【完結】私を食べて

チョロケロ

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前編

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 十二歳の誕生日を迎えた日。
 私は親に連れられて深い森の中に入った。
 雪がしんしんと降っていて寒かった。家に帰りたかったけど、なにか言うと殴られるので、黙って親の後ろを歩いていた。
 大きな大木の前に着くと、親は縄で私と大木をぐるぐる巻きにした。
 縄がむき出しの腕に食い込み痛かったが、なにか喋ったらもの凄く怒られるような気がして、私は必死に無言を貫いた。
 縄を巻きおわると、親はこちらを振り返りもせずさっさと元来た道を引き返していった。

 その瞬間、私は悟った。

――あぁ。私、ついに捨てられたんだな……と。

※※※※

 雪が降り続ける中、私は木に縛り付けられながら早く死ねないかなとぼんやり思っていた。
 だって寒いし、お腹空いたんだもん。
 早く死ね、私! などと心の中で叫んでいたら、さくさく雪を踏む音が聞こえてきた。
 前方を見ると、大きな男の人がこちらに歩いてきているところだった。
 そこで私はギョッとした。
 何故ならその男の人の頭から、二本のツノがニョッキリ生えていたからだ。

 あ……、この人『鬼』だ。
 絵本で読んだことがある。鬼は深い森に住んでいて、頭に二本のツノが生えているのだ。
 それで、人間を食べるのだ。
 多分この鬼さんは、私を食べに来たのだろう。
 別に良いよ。痩せっぽっちで美味しくないと思うけど、残さず食べてね。
 私はこんな状況なのに怖がりもせず、静かに鬼さんが近づいて来るのを待った。
 
 鬼さんは縛り付けられている私を見て、目を丸くする。

「なんだお前? 雪の日にそんな危険な一人遊びをするな。凍死するぞ?」

 この状況が一人遊びに見えたの?
 この鬼さん、変な人だわ。
 私は寒さでガチガチ歯を鳴らしながら、ちょっと笑ってしまった。

「遊んでるわけじゃない。親に縛り付けられたの」
「なんで?」
「私に死んで欲しいと思ったんじゃない?」
「……」

 鬼さんはなぜだか悲しそうな表情をして、私に近付いてきた。
 それから私を縛り付けていた縄を、ナイフでぶちりと切ってくれた。

「歩けるか?」
「無理」

 足の感覚が無くて歩けそうになかったので正直に言うと、鬼さんは私をお姫様抱っこしてくれた。
 それからノシノシとどこかに向かって歩き始める。

「どこ行くの?」
「俺の家だ」
「ふーん……」

 なぜ家に連れていってくれるんだろう?
 ここで食べるのは寒いから、温かいところでゆっくり食べるのかな?
 それよりもこの鬼さんの体、あったかいな……。
 私はギュウっと鬼さんの体に抱き付き、そのぬくもりを堪能したのだった。

※※※※

 家に着くと鬼さんは私をお風呂場に連れて行った。
 ホカホカと湯気を立てたお風呂を指差し、鬼さんは言った。

「風呂入れ。温まるぞ。俺は居間にいる。覗かないから安心しろ」
「無理。体が動かない。お風呂入れて」
「お前なぁ……、ガキだけど一応女だろ? もっと恥ずかしがれよ」
「?」
「……。まぁ、いいか」

 鬼さんは私の服のボタンを外して裸にすると、ゆっくりと湯の中に入れてくれた。
 寒さでかじかんでいた体がほぐれていく。
 お風呂気持ち良い。何日ぶりだろう? 温かくて泣きそうになる。

「あとは一人で出来るな? 俺はスープを温めてくるからお前はゆっくり湯にかってろ。服を用意しておくから、湯から出たらそれを着て居間に来い」
「分かった」

 鬼さんはそれだけ言うと、さっさとお風呂場を出て行ってしまった。残された私はのぼせる寸前まで湯に浸かり、それから勝手にシャンプーとボディソープを借りて頭と体を洗った。だって私を食べるなら体を綺麗にした方がいいでしょ?
 それからもう一度湯に浸かり、百を数えてから上がったのだった。

※※※※

 服はブカブカのセーターだった。足が寒いけど上半身はとっても温かい。
 うん、このセーター気に入った!
 ニコニコしながら居間に向かう。

 すると、鬼さんが立っていて『そこの椅子に座れ』とぶっきらぼうに言った。
 椅子? と思い目を向けると、テーブルと二つの椅子がちょこんと鎮座していた。
 どっちの椅子か分からなかったので適当に座ると、鬼さんはテーブルの上にコトンとお皿をのせた。
 熱々のスープだ。途端にお腹がグーッと鳴る。

「食え」
「うん!」

 スプーンを手に持ち、スープをすする。
 お野菜とお肉がたっぷり入っていて、涙が出るほど美味しかった。
 泣きながら完食すると、鬼さんはお皿を片付けて私の対面に座った。
 私はさっきから気になっていたことを鬼さんに質問する。

「鬼さん。私を食べないの?」

 鬼さんはちょっとびっくりしたようで目を丸くした。

「よく俺が鬼だって分かったなぁ」
「だって頭にカッコいいツノが二本生えてるもの」
「カッコいい……か?」
「うん! それより私を食べないの?」

 鬼さんは困ったように眉を下げると、腕を組み『うーん……』と唸った。
 
「こんな痩せ細ったガキはいらない」
「じゃあ、もっと太ったら食べてくれる?」

 私がしつこく聞くと、鬼さんは苦笑した。
 
「食べられたいのか?」
「うん。お風呂に入れてくれたお礼に鬼さんにご飯をあげたい」

 私の言葉に、鬼さんはクツクツと笑った。
 笑うと目尻が下がって優しそうな印象になる。
 なぜだか胸がドキドキして、私は困ってしまった。
 
「あっそ。じゃあ、丸々肥えたら食ってやるよ」

 やった! このカッコいい鬼さん、私のことを食べてくれるって約束してくれた!
 じゃあこれから、いっぱい食べて大きくならなきゃ!
 
「頑張る!」
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