15 / 62
少年と少女 それぞれの理由
約束2
しおりを挟む
それから四年近くが経ち、レイリアが十一歳の夏を迎えた頃の事だった。
父の古くからの友人であるグレナ伯爵グエン=ハーウェイとその家族が、グエンの息子であるウィリスを除いて全員殺害されるという恐ろしい事件が起こった。
グエンは『王国騎士』の称号を持つ国内でも有名な剣豪であったが、事件が起こる一年ほど前に病を発症し、妻のルーナを伴って王都リシュラスより領地のグレナへと退き療養生活を送っていた。
一方、グエンの息子でレイリアと同じ歳のウィリスと、レイリアやウィリスより二歳年上の娘であるルッカは、リシュラスにあるノイエール学園へと通っていたため、普段は王都のハーウェイ邸にて過ごしていた。
しかし、事件当時は夏の長期休暇の時期であったため、二人はグレナへと戻っており、そこで事件に巻き込まれてしまったのだった。
痛ましい事件により家族を失ったウィリスは、それから約一月後、バムエット家の婿養子となったグエンの弟、ローシャルム子爵ウォーレン=バムエットに引き取られた。
その事を知ったレイリアは、ノイエール学園にも現れないウィリスへの手紙を、毎週のようにバムエット家へと送った。
だいたい毎回書く内容は同じで、体調はどうか、何か必要な物はないか、会いに行っても良いか、といったものだった。
そんな手紙の内容に、侍女のエイミーからは、
「まるで恋人を心配しているかのようですね」
とからかわれたが、レイリアからすると恋人という選択肢は全く無く、月齢的には年上であるが、レイリアよりかなり背が低いウィリスに対し、姉の様な気持ちから手紙を送り続けていた。
そうしてせっとせと送りつづける手紙には、毎回ローシャルム子爵夫人から返信が届いた。
曰く、『ウィリスは元気に暮らしているから安心して欲しい』と。
だが、レイリアが欲しいのはウィリス本人からの返信であり、更に言えば、ローシャルム子爵夫人からの手紙には、『会いに行きたい』というレイリアの申し出に対する返答は一切書かれていなかった。
そんな状況が二ヶ月ほどたった頃、流石のレイリアもこのままでは埒があかないと思い至り、父に願い出た。
「父様、私、ウィルが心配なの。だから、父様のお名前でローシャルム子爵様に、ウィルに会わせて欲しいっていうお手紙を出して欲しいの」
幼い頃、『おとうさま』の『お』がなかなか言えず、父の事を『とうさま』と呼ぶ様になって以来、ずっとそのままの言い方で育ってしまったレイリアは、父におねだりをする娘らしく、この時ばかりは実に可愛らしくお願いしてみた。
が、その実は、家格が上のゼピス侯爵から家格が下のローシャルム子爵へ、ウィリスに会わせろと脅しをかけろ、という物騒な内容だ。
侯爵家の権威を振りかざして子爵家に圧力をかけるなぞ、本来ならばこんな方法を父は認めないだろう。なにせゼピス家は能力主義なだけあって、己の問題は己の力で解決すべきであり、家名に頼るべきでは無い、と小さな頃から叩き込まれているのだ。
そうは言っても所詮は子供。
当然解決出来ない問題も出てくる訳で、そうなった時には親を頼りなさい、とも躾られている。
今回は正に、父の力と家の力に頼るべきだと思ったからこそ、レイリアは父にお願いしてみたのだ。
レイリアが散々愚痴ぐちっていた事もあり、父もウィリスから返信がない事や、ウィリスに会いたいというレイリアの手紙に対して、ローシャルム子爵夫人が返答をはぐらかしている事を知っている。
だからきっと、この願いは認められるだろうと思っていた。
だが、父であるファウスの返答はレイリアが予想したものと違っていた。
「その手紙を私が書いても、恐らくローシャルム子爵はこちらが望む返答を寄越さないだろうな」
「父様がお願いしてもローシャルム子爵様はお許し下さらないの?」
どうして?と、首を傾げたレイリアが目で問うと、ファウスは目を細め、娘の頭に手を置いた。
「ウィリスの事は、私も案じている。近いうちに何とかするつもりだから、安心しなさい」
