女神の雫〜ルタルニア編〜

山本 美優

文字の大きさ
16 / 62
少年と少女 それぞれの理由

約束3

しおりを挟む
 そんなやり取りをしてから二週間近くが経ったある日。

 翌日もノイエール学園の授業があるため、いつも通りの時間に就寝したレイリアだったが、夜半になり、屋敷内が騒ざわついている事に気が付いて目を覚ました。
 夜着よぎの上にショールを羽織って廊下へ出てみると、隣の部屋から兄のカイも出てきたところだった。

「兄様」

 レイリアは兄へと声を掛けると、側へと小走りで寄った。

「父様に何かあったのかしら?」

 こんな時間に屋敷内が騒つくなど、レイリアの記憶の中では一度も無い。となれば、余程の事が我が家に起こったという事であり、考えられる事の第一は、父に関する事だった。

 不安げな表情を浮かべるレイリアの横で、兄のカイが腕を組む。

「父上の身に何かあったのなら、僕らにもすぐ何らかの報せが届くはずだ。それが無いという事は、別件だろうな」
「別件?父様のお仕事の関係?」
「若しくは、王子様の救出に成功したか、かな」
「王子様って?エルディオ殿下に何かあったの!?」

 レイリア達の父方の従姉妹いとこであるフォーン侯爵家のルルーシアを先頃妃として迎えたばかりのルタルニア王国第一王子の名を口にしたレイリアに、カイは苦笑いを浮かべた。

「本物じゃなくて、物語に出て来る王子様みたいに綺麗な顔をしたヤツが、お前の友達にはいるだろ?まぁ、あいつの場合、お姫様の方が似合ってるかもしれないけれどな」

 綺麗な顔をしたお姫様みたいな男の子…。そんな友達は、たった一人しか思い浮かばない。

「もしかして、ウィルの事?」
「あぁ」
 
 カイの短い肯定に、レイリアが困惑する。

「ウィルの救出って、何?」

 レイリアがそう呟いた時、何者かが二人の元へと駆け込んできた。

「カイ様!」

 カイの従者であるディーン=エデックが、慌てた様子であるじを呼んだ。

「何があった」

 カイの問い掛けに、ディーンは
「それが…」
と言い淀よどむと、レイリアを一瞥いちべつした。

「父上がレイリアには知らせるなとでも言ったのか?」
「いいえ。その様な事はおっしゃられていませんでしたが…」
「ならば構わない。言ってくれ」

  カイに促され、ディーンが口を開く。

「先程、旦那様がウィリス=ハーウェイ様をお連れになりました」

 ディーンの報告に、カイが真顔でポツリと洩もらす。

「間に合ったか」

 レイリアは、『何が?』、しくは『何に?』、とカイへ尋ねたかったが、今はそれ以上にディーンへ聞きたい事がある。

「ウィルはどこ!?」
 飛びつかんばかりの勢いで尋ねるレイリアに、ディーンが告げる。

「客室にお通し…、レイリア様!」

 ウィリスの居場所さえ分かれば、ディーンの言葉なぞ最後まで聞く必要は無い。

 すぐに廊下を走り出したレイリアは、カイやレイリアの部屋がある建物の二階の東側から、客室のある三階の西側を目指した。

 だが、中央階段を駆け上がる途中で、すれ違い様に、執事のラザエル=オボックに腕を掴まれてしまった。

「お待ち下さい、レイリア様」
「離して、ラザエル!」

 父より年上だが、まだ初老に届かない中年男性のラザエルは、流石リシュラスのゼピス邸を仕切る執事だけあり、頭も切れる上、魔法にも剣術にも造詣ぞうしのある希有けうな人物だ。それなりの腕力で腕を掴まれれば、当然レイリアは動けない。

「ウィリス様の元へ行かれるおつもりですか?」
「そうよ」
「では今は、お会いにならない方が宜しいかと」
「どうして?」
「今のウィリス様は体調を崩していらっしゃいます。お会いになられれば、ウィリス様のご負担にもなるかと」

 ラザエルの言葉に、レイリアの体から力が抜ける。それと同時に、ラザエルがレイリアの束縛を解いた。

「ウィル、具合が悪いの?」
「はい」

 体調が悪いところを無理に押しかけるのも申し訳ない。
 しかし、わずかでも良いから顔が見たいという思いもある。

「ほんの少しでも良いの。会うことは出来ない?」
「暫しばらくはお控え頂いた方が宜しいかと存じます」

 ラザエルの態度から、僅かの時間さえ会わせてもらえない程にウィリスの体調が悪いのだと思い至り、レイリアの言葉がわずかに震える。

「そんなに、ウィルの具合、悪いの?」
「良いとは言い難いかと…」
「どうして…」

 数日前に送られてきたローシャルム子爵夫人からの手紙には、いつもの如ごとく、ウィリスは元気だと書かれていた。
 では、この数日の間にウィリスは体調を崩し、更に悪化させたというのだろうか?

 うつむくレイリアと、レイリアを見守るラザエルがいる階段上に、威厳のある低い声が響く。

「こんな所で何をしている」
「父様…」
 見上げた先に現れた父の元へ、レイリアが駆け上がる。

「父様、ウィルは?」

 そう尋ねる娘に、ファウスはため息を吐いた。

「もうお前のところにまでウィリスの事が伝わったか」
「ディーンが知らせてくれました」

 実際のところ、ディーンはカイに伝えに来たのであり、レイリアはその場に居ただけなのだが、間違った事は言っていないとレイリアは開き直って答えた。

「まぁ、良いだろう。それで、ウィリスに会いに来たのか?」
「はい」

 レイリアの返事に、一瞬の間を置いてから、ファウスが口を開いた。

「そうか…。ならば、付いて来なさい」
「はい!」

 ファウスの言葉に頷いたレイリアは、身をひるがえして客室へと続く廊下を歩き始めたファウスの隣へと急いだ。

「あの、父様」
「何だ?」

 横に並んで歩くファウスへ、レイリアが尋ねた。

「ラザエルからウィルは体調を崩していると聞きましたが、私が行っても良いのでしょうか?」
「ウィリスの体調不良は精神的な問題から来ている部分が大きい。仲の良かったお前がはげませば、あるいは、ウィリスも元気になるかもしれないな」

 いつかと同じように目を細めたファウスが、レイリアの頭の上に、その大きな手を軽く乗せてきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...