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黒龍(クロ)との出会い
餌付け
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聖が目覚めると、男はいなかった。
裸のままベッドから降りると、小さなテーブルの上にメモと、おにぎりが置いてあった。
『仕事に行ってくる。夕方には帰ってくるから、それまで居てくれると嬉しい。黒』と、書かれていた。
聖は部屋にあったシャワールームでシャワーを浴びて、少し大きい男のシャツとハーフパンツを履き、脱ぎ散らかした自分の着ていた服を拾い、洗濯機に放り込む。
そして、テーブルに置かれていた、おにぎりを噛り、部屋を見回す。
窓際に洗濯物が干してあり、ベッドの横には四角いボックスに本が並んでいて、思わず手に取ってしまう。
見たことのない本に興味をもち、ページをめくる。
建築関係の変わった建物の構造の説明や、それに携わった背景など、図面が解説付きで書かれていて、専門用語などは分からないが、建物の写真が載っていて、見ているだけでも楽しかった。
今まで読んだ事の無いジャンルだったので、知らない知識が増える気がしてワクワクした。
夢中になって読んでいる内に、時間が過ぎていき、気がつけば一冊読み終わり、お腹がぐーっと鳴った。
あと、どんな本が有るのか気になって、もう一冊手に取り、おにぎりを食べなから、再び本にを読み始めた。
ガタンと音がして、玄関が開いた音に男が帰って来たことに気づいた。
「…居てくれた」
男は嬉しそうな顔で、聖を見て、部屋の中に入ってくる。
「…帰りそびれた…」
そんなに時間が経っているとは思わなかった。
いつも、外が明るい間は本を読んで、薄暗くなってきたら、電気を付けて、夕食の準備をするのだ。
まだ、外は明るい…。
「飯、買ってきたから食おうぜ」
「…いらない」
「…。」
それより、続きを読みたい。
聖が本に目を向けると、男に本を取り上げられた。
「返せ!」
「…昼も食って無いだろ。食ってからだ!」
男を睨み付けるが、本を返してくれない。
本は聖の手の届かない棚の上に置かれてしまい、男は袋の中から、イチゴのパックを取り出し、聖の口に押し付けてきた。
聖は仕方なく、口を開け中に入れると、甘いイチゴが口一杯に広がった。
それに触発されたのか、お腹がぐーっと鳴り、聖は頬を染めた。
「…身体は正直だ。食ってから読めよ」
「…もう少しで、読み終わるから…」
そう言って聖は、届かない棚に手を伸ばす。
「ダメだ。ほら…」
そう言って、男は再びイチゴを口に押し付けてきて、口の中に入れる。
食しながら、聖は言い考えを思い付いた。
「だったら、食べさせて」
「はぁ?」
男は呆れたように声を出し、じっと聖を見る。
「読みながら食べれば良いだろう?」
「…どんだけ、本が好きなんだよ」
男はため息を付き、棚の上の本を聖に返してくれた。
聖は、閉じられた本を開き、読みかけのページを探すと、再び読み始めた。
横で男がカサゴソと何かを取り出し、急に目の前に何かが差し出された。
それを見ると、スプーンにご飯が乗せられていて、口を開けると、口の中にご飯が放り込まれた。
モグモグと咀嚼し、飲み込むと、再びスプーンが差し出され、今度は野菜、ニンジンが乗っている。
再び口の中に放り込まれて、なんだか楽しくなってきて、本を読む処では無くなってしまった。
次に何が来るんだろう…。
読む振りをして、次のスプーンを待つ。
今度は卵。
食べやすいように、崩して、少しずつ白身と黄身がのっている。
再び口の中に放り込まれて、咀嚼しながらチラリと男を見る。
男はお弁当のおかずを口の中に入れては、スプーンに一口載せ、聖に運んでくる。
そして、男と目が合う。
「…本を読まないんだったら自分で食え」
「…読む…」
視線を反らし本に集中するも、文章が頭に入ってこない。
視線で追うだけが精一杯で、差し出されるスプーンが気になって、『食べさせて』なんて、言わなければ良かったと後悔する。
いつもの倍以上の時間がかかって、取り敢えず読み終わると、お茶が差し出された。
「さすがに、液体は無理だろ」
「…ありがとう」
聖は受け取り、お茶を啜る。
「気になってたんだが、家に連絡しなくていいのか?帰らないと心配するんじゃないのか?」
男は不安そうに聖の顔を覗き込む。
「…一人で暮らしているから…本を読んだら…帰る…」
まだ、知らない読んだことのない本が何冊も有る。
「食事…どうしてるんだ?」
「…大ちゃんの所の人が、2日に一度、運んでくれる」
「ここで、本を読むのはいいが、せめてその人に連絡した方が良いぞ。運んでくれる人が心配するから」
「…。」
聖は買った本を入れていた鞄から、新しいノートを取り出し、一番後のページを破って、ペンで、
『本を読んだら帰る。聖』
と、書き、男に渡す。
「これ、小納谷の大ちゃんに渡して」
「小納谷って?」
「大きい宿」
「…。あの小納谷か?大きい庭の有る…仕事場とは正反対の場所じゃないか!」
男は頭を抱える。
「…。」
聖は、ふと、視界に違う本が目に止まり、腰を浮かして手を伸ばすが、男に手首を捕まれ、たどり付けなかった。
「今日は、ココまで。…昨日とは別人だなぁ」
男は掴んだ手首に口付けする。
「?」
