146 / 260
4章 二学期(2)。
140.終わりへと
しおりを挟む(美優side)
今日は、修学旅行に行った兄が帰ってくる。
「うたさん、給食持ってきました」
お昼の12時を回って、給食の時間。
私は…………一人分の給食を持って、保健室に来ていた。
ーーー
「みゆさま!」
「美優先輩です、先輩」
保健室で嬉しそうに立ち上がったのは、花咲うたさん。私の事を尊敬してくれる優しい後輩。
兄……澪の友達の優馬さんの従兄弟でもある。
ちなみに………どうしてこの子が保健室にいるのか、私がここに給食を持ってきたのか。
それは…………
ーーー
数ヶ月前。
「そういうわけで………美優しかいないらしいの、友達が。」
うたさんは保健室登校だった。
大阪から転校してきて、クラスに友達が出来ず、精神的に弱って、いつの日か不登校になっていた。
まあ、不登校になったのはそれだけじゃなくて………何か、病気があったらしいけど。
でも学年が上がってからは、なんとか保健室に登校をしてくるようになった。
「あすかさんはまだですか?」
「当番なので遅れるそうです。私の分持ってきますね」
けど普通、保健室登校の子と一緒にご飯を食べるのはその子と同じクラス、同じ学年の子が多い。
友達どころが人と話したことの無いうたさんには、クラスも学年も違う私と明日香さんしかいなかった。
ーーー
「「「いただきま(ー)す(!)」」」
保健室の先生は少し席を外していて、先に3人で食べていることにした。
「それにしても……保健室は落ち着きますね」
「そもそも木造校舎だし、校舎の隅にあるってのも最高だよねー!」
「うた、この雰囲気大好きです…!」
他愛のない話をしながら、給食を食べる。
食べ終わったら職員室まで片付けに行って、それが終われば休み時間が終わるまではまた保健室で話したり、遊んだりする。
身長を測ったり、こっそり体重を計ってみたり、初めは先生に「遊ぶ場所じゃない」って言われてたけど、今では目を瞑ってくれるようになった。
休み時間になれば私の他の友達も遊びに来て、うたさんのことをよく可愛がってくれる。
私は本当に……この時間が大好きだ。
卒業したら二度とできない、人生の中の、ほんの一瞬。
ーーー
(澪side)
「忘れ物ないか確認しろよー」
先生がそう言ってすぐにバスが動き出してから数時間。
そろそろ、帰る高校の県に入る。
「眠い……」
「膝貸してやるよ☆」
「いらない」
優馬の膝なんて借りたくないから、座ったまま寝ようと頑張った。
…………けど、どれだけ眠くても、
「…………ひっ…………」
浅く眠って、ほんの少しだけ夢を見た。
「澪?」
「……、う………」
最悪な、夢。
少ししか見てないのに冷や汗が止まらない。
「大丈夫…?」
「う…うん、あ、バスが揺れたから眠気覚めた…………」
適当に起きてしまった理由を誤魔化して、納得させた。
「にしても……受験勉強疲れるわ…………」
「優馬……専門だよね?」
「うん、演技の勉強したいし、奨学金借りながらやる予定」
奨学金を少しでも減らせるよう特待生を取りたいから、勉強を頑張っているらしい。
僕もちゃんと勉強しなきゃな、と思いつつ……1つ、聞きたいことが浮かんだ。
「優馬は…………本当に俳優とか、なりたいの?」
「とか、じゃなくて俳優になりたい!演技がしたいんだ」
…………確かに優馬は、顔は整ってる。
けど……演技がうまいのかは、正直分からない。
「演技……出来るの?」
このほんの少しの疑問と心配が無駄だと、すぐに思い知らされた。
「んー……じゃあ、」
実際にやってくれるのか、優馬は一旦何か考えたあと………すぐ、無表情になった。
そして…………
聞いたこともないような冷たい声で、僕に言った。
「俺……本当は嫌いなんだよね、澪のこと」
演技だとはわかってた。
その氷みたいに冷たくて、トゲみたいに鋭い声も
そんな顔をされたら誰でも自分が嫌われていると分かってしまうくらいの、嫌悪をあらわした表情。
演技だと、わかっていても………………
「……………………ッ!!」
寒気が、した。
優馬は気付いたのか元の表情に戻って、
「どう?できてた?できてた??」
と、またうざく突っかかってきた。
「う…………、うん…………」
「よっしゃ!!もっと頑張ろーっと」
…………駄目だ。
まるで、本気で僕を嫌っていたような、全身から伝わってくる嫌悪感。
すっかり、騙されてしまう。
(どうしよう、もし…………
優馬の今までの行動が全部、演技だったら…………)
もしそうだったら、
本当は僕の事なんて好きじゃないけど、好きだと演じている。
さっきの演技を見ていたら、それも可能なんじゃないかと思えてきた。
好き好き言われるのも嫌だけど………嫌われることは、それよりも怖くて仕方なかった。
(どこまで………自分を偽れるんだろう)
この人なら、この1年半きっと本心を隠して偽り続けることなんか簡単だ。
もし……僕の前でも偽られていたら、それが少しじゃなくてずっとだったら、
そう思うだけで…………怖くてたまらなかった。
ーーー
それからその話には触れないことにして、他愛ないことを喋っているうちに、バスがようやく高校に着いた。
「うわ……現実」
「昨日ティズニー行ってきてからの学校はかなり鬼畜だなー……」
廊下を挟んで隣で寝ている郁人を起こして、バスを降りた。
...
「それじゃあ今日は解散、月曜日休むなよ!」
外で軽くクラスごとにHRをして、すぐに解散した。
「荷物重い!!優馬持って!」
「なんでそんなにお土産買ったんだよ……未来斗」
とりあえず迎えなんてやさしいものは来ないので、お土産を持ったまま歩きで家に帰ることになった。
「楽しかったなー!修学旅行!」
「これが最後の楽しいクラス行事だな、受験……勉強の日々に戻るな………」
海斗はなんで、そんなネガティブなことを言うんだろう…………
「学校とか決まったら、皆で制服で遊びに行くぞー!学校での旅行は最後だから……」
…………本当に、
こうやって皆で他愛のない話をして、遠くに泊まりがけで出掛ける。
出掛けることは難しくても、皆で話をしながら帰る。
そんな時間は…………
もうすぐ、終わる。
0
あなたにおすすめの小説
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる