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新年会
大輔の葛藤
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黒龍と出会って、聖は笑うようになった。
本当に楽しそうに笑うようになった。
聖の不思議な力の恩恵を受けたことのある大輔は、ほっとするのと、少し悔しいのとで、複雑な心境だった。
人見知りする聖が、身内以外で、初めて興味を示した人だった。
誰かが紹介したり、連れていったりするが、滅多に興味を示さず、形ばかりの笑顔を見せてばかりだった。
だが黒龍とは、俺達の知らないところで出会っていて、黒龍は聖に一目惚れしたらしい。
『聖の側にいるため』と、俺達が条件付けた小納谷にも手伝いに来るし、『車の免許を取れ』と、言うと、教本を眺めて勉強しているみたいだ。
真面目な奴なのだろう。
黒龍の仕事場の、知り合いの棟梁いわく、堅物だそうだ。
そんな奴に、聖が楽しそうに笑顔を見せる。
聖が楽しくて幸せなら良いか…と、思える程に…。
今日は小納谷の本館で、如月家のパーティーが開催される。
聖の父親は、この町の土地開発の為、財力と人力を投資していて、その為の、顔繋ぎを兼ねての、パーティーなのだ。
家族総出で、出迎えるのが、通例だ。
だが去年、人見知りの聖は、途中でこっそりと逃げ出した。
今年は大丈夫だろうか…。
昼過ぎに、聖の家に迎えの車を出し、黒龍と共にやって来た聖が、小納谷に着くなり、大輔のもとへ駆け寄って来たので驚いた。
「大ちゃん。クロが掃除するのを見に行っても良い?」
掃除を見に行く?
…どう言うことだ?
大輔は黒龍を睨み付けた。
「…。俺には決められないと、言った」
まあ、そうだろう。
黒龍は仕事に来てるのだ。
「ちゃんとパーティーには出るし、見に行っても良いでしょう」
そんな風に、すがるようにお願いされて、断れるわけ無いだろう。
大輔は頭を抱えた。
パーティーに出るから掃除を見に行くなんて、無茶な交換条件…今まで、そんな事を言ったことは無い。
「聖にどうやって駆け引きを教えた」
「…。」
黒龍を睨み付けるが、無言のまま視線を反らす。
「ねぇ。大ちゃん」
大輔は困ったように天井を仰ぎ、諦めて、聖を見下ろした。
パーティーには出てくれるんだし…。
「…風呂掃除だけだぞ。直ぐに着替えてパーティーだからな!」
「ありがとう。大ちゃん!」
聖はニコニコして、大輔に抱きついてくる。
相変わらず可愛いな…。
『こんな風に甘えられたら…断れない…』
大輔は黒龍が言っていたことを思いだし、ため息を付いた。
うん。断れない…。
聖は黒龍の風呂掃除を見に行ったが、そろそろ着替えて準備しないといけない。
大輔は聖を呼びに行ってもらい、着替えさせ、本館に連れて行くとパーティーが始まった。
聖に取っては退屈で、多くの視線にさらされ、気力が弱っているのだろう。
当たり障りの無い挨拶をして、愛想笑いを続け、小一時間もすると、弱音を吐き出した。
「疲れた…」
「何か飲み物でも持ってこようか?」
大輔はさりげなく、声を掛けた。
「うん。お願い…」
「兄さん大丈夫?」
紗羅が心配そうに声を掛けている。
大輔は聖を紗羅に任せて、飲み物を取りに行き、炭酸水を二人分持って戻ってくると、紗羅が辺りを見回し、小声で聖に話しかけていた。
「…黒龍さん。来てるの?」
「僕の部屋に居るはず」
おいおい、ネタを提供してどうする。
「こら、こんな所で、この話しはするな。誰が聞いているか分からないんだぞ」
大輔は炭酸水を聖に差し出し、聖が受け取る。
「ありがとう」
「ごめん。ありがとう」
紗羅は謝って、飲み物を受けとり、口に含んでいた。
「挨拶が終わったら、帰って良いでしょう」
疲れた顔をした聖が、大輔を見上げてくる。
「…そうだな。今回は逃げずに、まだ、居てくれているからな」
「…僕の仕事だって言った」
黒龍が言ったから、我慢してここに居てくれるのか?
仕事だと言ったから、頑張って笑顔を作っているのか?
「…そうか。だったら、もう少しだけ、客人の話相手をしてくれ」
「は~い」
聖が素直に返事する。
大輔は苦笑いするしかなかった。
初めの顔合わせが終わり、終わったとばかりに聖が会場を出ようとしていた。
「こら待て。一緒に戻るから、ちょっと待て!」
ここから別館までは、目と鼻の先だが、今日はいろんな人が出入りしている。
いくら別館へは、短い距離だと言っても、どんな奴がいるかわからない。
大輔は手に持っていたグラスをテーブルに置きに行って、慌てて追いかける。
「大丈夫だよ」
そう言って聖は、本館から出て別館への道を歩き出した。
「ああ、くそっ!」
視界から聖の姿が見えなくなって、思わず叫んで、慌てて追いかけた。
過保護だって言われても、何かあってからでは遅いんだ!
