大魔道士の初恋

チョロケロ

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第十三話

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 ノックをしてから数秒でドアが開いた。
 満面の笑みを浮かべたオズベルト様が出てきた。

「ルーイさん! こんにちは!」
「こんにちは……。オズベルト様」
「さぁさぁ、家の中に入って下さい!」
「……いえ。今日はここでお話ししたい事があるのです」
「お話し?」

 オズベルト様はキョトンとしている。
 私はスゥッと息を吸い、心を決めて話し始めた。

「実は、旅を再開する事にしました」 
「旅ですか?」
「はい。私はある目的があってずっと旅をしているのです」
「……」
「今日ここへ来たのは、オズベルト様にお別れを言う為です」
「……別れ……」
「今日この後旅立ちます。遠くに行くのでもうオズベルト様とはお会いできません」
「……」

 オズベルト様は呆然と私の話を聞いていた。

「折角お知り合いになれたのに残念に思います。ですが、行かなければなりません」
「……そう、ですか……」

 オズベルト様は静かにうつむいた。そして小さな声でポツリと呟いた。
 
「本当に、残念です……」
「……」

 それだけ言うとお顔を上げた。
 オズベルト様は悲しそうなお顔で笑っていた。
 多分、無理に笑顔を作ろうとしているのだ。私はその表情を見て、申し訳なさで泣きたくなった。

「ですが、仕方ありませんね。ルーイさんにはルーイさんの事情がある」
「……はい」

 オズベルト様は本当に優しいお方だ。
 私がオズベルト様の立場なら、不満をぶち撒けるだろう。『旅なんかいつでも出来るではないか! 何故今なんだ!? 俺との事はどうなる! ふざけるな!』ぐらい言うかもしれない。オズベルト様もきっと、私に言いたい事は山ほどあるだろう。だが、それらの言葉を全て飲み込んで、笑顔で私を送り出そうとしているのだ。

 オズベルト様は私に向かって右手を差し出した。

「ルーイさん。今までありがとうございます。貴方と過ごせた日々は、俺の宝物です」
「……はい。私も同じ気持ちです」

 私は震える手でオズベルト様の右手を掴んだ。

「さようなら。身体に気を付けて下さいね」
「ありがとう……ございます。オズベルト様もお元気で」

 そう言って私達は別れた。
 私はオズベルト様の家から離れると、声を殺して泣いた。

 ……ごめんなさい、オズベルト様。
 やはり私は貴方を傷付けてしまいましたね。
 でも、これ以外方法が思い浮かばなかったのです。
 どうか……どうか、もう私の事など忘れて下さい。オズベルト様は素晴らしいお方です。きっとすぐに素敵な女性に出会えます。その時にオズベルト様は本当の幸せを手にできる。
 私は泣きながら天を仰いだ。

「神様……。どうかオズベルト様が幸せになれますように……」

 今の私に出来る事と言ったら、神に祈る事だけだった。
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