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黒龍の車 3

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 夏の終わり、整備に出してあった車が来た。
 大輔に言われて、車の保険や所有の手続きを一緒にしてもらい、初めて黒龍の所有物になった。
 車の横に書かれていたロゴも綺麗に消されていて、見た目は新品みたいに塗り直されていた。
 ここまで整っていると、かなり経費が掛かったのではないかと思うが、聖を乗せて走るのに、大輔が妥協を許さなかったのだろう。
 …時間が掛かるはずだ。
 
 
 仕事が終わり、嬉しくて、今日は土曜日では無いが、自分の物になったばかりの車で、聖の元に向かった。
 今まで歩いて、三、四十分ほど掛かっていた道のりが、十分も掛からずにたどり着いてしまった。
 そう思うと、かなり近い。
 この距離なら、朝、少し早く出れば、仕事に行けるのではないかと思うくらいだ。
 車を停めるのは、聖の家を挟んで、庭とは反対側の横にある空き地。
 いつも、紅緒さんや配達の者達が停めている場所だ。
 車の音に気付いたのか、聖が家から顔を覗かせた。
 この時間帯に来るのは、俺ぐらいだろうから…。
「クロ!」
 黒龍は車の中から微笑んだ。
 車を止め、運転席から降りると、聖がキラキラとした目で車に近づいてくる。
「ついに来たんだね!」
「ああ。中も綺麗にしてくれているから、新品みたいたぞ」
 そう言って、後ろの車の扉を開けると、聖が覗きこんだ。
「本当だ!車のシートも綺麗になってる」
「…本当だ…張り替えてくれたのか…」
 気付か無かった…。
 いったい、どれだけ、整備にお金、掛かっているんだ!?
 ありがたいけれど…。
 その分、給料から差し引かれるのか?
 小納谷持ちだと言っていてから、大輔持ちか?
「それより、今日は早く来れたんだ。中でゆっくりしようぜ」
「そうだね。て、事は、いつもより遅くまで居れるのか?」
 聖は振り向いて、嬉しそうに黒龍を見てくる。
 黒龍は微笑んで、聖の髪を撫でる。
「ああ。…一緒に風呂に入るくらい、時間はあるぞ」
 黒龍がそう言うと、聖の耳が真っ赤になり、うつむく。
 照れてる姿が、可愛くて仕方ない…。
 何度も一緒に風呂に入ったり、身体を重ねていても、聖の初々しさは変わらない。
「…車は今度の日曜日に、いろいろ動かしてみよう。言っていたみたいに、車のシートをどこまで倒せるか確かめたいし…」
 どれだけ広げられるか、足を伸ばして寝転べるか、いろいろ試してみたい。
「楽しみ」
 耳を赤くした聖はそう言って微笑み、黒龍は、車の扉を閉めると、一緒に家の中に入っていった。
 

 約束通り、一緒に風呂に入って、身体を洗い合い、触って擦り合って、身体を暖めた。
 聖と一緒に湯船に浸かりながら、黒龍はふと思い出す。
「時期的には少し遅いが、海へ行ってみないか?」
 仕事仲間のとおるが、家族で海に遊びに行ったことを思い出していた。
「海?」
 隣で肩まで湯船に浸かる聖がこちらを向く。
「泳げないが、足を浸からせるぐらいは出きるだろう」
 残暑があるとはいえ、海に入るのはさすがに水が冷たくなっているはず。
 人も少なくなっているだろうし、砂浜を歩いて海を眺めるのも、気持ちが良いかもしれない。
「行った事無いから…行ってみたい…」
 海に行った事が無い?
 …ずっとココに居たからか…。
「大輔に連休もらって、泊まりで海に行こう」
「うん!」
 聖は微笑んだ。
 海だけでなく、いろんな所に連れていこう。
 今まで、体験できなかった事や、見ていないものを、もっと聖に見せてあげたい。
 動物園とか、植物園、遊園地…行った事が、有るのだろうか?
 今度、それとなく聞いてみよう。
 そして、いろんな表情を俺に見せてくれ…。





 
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