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黒龍の車 2

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 大輔が言うには、車の代金は、給料からの差し引きになるらしい。
 一度に払うお金もないが、今のマンションの家賃を払って、維持費を払っていこうと思うと、かなり厳しい。
 三年も働けば、返せるよ。とは、言っていたが…。
 新しい車が来たじてんで、整備に出して、点検までは小納谷持ちで、支払ってくれるらしい。
 そこまでしてくれるのなら、最初の整備費は掛からないので助かる。
 駐車場は小納谷の端の、従業員の駐車場を使えば良いと言うことだし、慣れた車だから、好条件だ。
 追加されたのは、小納谷で車が必要なときに、車を貸し出しして欲しいと、言うこと。
 ここで働いている間は、駐車場に停めたままに、なるだろうから、別に構わないだろう…。
 ちょっと大きい車だが、どうしよう…。
 黒龍は決めかねていた。 


 聖の家に、日用品を運んでいる小納谷の従業員が、聖を乗せてやって来た。
 いつものように、風呂場の掃除を見に来たみたいだ。
 だが、今日は…。
「この間言っていた車ってどれ?」
 聖は車に興味を持ったみたいだ。
 どこに行くか、まだ、決めてないし、その前に、車をどうするか迷っているが…。
「こっちだ」
 そう言って、小納谷の駐車場に向かう。
 ソコは、小納谷の敷地内の端に有り、回りを木々で覆われた駐車場だった。
 普段、送迎用の車や、マイクロバス、従業員の駐車していて、車で来るお客さんの車を駐車することも有る。
 駐車場の端に有る、七人乗りの車まで来ると、聖が黒龍を振り向いた。
「中に入れるの?」
「カギ持ってるから、見れるぞ」
 黒龍は車のカギで開けて、後部座席の扉を開いた。
「広いね…」
 中を覗き込む聖の感想もそうだ。
 やっぱり大きいか…。
 聖は車の中に乗り込み、真ん中の座席に座る。
「これだけ大きいと、中で昼寝も出来てしまうね…。この座席、倒せるのかな…」
 そんな事を呟いた。
 車の座席は確か、倒すことが出来たはず。
 頭部の枕を取って、座席を前に引き出して倒せば、平たく後ろの座席と繋がったはず…。
 黒龍は平たく伸ばした座席に寝転がる聖を、想像してしまった。
 …遠出して、車で眠るのも、有りかも知れない…。
 …知らない宿で眠るのも良いが、聖と二人で…。
 この車、買おう…。
 それで、たまに連休をもらって、出かけよう。
 迷っていた黒龍は、聖の一言で決定した。
 …中で昼寝も出来てしまうね…。
 一緒に、ここで、昼寝をしよう。


 黒龍は決心が鈍らないうちに、大輔にその旨を伝え、送迎用の車を買うことにした。
 新しい車は、夏の終わり頃にしか来ないみたいで、その後、整備するから、黒龍の物になるのは、もう少し先のようだ。
 それでも、どこに行こうか悩むには、程よい楽しい時間になるだろう。
 聖と、どこへ行こう…。


 夏休み期間中、小納谷の従業員は夏休みをもらえるそうだ。
 忙しい時期でなければ、連休をもらい、家族旅行に行くのが定番らしい。
 仕事仲間の徹も、早めに連休をもらって、海に行く予定を立てている。
 俺は…特に行く当てもないし、連休をもらっても、聖の所に入り浸るだけだろう…。
 車が来れば、何処かに出かけても良いのだが…。
 そんな事を大輔に言うと、
「だったら、夏休みはいつも通りに働いて、車が来たら、遅い夏休みを作ってやる」
 と、言われた。
 …そうだな。
 皆が行ってきた、お勧めの場所を聞いて、それから行き先を決めても良いのかもしれない…。
 特に目的もないし、車が来たら考えよう。
 黒龍はのんびりと、遅い夏休みが来るのをまっていた。
 
 
 

 
 
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