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第十四話
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「ただいま戻りました」
オズベルト様と別れて三時間程経ってから、私は家に戻った。もちろん蛇の姿だ。服は庭の草むらに隠してある。あとで取りに行く予定だ。
それより今はオズベルト様の事が気になっていた。
「オズベルト様?」
リビングに行くが、オズベルト様の姿はない。
部屋にいるのだろうか?
シュルシュルとオズベルト様のお部屋に移動する。
「オズベルト様ー。ただ今戻りました」
部屋の中に向かって声を掛けると、中からガサゴソと動く音が聞こえた。次にドアが開いて、オズベルト様が出てきた。
「……お帰り。ルーン……」
「オ、オズベルト様……!」
私はオズベルト様を見てギョッとした。
オズベルト様のお顔はグチャグチャだった。目からは大粒の涙をこぼしていて、お鼻は真っ赤だった。グスグス言いながら、私を肩に乗せた。
「ルーン……。ルーイさんは旅に出るらしい。もう俺とは会えないそうだ」
「そう……ですか」
「本当は、行かないでくれと言いたかったんだ。でも、そんな事を言ったらきっとルーイさんは困ってしまうだろう。だから俺は笑顔で送り出したぞ」
「……。偉かったですね、オズベルト様」
オズベルト様は、うぅっと嗚咽を漏らした。
「ルーン……。ルーイさんの事、忘れなきゃいけないって分かってるんだ。もう、彼には二度と会えないだろうから……」
「……」
「でも、会いたいんだ!! 今朝別れたばかりなのに、もう会いたくてたまらないんだ!! どうしたらいい? どうしたらルーイさんを忘れられると思う?」
「オズベルト様……」
何を言っていいのか分からなくて、私はオズベルト様の名前を呼ぶ事しか出来なかった。
まさかオズベルト様が涙を流す程私との別れが辛いとは思わなかった。
オズベルト様がお顔をくしゃりと歪めて泣いているのを見ていたら、私まで悲しくなってきた。
さっきあれだけ泣いたのに、また涙がこぼれてきた。
「オズベルト様……」
私の涙を見て、今度はオズベルト様がギョッとした。おろおろしながら私の涙を拭って下さる。
「どうしたのだ? ルーン、お前まで泣く事はないのだぞ?」
「うっ……うっ……ごめんなさい、オズベルト様」
「何故お前が謝る。お前は何も悪くない」
「いいえ。私が全て悪いのです」
人型に変身なんてしなければ良かった。
オズベルト様の友人になるなど言わなければよかった。
オズベルト様に誘われて、遊びになど行かなければ良かった。
……本当を言うと、私はオズベルト様に好かれて嬉しかったのだ。
恋した瞳で見つめられて胸がときめいた。
愛していると言われて有頂天になった。
だからキッパリとオズベルト様のお誘いを断れなかったのだ。
その結果、オズベルト様を泣かせてしまった。
あの勇敢で、涙なんか決して見せないオズベルト様に、とても悲しい思いをさせてしまったのだ。
私は本当に愚かだ。
オズベルト様とのお別れは、オズベルト様の為だと自分に言い聞かせていた。
だが、実際は違う。
――実際は、私の為だ。
私が正体を隠してオズベルト様と会うのが辛かったから……。正体がバレた時にオズベルト様に軽蔑されるのが怖かったから……。
だから私はオズベルト様から逃げたのだ。
――でも、このままではいけないと気が付いた。
オズベルト様から逃げてはいけない。
きちんと真実を話して謝ろう。
真実を話したら、オズベルト様とはもう一緒にはいられないだろう。オズベルト様が嫌がると思うのだ。
――それでもいい。
嫌われても、軽蔑されてもいい。
それでオズベルト様の悲しみが少しでも無くなるのならば。
「オズベルト様……」
私は涙の残る目でオズベルト様を見つめた。
「何だ? ルーン」
「真実をお話しします。聞いて下さいますか?」
オズベルト様は私の言葉に不思議そうな顔をした。意味が分からないのだろう。
だが、それでもコクンと頷いて下さった。
「何か話したい事があるのか? いいよ、聞こう」
私は決意を胸に、力強く頷いた。
オズベルト様と別れて三時間程経ってから、私は家に戻った。もちろん蛇の姿だ。服は庭の草むらに隠してある。あとで取りに行く予定だ。
それより今はオズベルト様の事が気になっていた。
「オズベルト様?」
リビングに行くが、オズベルト様の姿はない。
部屋にいるのだろうか?
シュルシュルとオズベルト様のお部屋に移動する。
「オズベルト様ー。ただ今戻りました」
部屋の中に向かって声を掛けると、中からガサゴソと動く音が聞こえた。次にドアが開いて、オズベルト様が出てきた。
「……お帰り。ルーン……」
「オ、オズベルト様……!」
私はオズベルト様を見てギョッとした。
オズベルト様のお顔はグチャグチャだった。目からは大粒の涙をこぼしていて、お鼻は真っ赤だった。グスグス言いながら、私を肩に乗せた。
「ルーン……。ルーイさんは旅に出るらしい。もう俺とは会えないそうだ」
「そう……ですか」
「本当は、行かないでくれと言いたかったんだ。でも、そんな事を言ったらきっとルーイさんは困ってしまうだろう。だから俺は笑顔で送り出したぞ」
「……。偉かったですね、オズベルト様」
オズベルト様は、うぅっと嗚咽を漏らした。
「ルーン……。ルーイさんの事、忘れなきゃいけないって分かってるんだ。もう、彼には二度と会えないだろうから……」
「……」
「でも、会いたいんだ!! 今朝別れたばかりなのに、もう会いたくてたまらないんだ!! どうしたらいい? どうしたらルーイさんを忘れられると思う?」
「オズベルト様……」
何を言っていいのか分からなくて、私はオズベルト様の名前を呼ぶ事しか出来なかった。
まさかオズベルト様が涙を流す程私との別れが辛いとは思わなかった。
オズベルト様がお顔をくしゃりと歪めて泣いているのを見ていたら、私まで悲しくなってきた。
さっきあれだけ泣いたのに、また涙がこぼれてきた。
「オズベルト様……」
私の涙を見て、今度はオズベルト様がギョッとした。おろおろしながら私の涙を拭って下さる。
「どうしたのだ? ルーン、お前まで泣く事はないのだぞ?」
「うっ……うっ……ごめんなさい、オズベルト様」
「何故お前が謝る。お前は何も悪くない」
「いいえ。私が全て悪いのです」
人型に変身なんてしなければ良かった。
オズベルト様の友人になるなど言わなければよかった。
オズベルト様に誘われて、遊びになど行かなければ良かった。
……本当を言うと、私はオズベルト様に好かれて嬉しかったのだ。
恋した瞳で見つめられて胸がときめいた。
愛していると言われて有頂天になった。
だからキッパリとオズベルト様のお誘いを断れなかったのだ。
その結果、オズベルト様を泣かせてしまった。
あの勇敢で、涙なんか決して見せないオズベルト様に、とても悲しい思いをさせてしまったのだ。
私は本当に愚かだ。
オズベルト様とのお別れは、オズベルト様の為だと自分に言い聞かせていた。
だが、実際は違う。
――実際は、私の為だ。
私が正体を隠してオズベルト様と会うのが辛かったから……。正体がバレた時にオズベルト様に軽蔑されるのが怖かったから……。
だから私はオズベルト様から逃げたのだ。
――でも、このままではいけないと気が付いた。
オズベルト様から逃げてはいけない。
きちんと真実を話して謝ろう。
真実を話したら、オズベルト様とはもう一緒にはいられないだろう。オズベルト様が嫌がると思うのだ。
――それでもいい。
嫌われても、軽蔑されてもいい。
それでオズベルト様の悲しみが少しでも無くなるのならば。
「オズベルト様……」
私は涙の残る目でオズベルト様を見つめた。
「何だ? ルーン」
「真実をお話しします。聞いて下さいますか?」
オズベルト様は私の言葉に不思議そうな顔をした。意味が分からないのだろう。
だが、それでもコクンと頷いて下さった。
「何か話したい事があるのか? いいよ、聞こう」
私は決意を胸に、力強く頷いた。
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