聖っ!
本当に楽しそうに笑うようになった。
聖の不思議な力の恩恵を受けたことのある大輔は、ほっとするのと、少し悔しいのとで、複雑な心境だった。
人見知りする聖が、身内以外で、初めて興味を示した人だった。
誰かが紹介したり、連れていったりするが、滅多に興味を示さず、形ばかりの笑顔を見せてばかりだった。
だが黒龍とは、俺達の知らないところで出会っていて、黒龍は聖に一目惚れしたらしい。
『聖の側にいるため』と、俺達が条件付けた小納谷にも手伝いに来るし、『車の免許を取れ』と、言うと、教本を眺めて勉強しているみたいだ。
真面目な奴なのだろう。
黒龍の仕事場の、知り合いの棟梁いわく、堅物だそうだ。
そんな奴に、聖が楽しそうに笑顔を見せる。
聖が楽しくて幸せなら良いか…と、思える程に…。
今日は小納谷の本館で、如月家のパーティーが開催される。
聖の父親は、この町の土地開発の為、財力と人力を投資していて、その為の、顔繋ぎを兼ねての、パーティーなのだ。
家族総出で、出迎えるのが、通例だ。
だが去年、人見知りの聖は、途中でこっそりと逃げ出した。
今年は大丈夫だろうか…。
昼過ぎに、聖の家に迎えの車を出し、黒龍と共にやって来た聖が、小納谷に着くなり、大輔のもとへ駆け寄って来たので驚いた。
「大ちゃん。クロが掃除するのを見に行っても良い?」
掃除を見に行く?
…どう言うことだ?
大輔は黒龍を睨み付けた。
「…。俺には決められないと、言った」
まあ、そうだろう。
黒龍は仕事に来てるのだ。
「ちゃんとパーティーには出るし、見に行っても良いでしょう」
そんな風に、すがるようにお願いされて、断れるわけ無いだろう。
大輔は頭を抱えた。
パーティーに出るから掃除を見に行くなんて、無茶な交換条件…今まで、そんな事を言ったことは無い。
「聖にどうやって駆け引きを教えた」
「…。」
黒龍を睨み付けるが、無言のまま視線を反らす。
「ねぇ。大ちゃん」
大輔は困ったように天井を仰ぎ、諦めて、聖を見下ろした。
パーティーには出てくれるんだし…。
「…風呂掃除だけだぞ。直ぐに着替えてパーティーだからな!」
「ありがとう。大ちゃん!」
聖はニコニコして、大輔に抱きついてくる。
相変わらず可愛いな…。
『こんな風に甘えられたら…断れない…』
大輔は黒龍が言っていたことを思いだし、ため息を付いた。
うん。断れない…。
聖は黒龍の風呂掃除を見に行ったが、そろそろ着替えて準備しないといけない。
大輔は聖を呼びに行ってもらい、着替えさせ、本館に連れて行くとパーティーが始まった。
聖に取っては退屈で、多くの視線にさらされ、気力が弱っているのだろう。
当たり障りの無い挨拶をして、愛想笑いを続け、小一時間もすると、弱音を吐き出した。
「疲れた…」
「何か飲み物でも持ってこようか?」
大輔はさりげなく、声を掛けた。
「うん。お願い…」
「兄さん大丈夫?」
紗羅が心配そうに声を掛けている。
大輔は聖を紗羅に任せて、飲み物を取りに行き、炭酸水を二人分持って戻ってくると、紗羅が辺りを見回し、小声で聖に話しかけていた。
「…黒龍さん。来てるの?」
「僕の部屋に居るはず」
おいおい、ネタを提供してどうする。
「こら、こんな所で、この話しはするな。誰が聞いているか分からないんだぞ」
大輔は炭酸水を聖に差し出し、聖が受け取る。
「ありがとう」
「ごめん。ありがとう」
紗羅は謝って、飲み物を受けとり、口に含んでいた。
「挨拶が終わったら、帰って良いでしょう」
疲れた顔をした聖が、大輔を見上げてくる。
「…そうだな。今回は逃げずに、まだ、居てくれているからな」
「…僕の仕事だって言った」
黒龍が言ったから、我慢してここに居てくれるのか?
仕事だと言ったから、頑張って笑顔を作っているのか?
「…そうか。だったら、もう少しだけ、客人の話相手をしてくれ」
「は~い」
聖が素直に返事する。
大輔は苦笑いするしかなかった。
初めの顔合わせが終わり、終わったとばかりに聖が会場を出ようとしていた。
「こら待て。一緒に戻るから、ちょっと待て!」
ここから別館までは、目と鼻の先だが、今日はいろんな人が出入りしている。
いくら別館へは、短い距離だと言っても、どんな奴がいるかわからない。
大輔は手に持っていたグラスをテーブルに置きに行って、慌てて追いかける。
「大丈夫だよ」
そう言って聖は、本館から出て別館への道を歩き出した。
「ああ、くそっ!」
視界から聖の姿が見えなくなって、思わず叫んで、慌てて追いかけた。
過保護だって言われても、何かあってからでは遅いんだ!
聖っ!
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