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異世界冒険者憚、開幕
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会談を終えて数日が経過した。今後の活動方針が決まったのだ。ワイバーンの目撃情報を集めることでケモノの居場所を特定し、そこから芋づる式に神に近づくことにしたのだ。
それも急いで神に近づかないといけない。会談の後、ストリンはディネクスの領土としてこれから運営していくことを公表した。このように「私はもうストリンという国ではなく、ディネクスの一部だよ」と意思表示をすることで、神の言っていた「他国の力を借りずに復興」に該当することになるだろうと考えての手段だ。だってこれは一部になっているだけであって、「力を借りている」ことにはならない。
だが問題はディネクス側だ。ストリンと同じくワイバーン、もといケモノの存在を確認した。ケモノが何かしらの情報を神に伝えるために来ていて、今その情報を持ち帰ったと見ていいだろう。ということは、神の攻撃が、ストリンの様に遠くない内に来てしまう。その前にこちらから仕掛けるしかない。
ということで、その第一の目的地である「ルーパ」に向かうことにしたのだ。
スクミトライブの一人で、ステータスの腕輪兼転移者レーダーを開発したオモヘビという開発者がいる。そいつによれば、生息地から遠い場所でのワイバーンの目撃情報を幾つか見つけ出してくれた。世界中にディネクスの冒険者が散らばっているので、そいつらが着けている腕輪からそれらの情報が得られるらしい。味方だととても有りがたいことだ。
このような経緯から、城の一室で俺は早速ルーパへ向かう準備を進めていた。開け放たれた窓から風が緩やかに感じられ、カーテがヒラヒラと揺れている。なんだかこの世界には転移する前の情景を思い出した。学校の鞄を携えて駅の風を受けていたあの頃の。
そんな思いを馳せながら、小さな鞄に必要なモノを入れて、その度に必要なものチェックシートにOKと記入していた。
「ふぅ、荷物はこれくらいかな」
歯ブラシOK
歯磨き粉OK
ハンカチOK
ちり紙OK
トランプOK
お弁当OK
おやつ(300円以内)OK
すいとうOK
しおりOK
「OKじゃないわよ!遠足かピクニックか!」
カレンもこの旅に付き合ってくれるとのことだったので、俺の部屋で情報共有をしようとしていたのだが、準備段階で突っ込まれてしまった。
「分かってんの?国の命運が懸かってるかもしれないの!あんたも神に不幸押し付けられたーとか言ってたでしょーが!緩いわ!覚悟とか色々と」
「山の天気が変化しやすいように、旅というのは心の天気も変わりやすい。常に平静を保つためには、こうしてリラックスできる環境を如何に作り出す準備ができるかが鍵になるんだ。
だからやっぱりおやつは500円にしてもいいかな?でも限りある値段から選ぶのもまた一興なんだよなぁ...」
「要りません!」
そういうと、カレンは鞄からあらゆるものを出し始めた!やめろ!しおり、トランプ、おやつは特に重要なアイテムだろうが!
歯ブラシNO
歯磨き粉NO
ハンカチNO
ちり紙NO
トランプNO
お弁当OK
おやつ(300円以内)NO
すいとうOK
しおりNO
弁当、すいとう以外の物がベッドに放り出されてしまった。嘘だろ、せめて歯磨き粉はいいだろう?市場で売ってたスウィートイチゴ味だぞ?せっかく買ったのに...。ズズン、と気持ちが沈んでいく。
「荷物なんて少ないに越したことないでしょ」
「じゃあカレンはどれくらいの荷物なんだよ」
沈んだ体勢で、憎らしく下からカレンを見上げた。
「女子の荷物事情を聞こうだなんて...デリカシーってのがないの?」
そう言うと、下卑た目でこちらを見下してきた。生ゴミを捨て忘れた時のような表情だ。
「こいつ...性別を盾にしやがって...」
「ま、来てあげるだけでも感謝なさい」
「確かにありがたいけれどもね?...でも、カレンは何で来てくれるんだ?」
「一応故郷だし見過ごせないでしょ、それにちょっと個人的な探し物もね」
「探し物って?」
その問いを口にすると、再びあの掃除し忘れた部分にある生い茂ったカビを見る目で蔑んできた。
「はいはい!デリカシーなかったねー!ごめんねー!」
ふん!とそっぽ向くカレンだったが、時折見せる真剣な表情が、大事な真意を隠し持っているようにも思えた。きっと言葉にはしないが、何か思うことがあって決断したのだろう。
そういえばこの間カレンは、オウグが転移者を保護しているという地下街に行っていたようだが、付いてきてくれる理由と何か関係するのだろうか?ストリンの侵攻を危惧して、国の人たちを避難させていたあの場所だ。まぁ、話してくれないだろうから聞かないけれど。
バタン!
そうこうしていると、部屋の扉が無造作に開かれた。
おいノック!エチケット!誰だよ!
「私達も行こう」
ジニアとトウカが俺の部屋を訪ねるやいなや、そう言った。突然のことだったので、訳を聞かずにはいられなかった。
「え、良いのか!?助かるよ、でもなんで?」
「はぁ...トウカが行くと聞かなくてな」
「私は、成長したい、大切な人を守れるようになりたい」
そう言って、頭を押さえるジニアを儚げに見上げた。確かに彼女の力を上手くコントロールすることができれば力になれるし、そもそも彼女の自信にも繋がるだろう。それに守るべきものがいるやつ程心が強い。
「ありがとう二人とも、よろしく頼む」
「勘違いするな、私はお前についていくんじゃない、トウカの意思を尊重してるだけだ」
ニヤニヤニヤニヤ。
「あ?消し炭にするぞ?」
「ごめんごめん」
ジニアがどちゃくそ怖い顔でこちらを睨んできた。これは心に秘めておこう、こいつらの関係は遠くで眺めるくらいがちょうどいいやつだ。深入るべからずと。
オホン、と気を取り直し、ジニアが確認を取る。
「それで、ルーパに向かうのだったな、一番最近ワイバーンの反応があったという」
「あぁ、もしかしたらケモノもどこかにいるかもしれない。あいつは人じゃない生き物の能力を借りることができる。そしてあいつの側には、透明になれる生き物『レオン』がいる。ならその力を行使して潜伏しているかもしれない。調査するに越したことはない」
「なるほど、厄介な力だ」
「でも、可愛かったよね」
トウカがパァッと笑顔になってこちらに同意を求めた。それには頷く。生き物はとても可愛いものだ。だからこそ、悪事に荷担させられているのは宜しくないことであると強く思う。
「となればこの四人で明日から出発────」
「待たんかぁい!」
ポフ。と、柔らかい白い丸っこいのが、窓から飛んできた。
「うわぁぁ!!?虫!?蚕蛾!?」
「誰が虫や!コボ郎や!」
プンスカポンポンと柔い体当たりで攻撃してくる。子供がポンポンと叩いてくるのを体験しているかのようだ。非力だが全力でアクションを取ろうとする姿はとても癒される。でもあれ本人真剣なんだけどね。
「何だよ、最近見なかったけどどこ言ってたんだ?」
「蛙のあんちゃんとかそこの小娘に森荒らされてたから、王様に『元戻さんかい!』言うたら、蛙のあんちゃんが直しに来てな、洞窟の中の祠とか木ぃとか直してもろててん。でもちゃんと位置決まってるから、それ教えるためにワシも行ってたってわけや」
あーそういえば、荒らしてそのまんまだったな。主にトウカ俺を追いかけていた時に、バキバキと木を薙ぎ倒していることによるものだが。確かに故郷に帰ってあの惨状だと、文句の一つや二つも言いたくなる。それをちゃんと汲み取ってくれるのだから、オウグはやはり心が広い。真の王たる器があるのだろう。お人好しとも言えるけど。
「そうか、良かったな。で、何で窓から入ってきてんの?」
「サツキ君らの声聞こえるのにドア開けられんからなぁ、開いてる窓探して飛び込んできたんや。ワシもその旅に同行したろう思ってなぁ」
えっへん!と胸?を張る白い玉。巨人の国に迷い込んだらそんな感じになりそうだな。
...あれ、来るの?まぁ別に同行するのは構わない。構わないのだが...
「いやぁ...んー、あ!マスコット的な、癒し的なポジで来てくれるんだ」
「ちゃうわボケ!サツキ君がうちの秘法取ってるんやから、秘宝守るんやったらサツキ君とこおらなあかんやろうが!だからワシも来たる!ワシらコロボの精は運気が他の生き物と比べてめっちゃ強いからな、ご利益に感謝して連れていけ!」
ご利益て、おまもりか?おまもりに立候補しているのか?自分で言ってて悲しくならないか?
と口に出しかけたが可哀想なのですんでのところで止めた。それに確かに思い返してみると、こいつはかなり運が良いのだと思った。トウカにぶっ飛ばされた先が偶然くじ引きのおっさんの荷物だったり、酸の水鉄砲を射たれた時偶然梅干しを食べていて溶けなかったり。
そしてそのご利益は運気として扱われ、その運気はゼロ・ハピネスの力の助けとなる。心強いじゃないか!
「最強のお守りだな、よろしく頼むぜ」
「お守り?誰がお守りやって?あぁ?」
「いやほら、防御力あるじゃん?護る力はすごいなって事だよ」
「そっかぁ!まぁ任せとけはっはっは!」
ふぅ、ちょろくて助かった。
こうして四人、加えて一匹の旅の準備が着々と進行されるのだった。
──────────────────────────────
「ディネクスの人達を頼むぜ、頼りにしてる」
「あぁ、ここは任せて心置きなく神の情報を探ってくれ。何か緊急の連絡があれば、この改良された腕輪で連絡しよう」
ここは、ストリンから侵攻された門戸の反対側、カレンに連れられて初めて潜ったディネクスの入り口である。大勢の騎士や魔法使い、そして酒場兼ギルドの長のメイちゃん、それにスクミトライブの一人である九条カナメが見送ってくれていた。
「この腕輪でどう連絡するんだ?」
見た感じ、前々にあったステータス表示のボタンしかない。試しに押してみると自分の運気が安定のマイナスであることも変わっちゃいなかった。
「これはね、こう使うんだよ」
そういうと、オウグが丸い腕輪を着けている右腕の手を自身の右耳に当てた。そこで察しがついた。
「コール、山田サツキ」
ピロピロピロピロ!
「おぉ!すごっ!」
着けていた腕輪が振動しチカチカと鈍く光った。腕輪の部分には「オウグ」と書かれている。
オウグと同じく、俺は自身の右手を右耳に当てた。
「はい」
『聞こえるかな?』
「聞こえる聞こえる!まさか異世界で通話が出来るとは」
『...ん?あれ、サツキ君の声がよく聞こえないんだが』
「え、嘘...因みにこれってどんな原理で動いてるのか、ざっくり教えてもらってもいい?」
「あぁ、『マジックIoTの応用』と、開発者のオモヘビが言っていたよ。装着者の魔力を音声に変換して無線で送信...あ」
説明途中で、オウグがあることに気づいた。そう、俺はデフォルトでは魔力がマイナスなので、皆のように魔法を行使することができない。それと同じく、この腕輪による通話ができないのだ。送信される音声は聞こえるらしいので、こちらが音を聞くだけなら可能らしい。
「もしもし?」
「おお!聞こえたぞ!おーい!」
「聞こえたよ!げんきー?」
「目の前にいるだろ?アハハハ!」
どうやら最近この機器が普及しているようで、周りには初めて携帯電話に触れた人の反応が見てとれた。だが俺は彼らのようには通話することができない。
畜生、絶対神ぶっ倒してこの不幸消してやるからな。
「何か、ごめんね」
オウグの申し訳ない謝罪が、心に空しく木霊した。グスン。
「じゃあねメイちゃん、ちょっと行ってくる」
「えぇ、ちゃんと見つけるのよ、こっちでもわかったら連絡するから」
「うん、ありがとう」
カレンとメイちゃんも、何やら真剣な雰囲気をしていた。見つけるというのは、昨日言っていたカレンの目的の事だろうか?
