女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

幽霊退治①

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  無事にアルビー様とペアになる事が出来、課題当日となった今日。

  私たちは深夜の皇宮の一角──使用されることが少ない東塔へ集まっていた。

「皆様、この様な深夜にお集まり頂きありがとうございます。皆様にはこれから本日執り行う課題を各自行って頂きます」

  今回の課題を一緒に行うのは私とペアのアルビー様。そして、ベルジーナ様とそのペアのルイズ様のみだった。

「今回の課題は人数が少なめね。深夜に行動するのだから不参加者がいないのも納得だわ」

  ベルジーナ様が冷静に状況を分析していると、私とぱちりと目が合う。

「エマ様!久々にお会いできて嬉しいですわ。でも、課題に貴女が参加するなんて……失礼でなければ理由をお尋ねしても?」

「私もお会いでき、光栄です。理由ですか?そうですね……強いて言うなれば、大切な人を守る為……でしょうか」

  その言葉にベルジーナ様は「まぁ……」と感嘆の声を漏らす。

「素晴らしい心意気ですわ。一緒に頑張りましょうね!エマ様!」

「はい!頑張りましょう」

  女王候補たちの会話もそこそこに、レジックがそれを見計らって説明をやりだした。

「では、今回の課題の内容を発表いたします。今回の課題は『幽霊退治』です」

「………幽霊退治?」

  レジックが放った言葉を私はすぐに理解は出来なかった。
  
  初の試みとなる女王候補の課題が、幽霊退治………。

  幸先がとてつもなく不安になった。

「実は近頃、皇宮内で幽霊の噂を聞くことが多くなっておりまして。先の未来で皇宮を取り締まるかもしれない女王候補様には未来の女王としてこの皇宮の混沌を鎮めて頂きたく存じます」

「………因みにその噂って一体どんなものなのですか?」

「そうですねぇ……」

  私がそう質問すると、レジックはモノクルの縁をなぞりながら考え出した。

「よく耳にするもので言えば、夜な夜な走り回る足音が聞こえたり、壁やものにぶつかる音、そして男性の人影を見たなどと言ったところでしょうか……」

「な、なるほど……」

「なんだか、忙しない幽霊さんね」

  ベルジーナ様は楽しげに笑う。
  対して私はホラーゲームなどは耐えれる人間なのだが、現実で、実際幽霊と対峙すると超絶ビビりな人間と化してしまうのだ。
  お化け屋敷や心霊スポットなど、以ての外である。

「……おい、エマ。大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「……え、あ、だ、大丈夫です……初めてで緊張してるだけなので、お気になさらず……」

  適当に嘘をつくも、恐らくバレバレであろう。気を抜くと手足が震えそうだ。

「ふむ……幽霊、か。非現実的だね。人間が創った空想上の存在にしか過ぎない。エマ、恐怖を楽しむのも良いけれど、あまり過信し過ぎないように。行き過ぎは何事も良くないものだよ」

「え………は、はい」

  ルイズ様は冷静にそう言っているが、なんだか目が生き生きしていない。つまらなそうな、心底退屈な雰囲気がする。

  ───まるで、期待していた物が外れだったかのように。

  しかし、そんな雰囲気も一瞬で、すぐに紳士的な表情に戻り、穏やかな笑みを浮かべて、こちらに「大丈夫だよ。いざとなったら僕が助けるから」と言って微笑んだ。

  さっきの雰囲気は一体……──?

「もちろん、相手は予想不可能なものですので、安全面には配慮しております。護衛を連れ添ってこの課題に挑み下さい。また、今回は王子様方とペアでの行動ですので、ペアの絆を試すものも課題の項目の一つとなっております。故に、協力して、幽霊退治を遂行してくださいませ。では……行ってらっしゃいませ」

  そうしてレジックは恭しく頭を下げて皇宮の影に消えていった。











「で、どっから幽霊を探すよ」

 課題の説明が終わった後、私とアルビー様、ベルジーナ様とルイズ様で別れて行動することになった。

 周囲に護衛がいるとしても、彼らは守るだけで、こちらには一切干渉して来ない。その為、距離をとっている護衛を除くと今は私とアルビー様の二人だけである。

 手に持っているのは心もとない明かりのランプとアルビー様が腰に携えている剣のみである。

「場所の検討はついていないみたいですし……しらみ潰しに探して行くしかないですね」

「とにかく、音を炙り出せば良いんだよな?任せろ、聴覚には自信があるんだ」

 そう言ってアルビー様は耳に手をはわせて瞳を閉じる。
 彼は私の課題にとても協力的だけど、怖くは無いのだろうか。

「アルビー様は幽霊が怖くは無いのですか……?」

「ん?あー、まぁ、俺が貧弱で泣き虫でチビだったらそりゃ怖かっただろうけど、俺は騎士団長だぜ?寧ろ、手強い敵って感じがしてうずうずする!」

「そ、そうですか……」

 (アルビー様は逆に幽霊と対峙したい側の人間だったか……)

