王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

三話 初登校

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 俺とルーシアは、王立グランフィリア学園に到着していた。
 豪奢な彫刻で飾られた校門を潜り、空を見上げる。その空は、当然アルヘム村で見た空と同じだ。
 だが、普段なら心地よい陽光のはずが、無機質な感情しか沸き上がらない。
 何せ、これからは時間に縛られなければいけないのだから。

 田舎暮らしの人間は自然と朝早くに起きるのだが、決められた時間に生活するのは別の話。
 身体が馴染めそうにない。

「わぁーっ! こうして改めて見ると、本当に豪華な景観だわ!」

「まぁ、確かに。どの建物も気取った彫刻で着飾って、無駄に金をかけているな。さすがは名門、王立グランフィリア学園だ」

「……なんか、ひねくれた感想ね」

 正門を越えた先には、さまざまな建築物が建っていた。
 どれも繊細な彫刻や捻れた柱などを施し、凝った造りをしている。
 それこそ、職人の手腕が光るバロック様式に似た建築物だ。

 そして広大な敷地の左右には、白と黒の大きな建物が向かい合うように建っている。
 その建物から無尽蔵に出てくるのは、豪快に欠伸をしながら登校する生徒の波。
 確か右手側にある黒い建物が男子寮で、反対側の白い建物が女子寮だったはずだ。

「ミスト、見て! お昼は、絶対にあそこで食べるわよ!」

 興奮気味に袖を引っ張るルーシアは、満面の笑みで遠くを指差す。
 その先にあるのは、思わず視界を奪われてしまうほどの大きな庭園。
 楕円形の噴水広場が出迎え、取り囲むように色鮮やかな花が一面に広がる。

 だが、やっぱり一番目立つのは、最も奥に鎮座する建物だ。それは全生徒の学舎。学園の心臓とも言える本校舎。
 これから俺達が、学業に勤しむ為の場所だ。

『おはよー』

『おはようございます』

 次第に大勢の生徒達が集まり、至るところへ行き交う。
 生徒の中にはエルフやドワーフを初めとした多種の獣人族などもいるが、それよりも気になったのは、やはりあれ・・だ。

 それは生徒達が背負っている武器の数々。剣や弓だけでなく、身の丈ほどの大きな金槌まで携えた生徒がいるのだから。
 確かこの学校は、戦闘や魔術、物造りなんかも教えているんだったな。

『新入生の皆さん! もうすぐ入学式が始まります! 会場がわからない人は、私のところに来てくださーい!』

 大勢の人だかりの中心で、一人の女子生徒が大声で叫んでいた。
 右手に掲げられた看板には、『案内係』と書かれているが。
 この広い学園内で新入生が迷わないよう、案内をしてくれているのだろう。

「ミスト、私達も聞きに行かない?」

「あぁ、とりあえず行ってみるか」

 そして俺達は、人混みを躱しながら案内役の生徒の元へ向かう。

「すみません、私達も新入生です!」

『入学おめでとう、私はミオナ。生徒評議会、『カウンシル』の二年生よ、宜しくね』

 その生徒は、艶やかな黒髪を肩の長さに揃え、竜の彫刻が彫られた腕章を左腕に付けていた。
 他の生徒には付いていないところをみると、あの腕章が生徒評議会カウンシルの目印のようなものか。

「すみません、私達も会場の場所がわからなくて。アルヘム村だったら、隅々まで知っているんですけど」

「あら、君達はアルヘム村から来たの? だったら、学生寮の入口に地図マップが貼られていなかったかしら」

「いえ、私達は実家から通ってるんです」

「へえ、そうなの。大変だと思うけど、がんばってね」

 互いに初対面にも関わらず、速攻で打ち解けているルーシアとミオナ。
 対して社交的ではない俺は、少しばかり退屈だ。
 端から見れば、お嬢様の付き人か。

『ギャーッハハハ! おい、聞いたかよ!』

 背後から聞こえてくるのは、不思議と虫酸か走る下卑た笑い声。
 そんな不快な騒音が、足音と共に大きくなってくる。

『あれあれぇ? なんかこの辺、田舎臭くねえ?』

『確かにー!』

 俺達とは何の因縁も無いはずなのに、悪態を吐いてくる三人の生徒。
 なぜ俺達の前に立ちはだかるのか、その理由を確認をするまでもない。
 何の意味もなく、俺達に絡みたいからだ。

『なあなあ、ちらっと聞こえちまったんだけどさぁ。お前等って、田舎もんなんだってなぁ』

 そんな三人のうちの一人が、見下したような顔で視線を合わせてくる。
 肌を褐色に焼いた銀色の短髪。腰には何本もの鎖の装飾品をぶら下げていて。
 動く度に鎖が擦れるのだから、耳障りで仕方がない。

『イッチ、ターナー、お前等も聞いただろ? 遠路遥々、しょぼい村から来ましたぁーって。マジだっせえ!』

 取り巻きの二人もまた、ヘラヘラと嘲笑う。
 そんな中、銀髪の男がルーシアの姿をとらえた。
 鎖が擦れる甲高い摩擦音を掻き鳴らし、段々と接近していく。

『ふーん、悪くねえな』

 思わず、後ずさってしまうルーシア。
 それでも尚、舐め回すようにルーシアを吟味する銀髪。

『俺はコーエンって言うんだ。学校なんかさぼって、今から俺達と遊びに行こうぜぇ』

「いや、それはちょっと……」

 明らかに拒否反応を示すルーシアは、目を合わせない為に俺を見つめてくる。

 まぁ、殴って良いなら止めに入るが、さすがに公衆場で暴力はまずい。
 まさか天下の王立学園にこんな輩がいるとは、せっかくの門出が台無しだ。

「君達、待ちなさい。入学早々に問題を起こすつもりなの?」

 ついに見かねたミオナが、二人の間に割って入った。
 先ほどとは打って変わり、ものすごい剣幕で。
 怒りの感情を映し出すように、ミオナの魔力が周囲の空気をざわつかせる。

『ああ? 何だよ、代わりに先輩が遊んでくれるってのか? 良いねぇ、歳上のテクニック、披露してくれよ』

 どうやら、この三人はミオナの膨大な魔力に気がついていないらしい。
 それこそ、王国騎士団の精鋭にも勝るほどなのに。

「はぁ……仕方ない。ミオナ先輩、こいつらの相手は俺がしますよ」

 そう言いながら、俺は右手に魔力を集中させた。
 その拳には、バチバチと巻きつく雷撃。

 荒事にはしたくなかったが、黙って見ていられるほど俺は温厚ではない。
 それにアルヘム村を馬鹿にされたとなれば、村長の孫であるルーシアを侮辱されたのと同義。
 蛮行を許す道理もない。

『あっ、ごめんよ。ちょっと失礼するね』

 その時、一人の生徒が俺の前に立ち塞がった。燃えるような朱色の髪で、丈の長い上着を着た制服姿の男が。
 この男も、竜の腕章を身に付けているようだが。

『……力を貸せ。魔力破壊魔ジャガーノート法』

 そう呟いた赤髪の男が、俺の右手にそっと触れた。
 その瞬間、纏っていた雷撃がぴたりと静まっていく。

 魔法を打ち消す魔法。そんな魔法は見た事も聴いた事もない。
 だが、身に起きた現実が事実と証明している。

「……へぇ、面白そうだな。グランフィリア学園」

 すなわち、この赤髪の男も相当強いって事か……。
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