「カレン、先に行くぞ」
ジニアとトウカが箒に跨がり、既に離陸して出発体勢になっていた。
「相変わらず協調性の欠片も無いわね、じゃ、行きますか!」
長い金髪を翻してカレンが振り向くと、俺と目があった。目がキリッとしているが、口角はにやっと笑っている。覚悟完了って感じだ。
「うん、行こう」
俺達四人と一匹は飛び立った。以前とは違い、ちゃんと箒に跨がって。だんだんとディネクスが小さくなっていく。そのしばらく距離が空いた隣にポツンと見える緑色がコボ郎のいた森だ。そういえば、転移してすぐに色々なことに巻き込まれたような気がする。だが、ようやく自分の目的に向かって出発した感じだった。
...ん?転移して?そういやこの世界の人は俺やトウカのことを「転移者」と言っていた。「転移」ってことは、俺はこの世界にワープ、もとい召喚によって来たのだろうか?でも俺ってここに来る前は...。
何か引っかかる。だがその一抹の疑問も、正面の遠い地平線を見て、まぁいっかととりあえず先送りにさせられた。この広がった世界を見て、カレンに言わずにはいられなかったのだ。
「カレン!そういや『冒険者』って何か知らなかったよな?」
「あぁ、そんな事言ってたわね」
ひゅるひゅると煽られる髪を手繰り、俺の方に振り向いたカレンに言った。
「今の俺達がそれだよ、広い世界を駆け巡る俺達は、まさしく冒険者だ!」
それも急いで神に近づかないといけない。会談の後、ストリンはディネクスの領土としてこれから運営していくことを公表した。このように「私はもうストリンという国ではなく、ディネクスの一部だよ」と意思表示をすることで、神の言っていた「他国の力を借りずに復興」に該当することになるだろうと考えての手段だ。だってこれは一部になっているだけであって、「力を借りている」ことにはならない。
だが問題はディネクス側だ。ストリンと同じくワイバーン、もといケモノの存在を確認した。ケモノが何かしらの情報を神に伝えるために来ていて、今その情報を持ち帰ったと見ていいだろう。ということは、神の攻撃が、ストリンの様に遠くない内に来てしまう。その前にこちらから仕掛けるしかない。
ということで、その第一の目的地である「ルーパ」に向かうことにしたのだ。
スクミトライブの一人で、ステータスの腕輪兼転移者レーダーを開発したオモヘビという開発者がいる。そいつによれば、生息地から遠い場所でのワイバーンの目撃情報を幾つか見つけ出してくれた。世界中にディネクスの冒険者が散らばっているので、そいつらが着けている腕輪からそれらの情報が得られるらしい。味方だととても有りがたいことだ。
このような経緯から、城の一室で俺は早速ルーパへ向かう準備を進めていた。開け放たれた窓から風が緩やかに感じられ、カーテがヒラヒラと揺れている。なんだかこの世界には転移する前の情景を思い出した。学校の鞄を携えて駅の風を受けていたあの頃の。
そんな思いを馳せながら、小さな鞄に必要なモノを入れて、その度に必要なものチェックシートにOKと記入していた。
「ふぅ、荷物はこれくらいかな」
歯ブラシOK
歯磨き粉OK
ハンカチOK
ちり紙OK
トランプOK
お弁当OK
おやつ(300円以内)OK
すいとうOK
しおりOK
「OKじゃないわよ!遠足かピクニックか!」
カレンもこの旅に付き合ってくれるとのことだったので、俺の部屋で情報共有をしようとしていたのだが、準備段階で突っ込まれてしまった。
「分かってんの?国の命運が懸かってるかもしれないの!あんたも神に不幸押し付けられたーとか言ってたでしょーが!緩いわ!覚悟とか色々と」
「山の天気が変化しやすいように、旅というのは心の天気も変わりやすい。常に平静を保つためには、こうしてリラックスできる環境を如何に作り出す準備ができるかが鍵になるんだ。
だからやっぱりおやつは500円にしてもいいかな?でも限りある値段から選ぶのもまた一興なんだよなぁ...」
「要りません!」
そういうと、カレンは鞄からあらゆるものを出し始めた!やめろ!しおり、トランプ、おやつは特に重要なアイテムだろうが!
歯ブラシNO
歯磨き粉NO
ハンカチNO
ちり紙NO
トランプNO
お弁当OK
おやつ(300円以内)NO
すいとうOK
しおりNO
弁当、すいとう以外の物がベッドに放り出されてしまった。嘘だろ、せめて歯磨き粉はいいだろう?市場で売ってたスウィートイチゴ味だぞ?せっかく買ったのに...。ズズン、と気持ちが沈んでいく。
「荷物なんて少ないに越したことないでしょ」
「じゃあカレンはどれくらいの荷物なんだよ」
沈んだ体勢で、憎らしく下からカレンを見上げた。
「女子の荷物事情を聞こうだなんて...デリカシーってのがないの?」
そう言うと、下卑た目でこちらを見下してきた。生ゴミを捨て忘れた時のような表情だ。
「こいつ...性別を盾にしやがって...」
「ま、来てあげるだけでも感謝なさい」
「確かにありがたいけれどもね?...でも、カレンは何で来てくれるんだ?」
「一応故郷だし見過ごせないでしょ、それにちょっと個人的な探し物もね」
「探し物って?」
その問いを口にすると、再びあの掃除し忘れた部分にある生い茂ったカビを見る目で蔑んできた。
「はいはい!デリカシーなかったねー!ごめんねー!」
ふん!とそっぽ向くカレンだったが、時折見せる真剣な表情が、大事な真意を隠し持っているようにも思えた。きっと言葉にはしないが、何か思うことがあって決断したのだろう。
そういえばこの間カレンは、オウグが転移者を保護しているという地下街に行っていたようだが、付いてきてくれる理由と何か関係するのだろうか?ストリンの侵攻を危惧して、国の人たちを避難させていたあの場所だ。まぁ、話してくれないだろうから聞かないけれど。
バタン!
そうこうしていると、部屋の扉が無造作に開かれた。
おいノック!エチケット!誰だよ!