 聞く人を間違えてしまった。

「お前は幽霊が怖いのか?」

「えぇ……まぁ……怖いですね」

 するとアルビー様はにぱっと笑って頭にポンと、手を置いてきた。

「大丈夫だ!俺がお前を守ってやる。それにここはあくまでも皇宮内だ。ここよりも安全なところは早々無い」

「アルビー様……」

 確かにこの人だったら、明るい、元気、最強の三文字が似合う人だ。逆に幽霊側が怖がって寄ってこない場合もありうる。

 (そうなっても原因解明に遠のいてしまうだけなんだけどね……)

 私は重いため息を吐いた。

 そんな会話をしている次の瞬間、急にアルビー様が逆さになった。

 そう、逆さになったのだ。

「───ギャアアアアアアアア!!!あ、アルビー様!?だ、だだだ、大丈夫ですか!?!」

 目の前でアルビー様が逆さになって浮いている。怪奇現象だろうか。遠くからこちらの様子を見ている護衛騎士達が何やらざわめいている。

 しかし、遠すぎて会話が聞こえない。いや寧ろこっちの状況が異常過ぎて聞いている余裕なんて無かった。

 私がアワアワしているのを他所にアルビー様は逆さになった状態で満面の笑みを浮かべていた。

「おおぉぉ!なんだこれ!浮いているぞ!しかも逆さだ!おいエマ、これ結構楽しいぞ。お前もやってみろよ」

「やりませんよそんな行為!っていうかなんでそんなに冷静なんですか!!浮いて逆さになっているんですよ!もう少し身の危険というものを実感して下さい!!」

 私が鬼気迫る様子で捲し立てると、アルビー様は逆さで、かつ浮遊している状態でどうどう窘められた。

 こんなヘンテコな格好の人間に窘められたのは生まれて初めてである。二度とごめんだ。

「落ち着けエマ。逆に考えてみろ。俺は今、逆さになって浮いているだけだ。もしかしたらもっと酷いことをされた可能性もあるだろ。確かに長時間この状態でいるのは頭に血が上って危険かもしれないが、今はまだ時間がある。命の心配はない。だから大丈夫だ」

「逆だけにってな」と今はそんなことを言っている場合では無い。
 アルビー様は何が面白いのか、このまま探索を続けると言い出した。やめて欲しい。

 しかし、目を輝かやかせた皇族である彼の言い分も断れるはずも無く、(見た目は恐ろしいが自分には特に害も無い為)逆さまになった状態で探索することになった。既にどちらが幽霊なのか分からなくなってきた。

 そのまま皇宮を探索していると、アルビー様が逆さまの状態で、立ち止まった。

「アルビー様?どうしましたか?やっと自分の恐ろしさに気づきましたか?」

「いや違う。………………声がする」

「え」

 私もアルビー様と一緒に周囲に耳を澄ます。
 すると微かに息遣いの様なものが聞こえてきた。

「誰…………?」

 私は怖くなって思わずアルビー様の背中に触れる。しかし彼も化け物のような状態なので、すぐさま手を引っ込めた。

「おい、誰かいるのか」

 アルビー様が少し大きな声を出して暗闇に問う。

「………なにも反応しませんね………」

「確かに物音が聞こえたはずなんだが……」

 何も無いと胸を撫で下ろした瞬間───

「うわあああぁあぁぁああぁあああぁああぁぁああ!!!」

「キャアアアアアアアアアア!!!」

 白い何かしらの小さな物体が私の首元を通り過ぎた後、私より少し高い身長をした青年が私の元に突進してきた。

 ぶつかった衝撃で後ろに倒れそうになるが、とんっ、と後ろでアルビー様が逆さまでは無く、ちゃんとした姿で私を後ろから支えてくれた。

「ひぇぇえ………」

 消え入りそうな声で、私はアルビー様の胸に背中を預け、そのままずるずると床に落ちていった。

「あいたた……」

「エマ、大丈夫か?………って、リシャーナ?何でお前がここにいるんだ?」

「あ、アルビー兄様……兄様こそ何故……」

 目の前に居たのは、灰色に近い白髪に大きな赤い瞳。特徴的なその美しい顔はこの国の第六王子、リシャーナ・デ・セインティア様だった。















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