聖は何を言われているのか、分からなかった。
「もう忘れたのか?昨日、あんなにイッたのに…」
裸のままベッドから降りると、小さなテーブルの上にメモと、おにぎりが置いてあった。
『仕事に行ってくる。夕方には帰ってくるから、それまで居てくれると嬉しい。黒』と、書かれていた。
聖は部屋にあったシャワールームでシャワーを浴びて、少し大きい男のシャツとハーフパンツを履き、脱ぎ散らかした自分の着ていた服を拾い、洗濯機に放り込む。
そして、テーブルに置かれていた、おにぎりを噛り、部屋を見回す。
窓際に洗濯物が干してあり、ベッドの横には四角いボックスに本が並んでいて、思わず手に取ってしまう。
見たことのない本に興味をもち、ページをめくる。
建築関係の変わった建物の構造の説明や、それに携わった背景など、図面が解説付きで書かれていて、専門用語などは分からないが、建物の写真が載っていて、見ているだけでも楽しかった。
今まで読んだ事の無いジャンルだったので、知らない知識が増える気がしてワクワクした。
夢中になって読んでいる内に、時間が過ぎていき、気がつけば一冊読み終わり、お腹がぐーっと鳴った。
あと、どんな本が有るのか気になって、もう一冊手に取り、おにぎりを食べなから、再び本にを読み始めた。
ガタンと音がして、玄関が開いた音に男が帰って来たことに気づいた。
「…居てくれた」
男は嬉しそうな顔で、聖を見て、部屋の中に入ってくる。
「…帰りそびれた…」
そんなに時間が経っているとは思わなかった。
いつも、外が明るい間は本を読んで、薄暗くなってきたら、電気を付けて、夕食の準備をするのだ。
まだ、外は明るい…。
「飯、買ってきたから食おうぜ」
「…いらない」
「…。」
それより、続きを読みたい。
聖が本に目を向けると、男に本を取り上げられた。
「返せ!」
「…昼も食って無いだろ。食ってからだ!」
男を睨み付けるが、本を返してくれない。
本は聖の手の届かない棚の上に置かれてしまい、男は袋の中から、イチゴのパックを取り出し、聖の口に押し付けてきた。
聖は仕方なく、口を開け中に入れると、甘いイチゴが口一杯に広がった。
それに触発されたのか、お腹がぐーっと鳴り、聖は頬を染めた。
「…身体は正直だ。食ってから読めよ」
「…もう少しで、読み終わるから…」
そう言って聖は、届かない棚に手を伸ばす。
「ダメだ。ほら…」
そう言って、男は再びイチゴを口に押し付けてきて、口の中に入れる。
食しながら、聖は言い考えを思い付いた。
「だったら、食べさせて」
「はぁ?」
男は呆れたように声を出し、じっと聖を見る。
「読みながら食べれば良いだろう?」
「…どんだけ、本が好きなんだよ」
男はため息を付き、棚の上の本を聖に返してくれた。
聖は、閉じられた本を開き、読みかけのページを探すと、再び読み始めた。
横で男がカサゴソと何かを取り出し、急に目の前に何かが差し出された。
それを見ると、スプーンにご飯が乗せられていて、口を開けると、口の中にご飯が放り込まれた。
モグモグと咀嚼し、飲み込むと、再びスプーンが差し出され、今度は野菜、ニンジンが乗っている。
再び口の中に放り込まれて、なんだか楽しくなってきて、本を読む処では無くなってしまった。
次に何が来るんだろう…。
読む振りをして、次のスプーンを待つ。
今度は卵。
食べやすいように、崩して、少しずつ白身と黄身がのっている。
再び口の中に放り込まれて、咀嚼しながらチラリと男を見る。
男はお弁当のおかずを口の中に入れては、スプーンに一口載せ、聖に運んでくる。
そして、男と目が合う。
「…本を読まないんだったら自分で食え」
「…読む…」
視線を反らし本に集中するも、文章が頭に入ってこない。
視線で追うだけが精一杯で、差し出されるスプーンが気になって、『食べさせて』なんて、言わなければ良かったと後悔する。
いつもの倍以上の時間がかかって、取り敢えず読み終わると、お茶が差し出された。
「さすがに、液体は無理だろ」
「…ありがとう」
聖は受け取り、お茶を啜る。
「気になってたんだが、家に連絡しなくていいのか?帰らないと心配するんじゃないのか?」
男は不安そうに聖の顔を覗き込む。
「…一人で暮らしているから…本を読んだら…帰る…」
まだ、知らない読んだことのない本が何冊も有る。
「食事…どうしてるんだ?」
「…大ちゃんの所の人が、2日に一度、運んでくれる」
「ここで、本を読むのはいいが、せめてその人に連絡した方が良いぞ。運んでくれる人が心配するから」
「…。」
聖は買った本を入れていた鞄から、新しいノートを取り出し、一番後のページを破って、ペンで、
『本を読んだら帰る。聖』
と、書き、男に渡す。
「これ、小納谷の大ちゃんに渡して」
「小納谷って?」
「大きい宿」
「…。あの小納谷か?大きい庭の有る…仕事場とは正反対の場所じゃないか!」
男は頭を抱える。
「…。」
聖は、ふと、視界に違う本が目に止まり、腰を浮かして手を伸ばすが、男に手首を捕まれ、たどり付けなかった。
「今日は、ココまで。…昨日とは別人だなぁ」
男は掴んだ手首に口付けする。
「?」
聖は何を言われているのか、分からなかった。
「もう忘れたのか?昨日、あんなにイッたのに…」
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