女神の雫〜ルタルニア編〜

山本 美優

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少年と少女 それぞれの理由

少女の理由〜ゼピス侯爵令嬢誘拐事件〜2

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一人何もない部屋に取り残されたレイリアは、始めこそ寝転んだり歌を歌ったりしていたが、すぐに飽きて暇を持て余した。

 結局何もしないよりはと、いつもならば嫌々やらされている魔力鍛錬のいくつかをなんとなく一人でこなしてみた。
 すると、何故だかいつもより上手くこなせるのだ。

(何でこういう時ばっかり上手くいくのかなぁ)

 普段のレイリアは、あの優しいヴィモットでさえも頭を抱えてしまう程の不出来さなのだ。
 そのヴィモットが言うことには、魔法は心の持ちようによって成功したり失敗したりするらしい。レイリアの場合、嫌々練習している限り上手くはいかないそうだ。

(それじゃあ今成功するのは、嫌々やっていないっていうことなのかなぁ。お祖母様との練習が嫌で家出したのになぁ…)

 幼いながらもレイリアがこの不条理さに
「うーん」
と唸りながら頭を悩ませていると、ゾワリ、と体中を何かがまとわりつく様な、非常に不快な感覚に襲われた。

(何?この感じ?)

 気が付くと、体中に鳥肌が立っていた。
 そして、その不快さの元凶は扉の向こう側から漂ってきているように感じる。

 警戒しながら扉の方向をじっと見つめていると、こちらへ走り寄ってくる誰かの足音が聞こえた。

(父様かも?)

 一瞬父が迎えに来たのかと思い喜んだのも束の間、扉を勢い良く開けたのはムウ=ウェイズであった。

「レイリアお嬢様。お父上様達があなたを迎えにいらっしゃいましたよ」

 言い回しは今まで通り丁寧だが、その目つきは異様に鋭く、薄気味悪い笑みさえも浮かべている。
 更に、先ほどから感じている嫌な気配を目の前の男が全身に色濃く纏わせている。

「さぁ、こちらですよ」

 ムウ=ウェイズは左手でレイリアの手首を強く掴むと、そのまま部屋から連れ出し、早足で歩き始めた。

 レイリアは今までとは違う雰囲気を漂わせる男に警戒しながらも、転ばないよう必死で付いて行った。 

「どこへ行くの?」
「ファウス様達をお迎えする場所です」

 振り向きもせずムウ=ウェイズがそう言い切った時、レイリアは向かう先とは反対の方向から、良く知る魔力の波動を感じた。

(父様だ!)

 レイリアは父が来たことに安堵あんどし、思わず歩みを止めて振り向こうとしたが、それは許されず、無理矢理に腕を引っ張られた。

「ねぇ。父様はあっちよ?」

 レイリアの声は無視され、段々と嫌な気配が増す方へと近づいていく。
 そして、大きな二枚扉の前へと到着した時、レイリアはその内側から今まで感じたことが無いようなまが々しい気配を感じ取った。

(この部屋の中に何があるの?)

 恐怖と好奇心を抱きつつ、男に連れられ部屋へと入る。

「なに…。これ…」

 レイリアは、その奇妙且つ、不気味な部屋に絶句した。

 天井高く、奥行き横幅共にかなり広いこの部屋の右手には、大きな円柱の水槽のようなものが置かれていた。そして、その水槽の様なものは緑色の液体で満たされ、中には黒ずんだ色をした大きな人が浮かんでいた。
 その光景に驚いたレイリアが好奇心から目を凝らすと、人と思ったそれの背には羽らしき物があり、更には腕が何本も生えている。

 人とは違う何かの存在に眉をひそめたレイリアの上から、ムウ=ウェイズの声がした。

「魔族ですよ」
「魔族?」
「ご存じありませんか?女神の雫のうたを」
「もちろん知っているわ!」

 フロディア教の信者ならば誰もが知る創生物語。
 その中に、人へとあだなす存在として魔族が出て来る。

 しかし、それはお伽噺とぎばなし、若しくは太古の話であり、しかも、彼らは地底深くに封じ込められたとされている。

「でも、どうして魔族なんかがここに居るの?」
「魔族は、あそこにある石板を使って召喚することが出来るのですよ」

 ムウ=ウェイズの指が示す先、部屋の中心には光り輝く魔法陣があり、その宙には白い四角い何かが漂っている。

「魔族なんて召喚してどうするの?」
「もちろん私の研究の役に立ってもらうのです」

 幼いながらもこの部屋を見れば、この男の研究内容が良くない物であると解る。

「あなたは何の研究をしているの?」
「召喚した魔族からその力を吸い取り人へと注ぐのです。すると、常人を超える能力が授かれるのですよ。素晴らしいでしょう!それなのに、あなたの父上は私の研究を否定した!魔族を用いるなど以ての外だと!」

 自分の研究を否定された怒りからか、ムウ=ウェイズの身体より強大な魔力の波動が溢れ出した。

(なんて魔力なの!)

 今まで触れたことが無いほどの強い魔力に、レイリアは恐れおののいた。

「それじゃあ、父様をここへ呼び出したのは、この研究を褒めてもらうため?」

 震える声でレイリアが問うと、ムウ=ウェイズは急に笑い出した。

「褒める?フフフ…。ハッハッハッ…!いいえ、違いますよ。私の方が優れているということを、あの男とこの国に認めさせてやるためです。そして、私がこの国の筆頭魔導士となり、この国を導くのです!」

 この部屋も、この男の研究も、語る望みも、全てが狂気じみている。こんな所に居てはいけない。

(早く逃げなきゃ!)

 しかし、相手は魔力も力も自分より上だ。
 そんな相手から逃げ出す方法を急いであれこれ考えると、一度だけ兄妹喧嘩で使ったかなり凶暴な、しかし、あまり気の進まない方法をレイリアは思い付いた。

(上手くいくかわからないけれど、もう、これしかないし…)

 致し方なしに実行する覚悟を決めると、レイリアは時を計った。
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