与えられた欠陥で、俺は神に復讐する

こへへい

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もう一つの世界へ

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 俺の不幸は、こうして人生を狂わせる。俺が何かをなそうとしたところで、この世界は俺を否定する。世界の心理めいた何かにたどり着いたのだ。長々と努力を重ねたが、駄目なものは駄目だった。そんな気持ちからか、灯火がプスっと消えた。不幸を受け入れることに決めたんだ。


 そして、いつも通りの一日が始まる。

 朝起き、顔を洗うために洗面所へ。洗顔フォームを絞りだし、顔に塗る。


イデデデデ。


 いけない、また洗顔フォームがチューブタイプの生わさびに変わっていた。おそらく製造元の手違いか何かだろう。

まぁ、こんなの日常茶飯事である。


 歯磨きをしようとするが、洗顔フォームのこともあるため、中身の色を確認。良かった、ちゃんと歯磨き粉の色をしている。ちゃんと白い。歯ブラシにそれを載せ、口のなかに入れる。


おっっっっっっっえぇぇぇ...!ぺっぺ!!


 おっといけない、これこそが歯磨き粉ではなく洗顔フォームだった。これも製造元の手違いだろう。良くあることだ。


 歯磨き粉の容器から出した洗顔フォームで顔を洗い、柔らかい歯間ブラシで歯を掃除し、何とか朝の支度を済ませることができた時間は遅刻ギリギリの時間帯である。朝7時に目覚ましを設定したところでどうせ故障で4時間程遅れるような気がしたので、さらに4時間早い3時に設定して良かった。


 だが、彼には一礼をしないと。俺は自室のタンスに立て掛けてある写真手を合わせた。


あの頃から、俺は独り暮らしを始めている。自分の不幸で他人が死ぬ。そんな恐ろしいことを経験してしまっては、家族となんて暮らせないから。


 さて、行くか。

 家を出る。そして鍵をかけ、家の鍵を付けたビョンビョンと伸びる紐が遊ばないように鞄のサブポケットにしまい、食パンを頬張りながら、高校へと向かった。

 ようやく駅にたどり着く。途中でゲリラ雹や電柱に車がぶつかる交通事故に遭うことがあったが、雹はカバンで頭をガードできたし、交通事故はダイビングジャンプでなんとか助かった。

 鞄を駅ホームの椅子の脇に置き、電車を待っていた。駅は風がとても強く吹く。この風が堪らなく好きだ。それに今、ホームの椅子に座って悠々と本を読んでいる。このような状況で不幸が起こるはずもない。


 もし起こるとすれば、どうなるのだろう?


 まず立ち上がらないといけないよなぁ、でもって人の波に押されて、体勢を崩してそのままレールに落ちる。いやいや、そんなことはないだろう。流石にな。まぁもしかしたら起こるかもしれないし、その時になったら手すりでももっておくか。


 瞬間、目の前で階段を降りようとしているお婆さんが足を滑らせ、目の前で転けてしまった。大丈夫だろうか?骨折なんてしていたら大変だ。俺は鞄を置いてお婆さんに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「ありがとうね、」


 弱々しく礼を言うお婆さんの肩を持ち、とりあえず先ほど座っていた椅子に運ぶ。お婆さんが腰を掛けた。

 ふぅ、とりあえず駅員さんに言って、お婆さんを救急車に運んでもらうように頼んでみよう。勝手に呼んで良いものかよく分からないからな。


「お婆さん、ちょっと待っててね」


 そう言い、俺は駅員さんの元へ足を運ぼうとした。だが、お婆さんが降りてきた階段から人が溢れるように流れてきた。まずい、このままでは駅員さんを呼べない。

 どうしたものかと考える隙を与えて欲しかった。どんどんと押し寄せるその人の波に俺は弾かれた!手すりを持たないと!


ガコン!


な、外れ、


「どけよ、」


「うわっ、」


 心ない言葉を耳にしながら、強く押された反動で体がよろめき、レール側に押し出されそうになる。

これは、まずいぞ!!?

何とか踏み留まろうとするが、人の波が更に俺を弾いた。俺はそこそこの高さに落下し、尻餅をついてしまう。

早く起き上がらないと...あ、

鳴り響く轟音が身体中に響き渡るのを今更ながら気がついた。振り向くと、


フォォォォォォォォン!!!


正面からぶつかる電車の光が眩しかったから、俺はゆっくりと目を閉じた。

こんな不幸をいちいち相手にする運命から逃れられる。もう不幸に対処しなくていいんだ。疲れたからな。思い返すと、とても色々頑張ったように思う。

うん、俺は頑張った。

ま、そう思えば、一瞬で死ねるのは「不幸中の幸い」とでも言うのかな。

体が下半身からえぐられる一瞬の痛みと共に、俺の人生は幕を閉じる。

筈だった。


──────────────────────────────


 ある者は俺を見た。そして顎に手を添えて唸る。


「えっと、自分の名前分かる?」


 その声を耳にし、俺は覚醒した。


先ずは自分自身。学校に向かっていたさっきの様相と同じだ。鞄もある。そして辺りを見渡すと、今着ている制服のブレザーの様に真っ暗。しかし、目の前のその者だけがはっきりと映ることに違和感を覚えた。


「名前って、サツキです。山田サツキ」


 誰なのか分からないが、黄色い髪を肩まで下ろし、白い布を身に纏っている。極めつけは頭上の輪。明らかにおかしい人である。


「サツキ...あぁ!」


 甲高い中性的な声を上げ、そいつは左掌に右拳をポン!と叩いた。


「君は『不幸』のサツキ君だね!そっかー、そういえば死んだんだったね」


死んだ?...!


「そうだ!俺死んでたんだ!」


 思い出した。学校に行くまでの最寄り駅で、ホームから転落し、電車に轢かれたんだ。痛みを感じる前に死んだので、思い出したとしても対して現実味を感じられない。


「君、何でここにいるの?」


そいつは俺を見下ろし首を傾げる。とても素朴な疑問を投げ掛けた。


「と言われても、俺にも分からないよ。...あれ?そういえばあんたは、何で俺が死んだって分かったんだ?」


 その言葉を聞いてハッと何かに納得したようだ。


「そうか、まずは自己紹介からしないとね。何もわからないわけだし。君に理解できる言葉でなら『神』的なあれだよあれ」


「神...ってことはここは天国?」


 人差し指を自分に向けて、意気揚々と自己紹介した。天国という言葉のイメージと、実際に目にする空間のギャップに驚かされた。天国暗っ!


だが神は苦笑いで手を横に振った。


「いやー、天国というモノはないかな」


「なら、ここはどこなんだ?」


「ここは私の職場、かな」


神は曖昧に答えた。


「職場?」


 世の中にいるブラック企業に心労が積もり、とうとう自ら命を落としてしまった幾万もの命は、実は次なるブラックな世界の職場に繋がっていようとは。今後の自分の未来が心配になった。


「いやいや、君達が死んでも私のところでは働かないよ」


私のところ「では」?何か含みのある言い回しに違和感を抱いた。


「なら、ここは一体...」


「あーいやぁ...んー、」


 神は少し考えた後、うんうんと自分で何かに納得し、口を開いた。


「おほん。ここでは人の『欠陥』を管理している場所なんだ。そしてその管理は私が任されている」


 神は首を傾げる俺に対し、詳しく説明した。


「まぁ詳しく言うと、世界の人々には何かしらの『欠陥』というモノがあるだろ?『下半身付随』とか『視覚聴覚障害』とか。そういった『欠陥』が、世界に適合するかのテストを行っている」


「人々の...『欠陥』?」


 嫌な予感がした。ここから先は聞くべきではない、聞いたら必ず後悔する。今までの人生を全て無意にされるような、そういった気持ちを予期、嫌な予感がした。


「そう、君の今まで経験してきた不幸は、『不幸』という『欠陥』によるものなんだ」


「まさか、お前の仕業なのか?」


 やはり聞くべきではなかったと思った。聞いた瞬間、額から嫌な汗が吹き出る。今まで人生を過ごしてきた中で、自分が遭ってきた不幸、それがこいつの、


「な、なら、俺が事故を起こして高校入試を受けられなかったのも」


「『不幸』という『欠陥』があったから」


「一浪して受けたテストのマークシートが一つ飛ばしだったのも」


「『不幸』という『欠陥』があったから」


「別の高校に入って、一浪でも友達を作ろうと頑張ったけど、周りから気味悪がられたのも」


「『不幸』と...ってそれは人によるんじゃない?別に一浪でも受け入れる人はいるかも知れないし...あ、それが居なかったのか。やっぱり不幸だね君アハハ」


神は苦笑いした。


「人並みに押されて線路下に落とされて、それから轢かれたのも」


「『不幸』という『欠陥』があったから」


「じゃあ、俺の友達が死んだのもそうなのか?」


「君が、『不幸』という『欠陥』を持っているからだよ」


なるほど、そういうことか。俺は決意した。


「決めた、俺はお前を殺す」


「殺す?私を?」


神は俺の心とは裏腹に、覚めた心できょとんとしている。余計にムカつくぜ。


「あぁ殺す。神が人の形だって分かれば、さっさと殺せる!」


両手を広げ、神の首目掛けて飛びかかる。だが、足が動いていないのに、すうーっと後退してかわされた。


「そうか、神を殺すか。良いねサツキ君、素晴らしいよ」


素晴らしい?意味が分からない。だが人の心を逆撫ですることはとても上手いらしいようだ。


「さて、そろそろ君には出ていって貰おうかな?」


神は指を二本立て、それを俺の足元に向けた。


そして、小馬鹿にした笑顔で、


「バアン!」


ブウォン!と、足元に丸い光が出現した。これは何かヤバいやつだ、さっさとこいつを殺さないと!


走る。走る!手を伸ばす!だが、


「ちくそっ、何で!?」


この黒い世界の中で、走っているのに近づけない。それに光が影のように足元に引っ付いている。何だこれは?


「君には今から、第二の世界に行ってもらう。異世界転移ってやつだ。好きだろそういうの?そこで君の『不幸』が適応するのかどうかをテストしてもらう。んじゃよろしくね」


神はそういうと、俺に背を向けて手をヒラヒラとした。


そして俺の足元にあった光が穴となり、異世界への入り口が開かれた。


瞬間、神の体に紐が巻き付いた!


「ふぐっ!何!?」


「お前も道連れだ!」


走っても距離が届かない、ならばこちらから何かしらを伸ばしてやるしかない!


だが、おそらくこいつは俺の足元の光を穴にして落とすつもりだろう。今までの不幸な経験から察しはつく。そして穴を開けたとき、こいつは一番油断するはずだ。だからその瞬間、穴が開く瞬間に俺は跳んだ。


そしてこのビョンビョン紐が役に立つ。あいつが振り向く瞬間、予め外しておいた鍵付きのビョンビョン紐を使い、鍵を重しにして横に薙ぐように投げる。すると紐が伸びて神を紐で半周させ、その鍵を受けとれば、神を引っ張り込める!

「うぉぉぉぉぉぉぉー!!」


俺は落ちる。だがこれでナオキの弔いは果たせそうだ。


「素晴らしい、期待以上だ」


神は紐を、ヒラヒラしていた手を使って引きちぎった!


嘘だろ、あの紐は昔作った特別製で、耐久重量は3tは越えるのに!?


神が振り向き、屈託なく笑って見せた。


「君になら、成し遂げられるかもしれない」


「何をだよ!くっそぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!」


小さくなる神の姿を、落ちながら眺めることしかできなかった。


晴れて俺は、異世界に向かわさせられたのだった。

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