4 / 62
少年と少女 それぞれの理由
少年と少女3
しおりを挟む
「ご機嫌麗しゅうございますな、レイリア様」
ウィリスの部屋を出て、自らの部屋へと戻ったレイリアを迎えたのは、平均寿命が五十代のこの国において、すでに齢七十近くとなった、白髪白鬚の老人だった。
「ごきげんよう、ヴィモット先生」
レイリアが和やかに挨拶をしたのは、現王立図書館館長であり、古代史学者でもある王国魔導士ヴィモット=オルドスだ。
レイリアは幼い頃、ヴィモットより魔法を教わっていたのだが、約六年前からは魔法ではなく、古代ルーシャン語を学ぶようになっていた。
ヴィモットをソファへと誘ったレイリアは、自分の机へと向かうと一冊の古めかしい本を手にした。
「どうでしたかな、そちらの本は。まだ難しかったですかな?」
最近やっと古代語の文献を原文のまま何とか読めるようになった弟子に、ヴィモットは柔らかな眼差しを向けながら尋ねた。
「はい。以前、現代語に訳されたものを読んだ事があったのですが、今回お借りした原書の写しを自分で読んでみると、どうも違う意味の内容になってしまう箇所があって…。やはり、古代語は難しいです」
苦笑いを浮かべながらヴィモットの反対側へと座ったレイリアへ、ヴィモットは頷いた。
「古代語は、一つの言葉に多くの意味が含まれております故、どの意味を以って訳すかにより、全く違う物語になり得てしまいますからな。私も、自らの読み解いた意味が真に正しいものなのかどうか、未だに自信が持てない時があるくらいですしな。ハッハッハ」
レイリアが学んでいる古代語は、現代語に比べて言葉の数はそれほど多くはないが、それ故、一つの言葉に多くの意味合いを含んでいる。
例えば「クレスティア」という言葉がある。
この言葉は一般的には、「日」、「光」、「輝き」、「希望」、「未来」、「金色」と言った、前向きな意味合いを現す言葉である。
だが、魔術用語として扱うときには、魔法の四属性である「水」、「火」、「風」、「地」の各属性の性質を全て併せ持つ「光」の属性を示す言葉でもあり、そのものずばり「クレスティア」という呪文の魔法さえあるのだ。
「ではやはり、巫女様しか古代語を正しく読み解くことは出来ないのですね」
この大陸に住まう多くの者が知る神話『女神の雫』にて、この地を創世し人々を導いたとされる女神『フロディア』を唯一の神として崇あがめる宗教が『フロディア教』だ。
レイリアを始め、このフロディア大陸に住まうほとんどの人々が信仰するこの宗教は、この国より遥か東の地に『トランセア』という宗教国家を築いている。
そのトランセアの王であり、女神フロディアの意思を人々に届けることが出来るとされる女性が、フロディア教の教主たる人物、『巫女』だ。
「レイリア様は少々誤解されておりますな。巫女様が読み解かれるのは文字では無く、物に込められた先人の意思との事でございます。故に、恐らく文字を読み解く事はなされないのではないかと存じます」
「では、巫女様に古代語で書かれた書物を読み解いて頂くことは、不可能ということでしょうか?」
「作者本人が書き込んだ原書ならば可能でしょうが、写本になると難しいかもしれませんな」
「そうだったのですね。そうなると、過去の出来事を解き明かすためには、やはり古書や記録を地道に読み解いていくしかないわけですね」
「そうなりますな。だからこそ我々のような古代言語学者が必要とされている訳なのですが。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
自身が知りたいと願う事柄が、想像以上に知り難いものなのだと改めて思い知ったレイリアは、ヴィモットの笑いに苦笑いで応えるしかなかった。
その後レイリアとヴィモットは、エイミーが用意したお茶とお菓子を頂きつつ、レイリアが今回読みこんできた書物の内容についての講義をヴィモットが行っていった。
そして、講義の時間が終わりに近づき、次回の課題である書物をレイリアへと手渡したヴィモットが、
「そう言えば」