父の古くからの友人であるグレナ伯爵グエン=ハーウェイとその家族が、グエンの息子であるウィリスを除いて全員殺害されるという恐ろしい事件が起こった。
グエンは『王国騎士』の称号を持つ国内でも有名な剣豪であったが、事件が起こる一年ほど前に病を発症し、妻のルーナを伴って王都リシュラスより領地のグレナへと退き療養生活を送っていた。
一方、グエンの息子でレイリアと同じ歳のウィリスと、レイリアやウィリスより二歳年上の娘であるルッカは、リシュラスにあるノイエール学園へと通っていたため、普段は王都のハーウェイ邸にて過ごしていた。
しかし、事件当時は夏の長期休暇の時期であったため、二人はグレナへと戻っており、そこで事件に巻き込まれてしまったのだった。
痛ましい事件により家族を失ったウィリスは、それから約一月後、バムエット家の婿養子となったグエンの弟、ローシャルム子爵ウォーレン=バムエットに引き取られた。
その事を知ったレイリアは、ノイエール学園にも現れないウィリスへの手紙を、毎週のようにバムエット家へと送った。
だいたい毎回書く内容は同じで、体調はどうか、何か必要な物はないか、会いに行っても良いか、といったものだった。
そんな手紙の内容に、侍女のエイミーからは、
「まるで恋人を心配しているかのようですね」
とからかわれたが、レイリアからすると恋人という選択肢は全く無く、月齢的には年上であるが、レイリアよりかなり背が低いウィリスに対し、姉の様な気持ちから手紙を送り続けていた。
そうしてせっとせと送りつづける手紙には、毎回ローシャルム子爵夫人から返信が届いた。
曰く、『ウィリスは元気に暮らしているから安心して欲しい』と。
だが、レイリアが欲しいのはウィリス本人からの返信であり、更に言えば、ローシャルム子爵夫人からの手紙には、『会いに行きたい』というレイリアの申し出に対する返答は一切書かれていなかった。
そんな状況が二ヶ月ほどたった頃、流石のレイリアもこのままでは埒があかないと思い至り、父に願い出た。
「父様、私、ウィルが心配なの。だから、父様のお名前でローシャルム子爵様に、ウィルに会わせて欲しいっていうお手紙を出して欲しいの」
幼い頃、『おとうさま』の『お』がなかなか言えず、父の事を『とうさま』と呼ぶ様になって以来、ずっとそのままの言い方で育ってしまったレイリアは、父におねだりをする娘らしく、この時ばかりは実に可愛らしくお願いしてみた。
が、その実は、家格が上のゼピス侯爵から家格が下のローシャルム子爵へ、ウィリスに会わせろと脅しをかけろ、という物騒な内容だ。
侯爵家の権威を振りかざして子爵家に圧力をかけるなぞ、本来ならばこんな方法を父は認めないだろう。なにせゼピス家は能力主義なだけあって、己の問題は己の力で解決すべきであり、家名に頼るべきでは無い、と小さな頃から叩き込まれているのだ。
そうは言っても所詮は子供。
当然解決出来ない問題も出てくる訳で、そうなった時には親を頼りなさい、とも躾られている。
今回は正に、父の力と家の力に頼るべきだと思ったからこそ、レイリアは父にお願いしてみたのだ。
レイリアが散々愚痴ぐちっていた事もあり、父もウィリスから返信がない事や、ウィリスに会いたいというレイリアの手紙に対して、ローシャルム子爵夫人が返答をはぐらかしている事を知っている。
だからきっと、この願いは認められるだろうと思っていた。
だが、父であるファウスの返答はレイリアが予想したものと違っていた。
「その手紙を私が書いても、恐らくローシャルム子爵はこちらが望む返答を寄越さないだろうな」
「父様がお願いしてもローシャルム子爵様はお許し下さらないの?」
どうして?と、首を傾げたレイリアが目で問うと、ファウスは目を細め、娘の頭に手を置いた。
「ウィリスの事は、私も案じている。近いうちに何とかするつもりだから、安心しなさい」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる