそもそもどうやってその精霊の森に行けば良いのだろうか?カレンには頼れそうにないし。
メイちゃんは、と視線を向ける。
「1番テーブルはリザードのマグマ煮込み2つにドレッドレモンスカッシュ2つ!
7番テーブルはブラックカルボナーラの卵なし1つにイエローメロンクリームソーダ1つ!
8番テーブルはー」
物凄い勢いで注文を捌いている。それも聞き取りやすいハキハキとした声で、完璧な滑舌で。とても忙しそうであった。どうしたものかと悩んでいると、他のテーブルでの話し声が耳に止まった。
「聞いたことあるか?精霊の森には、秘宝が眠ってるって噂」
「秘宝?」
「あぁ、なんか能転玉っていう特殊な玉があるらしいんだ。それが何の役に立つのか知らないが、誰かが高値で買っているらしい。」
鎧の男と魔法使いの男が、酒を交わしながらそのような話をしていた。何か手がかりになるかもしれない。ここは勇気を振り絞って聞いてみよう。
「あのぉ、すみません、その精霊の森について、詳しい話を聞かせてくれませんか?」
「あ?あんた誰?」
本人は威嚇しているつもりは毛頭無さそうなのだが、喋り口調がもう怖いんだよ、もっと優しく、子猫に話しかけるようなタッチで話せないのか!
まぁでも、そりゃそうなるよなぁ、見ず知らずの人間が話しかけたら不審がるのが普通か。ともう話しかけたことに後悔してしまう。だが、ここで引くと、今後このような事があれば、勇気が出ずに足がすくんでしまうだろう。それだけは避けたい。今出来ないことは明日も出来ない。今やるんだ!失敗するかもしれないが、やらなければ失敗すら出来ない。それこそが真なる失敗だ!
「俺はサツキっていいます、山田サツキ。どうしても精霊の森への行き方が知りたいんですが、教えてくれませんか?」
鎧の男はハハハと笑った。そして俺の肩をパンパンと軽く叩いて、酒臭い口から言った。
「さてはあんたも能転玉が欲しい口だな?止めとけ止めとけ、この前魔法使いと転移者が、それを取りに精霊の森に行っちまった。今行っても無いだろうよ」
そこで口を挟んだのは、肩に乗っかっていたコボ朗だった。身を乗り出して酒臭い顔にグイグイ近づいた。
「やけど急がなあかんねん!ケチケチせんた言うてくれや!」
眉間に皺かブルドッグの如く寄っている。その形相と発言が二人を引かせた。そりゃそうでしょうよ!そんな態度だと聞けることも聞けないわ!すかさずサポートに入った。
「ちょ、コボ朗、アハハすみませんこいつがそこに住んでいるんですが、行き方が分からないらしくて、必死なんですよ」
「ええと、カセドンから西にしばらく進むと精霊の森があるぜ?」
コボ朗の勢いと俺のフォローが、絶妙に取り調べの尋問で良くある、飴と鞭の役割を果たし、たじたじと答えてくれた。
カレンも連れて行きたかったが、急を要する事態に眠そうな彼女を呼べなかった。俺はコボ郎と二人で、精霊の森に向かうことにした。
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