と話し始めた。
ウィリスの部屋を出て、自らの部屋へと戻ったレイリアを迎えたのは、平均寿命が五十代のこの国において、すでに齢七十近くとなった、白髪白鬚の老人だった。
「ごきげんよう、ヴィモット先生」
レイリアが和やかに挨拶をしたのは、現王立図書館館長であり、古代史学者でもある王国魔導士ヴィモット=オルドスだ。
レイリアは幼い頃、ヴィモットより魔法を教わっていたのだが、約六年前からは魔法ではなく、古代ルーシャン語を学ぶようになっていた。
ヴィモットをソファへと誘ったレイリアは、自分の机へと向かうと一冊の古めかしい本を手にした。
「どうでしたかな、そちらの本は。まだ難しかったですかな?」
最近やっと古代語の文献を原文のまま何とか読めるようになった弟子に、ヴィモットは柔らかな眼差しを向けながら尋ねた。
「はい。以前、現代語に訳されたものを読んだ事があったのですが、今回お借りした原書の写しを自分で読んでみると、どうも違う意味の内容になってしまう箇所があって…。やはり、古代語は難しいです」
苦笑いを浮かべながらヴィモットの反対側へと座ったレイリアへ、ヴィモットは頷いた。
「古代語は、一つの言葉に多くの意味が含まれております故、どの意味を以って訳すかにより、全く違う物語になり得てしまいますからな。私も、自らの読み解いた意味が真に正しいものなのかどうか、未だに自信が持てない時があるくらいですしな。ハッハッハ」
レイリアが学んでいる古代語は、現代語に比べて言葉の数はそれほど多くはないが、それ故、一つの言葉に多くの意味合いを含んでいる。
例えば「クレスティア」という言葉がある。
この言葉は一般的には、「日」、「光」、「輝き」、「希望」、「未来」、「金色」と言った、前向きな意味合いを現す言葉である。
だが、魔術用語として扱うときには、魔法の四属性である「水」、「火」、「風」、「地」の各属性の性質を全て併せ持つ「光」の属性を示す言葉でもあり、そのものずばり「クレスティア」という呪文の魔法さえあるのだ。
「ではやはり、巫女様しか古代語を正しく読み解くことは出来ないのですね」
この大陸に住まう多くの者が知る神話『女神の雫』にて、この地を創世し人々を導いたとされる女神『フロディア』を唯一の神として崇あがめる宗教が『フロディア教』だ。
レイリアを始め、このフロディア大陸に住まうほとんどの人々が信仰するこの宗教は、この国より遥か東の地に『トランセア』という宗教国家を築いている。
そのトランセアの王であり、女神フロディアの意思を人々に届けることが出来るとされる女性が、フロディア教の教主たる人物、『巫女』だ。
「レイリア様は少々誤解されておりますな。巫女様が読み解かれるのは文字では無く、物に込められた先人の意思との事でございます。故に、恐らく文字を読み解く事はなされないのではないかと存じます」
「では、巫女様に古代語で書かれた書物を読み解いて頂くことは、不可能ということでしょうか?」
「作者本人が書き込んだ原書ならば可能でしょうが、写本になると難しいかもしれませんな」
「そうだったのですね。そうなると、過去の出来事を解き明かすためには、やはり古書や記録を地道に読み解いていくしかないわけですね」
「そうなりますな。だからこそ我々のような古代言語学者が必要とされている訳なのですが。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」
自身が知りたいと願う事柄が、想像以上に知り難いものなのだと改めて思い知ったレイリアは、ヴィモットの笑いに苦笑いで応えるしかなかった。
その後レイリアとヴィモットは、エイミーが用意したお茶とお菓子を頂きつつ、レイリアが今回読みこんできた書物の内容についての講義をヴィモットが行っていった。
そして、講義の時間が終わりに近づき、次回の課題である書物をレイリアへと手渡したヴィモットが、
「そう言えば」
と話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる