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海の見える食堂

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 じゃれ合いながら、服を着替え終わる頃には、雨は止んでいた。
 通り雨のようだ。
 まだ、波は高いから、近付かないほうが良いだろう。
「少し早いが、昼食にしょうか。…海が見える食堂を教えてもらったから…」
「…そうだね」
 黒龍は後部座席から降りると、運転席に乗った。
 聖はそのまま後部座席にいて、脱ぎ散らかした濡れた服を集めてバケツの中に入れた。
 そしてクッションを抱え、車の窓辺に寄りかかっている。
 黒龍はその様子を見て、車を発進させた。
 海岸沿いの細い道を走り、話しに聞いた、三階建ての建物の横にある駐車場に車を止めた。
 外から見ると、二階、三階が海側に向かって窓ガラスになっているのが見える。
 車を降りて向かうと、一階は魚屋になっていて、二階、三階が食堂になっていた。
 二階に上がると、少し早いせいか、お客さんは老夫婦の一組だけだった。
 それより聖は足早に窓辺に行き、三面ガラス張りの窓から海を眺めていた。
 気に入ったみたいだな…。
 海側に座り、定食を二人分、注文した。
 ココは日替わり定食がメインで、個別には刺身の盛り合わせが有るくらいで、メニューは無い。
 小さな黒板に、チョークで書かれたメニューが少し。
 その日、上がった魚でメニューが変わるみたいだ。 
 どれくらいの量が出てくるのか分からないから、むやみに注文できない。
 足りなかったら、注文しよう。

 しばらくすると、料理が運ばれてきた。
 …食べきれるだろうか。
 まずは、お膳に魚の煮付け、魚、野菜の天ぷら、タコの酢の物、イカの…が、乗せられて運ばれてきた。
 そして、刺身の盛り合わせ、白身魚のお吸い物、ご飯。
 …聖には、ちょっと多いだろう。
 チラリと聖を見ると、昨日とは違う料理に、目をキラキラさせている。
「冷めない内に、食べるぞ」
「うん」
 聖はニコニコしながら、これ何だろ?と、楽しそうに食事を始めた。


 やっぱり、食べきれず少し残してしまった。
 さすがに俺も、お腹一杯だ。
 …時間がたてば、食べれないこと無いが、ココは食堂だ。
 昼が近くなり、少しづつお客さんが増えてきている。
「残ったら、入れ物に入れてお持ち帰り出来ますよ」
 先にいた、老夫婦の女性が声をかけてきてくれた。
「私たちも、煮付けをお持ち帰りです。入れ物は別料金ですけどね」
 そう言って、微笑みかけてくれた。
「ありがとうございます」
 黒龍は入れ物をもらいに立ち上がり、忙しそうな店員さんに声をかた。
「刺身はダメですが、あとは、こちらにどうぞ」
 と、少し深さのある透明の入れ物と、袋をもらった。
 席に戻り、残った天ぷらと、煮付けを入れ、袋にしまうと、もう少し残っている刺身を食べ始めた。
 それを聖がじっと見ている。
「ほら、聖も食べろよ」
 黒龍が箸で刺身を一切れつまみ、聖の口許に持っていくと、口を開けたので、中に入れた。
 モグモグと、食べている。
「お腹一杯だけど、美味しい…」
 そう言って、聖が微笑む。
 …餌付けしたくなる。
 そうでは、なくて…。
「…無理だったら、止めとけよ」
「もう一切れくらいなら、食べれる」
 そう言って、口を開けた。
「…。」
 黒龍は刺身を一切れ箸でつまみ、再び聖の口の中に入れた。
 モグモグ…。
 …今度、家でやろう…。
 
 
 車に戻り、食堂でもらった氷をクーラーボックスに入れ、残った料理を入れた。
 早めに来て正解だった。
 黒龍達が帰る頃には、食堂の席は満席になっていた。
 少しお腹を消化させるため、堤防の側を歩いた。
 朝みたいに波は高くなく、少し穏やかになっている。
 視線の先に、船が何隻も停まっているのが見え、こっちは港なのだとわかり、戻ることにした。
 少し歩き、お腹も落ち着いたので、車に乗り込み出発した。

 
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