与えられた欠陥で、俺は神に復讐する

こへへい

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森の襲撃者

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 精霊の森は隣町の近くにあるらしい。しかし、その隣町までの距離が徒歩ではきつそうなので、馬車で移動することに。
「精霊の森近くに」

 ガタンガタンと揺られている間、木造の空間で外の景色を眺めるのもまた一興ではあったのだが、気になったのでコボ郎に精霊の森について聞いてみた。

「そういや精霊の森って、どんなところなんだい?」

「精霊の森はワシの仲間もいっぱいおってな、でもって森の中の祠を代々守ってきてるねん。中にわいらのご先祖さんが従ってた主様の宝かなんかあるらしいんやけどな、知らんけど」

「知らないのかよ、」

「でもな、その秘宝に選ばれた者は、『周囲の者を凌駕する程の幸運を手にいれる』って言われてんねん」

「いや知ってるんじゃないか、
 って『幸運』、だと!?」

 推察するに、その祠にある秘宝が「能転玉」というものなのだろう。と思っていた矢先に、その玉の力が『幸運』と聞いて興味が湧いた。それがあれば、俺の不幸を打ち消せるかもしれない。

 あの鎧の人曰く「高値で買い取っている」ということはそれだけ価値があるということだ。精霊が森ぐるみで守っているとなると噂通りの効果を期待してもいいだろう。

「あげへんで」

「ですよねぇ」

 コボ朗に表情を読み取られ、明後日の方向へと顔を背いた。それにコボ郎を吹っ飛ばした二人組も森に潜んでいる。欲に駆られて痛手を負いたくはないな。

 精霊の森に到着。風に煽られる木々の音は、俺の心に自然の安らぎを与えてくれた。素晴らしい、ここで眠ったら気持ち良さそうだ。
 だが深々と奥まで続くその森は、入ったら出られないかもしれないという恐怖すら覚えるほど奥まで真っ暗闇が続いているように見えた。

「これ下手すると森で迷子になるかもな」

 服の内側からコボ郎が出て言った。
「いや、ワシら精霊は光るんや。だから迷わんやろう。それよりはよ行くで!」

 コボ郎は体を光らせて急かした。相当中の様子が心配なのだろう。
 だがふと、とても素朴なことが気になった。

「それどういった原理で光ってるの?」

「これか?これは魔力が漏れて光るねん」

 コボ朗はえっへんと腰?に手?を当てて威張る。

「そ、そうか」

 そうだと言われれば、そうと受けとるしかない。
 僕らは精霊の森へと踏み入った。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 踏みいると、とても静かで薄暗かった。ただ風で木々が擦れ合う音が響くばかりで、他は何も聞こえない。さっきまでの安らぎは一変、うすら寒い雰囲気となっていた。
 コボ郎のいう通りならここに謎の二人組がいるとのこと。うかうかと落ちついてはいられない。

 落ち着いていないのは目の前にふわふわ浮いて光っているコボ郎も同様で、アワアワと視線を左右させていた。

「おかしい、普通やったら動物や鳥が居るはずや、やのに今はどこにもおらん...」

 コボ郎は顔をひきつらせていた。この閑散としている状態はそれほどまでに非常事態であるということだ。確かに、普通なら動物の声があっても良いはずだ。なのに聞こえない。隠れているのか?何かに見つからないために?

 しばらく進むと、奥から光がふわふわと浮いていた。まるで、そう、今隣にいるホタルのように。

「は!仲間や!」

 おーい!と大声で仲間を呼ぶ。光の形がはっきりしたところで、その光が地面に落ちた。その白い玉は薄汚れていた。

「どないしたんや!?んなボロボロなってもーて?」

「はよ...逃げ...て...」

 白い玉が細々く発した言葉を耳にした瞬間、

 脳裏に過った。空から降ってくる何かが地面をえぐる情景、そして踏み潰される感じ、今すぐ移動しないとまずい!
 そして多分、今踵を返してこの場を離れようとすると、足を取られて転けてしまうだろう。ならば!
 コボ郎ともう一人の精霊を掴んで、飛び込んだ!


 ドーーーーン!!!


 地面が揺れた!同時に森に隠れていた鳥達が羽ばたき逃げ惑っている。
 地割れのひびが後ろから前方に広がっているのがみえた。俺はその衝撃に耐えられず転倒してしまった。轟音が地面を伝い骨まで響くほどの衝撃が倒れても尚続いている。頭がガンガンしている、酔った感じだ。
 響く頭を押さえながら、衝撃波の方向に振り向く。
 すると、

「女の子?」

 といっても見た目高校生くらいの女の子が、できたクレーターの上で体勢を崩していた。いや、倒れていたのだ。太い根っこに着地して体勢を崩したようだ。
 黒髪がさらさらとしていて、肩までしか伸ばしていない。ホットパンツにTシャツという格好は、かなり思春期の心が揺れる。だが、そんな事を思っている場合ではない。彼女の細く綺麗な、か弱そうな腕が土色をしているのを見て、嫌な汗をかいた。
 あの拳でこの地面のひびを作ったのか!?明らかにそこまで強靭な肉体には見えない。腕の方が折れるぞ?

「いやはや驚いた。確実に死角だったと思ったんだが、もしやそれがお前の「固有スキル」なのか?ということは転移者か?」

 また振り向くと、前方から、杖を持った男がコツンコツンと地面を叩き現れた。青いローブに身を包み、いかにもインテリといった感じで眼鏡をかけている。確かにこいつは、勉強してない宣言しながら100点取りそうだ。
 そしてこの状況、二人とも敵なら挟まれたことになる。こいつは、まずい。

「気を付けろ!こいつらや!」

 俺の手の中を掻い潜り、コボ郎が叫んだ!
「こいつがワシを吹っ飛ばしたんや!」

 女の子は立ち上がり、氷った顔でこちらを見た。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ここまで修正

 森ってもっと広いように思ったんだけど、エンカウントが早くないですかね?
 と起こった事に文句を垂れるてもしかたがない。実際におきてしまっている以上、対処する他にない。

 前方には眼鏡のインテリ魔法使い、後ろには黒髪ボブショートでかわいいけれど、無口で地面にクレーターを作る程の怪力を持つ女の子。入って数分でその二人に挟まれるとはとても運がない。

 だが、そんな不幸は日常茶飯事だ。逆にそういった不幸な事態への対処を今まで幾度となくこなしてきた。つまり、こんな事態は俺にとっては何の変哲もありはしない。

 所詮相手は人間だ、近所の動物園から脱走したライオンとは違うんだ。中学生の時、入り組んだ街中でそのライオンに出くわしたことがあった。その際、即座に逃走せずに物陰でやり過ごす事で、ライオンの「逃げる生き物=狩猟対象」という枠組みから外れることができた。
 しかし、今は目と目が合うほどの距離。真っ先に逃げ隠れするという選択の方が怪しまれる。それに相手は話の分かる人間ならば、

「何か誤解をしているようですが、私はあなた達の敵ではありません!」

 手を広げ、眼鏡に向かって慌てるように弁明した。これで想定外な襲撃にあたふたしていていることをアピールする。

「ほう、なら何故この森へ足を踏み入れた?」

 カチャリ、と眼鏡の押し上げてこちらの会話に耳を傾けた。
 よし、とりあえず即戦闘は避けられそうだ。このまま帰らせてもらおう。

「このコロボの精が迷子になっていたので、この精霊の森に連れてってあげたんです!それだけです!」

 嘘はついていない。なんなら普通に本当だ。だから早く帰らせてほしい。
 眼鏡は腕を組み目をつむった。フンフン、と小さく呟いた所で、彼はじとーっとした目で言葉を続けた。

「それなら、森の入り口でそのコロボの精を帰せば済んだのではないか?何故、森の中へ入る必要があるんだ?」

 うっ、確かに
 会話は確かに成立するが咄嗟の作り話にボロが出てしまった。僅かに嫌な汗が冷たく落ちた。
 いや、まだ巻き返せる!

「ほら、自然が溢れてるじゃないか、それを感じたくてな」

「自然を感じる?」

 青ローブは首を傾げた。

「そう!この広がる自然に飛び込みたくてさ、ついつい入ってしまったんだ。だから貴方に敵意はないよ」

「せや、わしもサツキ君に帰してくれた礼をしたくてなぁ」

 コボ郎は話を合わせてくれた!
 ナイスコボ郎!
 だが、彼はこう言葉を続けた。

「やのに、お前は何でわしの仲間傷つけとんねん、お前らぶち殺される覚悟はできとんやろーなぁ!」

 何ケンカ売ってるんだコボ郎ーっ!

 顎が外れそうになった。話を合わせてくれたのかと思いきや、いや話を合わせてくれたのだろうが、目の前で今仲間が苦しんでいる様子を見たら普通はそう思うだろう。怒りを露にするだろう。
 気持ちは分かるけどもぉ~っ!!そこは押さえてくれよ!空気を読むとかしようぜなぁ!

「ま、何をしに来たかくらいは冥土の土産にでも教えてやるか」

 そういうと、彼の杖が光だした。
 キラリとメガネを反射させて、口から「冥土の土産」という言葉を口にしたことに、俺の意識は集中した。そして更に、嫌な予感が頭に過った!
 さっさと逃げなければ!前後に挟まれていたので、右の深い木々に入り込もうと飛び込んだ!しかし、
 ガシッ!
 後ろから女の子が一瞬にして至近距離まで近づき、肩をものすごい力で掴まれた。駄目だ、予め逃げようとしたのに逃げられない!

「くっ、」
 やばい、肩が潰れそうだ、

 その痛みが一瞬解けたと思ったら、


「ぐぉっ、」


「サツキ君!」
 コボ郎の声が小さく木霊する。
 とてつもない拳の力で腹を殴られた。トラックの衝撃が野球ボールの大きさに凝集されたようなインパクトだった。そのまま吹き飛び、背中が木に激突し、重力で根本まで落ちた。お腹と背中に激痛が走っていた。だが、

「流石...良い...装備だ...」

 武具屋から購入を終える際、前世界に来ていた制服と交換でもらった、ノンスリーブ鎧が役に立った。こんなのいるのか?と後から自分でも疑問に思ったのだが。そうか、こういうことが起こると朧気ながら予感していたからだったのか。

 だが衝撃はもろに食らったため、ダメージを完全に殺せた訳ではない。内蔵を抉られなかっただけでも御の字という程度の軽減率だ。へこんだ鎧は、このまま着続けていたらお腹を圧迫してうっ血する恐れがあったため、痛みを堪えながら脱ぎ捨てた。

 それよりも恐ろしい腕力だ。地面を抉ったのも頷ける。木にもたれかかりながら、怪力の主を見た。

 木に叩きつけられた、苦しんでいる俺を見ている。この女、何も表情を変えていない。まるで何も見なかったように。冷たい雰囲気を帯びて、ただ立ち尽くしていた。

「脆いな、こんな所に一人でくる辺り、やはりお前転移して間もないだろう?余計な事に足を突っ込んだ自分の運を恨むんだな」

 インテリ魔法使いは彼は俺見下ろし、余裕綽々でペラペラと話し始めた。

「私達はな、転移者に固有スキルを授けると言われる「能転玉」がこの森の奥にあるらしいので探しに来たんだ。そして彼女に使わせ、その力を彼女に使わせ、あの国に復讐する。」

 強く恨みをはらんだ声音で、冥土の土産を言ってくれた。目付きはその復讐する対象を見るかのようだ、八つ当たりなことこの上ない。
 そしてインテリ魔法使いは、こめかみに指を当ててため息をついた。

「はぁ、だが同じ転移者でこうも違うとは、あわよくば彼女よりも強ければお前を使ってやろうと思ったが、その必要は無さそうだ」

 同じ、転移者
 目の前の脳筋女の子が転移者だというのか、つまりこの力は、カレンやメイちゃんが言っていた「固有スキル」という奴なのだろう。でなければ、あの華奢な腕からこんな腕力を引き出せる筈がない。防ぎ切れなかった衝撃による痛みに耐えながら、インテリ眼鏡の言動から状況把握に努めた。
 インテリ眼鏡が杖を地面で叩くと、女の子はハッ!と、夢から覚めたように、冷たい雰囲気が消えた。

「トウカ、こいつはまだ生きている。私達がここにいる事を誰かに見られると足がつく可能性がある。腕輪付きなら国の犬で確定的だ。容赦はいらんだろう、さっさと始末して玉を探すぞ」

 と、インテリ眼鏡は杖をトウカという少女に向けた。白いモヤモヤが杖から放出され、トウカを覆い尽くしていく。そして、彼女の雰囲気がまたしても冷たくなり、こちらを向いた。

「あんた、この子に何をしたんだ!?
 ってか、君もあんな馬鹿力があるなら抗って見せろよ!頑張れよ!」

 確信を持って叫んだ。彼女はおそらくあのインテリ眼鏡に操られている。あのモヤモヤはその時の魔法なのだろう。そうに違いない!

「無駄だ、今の彼女にお前の声は聞こえていない」

 インテリ眼鏡が言うだけあり、彼女の表情は微動たにしない。本当に自分の声が届いていないように思えた。ただ、彼女の瞳はしっかりとこちらを見つめていた。

 どんな固有スキルだ、どんな効果なんだ、無条件で力が上がるのか?もしそうなら万事休す。勝ち目はない。きっとどこかにからくりがある。彼女は何故聞こえない?あの魔法は何だ?固有スキルと関係があるのか?

 考えたが、戦うという選択肢なんてもう考えられない。逃げるしかない。だが彼女の足のほうが速いからすぐに追い付かれそうだ。ならやはり、

「大丈夫かサツキ君、」

 肩に掴まっていたコボ郎が、こっそりと俺を労ってくれた。優しいことだ。ならそのついでにわがままを聞いてくれ。

「逃げるぞコボ郎、このままじゃ死ぬ。それと、祠に案内してくれ!急いで!」

「お、おう!」

 半ば強引だったが、コボ朗は頷いてくれた。
 くるりと、もたれている木の後ろを盾にして逃げた。この入り組んだ森を利用するためだ。
 そして、良いことを聞けたからだ。
「さっさと始末して玉を探すぞ」
 あいつらはまだ能転玉を見つけていない、ならば俺も取れるチャンスだ!勝ち目があるとすればそれしかない!

「逃がさん!」

 インテリ眼鏡の声と共に、後ろからバキバキと薙ぎ倒される木々の音が聞こえる。一撃で破壊しているようだ。
 こっちも必死で逃げた。生い茂る枝葉を掻き分けて、できるだけ通りづらくするように、枝葉を掻き分けずに飛び越えたり枝に掴まったりしながら逃げる。そうか、小学校のうんていという遊具はこのためにあったんだ!遺伝子に刻まれた猿の本能が、俺を効率よくコボ郎の案内に従わせた。

「こっちや!
 次は右!
 左!」

 とコボ郎のナビを聞きながら、逃げながら、祠に向かっている。

 走る!走る!跳ぶ!跳ぶ!走る!

 足元の根っこで転けそうになっても、泥だらけになってでも今は逃げる!祠に向かって走った!

 複雑すぎて、暗くて何処がどこだか分からない。だがここはコボ郎を信じて進み続けるしかない。

「ここを真っ直ぐ!」

「そこ左!」

「そこ右や!」

「下!」

「次は左!」

 コボ郎の次々の指示に従い必死に移動し逃げ回る。そしてようやく
 そこや!
 という掛け声と共にたどり着いた。苔だらけ蔦だらけの洞窟の入り口がそこにはあった。そこだけ木々の枝が伸びておらず、日の光が射し込んでいた。まるで神聖な出入口であることを自然が分かっているような。

 って耽ってる場合じゃねぇ!「能転玉」を取る!

 だが、足元に大きな影が見えた。嫌な予感がする。
 俺は走りながら上を向き、目を見開いた。

 俺の真上には、太陽を背にして宙を飛ぶ女が二人いた。
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