ゆうみお

あまみや。旧

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3章 二学期(1)。

119.ちょっとだけ

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「澪……何帰ろうとしてる訳?」
「は、何……?」



こいつ………まさか、




「目の前でいじりがいのあるガキが眠ってるんだよ……?遊ばないなんて損じゃん」



ガキ、て………



「いや、流石に悪「本当は?」ちょっと…楽しそう」




僕って……………………なんなんだろ。








優馬は機嫌良さそうにカーテンをこっそり開いた。




……………やっぱり、真冬だった。

珍しく無防備に小さな寝息をたてて眠っていて、寝顔はいつも以上に幼く見えてしまう。




「さて、このガキ……じゃない、可愛い可愛い小動物、どうやっていじめ…遊ぼうかな……」

後半のは隠しても隠しきれてない………




「……よし決めた、くすぐろう」
「あっさり決まったね………」




真冬って……笑ったりするのかな。






(これはちょっとの好奇心で、決して汚い心を持ってしまった訳では無い)





だから………助けたりは、出来たらする。







優馬が真冬に手を伸ばした。







ーーー




「……」むず 




「……澪、聞いて」
「うん?」



少し距離を置いて見張りをしていると、優馬が



「細すぎて、俺が触ったら骨すり潰しちゃう………」
「軽くやって」




そんなに細いのか………



脇腹を下手くそにくすぐる優馬。



真冬は少し顔を歪ませて………次の瞬間、






「っ」
「ぐはッッッ!!!!」




思いっきり優馬の腹を蹴り飛ばした。





優馬は地面にしゃがみこんで………




「みぞおち蹴られたァァァァ」
「自業自得でしょ……」




真冬に、睡眠中セコムが搭載されてる………








真冬はまだ、幸せそうな顔で眠ってた。





ーーー





「………何してるんですか?」
「げっ、保護者きた」



李世が戻ってきて、現場を見て理解したのか呆れて………




「真冬をいじめてそんなに楽しいですか………そりゃ蹴られますよ、くすぐったりしたら」



経験があったのか、「こいつら馬鹿か」みたいな表情を浮かべていた。





「真冬いじめたい………」
「くすぐりは駄目ですよ、もっとこう………」 



なんで李世がアドバイスしてるかは分からないけど、とりあえず僕は、




 

(実は僕……くすぐり、得意なんだよね)





小学生の時に未来斗と郁人を散々にくすぐった記憶がある。




まだその腕がなまっていないか確認したいけど……… 



(真冬は蹴られるし、優馬は嫌だ)





そこで運良く、李世が来た。






………よし、







「李世、後ろ向いて!」
「えっ、あ、はい……?」




言われるがままに後ろを向いた李世に後ろから………






「ひっ……、え"っ、……ひゃ、はは…!!」 




思いっきりくすぐってみた。






「っん……、ちょ、やめて…やめてくださぃ……!!」



珍しく抵抗できなそうな李世をひたすらくすぐって、楽しむ先輩。


僕も大概クズだと思う。





満足した頃には………







「っ…はぁ、はぁ………、ひっ、…ぅ……くすぐられるの苦手なのに………」



少し痙攣させてしまった。





「お婿に行けません」
「じゃあ嫁に行きなよ」ニコ







ーーー




『1時よりリレーが始まります、クラスごとに………』



優馬の足の手当てをしている間にご飯を食べてる暇もなくて、リレーが始まってしまった。




「優馬……大丈夫?出れるかな……」
「少し痛いけど、大丈夫!」




ならいいけど………


さっきバスケで足を捻ってしまったから、少し心配。


まあ……僕が変わってあげる訳にはいかないんだけど………





「………」

ズキ




(痛いけど………、澪にいい所、見せたいし!)





その時、何かがふと頭に浮かんだ。






ーーー



小さい頃の………あやふやな、記憶。


「お母さん……怪我した………」


家で転んで膝を擦りむいた時、







「ほおっておけば治るわよ、それより……誰かに見つかったらどうするの。お願いだから静かにしていて。」






………そう、言われた。






ーーー




「……あ……………」
「優馬?」




なんか……………





(ちょっと、辛いかも)








ーーー


(澪side)



保健室を出てから、優馬の様子が……少しおかしい。


元気が無いような……………





「澪!優馬!」
「…!未来斗……、ごめん、もう食べる時間ないよね………」



2階から未来斗が僕達のお昼を持って駆け寄ってきた。





「だな……、優馬はリレーの選手だから、もう行かないと駄目らしくて、呼んでこいって言われて……と、とりあえず行きながら何か食べたら?」



そう言って未来斗は優馬のお昼が入ったコンビニ袋から、適当におにぎりを1つ手に取った。




「はい!」
「…、あり、がと……」 






やっぱり………元気がない。






ーーー




無事晴れて、外でリレーになったらしい。



「優馬……、無理、しないでね」
「……あ、うん!大丈夫大丈夫!」




優馬から離れる時、少しだけ作り笑顔で優馬は笑った。





ーーー




「みんなー!頑張ってくださいー!」




2年2組は、やっぱりあのごつい人達が走るらしい。



 
「じゃあ、行ってくる!って言っても俺は2回目だからまだだけど………」
「1回目は優馬と郁人、走るよね……優馬……本当に大丈夫かな…………」




不安しかない………

とりあえず、海斗と応援する事にした。










「桜木……頑張れ、がんばれ、がんばれ………」 

影からこっそりねっとり応援する莉音さん(18)。




ーーー



(優馬side)




「優馬……、大丈夫?足の怪我………」
「さっき澪に手当てしてもらったから大丈夫でーす」
「……あ、っそ」




郁人が拗ねてる…………ゾクゾクする。


余裕でいられたのもつかの間、






『お願いだから……お母さんの言うことを聞いて。』



『余計な事はしないで頂戴。ほんと……煩わしい』



『自分の事は自分でやりなさい、誰かに迷惑をかけない、貴方に頼れる人はいない。……わかって、くれるよね?』






……………………







痛い。









ーーー





「右手を出すから左手でバトンを渡して、……わかった?」
「……あ、うん」



郁人の言ってること、全く聞いてなかった。






『それぞれの学年の2組と4組の第一走者は準備をしてください』



 
…………確か、俺は3走者だったっけ。




「じゃあ僕向こうの方行くけど……無理しないでよ?」
「お前が俺の事心配すると調子狂う…、俺がヘマするわけないだろ?」




「まあ、そうだね」と郁人が表情を緩めて、向こうに駆け足で向かっていった。






「…………」






ちゃんと、走れるかな………………









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