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新年会
気疲れ
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聖はパーティー会場の一角にいた。
目立たないようにと思っても、この周辺は目立ってしまう。
聖の側に、正装をした兄の修司、小納谷の大輔、妹の紗羅、兄の婚約者で従姉の紅緒がいれば、注目を浴びるのは必然的だ。
時折、離れていっては、客人を見つけて、挨拶に出向いている。
紅緒が年上の男性と女性を連れてきた。
男性の方は何度か会っている、紅緒の会社の編集長。
「お久しぶりです。聖さん。庭の椿はそろそろ蕾を付けだしましたかね」
「はい。ほんのり赤く、花が開くのはもう少し後だと思います」
社交辞令とはいえ、こう言うのは慣れない。
「開きかけたら、滝君に絵を描いてもらってください。挿し絵に入れたいと思いまして…」
「編集長!」
同伴の女性が声をかける。
「ああ、失礼。つい、うかれてしまって。今度、彼女の方の雑誌でも、掲載が決まったから、紹介しようと思って連れてきたんだ」
「朝倉ひなこ、と、申します。お会いできて光栄です」
彼女はキラキラと目を輝かせ聖を見つめてくる。
「お噂通りの方でドキドキしています」
噂ってなんのだろう?
「朝倉編集長まで!」
紅緒が笑う。
きっと親しい人なのだろう。
「聖。彼女にも、庭を見せるのに今度、連れていって良いかしら」
「…良いよ」
彼女は小躍りしそうなぐらい、喜んでいる。
静寂を好む聖は、騒がしいのは、あまり好きではない。
だが、紅緒が選んで連れて来る人間なら、問題ないだろう。
聖に取っては退屈で、多くの視線にさらされ、気力が弱っていく。
当たり障りの無い挨拶をして、
『僕の仕事。クロが部屋で待っている』
を、胸に抱いて、愛想笑いを続ける。
小一時間もすると、顔が引き吊りそうだ。
「疲れた…」
そんな弱音を吐いてしまう。
人が多いのは、やはり苦手だ。
「何か飲み物でも持ってこようか?」
大輔がさりげなく、声を掛けてくる。
「うん。お願い…」
「兄さん大丈夫?」
紗羅が心配そうに声を掛けてくる。
「まだ、何とか…」
ひっきりなしに声を掛けてくるのを、周囲が制限してくれているが、それても限界がある。
帰りたい…。
「当分、人が多い所には行きたくないな…」
「町中にも降りてこないつもり?」
「うん~。欲しいものはクロに買ってきてもらう…」
紗羅が辺りを見回し、小声で話しかけてくる。
「…黒龍さん。来てるの?」
「僕の部屋に居るはず」
部屋で終わるのを待っていてくれている。
「…。」
「こら、こんな所で、この話しはするな。誰が聞いているか分からないんだぞ」
大輔が飲み物を持ってきてくれて、差し出される。
「ありがとう」
聖は受けとり二口ほど飲む。
「ごめん。ありがとう」
紗羅は謝って、飲み物を受けとる。
少し、喉を潤し、緊張がほぐれる。
早く終わらないかな…。
もう、帰りたい…。
「挨拶が終わったら、帰って良いでしょう」
「…そうだな。今回は逃げずに、まだ、居てくれているからな」
そう言えば、去年は直ぐに逃げたした…。
だけど、クロが教えてくれた。
「…僕の仕事だって言った」
「…そうか。だったら、もう少しだけ、客人の話相手をしてくれ」
「は~い」
今年は逃げ出さずに頑張って、部屋で待っているクロに、いっぱい甘えて、この疲れを癒してもらおう。
聖は再び笑顔で、紗羅が連れてきた『聖』のファンであり、会社の社長の話し相手になっていた。
初めの顔合わせが終わり、終わったとばかりに聖が会場を出ようとすると、大輔に止められた。
「こら待て。一緒に戻るから、ちょっと待て!」
ここからクロの居る別館までは、目と鼻の先。
一人でも大丈夫だけどな…。
大輔が手に持っていたグラスをテーブルに置きに行って、慌てて追いかけてくる。
「大丈夫だよ」
そう言って、別館への道を歩き出した。
「ああ、くそっ!」
遠くで大輔が何か叫んでいるのが聞こえた。
目立たないようにと思っても、この周辺は目立ってしまう。
聖の側に、正装をした兄の修司、小納谷の大輔、妹の紗羅、兄の婚約者で従姉の紅緒がいれば、注目を浴びるのは必然的だ。
時折、離れていっては、客人を見つけて、挨拶に出向いている。
紅緒が年上の男性と女性を連れてきた。
男性の方は何度か会っている、紅緒の会社の編集長。
「お久しぶりです。聖さん。庭の椿はそろそろ蕾を付けだしましたかね」
「はい。ほんのり赤く、花が開くのはもう少し後だと思います」
社交辞令とはいえ、こう言うのは慣れない。
「開きかけたら、滝君に絵を描いてもらってください。挿し絵に入れたいと思いまして…」
「編集長!」
同伴の女性が声をかける。
「ああ、失礼。つい、うかれてしまって。今度、彼女の方の雑誌でも、掲載が決まったから、紹介しようと思って連れてきたんだ」
「朝倉ひなこ、と、申します。お会いできて光栄です」
彼女はキラキラと目を輝かせ聖を見つめてくる。
「お噂通りの方でドキドキしています」
噂ってなんのだろう?