「私達も行こう」
ジニアとトウカが俺の部屋を訪ねるやいなや、そう言った。突然のことだったので、訳を聞かずにはいられなかった。
「え、良いのか!?助かるよ、でもなんで?」
「はぁ...トウカが行くと聞かなくてな」
「私は、成長したい、大切な人を守れるようになりたい」
そう言って、頭を押さえるジニアを儚げに見上げた。確かに彼女の力を上手くコントロールすることができれば力になれるし、そもそも彼女の自信にも繋がるだろう。それに守るべきものがいるやつ程心が強い。
「ありがとう二人とも、よろしく頼む」
「勘違いするな、私はお前についていくんじゃない、トウカの意思を尊重してるだけだ」
ニヤニヤニヤニヤ。
「あ?消し炭にするぞ?」
「ごめんごめん」
ジニアがどちゃくそ怖い顔でこちらを睨んできた。これは心に秘めておこう、こいつらの関係は遠くで眺めるくらいがちょうどいいやつだ。深入るべからずと。
オホン、と気を取り直し、ジニアが確認を取る。
「それで、ルーパに向かうのだったな、一番最近ワイバーンの反応があったという」
「あぁ、もしかしたらケモノもどこかにいるかもしれない。あいつは人じゃない生き物の能力を借りることができる。そしてあいつの側には、透明になれる生き物『レオン』がいる。ならその力を行使して潜伏しているかもしれない。調査するに越したことはない」
「なるほど、厄介な力だ」
「でも、可愛かったよね」
トウカがパァッと笑顔になってこちらに同意を求めた。それには頷く。生き物はとても可愛いものだ。だからこそ、悪事に荷担させられているのは宜しくないことであると強く思う。
「となればこの四人で明日から出発────」
「待たんかぁい!」
ポフ。と、柔らかい白い丸っこいのが、窓から飛んできた。
「うわぁぁ!!?虫!?蚕蛾!?」
「誰が虫や!コボ郎や!」
プンスカポンポンと柔い体当たりで攻撃してくる。子供がポンポンと叩いてくるのを体験しているかのようだ。非力だが全力でアクションを取ろうとする姿はとても癒される。でもあれ本人真剣なんだけどね。
「何だよ、最近見なかったけどどこ言ってたんだ?」
「蛙のあんちゃんとかそこの小娘に森荒らされてたから、王様に『元戻さんかい!』言うたら、蛙のあんちゃんが直しに来てな、洞窟の中の祠とか木ぃとか直してもろててん。でもちゃんと位置決まってるから、それ教えるためにワシも行ってたってわけや」
あーそういえば、荒らしてそのまんまだったな。主にトウカ俺を追いかけていた時に、バキバキと木を薙ぎ倒していることによるものだが。確かに故郷に帰ってあの惨状だと、文句の一つや二つも言いたくなる。それをちゃんと汲み取ってくれるのだから、オウグはやはり心が広い。真の王たる器があるのだろう。お人好しとも言えるけど。
「そうか、良かったな。で、何で窓から入ってきてんの?」
「サツキ君らの声聞こえるのにドア開けられんからなぁ、開いてる窓探して飛び込んできたんや。ワシもその旅に同行したろう思ってなぁ」
えっへん!と胸?を張る白い玉。巨人の国に迷い込んだらそんな感じになりそうだな。
...あれ、来るの?まぁ別に同行するのは構わない。構わないのだが...
「いやぁ...んー、あ!マスコット的な、癒し的なポジで来てくれるんだ」
「ちゃうわボケ!サツキ君がうちの秘法取ってるんやから、秘宝守るんやったらサツキ君とこおらなあかんやろうが!だからワシも来たる!ワシらコロボの精は運気が他の生き物と比べてめっちゃ強いからな、ご利益に感謝して連れていけ!」
ご利益て、おまもりか?おまもりに立候補しているのか?自分で言ってて悲しくならないか?
と口に出しかけたが可哀想なのですんでのところで止めた。それに確かに思い返してみると、こいつはかなり運が良いのだと思った。トウカにぶっ飛ばされた先が偶然くじ引きのおっさんの荷物だったり、酸の水鉄砲を射たれた時偶然梅干しを食べていて溶けなかったり。
そしてそのご利益は運気として扱われ、その運気はゼロ・ハピネスの力の助けとなる。心強いじゃないか!
「最強のお守りだな、よろしく頼むぜ」
「お守り?誰がお守りやって?あぁ?」
「いやほら、防御力あるじゃん?護る力はすごいなって事だよ」
「そっかぁ!まぁ任せとけはっはっは!」
ふぅ、ちょろくて助かった。
こうして四人、加えて一匹の旅の準備が着々と進行されるのだった。
──────────────────────────────
「ディネクスの人達を頼むぜ、頼りにしてる」
「あぁ、ここは任せて心置きなく神の情報を探ってくれ。何か緊急の連絡があれば、この改良された腕輪で連絡しよう」
ここは、ストリンから侵攻された門戸の反対側、カレンに連れられて初めて潜ったディネクスの入り口である。大勢の騎士や魔法使い、そして酒場兼ギルドの長のメイちゃん、それにスクミトライブの一人である九条カナメが見送ってくれていた。
「この腕輪でどう連絡するんだ?」
見た感じ、前々にあったステータス表示のボタンしかない。試しに押してみると自分の運気が安定のマイナスであることも変わっちゃいなかった。
「これはね、こう使うんだよ」
そういうと、オウグが丸い腕輪を着けている右腕の手を自身の右耳に当てた。そこで察しがついた。
「コール、山田サツキ」
ピロピロピロピロ!
「おぉ!すごっ!」
着けていた腕輪が振動しチカチカと鈍く光った。腕輪の部分には「オウグ」と書かれている。
オウグと同じく、俺は自身の右手を右耳に当てた。
「はい」
『聞こえるかな?』
「聞こえる聞こえる!まさか異世界で通話が出来るとは」
『...ん?あれ、サツキ君の声がよく聞こえないんだが』
「え、嘘...因みにこれってどんな原理で動いてるのか、ざっくり教えてもらってもいい?」
「あぁ、『マジックIoTの応用』と、開発者のオモヘビが言っていたよ。装着者の魔力を音声に変換して無線で送信...あ」
説明途中で、オウグがあることに気づいた。そう、俺はデフォルトでは魔力がマイナスなので、皆のように魔法を行使することができない。それと同じく、この腕輪による通話ができないのだ。送信される音声は聞こえるらしいので、こちらが音を聞くだけなら可能らしい。
「もしもし?」
「おお!聞こえたぞ!おーい!」
「聞こえたよ!げんきー?」
「目の前にいるだろ?アハハハ!」
どうやら最近この機器が普及しているようで、周りには初めて携帯電話に触れた人の反応が見てとれた。だが俺は彼らのようには通話することができない。
畜生、絶対神ぶっ倒してこの不幸消してやるからな。
「何か、ごめんね」
オウグの申し訳ない謝罪が、心に空しく木霊した。グスン。
「じゃあねメイちゃん、ちょっと行ってくる」
「えぇ、ちゃんと見つけるのよ、こっちでもわかったら連絡するから」
「うん、ありがとう」
カレンとメイちゃんも、何やら真剣な雰囲気をしていた。見つけるというのは、昨日言っていたカレンの目的の事だろうか?
「カレン、先に行くぞ」
ジニアとトウカが箒に跨がり、既に離陸して出発体勢になっていた。
「相変わらず協調性の欠片も無いわね、じゃ、行きますか!」
長い金髪を翻してカレンが振り向くと、俺と目があった。目がキリッとしているが、口角はにやっと笑っている。覚悟完了って感じだ。
「うん、行こう」
俺達四人と一匹は飛び立った。以前とは違い、ちゃんと箒に跨がって。だんだんとディネクスが小さくなっていく。そのしばらく距離が空いた隣にポツンと見える緑色がコボ郎のいた森だ。そういえば、転移してすぐに色々なことに巻き込まれたような気がする。だが、ようやく自分の目的に向かって出発した感じだった。
...ん?転移して?そういやこの世界の人は俺やトウカのことを「転移者」と言っていた。「転移」ってことは、俺はこの世界にワープ、もとい召喚によって来たのだろうか?でも俺ってここに来る前は...。
何か引っかかる。だがその一抹の疑問も、正面の遠い地平線を見て、まぁいっかととりあえず先送りにさせられた。この広がった世界を見て、カレンに言わずにはいられなかったのだ。
「カレン!そういや『冒険者』って何か知らなかったよな?」
「あぁ、そんな事言ってたわね」
ひゅるひゅると煽られる髪を手繰り、俺の方に振り向いたカレンに言った。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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ありがとうございます!
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます!
お気に入り登録しときますね(^^)
こんな拙作に時間を割いて頂きありがとうございます!