「朝倉編集長まで!」
紅緒が笑う。
きっと親しい人なのだろう。
「聖。彼女にも、庭を見せるのに今度、連れていって良いかしら」
「…良いよ」
彼女は小躍りしそうなぐらい、喜んでいる。
静寂を好む聖は、騒がしいのは、あまり好きではない。
だが、紅緒が選んで連れて来る人間なら、問題ないだろう。
聖に取っては退屈で、多くの視線にさらされ、気力が弱っていく。
当たり障りの無い挨拶をして、
『僕の仕事。クロが部屋で待っている』
を、胸に抱いて、愛想笑いを続ける。
小一時間もすると、顔が引き吊りそうだ。
「疲れた…」
そんな弱音を吐いてしまう。
人が多いのは、やはり苦手だ。
「何か飲み物でも持ってこようか?」
大輔がさりげなく、声を掛けてくる。
「うん。お願い…」
「兄さん大丈夫?」
紗羅が心配そうに声を掛けてくる。
「まだ、何とか…」
ひっきりなしに声を掛けてくるのを、周囲が制限してくれているが、それても限界がある。
帰りたい…。
「当分、人が多い所には行きたくないな…」
「町中にも降りてこないつもり?」
「うん~。欲しいものはクロに買ってきてもらう…」
紗羅が辺りを見回し、小声で話しかけてくる。
「…黒龍さん。来てるの?」
「僕の部屋に居るはず」
部屋で終わるのを待っていてくれている。
「…。」
「こら、こんな所で、この話しはするな。誰が聞いているか分からないんだぞ」
大輔が飲み物を持ってきてくれて、差し出される。
「ありがとう」
聖は受けとり二口ほど飲む。
「ごめん。ありがとう」
紗羅は謝って、飲み物を受けとる。
少し、喉を潤し、緊張がほぐれる。
早く終わらないかな…。
もう、帰りたい…。
「挨拶が終わったら、帰って良いでしょう」
「…そうだな。今回は逃げずに、まだ、居てくれているからな」
そう言えば、去年は直ぐに逃げたした…。
だけど、クロが教えてくれた。
「…僕の仕事だって言った」
「…そうか。だったら、もう少しだけ、客人の話相手をしてくれ」
「は~い」
今年は逃げ出さずに頑張って、部屋で待っているクロに、いっぱい甘えて、この疲れを癒してもらおう。
聖は再び笑顔で、紗羅が連れてきた『聖』のファンであり、会社の社長の話し相手になっていた。
初めの顔合わせが終わり、終わったとばかりに聖が会場を出ようとすると、大輔に止められた。
「こら待て。一緒に戻るから、ちょっと待て!」
ここからクロの居る別館までは、目と鼻の先。
一人でも大丈夫だけどな…。
大輔が手に持っていたグラスをテーブルに置きに行って、慌てて追いかけてくる。
「大丈夫だよ」
そう言って、別館への道を歩き出した。
「ああ、くそっ!」
遠くで大輔が何か叫んでいるのが聞こえた。
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